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第117回:Windows XPの省電力機能は本当に効果的なのか? |
海外でPCを利用する際に便利なグッズを取りそろえた「ロードウォーリア」というブランドをご存知の方も多いのではないだろうか。ロードウォーリアブランドは長野県にある城下工業という会社が製造販売しているが、その子会社のオブビエイターが、海外での利用を重視したインターネット接続専用サービス「World Passport Net( http://www.worldpassport.ne.jp/ )」を開始したそうだ。
World Passport Netは日本に600カ所、ワールドワイドでは150カ国12,000カ所のアクセスポイントを持つiPass Connectを利用した従量制のインターネット接続サービスだ。電子メールアドレスが付属しないLiteコースの場合、基本料金は一切不要で国内利用時は1分5円、海外利用時は1分8~19円(北米8円/分、アジア/ヨーロッパ主要各国15円/分、そのほかの国19円/分)のアクセス料金で利用できる。
海外でアクセスポイントに繋ぎっぱなしにしてインターネットを利用するようなヘビーユーザーには不向きだが、国内で利用しているメインのISPはそのままに、海外接続用のアカウントを確保したいユーザーや、トラブル対策としてバックアップ用アカウントを持っておきたいユーザーには使いやすい料金体系となっている。なお、入会時のみ初期費用として別途500円が必要となる。
なお、情報を寄せていただいた漢珠琴氏の旅先通信研究所には、世界各国のACコンセント形状やモジュラ形状など、さまざまな通信情報が掲載されている。海外から通信している人、これからしようと思ってい人は、一度覗いてみることをお勧めしておきたい。
●Windows XPの省電力機能は本当に効果的なのか?
先週の火曜日、ちょうど連載を書き終えて一息ついて別の仕事の準備に取りかかっている頃、ニューヨークでの事件が発生した。何度も目にしていたビルが崩落する姿に、しばらくは仕事どころではないといった雰囲気だったが、しかし仕事を放棄するわけにもいかない。願わくは、暴力に対する暴力が、さらに大きな暴力を呼ぶ最悪の結果にならないことを祈るばかりだ。
事件発生直後の米国は流通機能が麻痺し、PC業界でもパーツの供給および在庫状況や、今月中に出荷が始まると言われるWindows XP搭載PCに関する情報が行き交い、混乱した状況に落ち込むかと思われたが、(経済への打撃といった話題は別にして、流通に関してだけ言えば)今のところはなんとかなっているようだ。
さて、その出荷間近のWindows XPには、以前にも紹介した通り、Windows 2000をベースに電源管理プロファイルをプロセッサごとに最適化する機能が組み込まれている。詳しくは後藤弘茂氏が、本サイトの連載で「Windows XPにCPUドライバがある理由( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010501/kaigai01.htm )」で紹介しているので、ご存知の方も多いことだろう。
ここで注目されるのが、None、Adaptive、Constant、Degradeという4つの電源管理モードである。この電源管理モードは、コントロールパネルの電源管理アプレット内で電源スキームを選択することにより、自動的に設定される。理由はわからないが、これら電源管理モードを明示的に指定することはできない(不便な上、自作した電源スキームがどのスキームをベースにしたものか判らなくなってしまうのが難点)。
ただ電源スキームの対応表を見て言えるのは、マイクロソフトはバッテリ駆動時に、動的にプロセッサのパワーをコントロールすることを推奨しているということだ。たとえば、SpeedStepで言うところのバッテリオプティマイズモードに相当するConstantは、Windows XPではバッテリ駆動時に全く利用されていない。
バッテリ利用時の電源管理モードは、パワーが重視される場面ではAdaptive、バッテリが重視されるモードではDegradeが選択されている。両者ともプロセッサ負荷状況に応じて、Windows XP自身がプロセッサパワーを動的に切り替えるモードだ。それぞれのモードでの振る舞いは、Windows XPで追加されているプロセッサドライバに依存する。
最もポピュラーなモバイルPentium IIIの場合、Adaptiveでは最高速での動作とバッテリオプティマイズモードでの動作が自動的に切り替わるようになっており、SpeedStep 1対応のCoppermineコアでも、SpeedStep 2と同様に振る舞う。一方、Degrade時はバッテリオプティマイズモードを最高速とし、下は200MHz相当のパワーになるまでストップクロックによるスロットリング処理を行なうことで省電力化を行なうようになっている。
つまり、Adaptiveは通常はバッテリオプティマイズモードで負荷がかかると最高速モードへ、Degradeは通常時は可能な限りスロットリングで消費電力を下げ、負荷がかかるとバッテリオプティマイズモードになる。実際に使った感触(レスポンスなど)では、前者は最高速で利用した時、後者はバッテリオプティマイズモードで利用した場合とほとんど変わらないため、筆者は外出先ではDegradeで利用するようにしている。
●意外に伸びるDegrade? そのカラクリ
ではWindows XPの負荷に応じたプロセッサ電源管理によって、どれぐらいバッテリ持続時間が延びるのだろうか。実はある月刊誌で同じテーマのベンチマークを行なった(計測は編集部側で行なった)ところ、モバイルPentium IIIではかなり良好な結果が得られた。計測する前は、たかだかスロットリングで、そんなに伸びるわけがないとタカをくくっていたのだが、Adaptiveに比べDegradeは13%も結果が良かったのだ(実はWindows 2000よりは結果が悪かったのだが、計測はRC1で行なっているため、Windows 2000との比較にはあまり意味がない)。
そこで、自分の所有しているPCでも実験を行なってみた。IBMのThinkPad X21にWindows XP RTM版をインストールし、Adaptive、Degradeそれぞれのモードで、消費している電力を調べてみた。なお、バックライトの輝度は最低、ハードディスクは常時回転させた状態で計測している。消費電力のモニターは実測値ではなく、バッテリが内蔵するマイコンのステータスを読み出すIBMのユーティリティを利用しているため、実際の消費電力は多少異なる可能性がある。
Adaptive時の消費電力は約6.2W。この値は、Windows 2000でバッテリオプティマイズモード時、処理を行なわずに放置した時の値とほぼ等しい。Adaptiveの動作原理からすれば妥当な値だ。これをDegradeにすれば、スロットリングを行なった分だけ消費電力は低くなるハズだ。ところが、Degradeにしてもシステム全体の消費電力は5.9Wと、ほんの0.3W下がるだけでほとんど変化しないのだ。
これではDegradeの結果が13%も良いという結果の説明ができない。そこで次に、MPEG-1ファイルをWindows Media Player 8で再生し、プロセッサに負荷をかけてみた。このときの消費電力はAdaptive時に14.25W、Degrade時に12.65W。多少差は出てきたが、それでも大きな差とは言えない。
最後にWindows Movie MakerでMPEG-1形式の動画をWindows Media Videoに変換してみた。すると、Adaptive時の22.83Wに対してDegrade時は16.56Wと、かなりの差が開いた。この16.56Wというのは、Windows 2000でバッテリオプティマイズモード時、100%のプロセッサ負荷をかけた時の消費電力とほぼ同じなのだ。
つまり、ThinkPad X21が搭載する低電圧版モバイルPentium IIIのバッテリオプティマイズモードで処理速度が足りなくなる状況下以外では、AdaptiveでもDegradeでも、大きな消費電力の差はないのである。Constantの計測を行なわなかったのは、Windows XPがバッテリ動作時にConstantで動作する電源スキームを持っていないためだが、おそらくDegradeとほぼ同じ結果になるのでは? と推測される。
ただし、プロセッサドライバの違いやチップセットの違いによって、結果は異なるだろう。たとえばCrusoeで同様の計測を行なうと、すべての電源管理モードでほぼ同じ値が出てくる。これはCrusoeがWindows XPによってプロセッサ速度の管理を行なうのではなく、エミュレーションを行なうCMSの中で負荷をモニタしながら速度の切り替えを行なっているためだ。
将来的にはWindows XPのプロセッサドライバを活用し、より効果的に省電力制御を行なうための機能とドライバを組み合わせたプロセッサが登場するようになるかもしれない。ただしCoppermineベースのモバイルPentium III搭載機に限って言えば、Degradeによるメリットはなく、Adaptiveによるパフォーマンスアップが唯一の長所になっている。
[Text by 本田雅一]