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Craig Barrett CEO |
Photo 笠原一輝 |
何が一番変わったのか。それは、e-BusinessとかB2Bといった用語をほとんど使わなかったことだ。もちろん、「インターネットこそが将来への成長をもたらすエンジン(The Internet is the Growth Engine of the Future)」、といった具合で、インターネットの重要性を否定したりはしない。が、そのニュアンスはずいぶんと変わった。以前なら、Intelのビジネスに占める電子商取引の割合とか、世界経済に占める電子商取引の伸びを誇らしげに語り、いかにIntel自身がインターネットサービスを重視し、またそれに取り組もうとしているかを述べたものだが、今回のキーノートからはそうした内容はスッパリと消え去っている。IDFのキーノートに限らず、日本で行なわれるエグゼクティブセミナー(Intelの役員が来日し、日本の会社の重役に対して直接メッセージを伝えるイベント)等のスピーチでも、Intelの要人はe-Businessの伝道者的な役割を果たすことが多かっただけに、余計に驚きを感じたのである。
もちろん、これをもってIntelがe-Businessの重要性を否定した、ということにはならないだろう。おそらく質問をぶつければ、以前と同じようにe-Businessの重要性と、Intelの果たす役割について、スラスラと回答が返ってくるに違いない。だが、この半年での環境の変化が、Intelに大きな影響を与えたことも、また事実だ。ここでいう環境の変化とは、言うまでもなくニューエコノミーの崩壊であり、それに伴う株安と景況感の悪化である。一言で言えば、今回のキーノートは、そこかしこに「不景気」を感じるものだった。「次のUpswingに備える」とか、「景気は良い時もあれば悪い時もある」といった表現が耳に残った。
実際、IDFの前日も、シリコンバレー企業の1つである3Comが正社員900人と契約社員300人のレイオフを発表したばかり。Intel自身もストリーミング事業から撤退したし、定期昇給と昇進を先延ばししたとも言われている。ホテルで目にする新聞も、NASDAQ1500など相場の下限を探るような記事ばかりが目につく。IDFのキーノートで進軍ラッパを吹く環境とは言いがたい(幸い、IDFの開催地であるSan Joseの街を歩いていても、不景気を感じるようなことはあまりないのだが)。
●本業へ回帰するIntel
しかし、だからといって、Intelが不景気にしょげ返っているわけではない。43億ドルのR&D予算や、75億ドルの投資予算など、将来に向けての投資には一切手をつけないという。それこそ次のUpswingに備えることを身をもって示している、というわけだ。
と同時に、キーノートから感じられたのは、「本業」への回帰だ。e-Commerceやe-Businessに代わって、キーノートの骨格となったのは、Intelが持つ4つのアーキテクチャ、という話。4つのアーキテクチャとは、PC用プロセッサであるIA-32、PDA等に使われるIntel Personal Internet Client Architecture(StrongARM)、ネットワーク機器に用いるInterl Internet Exchange Architecture(XScale)、そしてサーバー(ITANIUMやXeonプロセッサ)を指す。すべてシリコンを用いた半導体製品であり、インターネットのサービスなどではない。もちろん、すでに事業化したサービスの中には、突然打ち切ることが難しいものもあり、すべてを直ちに中止するわけにもいかないだろうが、上述したストリーミング事業からの撤退が示すように、少なくとも一旦は中核事業であるシリコンへ回帰することは間違いないのではないかと思う(ちなみにWebOutfitter Serviceが人知れず打ち切られたことにどのくらいの人が気づいただろうか)。
シリコンへの回帰を告げる上で欠かせないのは、シリコンの将来性である。Intelがe-Businessに入れ揚げた? 理由の1つは、新しい成長分野を求めてのことだったハズだ。シリコンに成長の余地がなければ、Intelの未来は暗いことになってしまう。今回のIDFでは、Barrett CEO自らがキーノートで、Intelのプロセス技術について語った。年内に銅配線による0.13μmプロセスへの移行が始まること、次の2世代(0.10μmプロセスおよび0.07μmプロセス)についてすでに事業化を前提とした具体的な研究・開発がスタートしていること、そして半導体の微細化についてまだ5世代くらいは余地が残されていそうだという基礎研究の結果を紹介した(Barrett氏がこうした内容のスピーチをするのは、比較的珍しいと思う)。
特に0.13μmプロセスについては、Barrett氏の次にキーノートを行なったPaul Ottelini副社長が、0.13μmのPentium III(Tualatin。基本的には最後のMMX PentiumプロセッサとなったTillamookと同様モバイルに重点が置かれる)を搭載したノートPCのプロトタイプ(DELLのラベルが付いていた)のデモを行なった。もちろん壇上でのデモであり、続くMcKinleyのデモ同様、それがTualatinであることの裏付けはOttelini副社長の言葉しかないのだが、チップセットはi830M(デスクトップ向けにはキャンセルになったAlmador。モバイル向けには生きており、440BXの次の主力とさえ考えられている)と言い切ったことからして、おそらく間違いないのだろう。
(2001年2月28日)
[Text by 元麻布春男]