プロカメラマン山田久美夫の

「キヤノン IXY DIGITAL300」レポート


 明日7日から、3倍ズーム搭載の新型モデル「キヤノン IXY DIGITAL300」が発売される。以前、PC Watchでも実写画像をお届けしたが、今回はその使用感を、昨年の大ヒット作となった初代の「IXY DIGITAL」と比較しながらお届けしよう。

【編集部注】定点撮影を除く実写画像は、3月15日に掲載したものと同一です。また、こちらにも実写画像が多数掲載されれています。

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●大幅な進化を遂げた第二世代「IXY DIGITAL」

 APSカメラの大ヒット作である「キヤノン IXY」。そのデジタル版といえる「IXY DIGITAL」が登場したのは、昨年5月のこと。

 この初代「IXY DIGITAL」は、まさに銀塩カメラの「IXY」と同じデザインと質感、コンパクトさでデジタルカメラを成立させたという点で、エポックメイキングなモデルといえる。昨年を代表する大ヒット作といってもいいだろう。

 そして今年2月に米国の「PMA」で初公開され、3月に国内で正式に発表されたのが、今回の3倍ズーム版である「IXY DIGITAL300」といえる。

 ざっと主要なスペックだけを見ると、従来の「IXY DIGITAL」を一回り大きくし、光学3倍ズームを搭載しただけのようにしか見えない。正直なところ、やや魅力薄なモデルという印象がある。

 だが、実機に触れ、詳細を確かめ、実写してみると、このモデルが明らかに第二世代と呼ぶに相応しい進化を遂げていることが実感できる。

●先代の欠点をほぼ克服した新モデル

 本機の最大の進化は、「スタイリッシュでいつでも気軽に持ち歩ける」という従来機の魅力に加え、「いつ誰が撮っても、失敗が少なく、きれいに写る」という、カメラとしての基本性能を充実させた点にある。

 初代「IXY DIGITAL」は、高品位でコンパクトなモデルとして、高い人気を誇ったモデル。しかし、実際に使ってみると、実用レベルの性能は備わっているとはいえ、不満な点も数々あった。

 その代表的なものとしては「色が悪い」「ブレ易い」「電池の消耗が激しい」という3点に絞られる。もちろん、これに「やはり3倍ズームが欲しい」という項目を加えてもいいだろう。

 そんな目で今回の「IXY DIGITAL300」を見ると、これらの不満点がかなりのレベルできちんと解消されていることがわかる。逆にメーカー側から見れば、初代モデルで果たせなかった課題を、この第二世代モデルで実現したということだろう。

 もっとも、サイズは一回り大きくなったし、価格も約10,000円高くなっており、1/2.7インチCCD搭載の200万画素級ズーム機として見ても、高価な部類のモデルになってしまったわけだが……。

ストロボ 自然光

●見違えるほど向上した色再現性

 本機のCCDは、先代と同じサイズの1/2.7インチタイプ。だが、今回のモデルでは、フィルターを原色系に変更。さらに、同社が「映像エンジン」と呼ぶ、処理アルゴリズムも一新されている。

 一般に、原色系CCDは補色系に比べ、色再現性に優れるが、実効感度が低く(S/N比が低い)、解像感がやや及ばないという欠点がある。そのため、同社のコンシューマー向けデジタルスチルカメラは歴代、補色系CCDを採用してきたという経緯がある。

 ただ、DVカメラの「IXY DV」などでは他社と違い、原色系CCDを以前から採用しており、原色系CCDの処理に対するノウハウは持っていたわけだ。

 そして今回、同社は原色系CCDならではの色再現性を確保しながら、従来からの補色系CCDに匹敵する実効感度と解像感を両立することに成功したことから、あえてこの「IXY DIGITAL300」では原色系CCDを選択したという。

 さて、実際に初代「IXY DIGITAL」と今回の「IXY DIGITAL300」を比較してみると、本当に驚くほど、色再現性が向上している点に驚かされる。

 もちろん、どんなシーンでも、その違いが明確に感じられるわけではない。だが、補色系が苦手とする原色系の色。具体的には青空や木々の緑、赤や黄色の花などの再現性を見ると、明らかに別物といえるレベルの仕上がりを見せている。また、肌色の再現性も、より暖かみのある色調になっている点に好感が持てる。

 正直なところ、この色再現性の違いだけを見ても、今回の「IXY DIGITAL300」を選ぶ価値は十分にあると思わせるだけの魅力がある。

 さらに、逆光撮影時などの露出安定度や、近距離撮影でのストロボ調光レベルも、従来より明らかに向上している。

 画像のノイズレベルも少なく、初代IXYに比べて、シャドー側の階調性も豊富なものになっている。実効感度は、通常時、ISO100だが、暗いシーンでは自動的にゲインアップ(ソフト的な感度アップ)が行なわれ、最高1.5倍のISO150相当になる。だが、ゲインアップされた画像を見ても、ノイズがほとんど感じられない点は立派だ。

 そのため結果的に、オートのまま撮影しても大半のシーンで、失敗なく、きれいに写すことができるモデルへと進化している。

 解像度の点では、もともとが1/2.7インチの211万画素機のため、334万画素系モデルほど緻密な描写は期待できない。だが、本機は色調がよく、階調性も実用十分なレベルのため、プリントしたときの見栄えがいい。ポストカードサイズはもちろん、A5サイズでプリントしても、ほとんど不満を感じないレベルの画像が得られるので安心だ。

●ブレにくく安心感のあるホールド感

左の新型は、右の従来型より一回り大きい
 サイズは従来型よりも一回り大きくなった。具体的には、幅で7.8mm、高さで約5.5mm、奥行きは3mm増えており、重さも50g増している。

 単体で見ると、見慣れた“IXY”調デザインのせいか、さほど大きくなったという感じはしないが、比べてみると、その違いは歴然だ。

 ただ、実際に手にしてみると、今回のモデルは適度なサイズがあるため、むしろ持ちやすく、とても安心感がある。

 実際に撮影していても、従来機よりもカメラブレの影響が少ない点はすぐに体感できる。これは、プログラムAEの見直しや、自動ゲインアップも大きく貢献していると思うが、それと同じくらいに、ホールド感の向上がブレを軽減させているようだ。

 もちろん、携帯性だけでみれば、一歩後退した感じもある。また、レンズが3倍ズームになって、光学系が大きくなったからといって、厚みが増すのはわかるが、幅や高さが変わるのは、少々理解に苦しむところ、おそらく、技術的には従来機とほぼ同サイズに収めることができたはずだ。

 つまり、初代はAPS版IXYと同サイズへのこだわりと、製品としてのインパクトを最重視したものだったので、ホールド性がやや犠牲になっていた。だが、今回のモデルは、それに加えて、実用性や(手の大きな欧米人を含めた)持ちやすさも考慮したバランス重視のものへと、コンセプト自身が変化しているわけだ。

●軽快な撮影感覚

 起動時間は2秒弱と素早く、撮影間隔も2秒弱と、とても軽快。メインスイッチは携帯中の誤動作を防ぐため、約1秒間押していないとONにならないが、そこからの起動はとても早いため、さほどストレスを感じることはない。

 また、先代と違い、本機では撮影や再生モードがダイアル操作に変わっている。これは通常モードとマニュアルモード、パノラマのほか、新設された音声付き動画撮影モードなどへ即座に切り替えて撮影するには便利だ。

 しかし、実際には持ち歩いている間に、ダイアルが動いてしまうこともある。そのため、ケースから取り出したときに、動画モードや再生モードになってしまっていて、シャッターチャンスを逃したこともあった。ダイアル方式は、確かに便利であるが、このような欠点もあり、必ずしも“改良”とは言いかねる部分でもある。

 ズーミングも、レバー方式から2ボタン方式に変更されているが、こちらはあまり違和感がなかった。

 このほか、詳細設定メニューの内容もリニューアルされており、従来機よりも分かりやすいものになっている。また、今回から、JPEG圧縮率と画像サイズが別々に設定できるようになり、新たに1,024×768ピクセルモードが追加された点も目新しいところだ。

●気になる3点AFとバッテリ寿命

 本機を使っていて、一番気になったのは、自動制御式の3点式オートフォーカス機能。これは、画面中央とその左右の三カ所にオートフォーカスの測距点があるもので、通常はその3点のなかで、一番近い距離のものにピントを合わせるようになっている。

 そのため、二人並んで記念写真を撮るときのように、画面中央にピントを合わせる対象となる人物がいないようなシーンでも、とくにAFロックをする必要もなく、背景にピントが逃げることが少ない、という大きなメリットがある。

 だが、その半面、遠近が入り組んだシーンやマクロ撮影などでは、なかなか思ったような位置にピントが合わないという欠点もある。

 この傾向は初代にもあったが、これは今回のモデルでも同様。とくに、近距離撮影時に的確なピントを得るには、かなりのコツが必要だ。また、本機は液晶モニターが1.5インチタイプと小さいこともあって、微妙なピントが見づらく、撮影後に拡大再生しなければ確認できないこともあって、余計に気を使う部分といえる。

 バッテリは、先代モデルと同じ、コンパクトな特殊形状のリチウムイオン式を採用している。メーカーによると、同一条件下での撮影枚数が約40%増加したとしており、大幅な省エネ化が図られているという。

 しかし、実際に使ってみると、感覚的には従来機よりも多少保ちがよくなったなあ~、という感触はあるものの、40%も向上したという感じはしなかったのが残念なところ。

 実際には、液晶ONで撮影しても、ストロボや再生表示を多用しなければ、約100枚前後の撮影はこなせるため、実用十分ともいえる。とはいえ、市販の汎用一次電池が使えないこともあって、やはり予備電池が不可欠なことに変わりはない。

 また、今回からは付属の充電器がコンパクトなものになり、旅行などに持って行くのに便利になった点は高く評価できる。色使いもブルーと黒のなかなかオシャレなもので、従来の実用一点張りタイプとは大違いだ。

 もっとも個人的には、最近「FinePix6800Z」のクレードル充電の便利さに慣れてしまったこともあって、ぜひともIXYシリーズでもこのクレードル方式を採用して欲しいところだ。

 このほか、光学ファインダの見え味も従来機と同レベルなのは残念。より安価な「オリンパス・C1」のような、クリアで視野の大きなファインダを見習って欲しいもの。

●やや割高だが期待以上の完成度

 3倍ズームになり、大きくなっただけ……と思われがちな今回の「IXY DIGITAL300」。だが、その進化は想像以上に大きく、まさに“第二世代IXY”と呼ぶに相応しいレベルにまで向上している。

 もっとも、接続キットや付属ソフト込みとはいえ、85,000円という価格は、3倍ズームの200万画素機としては割高な感も否めない。だが、このサイズと価格に納得できるのであれば、十分に安心してオススメできる、完成度の高いモデルといえる。

 もちろん、現在では、初代IXYが実販4万円前後まで値下がりしていることを考えると、かなりの価格差になるわけだが、それでも、長い目で見れば、結果的に本機のほうが失敗も少なく、安心して写真を楽しむことができるだろう。

 また、コンパクトタイプのデジタルカメラで、本機に迫る質感とデザインを備えたモデルはほとんどないことを考えれば、外観デザインや質感から、カメラとしての性能までを含めたトータルバランスという点では、かなり高い点を獲得できるモデルといえる。

 むしろ、本機のライバルは、同じCCDと映像エンジンを搭載した、同社の「PowerShot A20」といえそうだ。このモデルはまだテスト機がなく、画質は未知数の部分もあるが、今回の「IXY DIGITAL300」の実力を見ると、画質面ではかなり期待できるモデルになりそうだ。

 この「A20」は、サイズはIXYと比較して大きめだが、同じ3倍ズーム機であり、電源は通常の単三電池も利用できる。しかも、オプションで24mmレンズ相当のワイド撮影が可能なコンバーターも用意されるなど、本機とは違った意味で、なかなか魅力的なモデルといえる。しかも、こちらは実販価格は5万円を切る可能性が高いことを考えると、実用本位に使うのであれば「A20」の発売を待って、比較してから購入を検討しても良さそうだ。

 もっとも、カメラは実用性だけでなく、たぶんに、趣味性やファッション性といったものが絡んでくるもの。それだけに、IXYのデザインと高い質感が好きだが、初代モデルの画質に不満を持っていた人にとって、この「IXY DIGITAL300」は、まさに待望のデジタル・コンパクトカメラといえるだろう。


●定点撮影画像(晴天時に新規撮り下ろし)

1,600×1,200ピクセル、Super Fineモード

1,600×1,200ピクセル、Fineモード

1,600×1,200ピクセル、Normalモード
デジタルズーム

1,024×768ピクセル、Fineモード

640×480ピクセル、Fineモード


□キヤノンのホームページ
http://www.canon.co.jp/
□製品情報
http://www.canon.co.jp/Imaging/IXY300/IXY300.html
□関連記事
【3月19日】キヤノン「IXY DIGITAL 300」実写画像 第2弾
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010319/yamada.htm

(2001年4月6日)


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[Reported by 山田久美夫]


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