田中亘のサブノートPC放浪記

その一

ThinkPad 220から560まで


 ライターになって早八年。その当初から、自分にとっての文房具代わりになるノートブックを捜し続けている。

 はじめて買ったノートブックは、それこそ98NOTEだったが、「モバイル」という言葉にヒットする機種が四年前に登場した。あのThinkPad 220である。いまでこそ、秋葉原のT-ZONEで49,800円とか、もっと安い値段で売られているものの、当時の価格は20万円くらいだった。それでも、これは使いモノになるだろうと考え、もちろん購入した。
 当時はMS-DOSが4.XXから5.XXになる境目の時期で、米国でWindows 3.1が登場して間もない頃だった。「DOS/Vは5.0から使いモノになる」という意見が身内の認識ではあったが、それにはあまりこだわらずに220を購入した。余談になるが、このマシンには漢字ROMが搭載されている。したがって純粋なPC/AT互換機ではない。そのあたりの日本IBMの妥協のしかたにも、妙に共感を感じたりもした。i386のパワーで日本語を使うのであれば、やはり漢字ROMの存在は効果的だ。
 しかし、時代の流れは確実にWindows 3.1へと歩んでいた。日本IBMでも、220はむしろ斥候のようなもので、本命はその翌年に登場したThinkPad 230にあった。これも、時代の流れに身を任せるように、購入した。とはいうものの、正直なところ、220には納得がいったのだが、230には満足していなかった。その理由はいくつかあったが、三大欠点をあげるとすれば、バッテリ充電と携帯性の悪さとキーボードの叩きにくさにあった。

 まずバッテリの充電に関しては、充電の仕組みに問題があった。レジューム中でなければ本体での充電ができないのである。
 また携帯に関しても、単に出先で原稿を書く、という目的だけであれば、220の方が手軽で便利だった。当時はそれほど本格的にWindows 3.1を使ってはいなかったので、あえてカラーである必要もなかったのである。
 そしてキーボードに関しては、致命的だった。220のキーボードも小さくて叩きにくいのだが、230はそこにもってきて、真ん中に邪魔な突起物がある。これがひっかかって、文字をきちんと打てないのだ。
 人によって「そんなに使いにくくはない」という意見もあるのだが、フルタッチタイプで、400字詰めの原稿用紙5枚分の文字量を一時間でタイプすると考えると、小さな突起は大きな障壁になる。

 そうした理由から、それ以降に登場したThinkPad 530535にも、まったく魅力は感じなかった。やがて本格的にWindowsを使うようになり、選んだ携帯用ノートブックは、DELLのLatitudeになった。この選択には、二つの理由があった。
 第一に、当時の高性能ノートブックの中で、DELLのLatitudeは、圧倒的にコストパフォーマンスが良かった。第二に、日本IBMとCOMPAQ以外のDOS/V系ノートブックの中では、なんとか実用的なキーボードの配列と大きさを実現していた。このキーボードの配列に関しては、後々深く考察したいのだが、とにかく昔のDYNA BOOKにはじまって、JISかな入力ユーザーをないがしろにしてきたメーカーが多い。そんな中で、日本IBMとコンパックと日本電気は、可能な限りまっとうなキーボードを提供してくれていた。

 Latitudeは、いまも自宅で据え置きにして使っているが、ThinkPad 560を手に入れるまでは、ずっと持ち歩いていた。一緒に渡米した回数も、一年で四回を数えた。国内でも、インプレスの「できるWindows 95」執筆中はいつも編集部に持ち込んで、画面を見ながら打ち合わせを繰り返した。それだけに愛着もひとしおだが、「できるPower Point 95」の製作に取り掛かったことがきっかけになって、画面の解像度が800x600で、CD-ROMが内蔵されているノートブックが使いたくなった。

 そこで最初に選んだ機種が、akiaの初代Tornadoだった。いまakiaのノートブックは、黒いボディのVモデルが人気だが、これはJISかなキーボードの配列がイリーガルで、どうしても購入に踏み切れなかった。そのため、あえて初代モデルにした。初代モデルは「ろ」のキーが少し小さいという決定を除けば、ほぼ実用に耐えられる大きさと配置になっていた。
 しかし実際に購入して使ってみると、いくつかの不満が出てきた。その一つは、サウンド回路の設計だ。内蔵のCD-ROMドライブで音楽用CDを聴こうとすると、鑑賞に耐える音色にはならない。そこで内蔵のスピーカーの利用を諦め、ヘッドホンジャックで聴こうとすると、こんどはすさまじい回路のノイズがのってしまう。したがって「音楽を聴きながら快適な原稿の執筆」には、ほど遠いマシンであった。第二の不満は、重さにある。もともと、モーバイルを想定して作られた機種ではないので、携帯には無理がある。
 結局、akiaは自宅でデスクトップの補助用マシンとして使うことにした。そうして次なる携帯用マシンを探している最中に、ThinkPad 560が発表になったのである。

 これには、もう一も二もなく飛びついた。まずはじめに日本IBMに連絡をとって、機材を貸し出してもらった。このとき借りたマシンは、Pentium 120MHzに16MBメモリ、810MBのハードディスクという仕様だった。このマシンを約一カ月利用してみて、印象に残ったことや、現実的にどのような利用環境が構築されたのか、それは次回に紹介する。また、次回には「どうしてHiNote Ultra IIにしなかったのか」についても書こう。

('96/8/7)

[TEXT by 田中亘]


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