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●Tualatinは第2四半期半ばに登場か
Intelの今年中盤の目玉は、「0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)」の投入だ。Tualatinは、当初の予定ではモバイルの通常電圧版が今年7月頃に、超低電圧版が今年遅くに投入されるはずだった。しかし、このスケジュールが前倒しになった可能性が高い。今春の終わりにはTualatin搭載ノートPCを見ることができるかもしれない。
Tualatinは現在サンプル出荷中だが、正式発表は第3四半期の7月になるとOEMには伝えていたという。Intelが新CPUのリリースにこれだけ期間を置くのは、ごく普通のことだ。新CPUでは、予定のスペックに達しなかったりトラブルが発生することは多いからだ。例えば、この前のPentium IIIのメジャーバージョンアップだった、0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)の初期サンプルでは、OEMメーカーによると統合したL2キャッシュSRAMがうまく機能しないなどのトラブルが発生したという。結局、Coppermineの出荷は後ろへずれ込んでしまった。
また、機能的にOKでも、新プロセスに載せる場合には生産数量が問題になる。最先端プロセスの立ち上がり時期には、生産個数が非常に限られるからだ。Intelにせよ、0.13μmプロセス(P860)の量産を始めたのはまだ1工場(Fab 20)だけのはずで、それも、フルのキャパにはほど遠い。0.13μmの流しているウェハの量はかなり少ないはずだ。また、ステッピングを重ねて量産ステップのウェハを投入し始めても、それが後工程のパッケージングやテストを終えて出荷できるようになるまでにはかなりのタイムラグが生じる。そのため、プレ量産のサンプルを出したあとも、実際の製品発表までは1四半期以上たっぷり開いてしまうのが普通だ。
だが、Intelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」を来週に控えたこの時期になって、Tualatinが前倒しになる、という情報が入ってきた。この情報は、まだ確実なソースでの確認が取れていないが、それによるとIntelは第2四半期の中盤にTualatinを発表、限られた量を大手OEMにのみ出荷する計画を立てているという。モバイルでのTualatinシステムでは、チップセットは新しい「Intel 830M(Almador-M:アマドールM)」が必要だが、これも同時期にリリースされるという。
●技術的には可能なTualatinの前倒し
このTualatinのスケジュール前倒しは、まだ確認が取れていないため、本当のところどうなのかはIDF待ちだ。しかし、あり得ても不思議ではない。それには、技術的な理由とマーケティング的な理由がある。
技術的にはすべてがうまくいけば前倒しは可能だ。まず、生産に関しては、Fab 20の0.13μmプロセスの歩留まりが順調に上がるメドが立っていれば、第2四半期中に非常に限られた数量なら出荷はできるはずだ。特に、Tualatinはダイサイズ(半導体本体の面積)が小さいので、ウェハ上の欠陥(Defect)率が当初高くてもイールドでは有利になる。それで、もしTualatinの量産ステップを、第1四半期後半にウェハ投入できるなら、最短で第2四半期中盤には後工程も終えた製品を多少は出荷できることになる。つまり、量を限定すれば投入は可能ということだ。実際、Intelは昨年前半まではTualatinを、モバイル向けだけは今年第2四半期の後半に投入すると説明していたという。
マーケティング的にも、IntelにはTualatinを急ぎたい理由がある。それは、今年前半のIntelプロセッサに目玉がないからだ。確かに、Pentium 4 1.7GHzやモバイルPentium III 1GHzといった製品はあるが、正直な話、インパクトは弱い。今年の春夏モデルでのIntelのイメージを引き上げるだけの力はない。その間に、ライバルはじわじわと浸食してくるという嫌な状況にある。
しかし、TualatinでモバイルPentium IIIを1.13GHzに引き上げられれば話は違う。しかも、Tualatinの場合、熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)が下がるので、オーバー1GHzのモバイルCPUを薄型A4ノートPCクラスにも搭載できる。Tualatin化によって、来年の今頃までにはモバイルPentium IIIは、すべてが1GHz以上になってしまうと見られている。最上位のクロックは、おそらく1.2GHz~1.26GHzに達しているだろう。Intelの優位性を明確に示すことができるわけだ。
それから、Intelは0.13μmプロセッサを最初に出すということでも技術優位を示すことができる。Intelにとってプロセステクノロジでライバルより優位に立っているというのは強力なポイントだった。しかし、今回の0.13μmでは、IBMとTSMCがぴたりとつけてきている。もともと早いIBMはともかく、TSMCが迫っているのはIntelにとって嫌な展開のはずだ。ファブレスCPUメーカーが、プロセス技術でIntelと並ぶことができてしまうからだ。
●モバイルを中心に展開するTualatin
IntelはTualatinに関しては、モバイルを中心に展開する。Intelのパット・ゲルシンガー副社長兼CTO(Intel Architecture Group)は、昨秋Tualatinの計画について次のように説明していた。「新プロセス技術を立ち上げる際には、当然、当初はIntelが供給できる0.13μm製品の数は限られる。そのため0.13μmの製品は、0.13μm化による最大の恩恵を顧客に提供できるセグメントから供給する。0.13μm版Pentium IIIの場合、我々が提供する最初のマーケットは低消費電力化を実現するモバイル向けだ」「デスクトップ向けの0.13μm版Pentium IIIは、モバイルほどのボリュームにはならないだろう」
実際、IntelはOEMメーカーに対してデスクトップ版Tualatinの供給量は、かなり限られたものになると説明しているという。また、モバイル重視の姿勢は、製品の機能にも現われている。IntelはTualatinのうち、512KBのL2キャッシュを搭載したTualatin-512KをモバイルPentium IIIに提供し、デスクトップ版Pentium IIIとしては256KBのL2キャッシュしか搭載しないTualatin-256Kしか提供しない。Intelのこれまでのパターンからすると、Tualatin-512KとTualatin-256Kは同じダイ(半導体本体)でTualatin-256KはL2キャッシュを半分無効にした製品と考えられるので、このL2キャッシュ量の差はマーケティング上の都合によるものである可能性が高い。つまり、上にPentium 4があるデスクトップでは、Tualatinの性能をあまり引き上げたくないということだ。
●低電圧版と超低電圧版は少し遅れて登場
Intelは、通常電圧版はともかく、低電圧版Pentium IIIと超低電圧版Pentium IIIに関しては、すでにTualatinのスケジュールを前に持ってきている。これまで、IntelがOEMメーカーに示しているスケジュールでは、Tualatinの低電圧版と超低電圧版の明確なリリース時期は明確にされていなかったという。昨年10月のMicroprocessor Forumでは、Intelのドナルド・マクドナルド氏(Director MPG Marketing, Mobile Platforms Group)が「2001年内に出すつもりだが遅くになるだろう。新プロセスの新製品なので、シリコンを十分にテストしてからでないとラウンチの日付を決定できない」と説明していた。
しかし、現在は、通常電圧版の約1四半期あとの9月までに登場するとOEMメーカーにアナウンスされているという。つまり、秋冬モデルには確実に間に合うわけだ。だが、もしかすると、このスケジュールもさらに早まるかもしれない。それは、Transmetaの0.13μm CPU「Crusoe TM5800」の動向次第だろう。IBMの0.13μmプロセスも、すでに立ち上がっているからだ。
ただしTualatinも、低電圧版と超低電圧版が通常電圧版と同時に登場することはおそらくないだろう。Intelは当初から、Tualatinは通常電圧版から先に提供すると明言していた。Microprocessor Forumで超低電圧CPUのプレゼンテーションを行なったIntelのロバート・T・ジャクソン氏(Principal engineer, Mobile Platforms Group)によると、低電圧製品のリリースがずれるのは、技術的な理由だという。「(CPU)製品は、最初はスイートスポットエリア(もっともボリュームが売れるゾーン)に向けて、デザインされシミュレートされる。トップの製品から供給されるのはそのためだ。より低い電圧にしようとする前には、われわれは低電圧時の回路の動作を慎重にチェックする。そして、低電圧で(安定して)動作するステッピングを重ねるというプロセスを経る。通常、電圧は四半期ごとに一定の割合で下げることができる。だから、(0.13μm版Pentium IIIを)1.2Vで最初に提供するとすると、しばらくして低電圧版を多分1.15V程度で提供することができるだろう。そして、その後さらに電圧を下げるといった方向に向かうのではないか」
実際にTualatinの低電圧版と超低電圧版がどの程度の電圧で登場するかはわからない。しかし、それほどアグレッシブに電圧を下げるのでなければ、1四半期程度の遅れで提供可能というわけだ。現在のところ、Intelは低電圧版Pentium IIIをCoppermineで750MHzまで引き上げ、秋頃にTualatinで800MHzに持っていく、来年には800MHz以上の製品を出すとOEMに説明しているという。また、超低電圧版はCoppermineで600MHzに引き上げ、秋頃にTualatinで700MHzに、来年には700MHz以上の製品へと移行して行くようだ。TDPは、クロック×電圧の二乗に比例するため、電圧引き下げがもし0.05V程度にとどまったとしてもかなり下がる。例えば、Tualatin 1.13GHz/1.2Vに対してTualatin 800MHz/1.15VのTDPは計算上65%に、Tualatin 700MHz/1.1Vは52%に減る計算になる。
低電圧版と超低電圧版は、来年にはCeleronもひと足先にTualatinになってしまうと見られている。ちなみに、Tualatinはi830Mだけでなく、440MXのマイナーバージョンアップ版でもサポートするようだ。
(2001年2月22日)
[Reported by 後藤 弘茂]