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バリューPC向けCPU初のオーバーギガヘルツCPU
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8月20日(米国時間)、AMDは、バリューPC向けのCPUとしては初めて1GHzを超えたDuron 1GHzを発表した。今回発表されたDuron 1GHzは、従来製品であるDuron 950MHzのクロック向上版ではなく、CPUコアが新しいMorganコアに変更されている。Morganコアは3DNow! Professionalという命令セットに対応し、52のストリーミングSIMD拡張命令(SSE)互換命令が追加されている。
●デスクトップPC向けではPalominoに先立って登場したMorgan
これまで、AMDがデスクトップPC向けのAthlon、Duronに利用してきたCPUコアは、Thunderbird、Spitfireと呼ばれるコアで、基本的に昨年の6月にリリースされたものを徐々に高クロックにしてきたものだ。実際に、950MHzまでのDuronはこのSpitfireをベースにしたもので、基本的な機能は昨年の6月から変更されていない。しかし、今回リリースされたDuron 1GHzは、新しいコアMorganに基づいている。MorganはSpitfireに比べて以下の点で強化されている。
1.キャッシュのハードウェアプリフェッチに対応
2.新命令3DNow! Professionalに対応
キャッシュのハードウェアプリフェッチとは、CPUが次にキャッシュから読み込みそうなデータを予測し、メモリからキャッシュに格納しておく仕組みのことだ。CPUやキャッシュに比べて、メモリは遅いデバイスなので、CPUが直接メモリにデータを読みにいく必要がある場合には、CPUはその間、待たされることになる(専門用語ではストールという)ので、CPUの処理能力は低下することになる。
しかし、CPUが次に使うデータを予測し、それをキャッシュに格納することができれば、CPUが待たされる時間が短くなるので、結果的にCPUの処理能力は向上することになる。AMDテクニカルマーケティング部の小島洋一部長は「これだけで10%程度の性能向上を期待できる」と述べており、この点だけでも、従来のDuronに比べて性能向上を期待できる。
さらに、Duron 1GHzは新命令セットの3DNow! Professionalに対応している。3DNow! Professionalは、従来のAthlon/Duronが対応していたエンハンスト3DNow!テクノロジに、52の新命令を追加したものだ。
この52の新命令はIntelのストリーミングSIMD拡張命令(SSE)互換であり、Duron 1GHzを搭載したPCでは(基本的に)SSE命令を実行することができる。3DNow!テクノロジは、3Dゲームなど一般消費者向けのアプリケーションでは対応しているアプリケーションが多いものの、コンテンツ作成系のアプリケーションなどはどちらかと言えばSSEに対応したアプリケーションのほうが多い。
Duron 1GHzはどちらにも対応しているため、どちらに対応したアプリケーションでも利用できる。これにより、x86CPUの拡張命令で実行できないのは、SSE2のみと言え、ライバルのCeleronがSSEとMMXのみにしか対応していないのに比べれば、スペック的には上回っていると言えるだろう。
ただし、この3DNow! Professionalを利用するには、BIOSが3DNow! Professionalの該当ビットをオンにしなければ利用できない。そもそも、マザーボード側がPalomino/Morganをサポートしていない場合には起動もできないのだが、Palomino/Morganをサポートしている場合でも3DNow! Professionalは有効になっていない場合もあるので注意したい。GIGA-BYTE TechnologyのマザーボードはいちはやくPalomino/Morganに対応したBIOSを公開しており、筆者の試したところAMD-760搭載のGA-7DXRなどで3DNow! Professionalを利用することができた。Duron 1GHzを利用するにはこうした対応マザーボードで利用するようにしたい。
●クロックなりの性能向上を確認
今回はDuron 1GHzをAMDのリファレンスマシンを利用して評価することになった。基本的に、評価機はハードウェア構成を変更することができなかったため、比較として用意した環境とは若干異なっていることをお断りしておく。リファレンスマシンにはDuron 1GHz、チップセットにProSavage KM133を採用したASUSTeK COMPUTERのA7VI-VMを採用している、メインメモリは標準で128MBとなっていたが、ビデオメモリに16MBとられてしまうため実際には112MBとなっている。
このため、128MBのメインメモリが必須となっている3DMark2001が動作せず、128MBを追加し合計256MBとしている。HDDはDTLA-305020で、5,400回転の20GBとなっている。比較対象として、Pentium III 1GHzとチップセットにProSavage PM133というKM133のPentium III版チップセットを搭載したSoltek COMPUTERのSL-65MV、Athlon 1GHzとDuron 950MHzにはProSavage KM133を搭載したMSIのKM133M Pro-Aを用意し、できるだけ同じような環境に近づくように努力して実行した。環境は以下の通りだ。
Duron 1GHz | Pentium III 1GHz | Athlon 1GHz Duron 950MHz |
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---|---|---|---|
マザーボード | ASUS A7VI-VM | Soltek SL-65MV | MSI KM133M Pro-A |
チップセット | ProSavage KM133 | ProSavage pM133 | ProSavage KM133 |
メモリ | PC133 SDRAM | ||
容量 | 256MB | ||
ビデオカード | PROLINK MVGA-NVG20A(GeForce3、64MB DDR) | ||
ビデオドライバ | NVIDIA Detonator3 v12.41 | ||
ハードディスク | IBM DTLA305020 | IBM DTLA307030 | |
OS | Windows Me+DirectX 8.0a |
【SYSmark2001】
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Duron 1GHz Pentium III 1GHz Athlon 1GHz(FSB200MHz) Duron 950MHz |
【3DMark2001】
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Duron 1GHz Pentium III 1GHz Athlon 1GHz (FSB200MHz) Duron 950MHz |
【QuakeIII Arena】
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Duron 1GHz Pentium III 1GHz Athlon 1GHz(FSB200MHz) Duron 950MHz |
【Pentium 4 Application Launcher】
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Duron 1GHz Pentium III 1GHz Athlon 1GHz(FSB200MHz) Duron 950MHz |
Duron 1GHzはDuron 950MHzは超えるスコアを叩き出したが、SYSmark2001ではPentium IIIとAthlon 1GHzにはおよばなかった。しかし、3DMark2001、QuakeIII Arenaなどでは、Pentium IIIもAthlon 1GHzも上回るスコアを叩き出した。
さらに、SSE/SSE2に対応したアプリケーションにおける性能を計測するIntel Pentium 4 Application Launcherでは、Megnitrax V1.02というSSEに対応したアプリケーションを実行すると、圧倒的に高いスコアを叩き出した。Premiereでも、同じような傾向にあるといえ、3DNow! Professionalへの対応により、SSE対応アプリケーションにおいて性能が向上していることがわかるだろう。
●最強のバリューPCは間違いなし、TualatinコアCeleronとの勝負が楽しみ
このように、Duron 1GHzはSYSmark2001ではPentium IIIやAthlonに及ばなかったものの、SSEに対応しているアプリケーションや3DMark2001などでは、Pentium IIIはもちろんのこと、Athlon 1GHzをも上回るパフォーマンスを発揮する。従来のバリューPCの最速だったDuron 900MHzを上回っていることから考えても、Duron 1GHzは現時点でのバリューPC最高性能のCPUであるといっていいだろう。
今後AMDはDuronのクロックを着々とあげていく。情報筋によればAMDは第4四半期にDuron 1.1GHz、2002年の第1四半期にDuron 1.2GHzの計画を持っているという。これに対するIntelだが、Intelも状況を逆転すべくCeleronのクロックを急激にあげていく。情報筋によれば、IntelはOEMメーカーに対して8月31日(米国時間)にCeleron 1.1GHz、1GHz、950MHzを一挙にリリースする予定であると説明しているという。
これは依然としてCoppermine-128kベースの製品であり、L2キャッシュの容量は128KBとなっている。これでは、実クロックで1.1GHzと上回っても、Duron 1GHzに勝てないかもしれない。
しかし、10月の第1週あたりに予定されているCeleron 1.2GHzでは、CPUコアの製造プロセスルールが0.13μmのTualatinに切り替わる。TualatinコアのCeleronではL2キャッシュの容量が倍の256KBに増量される。キャッシュ容量の合計は、L1キャッシュ32KB+256KBとなり、合計で288KBとなる。これはDuronの192KBと比べても多い。さらには、Duronがロードマップ通りに出荷されれば第4四半期では1.1GHzとなっているので、実クロックでもCeleronが上回ることになり、現在のDuronの性能面での優位性がなくなる可能性が高いと言える。このTualatinコアのCeleronとDuronの性能差がどうなるか、楽しみだ。
□関連記事
【8月20日】米AMD、モバイルAthlon 4 1.1GHz/モバイルDuron 900MHz
--MorganコアのDuron 1GHzも89ドルで登場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010820/amd.htm
□Akiba PC Hotline!関連記事
【8月25日】「Morganコア」のDuron 1GHzがデビュー、コア形状は縦長に
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010825/etc_morgan.html
(2001年8月24日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]