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●1年半前に始まったCrusoeサーバー
RLX Technologies CTO Christopher G. Hipp氏 |
去年1月のCrusoeの発表のすぐ後、Crusoeでラックマウントサーバーを作りたいという電話がテキサスからかかってきたのだ。その話をもちかけたのは、現在RLX TechnologiesでCTOを務めるChristopher G. Hipp氏ら。しかし、Transmetaはその時点ではラックマウントサーバーは考えてもいなかった(ホームサーバーは話があった)。ましてやノートPCやインフォメーションアプライアンス(IA)向けの引き合いで大忙しの状態で、半信半疑のサーバー話にあまり割く時間はなかった。
それでも、Hipp氏は、2週間後に、ようやく30分だけTransmeta幹部とミーティングのチャンスを得ることができた。そして、そこで、Hipp氏らは、Crusoeを使えばこれまでにないハイデンス(高密度:High Density)サーバーを作れること、そしてハイデンスサーバーがこれから急成長することを力説。Transmetaも、その話に大いに興味をひかれることになる。その結果、両者は、2週間後に、もっと具体的な話し合いを持つことにした。これが、Crusoeサーバープロジェクトの始まりだった。
Hipp氏らは、その後、このコンセプトをベースに、Compaq Computerをスピンアウトした幹部らとRLX Technologiesを設立する。そうして、今年頭に発表したCrusoeサーバー「RLX System 324」で「従来アーキテクチャのサーバーと比べて、8倍のサーバー密度(Server Density)を実現した」(Hipp氏)。意図通り、ハイデンスサーバーを産み出すことに成功したわけだ。8倍というのは、業界標準のラック規格の1U(約44mm厚)に、これまでは1サーバーしか入れられなかったのを、1U当たり8サーバーを実現したからだ。また、サーバー当たりの消費電力も、Crusoeを使うことで1/5~10に下げたという。
●サーバー密度が必要になった
一方、Hipp氏がTransmetaを訪問してから1年半で、サーバー市場も様相を大きく変えた。ラックマウントサーバー市場は急成長を始めており、メーカーもよりアプライアンス的な製品を投入して来ている。ハイデンスサーバーあるいはウルトラデンス(Ultra Density:超高密度)サーバーという言葉も使われるようになった。そうした流れの中で、RLXなどが発表したCrusoeサーバーは、最右翼として注目を集めつつある。Transmeta自身も想像していなかったような展開だ。
こうした展開になったのは、サーバー市場でサーバー密度が最大関心事になったためだ。これは、業界の共通認識で、Intelも、今年2月のカンファレンスIDFで「我々が注意深く見守っているサーバーのトレンドは密度へのフォーカスだ」(Mike Fister副社長兼ジェネラルマネージャ、Enterprise Platforms Group)と語り、ウルトラデンスサーバー戦略を発表している。では、どうしてサーバー密度が急にクローズアップされ始めたのか。
それは、インターネットインフラが発達したからだ。インターネットのパイプが太くなったため、今度は、そのパイプにつながったフロントエンドサーバーの負担が大きくなり始めたのだ。そのため、インターネット企業はフロントエンドサーバーの強化に走り始めた。
もっとも、Webサーバーの場合は、分散化が簡単なので、サーバーの数さえ揃えれば問題は解決できる。つまり、フロントエンドサーバーで重要なのは、パフォーマンスではなく数なのだ。そこで、Webホスティングやインターネットデータセンタなどを行なうISPやASP、通信企業といったサーバーファームでは、サーバーの数を増やすことに躍起になり始めた。
さらに、そこへ昨秋以来の経済後退が襲う。サーバーの負担は増えるのに資金繰りは苦しくなったため、サーバーファームは、サーバーの数の増加と運用コストの低減という、相反した要求を満たす方法を考えなくてはならなくなった。そして、この問題を解決するカギが消費電力だったのだ。
「'99年の終わり頃、我々は米国のサーバー市場で“密度と消費電力”が大きな問題になりつつあることに気づいた。私のバックグラウンドはデータセンターを売る仕事で、その顧客がより小さいエリアにより多くの数のサーバーを詰め込むことに集中し始めたからだ。ところが、サーバーの消費電力は下がらない。そうすると、面積当たりの放熱が増えてしまうため、消費電力が壁になってしまうことは明確だった」とHipp氏は振り返る。
もしサーバーの消費電力が下がれば、すべてがうまく回り始める。まず、サーバー密度を高められるため同じ面積により多くのサーバーを設置できるようになる。逆に、同じサーバー数なら設置面積は少なくなり、消費電力が下がるため、オフィス賃と電気代を抑えることができる。また、UPSやバックアップジェネレータ、エアコン代も節約できる。つまり、ドミノ倒しのように、様々な節約ができるようになるのだ。なにせ1ラック当たり5,000W、ワンフロアにサーバーを何千台と並べる世界なので、この節約効果は大きい。Hipp氏によると「カリフォルニア州なら60%も運用コストを下げることができる」という。特に、カリフォルニア州では、昨冬からの電力危機で、電気コストが上がる方向にある。そのことも、サーバーの消費電力を削減しようという動きに拍車をかけている。
●336サーバーを1ラックに押し込む
サーバーを1枚に圧縮したServerBlade |
各ServerBladeには、Crusoe 633MHzと最大512MBメモリ、2基のHDD(最大30GBづつ)、3つのEthernetコントローラを載せる。PCIバスとか各種インターフェイスとか、余計なものはばっさり切り捨てている。24枚のServerBladeをぎちぎちに挿しても大丈夫なのは、Crusoeの発熱が少ないためだ。消費電力は、1サーバー当たりピークで15W、アイドル状態で7Wという。RLXによると、現状の1Uサーバーは75W程度の消費電力なので、格段に低いことになる。ディスクがサーバーにしては少なすぎるように見えるかもしれないが、システム全体では20TB以上になる。
しかし、密度が魅力になるとは言っても、サーバーのような信頼性の必要な分野で、どうやってCrusoeのように実績のないCPUを受け入れされることができるのか。これは、「今までとは冗長性のレベルを変えることで信頼性を実現する」とHipp氏は言う。つまり、冗長化する単位を、サーバーのモジュールのレベルから、ServerBladeレベルにまで完全に引き上げるという。
RLXのServerBladeはホットプラグが可能で、システムのインストールもバックエンドからネットワーク経由で自動的に行なう。例えば、RLXでは、ServerBladeが故障した場合は、ServerBlade自体を新しいものに差し替えると、同じスロットにあったServerBladeのソフトとデータ構成をそっくりそのまま自動的に復元する。複数のServerBladeでロードバランシングを行うことで、その間もサーバーが落ちる心配はなくなる。
なんだか、サーバー版RAIDみたいな雰囲気だ。そこには、たんに、CPUをCrusoeにしてサーバー密度を高めるだけでなく、サーバーに対するアプローチを根本から変えようという方向性が見える。
ちなみに、RLXはこの手の製品で出遅れたIBMとリセラー契約を結んだ。RLXがIBMという後ろ盾を得たことは、Crusoeサーバーという“キワモノ”を売る上で大きな助けになるだろう。対してRLX幹部の古巣であるCompaqは、Intelと組んでハイデンス/ウルトラデンスサーバーを作ろうとしている。というわけで、ウルトラデンスサーバー戦線の正面ではCompaq対IBMという構図も出てきており、IntelとTransmetaのCPU戦争はますます複雑な様相を示し始めた。
(2001年6月21日)
[Reported by 後藤 弘茂]