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IntelがCoppermine 1.1GHzをリリースか


●IntelがCoppermine 1.1GHzを準備

 IntelがPentium IIIのロードマップを再び修正した。情報筋によると同社は1.13GHz版の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)をこの春、再出荷する計画だったが、Intelはそれを取りやめたという。Pentium III 1.13GHzは0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)で、7月に登場することになるようだ。

 その代わり、IntelはCoppermineの1.1GHz版を6月にリリースする計画だと一部のOEMは伝える。これは、100MHzシステムバス(1.13GHzは133MHzシステムバス)になるという。また、第2四半期中にはCoppermineの100MHzシステムバスの1GHz版と900MHzが登場するらしい。1GHz版は、これまでFCPGA版の100MHzバス製品はなかったが、今回はFCPGA版の1GHz版のリリースとなる。その一方で、Intelは933MHz以下のCoppermineは生産を終了(ディスコン)すると通知していた。このロードマップ変更は何を意味するのだろう。

 Coppermineの1.13GHzは、限定生産で出荷されたものの、すぐに出荷停止になり、現在にいたっている。Intelは今年第2四半期からCoppermine 1.13GHzを再び出荷する予定だったが、のびのびになっていた。今回の1.13GHz→1.1GHz変更の本当の理由はまだわからないが、1.1GHzが出せるのに1.13GHzを出さないのというのは不可解だ。133MHzバスの時だけ問題が発見された可能性もあるが、それよりもマーケティング上の理由である可能性の方が高い。

 1つ考えられるのは、TualatinとCoppermineの棲み分けのためという可能性だ。Tualatinは、今年頭までは1.26GHzで登場する計画だったが、現在では1.13GHzと1.2GHzで発売される予定になっている。つまり、そのままでは、TualatinとCoppermineの両方で1.13GHzが登場、オーバーラップしてしまう状況になっていた。

 Intelは、TualatinをCoppermineよりやや高い価格設定にすると通知していたというが、同じクロックで駆動電圧もインターフェイス電圧も異なるCPUが併存する状況は混乱を招きかねなかった。特にTualatinは、Intel 815系B-stepマザーボードでしかサポートされないことになっているためややこしい。


●TualatinとCoppermineを棲み分けに?

 だが今回の変更で、CoppermineとTualatinのオーバーラップはなくなった。両者はクロックでも明確にわかれたため、混乱は最小限となる。つまり、Intelは「1.13GHz以上のPentium IIIはIntel 815系B-stepマザーボードでのみ動作する」と説明すればいいからだ。

 また、もしかするとIntelは今年後半から、133MHz版のCoppermine 1GHzの供給も絞ってゆくのかもしれない。つまり、Tualatin=133MHzシステムバス、Coppermine=100MHzシステムバスメインと差別化するつもりなのかもしれない。その場合は、システムバスクロックが異なるため、バスの負荷が高いソフトだと、Tualatinの方が有利になる。つまり、Tualatinの利点がより明確になるという効果もある。

 こうした施策は、Tualatinの位置づけの曖昧さを反映しているようだ。Tualatinのアドバンテージが薄れているので、こうしたポジショニングの調整が必要になっているように見える。

 IntelはTualatinをスモールフォームファクタ向けとして推奨している。予定価格も、Tualatin 1.13GHzですら、Pentium 4 1.5GHzよりも高い。また、IntelはTualatinをデスクトップではそれほど大量に出荷しない。OEMメーカーによると、第3四半期中のTualatinは、Intelの全デスクトップCPU出荷量のうちほんの数%程度だという。一方、モバイルでは、第3四半期中に10%近い量がTualatinへ移行すると見られている。

 また、モバイル版のTualatinベースPentium IIIは、512KBのL2キャッシュを搭載しているが、デスクトップ版のTualatinベースPentium IIIは、その半分を殺して、Coppermineと同量の256KBで提供されることになっているという。ちなみに、Intelはデュアルプロセッササーバー向けにもTualatinを提供するが、こちらは512KBのL2キャッシュを搭載する。このあたりにも、Tualatinのメインターゲットがモバイルとサーバーであることが明瞭に見て取れる。

 低消費電力のTualatinをモバイルに投入するのはわかるが、なぜサーバー向けにも力を入れるのか。それは、ハイデンス(高密度)サーバーやウルトラデンス(超高密度)サーバーと呼ばれるラックマウントサーバーでは低消費電力/低放熱が求められているからだ。そのため、サーバー向けにはTualatinの低電圧版(LV)と超低電圧版(ULV)も提供される。ちなみに、サーバー向けチップセットは、Intel自身はTualatin対応の製品をまだ持たない(Intel 440GXが対応予定)ため、ServerWorksのHE-SL/LE-3とMicron TechnologyのCopperheadが対応する。


●チップセットベンダーもTualatinの市場性に疑問を

 このように、IntelはTualatinで注力するエリアをモバイルとサーバーに設定。デスクトップでのTualatinのポジションは急速にセットバックさせており、Pentium 4のランプを急いでいる。そのため、OEMベンダーはIntelのデスクトップTualatinに対する“やる気”に不安を抱き始めている。また、この間までTualatinサポートのために熱心に動いていたチップセットベンダーも、Tualatinの先行きを不鮮明だと見なし始めている。例えば、VIA Technologiesは次のように言っている。

 「実際の話、Tualatinに関しては当社のプランはまだ明確ではない。というのは、Tualatinが移行製品だからだ」、「ここのところ、AthlonがPentium IIIとPentium 4の間で市場シェアを大きく伸ばしている。Tualatinは、そのAthlonに対抗するためのIntelの回答だ。しかし、これは同時にIntelにとって非常に危険なソリューションでもある。というのは、Pentium IIIが成功すると、Pentium 4を危機に陥れる可能性があるからだ」、「この状態では、Tualatinが立ち上がるかどうか、疑問が出てきたように見える。Intelは、Tualatinを出さずに、Northwood(ノースウッド:0.13μm版Pentium 4)へ直接移行するつもりかも知れない」(Manuela Mercandelli、VIA Technologies、specialist international marketing)

 もっともVIAはIntelとのTualatinバスライセンスの交渉が難航しているので、こうした態度も当然かもしれない。しかし、すでにTualatinバスのライセンスを得ているSiSも、デスクトップでのTualatinにそれほど期待しているわけではない。

 「Tualatinは、単体チップセットSiS635でサポートした。また、グラフィックス統合チップセットSiS630Sでも、Tualatinサポート版のSiS630STを用意する。しかし、今のところSiS630STはデスクトップ向けよりモバイルチップセットとして、より重要だと考えている。というのは、IntelはTualatinをモバイル向けに推進するからだ」(Nelson Lee、SiS、Sr. Technical Marketing Manager, Integrated Product Division)

 揺れているデスクトップ版Tualatin。戦略転換が早いIntelのこと、今後も何らかの変更があるかもしれない。また、ゴールデンウイーク前には、Intelの0.13μm版CPUの量産計画が、製造装置の遅れのために遅れるかも知れないというニュース(http://www.ebnews.com/digest/story/OEG20010427S0089「Intel could face delay on its 0.13-micron process 」Electronic Buyer's News,2001/4/27)も駆けめぐっている。


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(2001年5月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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