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第115回:モバイルニーズに応じようとするIntel |
FOMA普及のために、NTTドコモがデータ通信のコストを被る形であり、将来のワイヤレスデータ通信のインフラとしてのFOMAをアピールしていくことになる。ただ、一部には携帯電話業界では画期的な、世界でも初めての準固定料金制と報道されたが、米国では9.6Kbpsと低速ながらパケット通信料固定のサービスがある。かなり利用者負担は減ったものの、普及が進んだ際にはあと一歩の踏み込みが欲しいところだ。
音声サービスで必要な帯域は明け渡しながら、余っている帯域をベストエフォートでパケット通信に割り当てると考えれば、固定料金でのサービスも不可能ではないだろう。なにも、帯域を占有する回線交換方式のデータ通信トラフィックまで固定にしろと言うわけではないのだから。
いずれにしろ、サービスエリアが狭く、端末の価格も高いFOMAは、まだまだこれからのサービスである。個人的にも、当面の間は導入するつもりはない。メリットがデメリットを上回るまでは、当面、静観するつもりだ。
●ユーザーニーズの多様性に応えようとするIntel
256kbps 128kbps |
僕はこの連載の中で、多様化するモバイル製品のユーザーニーズに、単一のアーキテクチャやマーケティング戦略では対応しきれないことを訴えてきた。一部には、僕はCrusoe支持派でTransmeta寄りという評価もあるようだが、自分ではそのようには思っていない。
単に昨年の時点で、Intelがカバーしきれないエリアでより良い製品を作っていくためには、Crusoeが必要だったと考えていただけである。逆に言えば、IntelでもAMDでも、もしくは新興のベンチャーでも日本企業でも、市場区分ごとに異なるニーズに適した画期的な製品を開発するために必要なコンポーネントやパーツ(そう、プロセッサも1つの部品にしか過ぎない)があるならば、僕はそれを支持するだろう。
先週、本サイトでもIntel Developers Forum Fall 2001のレポートが多数掲載されたが、そこでIntelが市場セグメントごとに適した製品を提供していくことを明らかにしたのは、ノートPCを活用するユーザーにとって歓迎すべきことだ。言っている内容は、最終製品を構築するために必要な技術や製品を提供するベンダーとして、ごく当たり前のことではあるが、今回出した声明には実が伴いそうだからだ。
IntelのノートPC向け戦略と言えば、ここしばらくは、いかに高クロック周波数のモバイルPentium IIIを提供していくかにフォーカスしていた。もちろん、低電圧あるいは超低電圧のモバイルPentium IIIといった製品を投入し、それぞれの製品が今後、どのように性能アップしていくのかを示すようになるなど、いくつかの変化はあった。しかし、動作電圧と最高動作周波数こそ異なるものの、やはりクロック周波数を向上させることでしか、将来製品の展望を語れないという点は変わっていない。もちろん、Pentium IIIという同じアーキテクチャの中でやりくりしているのだから、それも致し方のないところなのだが。
そこで期待されているのが、モバイル専用設計のプロセッサと言われるBaniasだ。Baniasがどのようなプロセッサなのかといった話は、後藤弘茂氏のコラムで取り上げられているが、その登場は2003年前半が予定されている。
Baniasはパフォーマンスを一定に、半導体技術の進化を消費電力低減に割り当てる |
もちろん、デスクトップPC並のハイパフォーマンスが必要なユーザーに対しては、モバイルPentium 4(来年の第1四半期に1.5GHz、来年中に2GHzを出荷予定)がある。そして、別途筐体サイズやバッテリ持続時間などを気にするユーザーに向けては、Baniasを投入することで、別のニーズに対しても応えるといった具合だ。
2003年前半登場となると、まだたっぷり2年近くある。実際にBaniasの特性を活かした製品ともなると、2003年末に投入される新製品を待つ必要があるかもしれない。ずいぶんと気の長い話だが、今から期待せずにはいられない。
●Baniasの中身はPentium IIIの改良型?
さて、そのBaniasの仕組みだが、残念ながら30秒のビデオと簡単な説明以外に、詳しい話は見えてこない。キーワードはAggressive Clock Gating、Special Sizing Techniques、Micro Ops Fusionの三つが示されているが、最初の2つはアーキテクチャではなく、回路設計や電源制御面での工夫であり、すでに知られているやり方を省電力に向けて徹底して行なうというアプローチだ。
たとえばAggressive Clock Gatingは、利用している回路部分だけにクロックを供給するというもの。Special Sizing Techniquesは、クロック速度向上のために回路設計を最適化するのではなく、あらゆる手を使って複数レイヤの回路レイアウトを工夫してダイサイズを縮小することで消費電力を下げようというものだ。これらを徹底して行なうことで、消費電力を下げることはできるだろうが、Crusoeのようにアーキテクチャ面から省電力化を目指したものとは質が異なる。
したがって、最後のMicro Ops FusionがBaniasの肝となりそうだ。Micro Ops Fusion、ビデオの中では「サンタクララからサンフランシスコまで最も早く移動したいとき、
1. 車のスピードを上げる(より高いクロック周波数で実行する)
2. 新しい近道を探して距離を減らす努力をする(必要なMicro Opsの数を減らす)
という2つの選択肢がある。Baniasでは後者を選択することで高速化を図った」と語られている。
IDF期間中はよくわからなかったのだが、おそらくこういうことなのではないかと思う。
既存アーキテクチャでは2つの命令が入ると4つの小さい命令(Micro Ops)に分解され、それがシリアルに転送されて4つの実行ユニットに振り分けられる。Micro Ops Fusionのビデオでは、入力された2つの命令を1つの塊に合成して実行ユニットに転送され、4つのMicro Opsとして実行ユニットに振り分けられる“ように見えた”。
しかし、スローモーションで見てみると、合成された命令の塊は1個ではなく2個だった。つまり、既存アーキテクチャでは2つの命令が4つのMicro Opsに分解されていたが、4個というMicro Opsの数は同じで、2個づつを1個にまとめて(Fusionさせて)実行ユニットに転送しているわけだ。おそらく、最初に入力される2個の命令は、あらかじめ並列実行できるペアを選んでいるのではないか? と考えられる。
あらかじめ並列実行できるペアを選び、それぞれがMicro Opsに分解されると、1つづつを融合して数を減らしてしまうのである。こうすると、実行ユニットに送り出す時の速度が2倍になり、またリオーダーバッファ内の数も半分になる(もしくはバッファサイズをアップさせれば、既存アルゴリズムのままで2倍のMicro Opsをリオーダーバッファ内に収められる)。
それ以外の部分はPentium IIIのアーキテクチャを踏襲し、Micro Opsの扱いを変更することでパフォーマンスを改善。クロック周波数あたりの性能がアップしていると思われる。Baniasの登場が2003年であるため、Baniasはそのときまでに投入されるモバイルPentium IIIとほぼ同等のパフォーマンスを持つことになるだろう。
いずれにしても、まだまだ情報は少なく、推理ゲームならぬ“推測”ゲームの段階だ。確認情報、未確認情報取り混ぜて、Baniasに関するさまざまな情報が飛び交うことになるだろう。
●Baniasにも好敵手は必要
Intelが1つのアーキテクチャで、すべての市場セグメントに対応することをあきらめ、専用プロセッサを投入したとは言え、その先の事を考えれば、やはり好敵手は必要だ。低電圧、超低電圧モバイルPentium IIIやBaniasが登場するきっかけになった(あるいは既定路線だとしても、力を入れざるを得なくなった)のは、TransmetaのCrusoeがあったからにほかならない。
しかしTransmetaの株価は現在、目を覆いたくなるような惨憺たる値(執筆時点で2ドル54セント。当初は50ドル近い高値だった)を付けている。次世代の256bit VLIWアーキテクチャはもとより、既存アーキテクチャの0.13μmプロセス版であるTM5800の出荷も遅れており、製造委託先の変更が失敗すれば、次世代どころか会社の存続も危うくなるかもしれない。OEM先にきちんとした納期に指定数量の品物を納入できなくなる可能性が高くなるからだ。一度そのような状況になってしまうと、OEM先はTransmetaから物を買わなくなってしまうだろう。
どこかがTransmetaを買えば、技術が存続することも考えられるが、現状、どこもそのような余裕はないはずだ。最新の半導体製造設備を自社で持つAMDがTransmetaを買えば、状況は好転するかもしれない。しかし、この景気情勢の中で負債の多いAMDにその余裕はないだろう。
新技術としてのBaniasも注目株だが、別の意味でTransmetaの動向にも注目したい。
[Text by 本田雅一]