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会期:3月22~28日
会場:Hannover Messe
今年のCeBITは、IMT-2000が立ち上がる時期だけあって、携帯電話をはじめとした通信系の展示が多い。また、念願の「Bluetooth」もようやく、各分野で搭載モデルが出始め、実用段階に入りつつある。
そんな流れを受けて、デジタルカメラ系も、単に「写る」という世界から脱却し、さらに便利なものへと進化しようとしている。今回は、その代表的な動きとして、キヤノンがCeBITで展開した新技術についてレポートしよう。
●デジタルカメラの新発表はなし
キヤノンは今回、「IXY DIGITAL300」、「PowerShot A10」、「A20」といった新ラインナップを展示し、注目を浴びていた。そして、それ以上に来場者の関心を集めていたのが、今回紹介する最新技術を生かした展開といえる。
いずれも開発発表済みのものであり、国内イベントでも公開されたこともあるのだが、今回ブースでは、これらの新技術系の展示とデモを一カ所に集めておこない、今後の新展開の可能性を感じさせるものとなっていた。
●S10ベースのBluetooth搭載カメラを展示
以前から、Bluetoothに熱心に取り組んでいるキヤノン。今回は、211万画素機「PowerShot S10」をベースに、Bluetoothユニットを一体化したモデルを試作。ブースで転送デモを行なっていた。
カメラ単体としては、まさに「S10」そのもので、ボディー側面にあるUSB端子に、Bluetoothユニットを装着したもの。なお、電源もカメラ側のバッテリを利用するという。
今回のデモは、Bluetoothを介して、デモ用に開発したBluetooth対応BJプリンタに出力するものと、Bluetooth対応の携帯電話に画像を送るというもの。
前者の場合、ポストカード大くらいのプリントを前提とし、200KB程度の小さなデータを転送していることもあって、プリンタへのデータ転送は約10秒と意外なほど高速だ。遅いというイメージが強いBluetoothだが、逆に、「これなら実用になるのでは」というのが正直な感想だ。
もっとも、今回のデモではBluetooth対応プリンタ側がJPEGデータを展開し、プリントする機能を搭載しており、小さなJPEGデータだけを送ればいいシステムになっているため、この速度が実現できているという。
もともと、現在のBluetoothの転送速度では、高画素機の大容量データを、何枚も転送するといった目的には不向きだが、このように一枚ずつ、インクジェットプリンタでプリントするのであれば、実用性は十分にありそうだ。
今後の展開については「市場の動向を見て」というところ。実際にこの手のデバイスは、Bluetoothをとりまくシステム環境がきちんと構築されないと、なんの意味もない。今回はプリンタや携帯電話への転送だったが、本当にどのようなときに利用するのが一番便利で効率がいいのかという点についても、まだ模索している感じだ。
また、将来的には、Bluetooth機能をカメラの一機能として搭載し、内蔵することも技術的には可能だが、そのぶん、コストが高くなったり、アンテナや処理回路のスペースも必要になるなど、いくつかの課題も抱えている。そのため、すぐに搭載されるというわけではなく、頃合いを見て搭載してゆきたいというのが正直なところのようだ。
●Micro BJプリンタ一体型デジタルカメラを一般に初公開
昨年の同社技術展「Canon Expo2000」(招待者のみ)の目玉となった、Micro BJプリンタ一体型デジタルカメラも、今回、一般向けイベントで初めて公開された。
このモデルは、光学2倍ズーム搭載の211万画素モデルをベースに、同社が新開発した超小型バブルジェットプリンタ「Micro BJプリンタ」を一体化している。
プリンタは、名刺サイズ専用のBJプリンタで、インクは3色タイプ。インクとペーパーは一体化されたカートリッジに収められており、カートリッジごと交換することができる。試作機とはいえ、きちんと撮影でき、本体のみでプリントできるれっきとした稼働モデルだ。
今回公開されたものは、以前、「Canon Expo2000」で公開されたモデルとは別のボディーであり、グリップ部やプリンタ部の形状も異なっている。製品化に向けて開発が進んでいることを感じることができた。
カメラユニットのサイズは意外にコンパクトで、「IXY DIGITAL300」に比べて、縦長だが、横幅はほぼ同じに収まっている。厚みはそれなりにあり、「IXY DIGITAL300」の1.5倍強といった感じだ。
ただ、プリンタ部の横幅は、カメラユニット部よりも横方向に出っ張っているため、かなり広い。ただ、これはインクとペーパーを収めたカートリッジ部を完全に収納するためで、使用時だけにカートリッジを挿して使うのであれば、カートリッジは出っ張るものの、横幅は、現在のカメラ部のぶんで収まってしまうという。
サイズ的には、決して携帯できないレベルではなく、富士やオリンパス&ポラロイド(海外のみ)が発売している、既存のインスタントフィルムを使うタイプのモデルに比べると、遙かにコンパクトに仕上がっている。
デモでのプリント時間は、プリント用データの生成などの前処理に50秒、プリント時間も同様に50秒かかっていた。だが、製品化時にはトータルで60秒に収まるという。また、プリンタを駆動するため、通常のIXY系よりも大容量のバッテリーを搭載する。
プリントの画質は、3色タイプとは思えないほど、鮮やかで美しいもの。解像度も十分だ。今回のデモでは、フィルムタイプの硬質な専用紙にプリントしていたが、普通の面状のペーパータイプも検討中という。
現在、製品化の方向で動いており、現時点では、カメラとしての魅力を含めて、CCDの画素数やレンズのズーム倍率などを検討中ということだ。
また、Micro BJプリンタを使った、スタンドアロンなデジタルカメラ用プリンタを、という声も多いという。
いずれにしても、さほど遠くない将来に、このMicro BJプリンタを内蔵したデジタルカメラが発売される可能性は極めて高い。これまでのプリンタ内蔵型モデルが、商品的にいま1つ成功していないのが現状だが、このサイズとこの画質であれば、デジタルカメラの新しい分野を築くことができるだけのポテンシャルを備えたものといえそうだ
●3D画像作成システム「Small Object Modeller(SOM)」を公開
各社が取り組んでいながらも、なかなか簡単で確実に生成できるシステムがない、3Dの世界。
今回、キヤノンは、コンシューマー向けデジタルカメラと、専用ソフトだけで、簡単に高精度の3D画像が作成できるシステム「Small Object Modeller(SOM)」を公開した。
このシステムは、被写体を撮影するときに、異なる大小のドットが放射線状に印刷されたもの(BJプリンタで容易に作成可能)の中央に、3D化したいオブジェクトをおき、ベースのペーパーごと回転させながら、各方向から12~16枚撮影。そのデータを専用開発のアプリケーションに取り込むだけで、実に簡単に3D画像データが作成できるシステムだ。
そのため、従来のように、専用デジタルカメラや特殊な回転台を使う必要がないので、実に手軽に撮影できる点が大きなメリットといえる。
モデリングは、Pentium II 500MHz程度のWindowsマシンで2分以内で生成できるという。
3D化させたデータを見ても、このような簡易的なシステムで作成した3Dデータとは到底思えないほど高精度。また、現行のシステムでは、上下を含めた360度方向での3D化ができないが、この点は、被写体を上下から撮影したデータを別途用意し、合成することで容易に対応できるという。
また、提携メーカーの協力により、ファイルサイズを従来の3Dデータよりも遙かに小さくする技術を開発しており、現時点でもデモ用の3Dデータで300KB強と、従来タイプの1/2~1/3のサイズに収まっているという。
まだ試作段階であり、すぐに製品化されるわけではないようだが、時期的にはそう遠くない感じだ。
一番気になるのが価格だが、これについては、「業務用であれば、数百万円の可能性もあり、コンシューマー用であれば、デジタルカメラの接続キットに同梱されて配布されることもある」ため、現時点では決めようがないというのが正直なところのようだ。
これほど簡単な撮影方法で、高度な3Dが作成でき、ファイルサイズが小さい点は大きな魅力。やはり2Dでは表現や説明ができない分野はまだまだ多いこともあって、3Dデータが容易に作成できるようになるのは大歓迎。
価格によっては、ネット通販をはじめとした業務用途はもちろん、ネットオークション系では個人ユーザーでも普及しそうだ。ぜひとも、安価な設定で、早期に製品化して欲しい技術といえる。
□CeBIT 2001(英文)
http://www.cebit.de/homepage_e
(2001年3月27日)
■注意■
[Reported by 山田久美夫]