【ソフトウェア】

メディアリッチなインターネットへ

アップルのインターネット戦略

package 96年7月取材

Japan Developer's Conference会場にて

Apple Computer, Inc. Media Products and Technology部門Director
Carlos Montalvo 氏(写真左)

アップルコンピュータ株式会社 ビジネス市場本部 市場開発 インターネットソリューション担当課長
渡辺 泰 氏(写真右)



 米アップルコンピュータ社(以下アップル)は96年4月、Netscape Communications社QuickTimeのライセンスを供与する合意を発表、また同月、Sun Microsystems社から、Javaのプログラミング環境のライセンスを受けることを発表した。
 これらの提携により、現在圧倒的なシェアを占めるブラウザ、Netscape NavigatorにはQuickTimeプラグインが標準で搭載され、JavaがQuickTimeのプログラミング環境として用意されることになる。Netscape Navigator、Java、そしてQuickTimeはともに特定のOSに依存しない。こうした提携により、QuickTimeをインターネット上でもマルチメディアコンテンツの共通プラットフォームにするのがアップルの狙いだ。

 アップルは、インターネット開発の基盤となる主要なプラットフォームとして、以下の4つをあげている。
・ネットワーキング・インフラストラクチャ
・QuickTime Media Layer
・OpenDoc
・Java
 今回はこれらの要素のうち、すべてのプラットフォームのユーザに関係があり、アップルが他社に対してもっとも優位な立場にある、QuickTime Media Layerについて取材した。なお、本記事は7月のCarlos Montalvo氏と渡辺泰氏への取材と、アップル社の発表会資料をもとにしている(文責:編集部)。


 現在でも、インターネット上の動画ファイルのうち、QuickTimeで再生する.movファイルは5割以上を占めており、すでにQuickTimeはインターネットのマルチメディア化に重要な役割を果たしている。アップルは、「QuickTime Media Layer」によって、QuickTimeによる、さらにメディアリッチな環境をインターネットにもたらそうとしている。
 QuickTime Media Layer(以下QTML)とは、QuickTime 2.5QuickDraw 3DQuickTime VRQuickTime Conferencing(以下QTC)などを統合するメディアコンテナと説明されるが、実際の内容はAPIやメタ・ツールなどのプログラムだ。
 QTMLは、これまで別個に存在していたQuickTime2.5、QuickDraw 3D、QuickTime VR、QTCなどを共通のアーキテクチャ、共通のAPIでつなぎ、これらの複合的な利用を可能にする新技術だ。

 たとえばQTMLの技術説明会では、QuickTimeムービーの中で、QuickDraw 3Dの立方体オブジェクトにリアルタイムで取り込んだビデオをマッピングして、それを回転させるというデモンストレーションが行われた。今月英語版のリリースされたQuickTime 2.5に新しく3Dトラックを追加することにより、こうしたことが可能となった。デベロッパーでもすでに数社がこの機能を利用しており、新しいCD-ROMタイトル、「TOY STORY」では、Pixer社の高品質の3DレンダリングとQuickTimeの環境を組み合わせてオーサリングされている。
 もちろん、NetscapeにQuickTimeのプラグインが搭載されることによって、こうした機能をインターネット上でも再生することも可能になる。  また、この夏にリリース予定のQuickTime VR 2.0(英語版)では、QuickDraw 3Dとの融合が実現される。これにより、QuickDraw 3DオブジェクトをQuickTime VRの中で利用できるようになる。これまでのQuickTime VRの中のオブジェクトは実写を取り込んだものだったが、QuickDraw 3Dのオブジェクトが利用できるようになると、オブジェクトに自由なマッピングが施せる上、ファイル容量も小さくてすむ。インターネットでは転送速度が問題になるので、ファイルが小さくできるメリットは大きい。さらに、QuickTime VRでは「Object Zoom」、「URL chasing」機能が組み込まれる。とくに注目したいのは「URL chasing」機能だ。これにより、QuickTime VRの中のオブジェクトなどにURLを貼り込んで、そこをクリックすると指定のURLにジャンプする、ということができる。

 このURL chasingと、JAVAのプログラミング環境を利用すれば、Web上でかなり複雑なアドベンチャーゲームなども作成できるはずだ。現在Web上でShockWaveのゲームが流行しているが、Directorのマクロ言語であるLingoと、プログラミング言語のJavaでできることの差は非常に大きい。これらの環境が出そろってくると、Webのインタラクティブ・ゲームをはじめとするマルチメディア環境は大きく様変わりするだろう。

 一方、再生するユーザーの環境だが、Netscape Communications社へQuickTimeのライセンスを供与したことにより、Netscape Navigator 3.0バージョンでは、QuickTime、QuickTime VR、QuickTime 3Dなどのプラグインが標準で搭載される。
 はじめに触れたとおり、QuickTime、Java、Netscape Navigatorはともにマルチプラットフォームである。また、QuickTimeに匹敵する機能をもつライバルも現在までのところ存在していない。こうしたことから、アップルの狙い通りQuickTimeがインターネット上でもマルチメディアのプラットフォームとなる可能性は非常に高いだろう。
 気になるQuickTime関連のリリース予定を、以下にあげておこう。これらの環境とNetscape 3.0が出そろったとき、Netscape Navigatorは単なるブラウザでなく、インターネットを介したマルチメディア再生ソフトウェアとなるはずだ。

プログラム名
すべて英語版
リリース時期または
ダウンロードできるページへのリンク
QuickTime 2.5 for Mac ダウンロード
QuickTime 3D 1.5 8月~9月
QuickTime VR 2.0 8月~9月
QuickTime Conferencing for Windows 9月
QuickTime plug-ins for Mac/Win
Netscape Navigator用(β10)
ダウンロード
QuickTime Internet Movie Tool※ ダウンロード
※QuickTime Internet Movie Toolによって、QuickTimeプラグインによる再生が、転送後でなく転送中にできるようになる。

■米アップル社参考リンク(英語):
Apple and the Internet
Technology

('96/7/30)

[Reported by hiroe@impress.co.jp]


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