プロカメラマン山田久美夫の

ニコン「D1X」β機ファーストインプレッション


 株式会社ニコンの547万画素CCD搭載デジタルカメラ「D1X」で山田久美夫氏が撮影した実写画像とファーストインプレッションをお届けする。
 特に指定のない画像は3,008×1,960ピクセルで撮影している。また、縦位置の画像はサムネールのみ縦位置とし、画像データは回転させていない。今回公開した全ての元画像をご覧になる場合は、下記URLより圧縮ファイルをダウンロードできるが、約42MB程度のサイズになるのでご注意されたい。なお、撮影した本体はβ機である。(編集部)

ダウンロードはこちら (41.4MB)


 ニコン待望のニューモデル「D1X」β機での、実写画像Web公開が本日解禁となった。
 そこで早速、初代「D1」をベースに2倍の547万画素CCDを搭載した、第二世代モデル「D1X」の実写データと、その使用感をレポートしよう。

●大幅に改良された第二世代モデル

 一昨年の秋に100万円を切る超本格派デジタル一眼レフ「D1」が発売された。そしてこの春、その後継機となる新シリーズとして、547万画素CCD搭載の「D1X」と、初代「D1」と同じ画素数でより高速化した「D1H」の2機種が同時公開された。

 この2機種は、初代「D1」をベースに、高解像度と高速化という、相反する要求に応えるべく、それぞれに最適化された進化モデルだと考えるとわかりやすいだろう。

 今回レポートする「D1X」は、初代「D1」と同じAPSサイズ(23.7×15.6mm)の547万画素原色系CCD(有効画素数533万画素)を搭載した高画素モデルだ。もっとも、この画素数も、初代「D1」から1年半たった現在では、高画素タイプというよりも、むしろ、時代の推移と要求に従ってグレードアップされた、今後の標準機としての高画素化といった意味合いが強いだろう。


●独特な演算処理により590万画素出力

 さて、本機の総画素数は547万画素だが、出力画素数は約590万画素となっている。しかし、CCDのピクセル数は、4,024×1,324ピクセルという特殊なもの。しかも、1つ1つの画素が正方形ではなく、縦横比2:1の長方形だ。

 これはニコン側の資料から推測すると、初代D1のCCDの1画素を、左右方向に二分割したものと考えられる。もちろん、CCD自体は新開発ということだが、原理的には上記のような方法で高画素化を図っている。

 もちろん、このままのピクセルデータをPC上で再現すると、縦横比が大きく違った画像になってしまう。そこで本機では、横方向は3/4倍、縦方向は1.5(3/2)倍することで、最終的に3,008×1,960ピクセルという、約590万画素相当の出力を得ているわけだ。


●驚くほどの高描写力

 さすがに547万画素モデルだけあって、従来の「D1」はもちろん、「D30」や「S1Pro」などよりもワンランク上の実解像度を実現している。

 いつもの定点撮影を見ても、ビル壁面のタイル1つ1つが分離して見える点には感心してしまう。これだけの実解像度があれば、並みの35mmフィルムに匹敵するレベルといっても過言ではない。

 実際にA3サイズにプリントアウトしても、十分鑑賞に堪えるクォリティーを実現している。

 また、本機のCCDは、原理的に、縦方向と横方向で解像度が異なるため、斜め線などを中心に、その影響が出る可能性も十分にあるわけだが、実写結果を見る限り、かなり過酷な条件下を除いて、それに起因すると思われるような描写をすることはなかった。

 実際に撮影してみて、この点への不安はほぼ解消された感じだ。

 なお、本機はその用途から考えて、最終的な出力用途に応じ、ユーザーが後処理で、最適な量の輪郭強調処理を行なうことを前提とした絵作りがなされている。つまり、オリジナル画像の輪郭強調はやや緩めの設定になっているわけだ。

 そのため、本機のオリジナルデータに、通常のコンシューマー向けモデルのような、最初からカメラ内で強めの輪郭強調処理をした画像データと同じようなシャープ感を求めるのは、本末転倒。

 むしろ、輪郭が緩やかなぶん、拡大リサイズしても、輪郭が妙に荒れたりしないので、あえて、このようなセッティングになっている。これは初代「D1」はもちろん、キヤノン「EOS D30」なども同じだが、この点を理解してから、実解像度を見る必要があるので注意が必要だ。

 実画像を見る際には、必要に応じて、画像をダウンロードし、自分が利用する可能性のある出力環境に最適化した、輪郭強調処理をして、実解像力を判断するべきだろう。

(掲載している実写データの著作権は、撮影者 山田久美夫にあります。実写データの利用は、あくまでも個人利用の範囲のみに留めて下さい)


【定点撮影】

ファインノーマル
エコノミー


【人物撮影】


【屋外撮影】


【屋内撮影】


【画像処理】

オリジナルアンシャープマスク
比較画面


●撮ったままでもきれいな色再現

 色再現性も、初代「D1」より、明らかに向上している。

 もともと、初代「D1」は、CCDが備えている色再現域をなるべく広く網羅できるように、色空間の広い「NTSC」を基準に開発されていた。だが、通常、パソコン上で画像を表示する場合には、sRGBが標準になっていることもあって、この環境下で見ると、色が濁った感じになり、一部の色相がずれて見えるという欠点があった。

 そこで本機では、PC環境下で、よりポピュラーな2つの色空間をサポートしている。

 具体的には、PCの標準環境といえる「sRGB」と、より広い色域を備えた「Adobe RGB」があり、ユーザー側でそのいずれかを自由に選択することができる。もっとも、開発側の意図としては、色空間の違いというよりも、撮ったままのオリジナルデータをそのまま補正せずに使う場合の設定として「sRGB」を想定しており、後処理でのレタッチを前提としている場合には、より幅広い色再現域を備えた「Adobe RGB」を使うという考え方だ。

 今回は、この両方の設定で撮影したが、いずれも、色調にクセがなく、初代「D1」に比べると、遙かに扱いやすい画像に仕上がっている。

 「sRGB」設定は、若干、鮮やかすぎる感じもあるが、少なくとも、後処理をさほどせずに、気軽に使いたい人であれば、標準設定の「sRGB」に設定しておくことで、適度に見栄えのする写りが得られる。その意味で、初代「D1」ほど、後処理での使いこなしテクニックが必要ないモデルに仕上がっている。

 また、被写体の持っている、微妙な色調を重視したい人であれば、ぜひともより色域の広い「Adobe RGB」に設定して使いたい。これは後処理での色補正などを前提としている人はもちろんだが、高級機らしい品のある色調が好みの人にも、ぜひオススメしたい設定といえる。


【色空間】

Adobe RGBsRGB


●ISO800でも実用になる低ノイズを実現

 「D1X」の最低感度は、高画素化にともなう画素の高密度化のため、初代「D1」の半分近いISO125となっている。だが、これはあくまでも、最低感度であり、ハイライト側の階調性を損なわない範囲で、感度を落としたときの設定という。

 また、高感度側は、ISO800まで設定可能になっている。

 正直なところ、初代「D1」は、ISO200の標準感度のときの画質はいいが、ISO400では多少ノイズが発生し、ISO800を越えると、明確にノイズが発生してしまうという欠点があった。

 だが、「D1X」では、ISO125はもちろん、ISO200でもその差はほとんど見わけがつかないレベルであり、この感度で常用できるレベルといえる。さらに、ISO400でも意外なほどノイズ感が少ない点には感心してしまう。

 そして、ISO800で撮影したカットを見ても、この感度とは思えないほどノイズが少なく、十分実用になるクォリティを実現している。全体にノイズが軽減されたことで、長時間露出時のノイズも、初代「D1」と比較すると、劇的に軽減されている。もちろん、「EOS D30」のように長時間露出専用のノイズリダクションシステムを備えている機種に比べれば、多少ノイズが見られるが、それでもCCDそのもののポテンシャルを高めただけで、ここまでのノイズ軽減が図れるとは驚きだ。


【長時間露出】

4秒8秒
15秒30秒


●要求される高画質レンズ

 また、ここまで解像度が高くなると、レンズに要求される解像度もかなり高いものになる。そのため、撮影するレンズの描写性能がかなり高いものでなければ、本機が備えているポテンシャルをフルに発揮することができない。

 とくに、普及タイプのズームレンズや超高倍率ズームなどでは、本機が本来備えている画質をフルに発揮することが難しいケースもあるので、十分な注意が必要だ。

 さらに、解像度がきわめて高いため、微妙なカメラブレやピントのずれが想像以上に画質に影響する。この点は既存の600万画素機と同じだが、撮影はかなり慎重に行なう必要がある。

 このような点は、改めて言うまでもないことと思われるかも知れないが、本機を使ってみると、これらの点を痛感してしまう。それほど高い描写力を備えたモデルなのだ。


●600万画素級と思えない軽快さ

 使用感は600万画素級モデルとは思えないほど、きわめて軽快。

 高画素化にともなって、連写性能は秒間3コマ、最高で連続9コマまでとなっている。初代「D1」は秒間4.5コマで連続21コマであったことを考えると、スペック的にはやや不満を感じそうだ。

 だが、本機を使ってみると、初代「D1」に比べて遅くなった感じはない。もちろん、連写してみると、秒間3コマなのだが、シャッターの作動音もミラーなどのチャージ音も、初代「D1」とまったく変わらないので、そのぶん、体感的には遅くなったという感じがしないわけだ。

 普通の35mm一眼レフの場合は、連写が遅くなると、フィルムの巻き上げ速度なども相対的に遅くなるため、すぐに作動音でわかってしまうのだが、本機にはそれがない。むしろ、Sモード(1コマ撮りモード)でもバッファーが使えるようになり、撮影後にバックグラウンドで処理が行なわれるため、実質的な処理待ちの時間はかなり軽減されている。

 そのため、普通の撮影では、記録待ちでイライラすることは、まずないので安心だ。

 また、再生表示が初代「D1」よりも格段に高速化されており、拡大表示もサポート。ヒストグラム表示も従来より見やすくなっているなど、なかなか好感が持てる。

 さらに、各種設定メニューが日本語化された点もきわめて便利。とくに、カスタムファンクションが日本語表示になったため、取扱説明書を見なくても出先で気軽に設定変更できるようになった点はうれしい。

 ただし、高画素化にともなって、記録時の画像サイズも大きくなっている。具体的にいえば、JPEG圧縮のFineモードで1コマあたり約3MB、Normalモードで1.5MBもある。

 そのため、320MBのCFカードでも、Fineモードで100枚。1GB microdriveでもFineモードでは350枚前後しか撮影できない(今回から512MBと1GBのmicrodriveは正式サポートとなった)。

 今回の実写では、Fineモードで一日1,500枚以上撮影したこともあって、一日で約5GB近いデータ量になってしまった。本格的に撮影するのであれば、本体が初代よりも安くなった分、大容量メディアを別途購入する必要がありそうだ。

 しかし、バッテリ消費は意外に少なく、1,500枚撮影しても、液晶での再生をさほど行なわなければ、バッテリパック2本で十分足りる。


●個人購入可能な新世代ハイエンドデジタル一眼レフ

 なかには、「600万画素クラスは必要ないよ」という人もいるだろうが、この画像を一度見てしまうと、もう、後戻りできない世界がある。プリント用途や印刷用途での利用であれば、なおさらだ。

 また、初代「D1」オーナーにとっては、Sモードでバッファーが使えるようになり、撮ったままのオリジナルデータのままでも、十分にきれいな画質を実現している点だけでも、新「D1」シリーズに移行する価値は十分にある。

 「D1X」の59万円というプライスは、初代に比べて安くなったとはいえ、そう簡単に購入できる価格帯ではない。それだけに、購入するにはかなりの英断が必要だ。

 だがこの「D1X」は、それに十分、いや、十二分に見合うだけの価値を備えた、個人レベルで購入できる、ハイエンドデジタル一眼レフといえる。



□ニコンのホームページ
http://www.nikon.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nikon.co.jp/main/jpn/whatsnew/2001/d1xh_01.htm
□関連記事
【2月5日】ニコン、547万画素CCD搭載の「D1X」と秒5コマ撮影可能な「D1H」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010205/nikon.htm

(2001年4月20日)


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[Reported by 山田久美夫]


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