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Xeon 1.7GHz vs Athlon MP 1.2GHz
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以前、Athlon MP 1.2GHzをデュアルで動作させた場合のパフォーマンスを、Pentium III 1GHzデュアルと比較することで検証した。今回は、その時点では入手していなかったPentium 4のワークステーション版であるIntel Xeonプロセッサを入手したので、そのパフォーマンスを見ていこう。
●今入手できる「Xeon」搭載ワークステーション
AMD初のサーバー/ワークステーション向けCPUということで、大きな注目を集めているAthlon MPだが、筆者はその記事中( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010629/hotrev115.htm )で結論として、「すべてのユーザーにAthlon MPのシステムをお薦めするかと言えば、それはまた別問題だ。今回の筆者のお薦めは、どちらかと言われればPentium IIIのデュアルのシステムの方だ」とし、その理由として、Athlon MPを搭載したシステムの入手性を挙げた。
現在までのところ、日本で大手PCメーカーから発売されているPCサーバーやPCワークステーションはいずれもIntelのCPUをベースにしたものであり、残念ながらAMDのAthlon MPを採用したサーバーやワークステーションはない。
ホワイトボックス系のメーカーにはAthlon MPを搭載したシステムを出荷しているところはあるし、秋葉原などで販売されているマザーボードやCPUを組み合わせればAthlon MPのシステムを利用するのも不可能ではない。しかし、PCサーバーやワークステーションを購入する企業ユーザーでは、これまでの実績や保証などの観点から大手PCメーカー製のPCサーバーやワークステーションを買う場合がほとんどであり、そうした意味では現状では実質的に「買えない」に等しい状態だと言える。
つまり、現状ではPCサーバーやワークステーションでは相変わらずIntel CPUを搭載したシステム以外に選択肢はないのだ(もちろん、サンマイクロシステムズのUltraSPARCベースのワークステーションなどx86以外のアーキテクチャを選択肢にいれれば話は別だが)。
さて、そこでIntelがどういう選択肢を用意しているかと言えば、話は非常にややこしい。というのは、以前はPentium III Xeonがサーバー、ワークステーションの両方をサポートするCPUとしてあり、エントリーのワークステーションなどにPentium IIIが利用されるというものだった。ところが、現在ではPentium III-SというPentium IIIのサーバー向けバージョンも存在しているし、Pentium 4もエントリーワークステーションに利用されている。一応、現時点でサーバー/ワークステーションに利用されているCPUは以下のような種類がある。
L2キャッシュ容量 | 最高クロック | 採用例が多いセグメント | |
---|---|---|---|
Pentium III | 256KB | 1.2GHz | エントリーワークステーション/エントリーサーバー |
Pentium IIIーS | 512KB | 1.26GHz | サーバー |
Pentium III Xeon | 256KB/1MB/2MB | 1GHz | ワークステーション/サーバー |
Pentium 4 | 256KB | 1.8GHz | エントリーワークステーション |
Xeon | 256KB | 1.7GHz | ワークステーション |
このうち、今回紹介するのは、一番下のIntel Xeonプロセッサ(以下Xeon)で、多くの大手PCメーカーでワークステーション用CPUとして採用されている。
●Pentium 4のデュアルバージョンであるXeonプロセッサ
Xeonの最も大きな特徴は、Pentium 4にはないマルチプロセッサ機能を持っていることだろう。Pentium 4はユニプロセッサ(シングルCPU)と位置づけられており、デュアルなどのマルチプロセッサ構成をとることはできない。Pentium IIIとPentium III XeonはCPUの形状こそ異なっていたものの、Pentium IIIも基本的にはデュアルプロセッサとして使うことが可能になっていた(一部、デュアルでは利用できないPentium IIIも存在していたが)のに比べて若干位置づけが変化しているといってよい。
Pentium 4がユニプロセッサのみとなっているのは、1つにはユニプロセッサ専用とすることで、デュアル用の信号ピンやマルチプロセッサを安定して動作させるための追加のピンを減らすことができ、CPUソケットなどを小さくすることができるので、コストを削減できるというメリットがあることだろう。
実際、XeonはPGA602という形状が採用されており、ピン数も602ピンと多い。これに対して、Pentium 4は現状のPGA423でも423ピン、今度導入されるmPGA478では478ピンとなっており、Xeonに比べて少ないピン数になっている。ピン数が少なければ少ないほどマザーボードのコストを下げることができるので、そういう意味では理にかなっていると言える。
もう1つの理由は、おそらくマーケティング上の理由だろう。実際のところ、Xeonはパッケージとマルチプロセッサ構成が可能であるという点をのぞけば、実質的にPentium 4と同等と言ってよい。NetBurstマイクロアーキテクチャを採用し、12K長のトレースキャッシュ、8KBのL1データキャッシュ、256KBのL2キャッシュと、スペックになんらPentium 4と差はなく、パフォーマンスに影響を与えるようなにはPentium 4との差はマルチプロセッサ構成が可能である点だけだと言ってよい。このため、仮にPentium 4がデュアル動作可能であれば、Xeonとの差はパッケージだけになってしまい、差別化はできないといっていいだろう。これらの理由により、Pentium 4はユニプロセッサ、Xeonはデュアルプロセッサという位置づけがされているのだろう。
なお、今後Intelはキャッシュ容量を増やしたXeonの計画を持っている。現在のXeonは、Intelが内部的にXeon DP(Dual Processor)と呼んでいるデュアル向けの製品で、基本的にワークステーション向けと位置づけられており、今月末には2GHz版が追加される。その後、Xeon MP(Multi Processor)と呼ばれている製品が2002年の第1四半期に予定されている。Xeon MPは512KBまたは1MBのL3キャッシュが追加され、キャッシュ容量が必要とされるような4ウェイサーバー市場などに投入されることになる。
●3D作成ソフトなどのパフォーマンスでAthlon MPを上回る
Tyan Thunder i860 |
テストに利用したのはeTesting LabsのContents Creation Winstone 2001、Intel Pentium 4 Application Launcherのうち、MP3エンコードを行なうeJay/MP3、ビデオエンコードを行なうWindows Media Encoder Version 7.0、OpenGLベンチマークであるSPECのViewperf 6.1.2、それにディスクリートの3D Studio MAX R3.1にSpecの配布するSPECapc for 3D Studio MAX R3を利用した。
【動作環境】
CPU | Athlon MP 1.2GHz×2 | Pentium III 1GHz×2 | Xeon 1.7GHz×2 |
---|---|---|---|
マザーボード | Tyan Thunder K7 | Thunder i840 | Thunder i860 |
チップセット | AMD-760MP | Intel840 | Intel860 |
メモリ | PC2100(CL=2.5) | Direct RDRAM | Direct RDRAM |
メモリ容量 | 256MB | ||
ビデオチップ | GeForce3(64MB、DDR SDRAM) | ||
ハードディスク | IBM DTLA-307030(30GB) | ||
OS | Windows 2000+ServicePack1+DirectX8 and Windows NT 4.0+ServicePack6a |
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Xeon 1.7GHz×2 Pentium III×2 Athlon MP 1.2GHz×2 |
Contents Creationは、低い数字に留まった。Contents Creation Winstone 2001は、比較的ビジネスアプリケーション的な動作が多いテストなので、こうした結果がでていると考えられる。Pentium 4がそうであるように、Xeonもビジネスアプリケーションが行なうようなテストにはやや不利であり、もうすこしクロックが上がらないとAthlonには対抗できないだろう。これに対して、SSEやSSE2に対応したeJay/MP3、Windows Media Encoder Version 7.0では、Xeonが圧倒的にAthlon MPやPentium IIIを上回った。
【Intel Application Launcher】
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Xeon 1.7GHz×2 Pentium III×2 Athlon MP 1.2GHz×2 |
【Viewperf】
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Xeon 1.7GHz×2 Pentium III×2 Athlon MP 1.2GHz×2 |
注目すべきは、3D CGワークステーションでよく利用されるアプリケーションの代表とも言える3D Studio MAX R3.1における性能だろう。見てわかるように、すべての項目でXeon 1.7GHzがAthlon MP 1.2GHzを上回った。こうしたプロフェッショナルユースのアプリケーションやSSE2に対応しているようなアプリケーションではXeonに分がありそうだ。
【SPECapc for 3D Studio MAX R3】
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Xeon Athlon MP 1.2GHz |
●プロフェッショナルユーザーにお薦め
以上のように、Xeon 1.7GHzはPCワークステーション用のCPUとしては最強のCPUと言っても過言ではないだろう。わずかな性能アップが作業の能率アップにつながるプロフェッショナルユーザーにとって、30万円~40万円程度で購入することができるXeon 1.7GHzを搭載したワークステーションは魅力的な選択肢であり、お薦めしたい。
ただ、自作ユーザーでは、パフォーマンスのみを重視するユーザー以外には、Xeonはお薦めできない。Xeon 1.7GHzは、先週末の秋葉原で6万円弱と、同じクロックのPentium 4 1.7GHzが4万円であることを考えればCPUとしてのコストパフォーマンスは決して高くない。
また、マザーボードのコストも問題だ。Intel 860を搭載したマザーボードは、SCSIホストアダプタやLANコントローラなどがオンボードで搭載されているほか、チップセットのIntel 860が高価であるため10万円前後と非常に高いものになっている。CPU2個とマザーボードで20万円台の半ばを突破してしまうわけで、決してコストパフォーマンスに優れているとは言えないだろう。
これに対して、Athlon MP 1.2GHzの方はCPU単体の価格が3万円弱とCPUを2つ買ってもXeon 1.7GHz 1つ分とコストパフォーマンスに優れている。マザーボードは現時点では10万円とXeonマザーボードとほぼ同じ価格帯のTyan Thunder K7しかないが、秋葉原では4万円を切るTyanのTiger K7の発売が予告( http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010811/tigerk7.html )されている。これなら、自作ユーザーでも十分手の届く範囲だと言える。Athlon MP用のマザーボードは今後、ASUSTeKやGIGA-BYTEなどの大手マザーボードベンダも廉価版のマザーボードを出す予定があり、自作ユーザーがデュアルマシンを作りたいのであれば、これらの登場を待つのが得策といえるだろう。
□関連記事
【6月29日】Athlon MPのパフォーマンスを計測する(デュアル編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010629/hotrev115.htm
□Akiba PC Hotline!関連記事
【7月14日】Xeonのリテールパッケージ発売、新構造のCPUクーラーに注目
化粧箱はシンプルなデザイン、1.4GHz~1.7GHzまで3種類
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20010714/xeonbox.html
(2001年8月10日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]