西川和久の
「Crusoe搭載NotePCの決定版か!?」


CASIO CASSIOPEIA FIVA MPC-206

 筆者は現在、Transmeta Crusoeプロセッサ搭載NotePCとして、富士通のLOOX S5/53WにWindows 2000を乗せて使っているが、強力なライバルが現れた。CASIO CASSIOPEIA FIVA MPC-206である。今回、約一週間ほど試用することができたので、そのレポートをお届けする。

Text by Kazuhisa Nishikawa


CASSIOPEIA FIVA MPC-206はどんなNotePC!?

Desktop
少し筆者の好みに再配置しているが、下に見えるのがMobile Cockpit IIというFIVA専用アプリケーションだ

 詳細は同社のWebをご覧いただきたいが、特徴的な仕様をまとめると以下のようになる。

CPU Transmeta Crusoe TM-5600(600MHz)
Memory 標準128MB(ユーザー用約112MB)
オンボード64MB+DIMM64MB(最大192MB)
HDD IBM DJSA-220(20GB)
Video 8.4型TFTカラー液晶/SVGA(800×600ドット)/最大1677万色
SMI LynxEM+SM712 graphic controller(2MB RAM)
外部モニタ使用時/1024×768ドット/最大65,536色
I/O 100Base-TX/10Base-T
V.90/K56flex Modem
IEEE 1394(4pinタイプ)
USB×1
PC Card TypeII×1(CardBus対応)、3.3V/5V用
CF Card TypeII×1、3.3V/5V用
RGB×1(同梱の変換ケーブル使用)
マイク/スピーカ(内蔵/モノラル)
ステレオヘッドフォン端子×1(ミニジャック)
外形寸法質量 約223(幅)×197(奥行)×21(厚さ・最薄部)mm
約990g
OS Windows Me
その他 TM5600(500MHz)/Memory 96MB/HDD 10GBのFIVA MPC-205もある

 如何だろうか!? 薄型A5ファイルサイズにギッシリ詰まったインターフェース。特に筆者が日頃使っているIBM ThinkPad 240Xと富士通LOOX S5/53Wには内蔵していない“100Base-TX/10Base-T”と“IEEE 1394”、そして“CFカードスロット”があるのは非常に魅力的だ! ハードディスクが20GBというのもハイエンド・デジタルカメラのストレージとして考えれば嬉しい限り。Transmeta Crusoe TM-5600/600MHzのパフォーマンスについては下記のベンチマーク結果を参考にして欲しいが、筆者の用途を考えれば十分なパワーを持っているといえよう。

 気になるバッテリー駆動時間は、P-in Comp@ctを使いWebやメールを見る程度であれば標準バッテリで3時間程度はOK。デジタルカメラのデータを保存するときはハードディスクが回りっぱなしになるので少し落ちるものの、それでも重量を考えれば許容範囲だ。ヘビーな撮影の時には(試していないが)大容量バッテリパックを付ければよいだろう。その他、気が付いた点としては、サスペンドからの復帰が約9秒と早い。使いたいとき直ぐ使えるというのはモバイルにおいて重要。そうそう忘れていた。ポインティング・デバイスは筆者の好きなスティック・タイプ。ここが違うだけで筆者的に拒否反応を示してしまうから絶対外せないポイントである。

 このようにハードウェア的には現時点で最も筆者の理想(好み?)に近いNotePC、それがFIVA MPC-206なのだ。しかもこれだけのものを搭載しているのにも関わらず、実売価格はかなり安くNotePCとしては最安価なラインにある。もちろん、Intelの超低電圧モバイルPentium IIIにも興味はあるが、残念ながら今のところ魅力を感じるマシンはなく、ThinkPad派の筆者として本音を言えば、この仕様でThinkPad 240が欲しかった!(笑)

【HDBENCH Ver.3.30の結果】

CPU Clock Integer Float Mem. Read Mem. Write Mem. R&W
600MHz 21,050 15,299 15,764 10,543 20,770
300MHz 10,428 7,580 10,393 10,183 15,234
 300to600MHz 21,028 15,299 15,714 10,544 20,666

※OSはプリンストール状態のWindows Meで測定。この結果から大雑把に比較すると、フルパワー時、K6-II 450MHzやCeleron 450A(300A OverClock)と同程度のパフォーマンスであることがわかる。

Power
Mobile Cockpit IIからCrusoe固有のパワーマネージメントを設定できる。ロングランの設定は300(1.20V)/400(1.23V)/500(1.40V)/600MHz(1.60V)の4段階だ。液晶パネルは十分明るいので、かなり暗めにしている
デバイス
困るとすれば、シリアルポートが全くないことだが、これだけのデバイスを標準搭載していれば問題にはならないだろう

●Linuxも標準搭載!?

OSセレクタ
A側が通常のOS、B側にするとMP3プレーヤとFTPクライアントのみ使えるLinuxが起動する。何らかの方法でプログラムを実行さえできればもっと遊べる環境になるだろう。やればできると思うが、面倒なので今回は省略する
 左の写真をご覧いただくとわかるように、このFIVA MPC-206はちょっと変わったスイッチが付いている。電源ONまたは再起動時、ModeをA側にするとWindows Meが起動し、Mode B側にすると何とLinuxが起動するのだ。

 ただしこのLinux、汎用環境というわけではなく、X-Windowとsawfish 0.30.3上でFTPクライアント(gFTP)とMP3プレーヤ(XMMS)だけ使える限定環境。gFTPに関しては内蔵の100Base-TX/10Base-Tを使いDHCPでIPアドレスを取得し、Proxy経由で外部のFTPサーバーへアクセスすることもできた。もちろん、MP3を聞きながらFTPすることも可能である。ただLinuxのパーテーションは計212MBと非常に小さい。

 gFTPを使いローカルのファイル構造を眺めたところ、/mnt/DISK、/mnt/CFcard、/mnt/PCcardへFATファイルシステムをマウントしている。bashやxtermもあるのものの、起動する手段がないのでこれ以上は遊びようがない。MP3専用プレーヤーとして使うにもリモコン付きのヘッドホンがあるわけでもなく、いったいこの環境を何に使うのか!? 筆者的にはちょっと理解できないが、せめてxtermとcanna程度は動くようにして欲しかった! そうすればmozillaNetscapeを入れ、インターネット関連はこちらの環境だけでOKになったのに非常に残念だ。20GBもハードディスク容量があるのだから1GB程度Linuxに使っても文句は出ないと思うのだが……。

 試しに/program/system/lilo/boot/vmlinuzを別のLinuxマシンへ転送し起動したところ問題なく動いた。Kernelは2.4.1-pre10である。いずれにしても大手メーカーのNotePCとしては非常に面白い試みであり、今後更なるアプローチに期待したい。

【/program/system/lilo/lilo.confの内容】
boot=/dev/hda3
map=/system/lilo/boot/map
install=/system/lilo/boot/boot.b
delay=0
timeout=0
default=linux
lba32
compact
image=/system/lilo/boot/vmlinuz
 label=linux
 initrd=/system/lilo/boot/initrd.img
 append="ramdisk_size=15000"
 root=/dev/hda3

【/usr/bin/xinitrcの内容】

#! /bin/sh
PATH=$PATH:/usr/X11R6/bin
export PATH
network_restart
xmodmap -e "keycode 22 = BackSpace"&
xmodmap -e "keycode 118 = KP_Insert"&
xmodmap -e "keycode 119 = KP_Begin"&
xmodmap -e "keycode 120 = KP_End"&
xset s off&
sawfish&
LANG=ja_JP.eucJP
export LANG
main_menu (これがCASIOオリジナルのメニュープログラム)
if [ ! -e /DEBUG ] ; then
 sync
 shutdown -h now # caution /etc/inittab Cntl-Alt-Delete use same "shutdown -h now"
fi
sync
MP3プレーヤ
MP3プレーヤ、XMMS 1.2.3J。下に見える“起動セレクタ”は、起動時にMP3プレーヤを立ち上げるか? FTPクライアントを立ち上げるか? の選択ができる
FTPクライアント
FTPクライアント、gFTP。ネットワーク経由でMP3のデータだけでなく、いろいろなファイルも転送可能だ。/mnt/DISKへFAT32がマウントされるので、こちらへファイルを転送すれば容量不足にもならない

●Windows 2000に挑戦!

Windows 2000のデバイスリスト
いろいろな所からドライバを集め、無事全てのデバイスが使えるようになった。セカンダリIDEに×が付いているが、何もつながっていないので特に問題はない
 現在、筆者のメイン環境はWindows 2000 Professional。FIVA MPC-206は非対応であることを知りつつ、試しにインストールすることにした。運良く(?)初期ロットはハードディスクの約半分の容量が未使用のままだったので、そこへNTFSのパーテーションを作りセットアップ開始。

 問題なくインストールは終了し、Windows 2000が起動したものの、Video、Sound、Modemのドライバが無く、中途半端な形での起動となった。これを解決するのに試行錯誤した結果、Soundに関しては付属のCD-ROMからセットアップ、VideoとModemについては裏技であるが他社製品の該当するドライバをインストールした。

 具体的には、

Video SMI LynxEM+SM712 graphic controller IBM ThinkPad 240X/Z
Sound ALi Audio Accelerator 付属CD-ROM
Modem Lucent Technologies Soft Modem AMR 富士通 FMV BIBLO MF5

 これらのドライバを流用。(但し、これは筆者もメーカーも保証しない裏技であるから、問い合わせはNG。読者自身で判断して欲しい)これでFIVA MPC-206のデバイスが100% Windows 2000上で使えるようになり大満足だ。実際、Windows Meと比較して動きの滑らかさや安定性は格段に上。ただ、できればメモリは最大容量の192MBにしたいところか!?

 しばらくこの状態で遊んで「最後の仕上げに!」と、Mobile Cockpit IIをCD-ROMからセットアップして起動すると……エラーが出て動かない。調べたところ、Windows MeのシステムデバイスにCasRobin Driverという見慣れないドライバがあり、どうやらこのドライバ経由でロングランも含めBIOSをコントロールしているらしいのだ。しかしこのドライバがWindows 2000で作動せずMobile Cockpit IIが初期化時にエラーで落ちている。

 もちろんACPIレベルでのパワーマネージメントは可能なので、この状態でも普通のNotePCとしては使えるが、Crusoe固有のロングラン機能が使えなければ意味がない。しばし考えてみたものの、こればかりはどうにもならず、お手上げとなった。その他、細かい点としては、“液晶パネル右側にあるファンクションキー3つが機能しない”、“Fn+F4のハイバネーション・キーが効かない”など、Windows 2000で動かない部分もあるが、他の操作で代用でき致命傷ではない。とにかく、Mobile Cockpit IIさえ何とかなれば……という状況なのだ。いずれにしてもWindows 2000で使いたい筆者にとってはちょっと痛い結果となってしまった。

問題のデバイス
Windows Meでしか動かない特殊システムドライバ、CasRobin Driver

●総論

 薄型A5ファイルサイズ/990gという、非常に小型軽量のNotePCの割には、必要なデバイスを全て搭載、CPUパワーもそこそこあり、バッテリ駆動時間やハードディスク容量も十分……と、文句無しのMPC-206。あえて欠点を挙げると、もう少しボディーに質感と強度が欲しいのと、正式にはWindows 2000非対応ということだろう。

 ボディーに関しては(コスト的に厳しいかも知れないが)次モデルに期待!? Windows 2000に関してはMobile Cockpit II以外はパワーユーザーならば何とか自力(裏技!?)でインストールできる範囲。後はWindows 2000でも動くMobile Cockpit IIが同社のWebに登録されるのを期待しよう!!(笑)。この問題さえクリアすれば筆者は是非購入したいと思っている。宜しくお願いします!!>CASIO様

【追記】●LongRun-GUI.zip

LongRun-GUI
タスクトレイにスピードメータのようなアイコンが追加され、その針がCPUのクロック数に応じて動くようになっている



 読者の方からTransmeta CrusoeプロセッサTM5x00用のWindows 2000で動くLongRunツールがあることをメールで教えて頂いた。もともとはSONY VAIO C1VJ用に開発されたものだが、カラクリ的に他のマシンでも動くだろうとのことで早速試したところ見事OK! Mobile Cockpit IIほど細かく制御できないものの、300MHz固定/600MHz固定/LongRunパフォーマンスモード/LongRunエコノミーモードの設定が可能だ。作者および、ご連絡頂いた読者の方にはこの場を借りてお礼を述べたい。

「VAIO C1VJ LongRun Setting Utility for Windows」ダウンロード先

[Text by 西川和久]


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