後藤弘茂のWeekly海外ニュース

携帯電話がPCに近づく
~ISSCCでNTTドコモが今後の携帯のビジョンを発表~

●オーバー1MHz/mWのCPUの時代に

 半導体の国際会議のキーノートスピーチがiモード。2月5日から開催されている「ISSCC (International Solid-State Circuits Conference 2001) 2001」では、NTTドコモの榎啓一取締役がキーノートスピーチに登場。無線通信が半導体技術のテクノロジドライバになったことを印象づけた。

 榎氏は、iモードで携帯電話が情報機器へと変わり、5月から始まるIMT-2000ではミュージックとビデオをポイントにするというビジョンを語った。例えば、音楽や映画のプローション、カラオケ、写真やマップつきのレストランガイド、ゲームのダウンロードなどを提供する。

 そのため、榎氏は今後の携帯電話では、高解像度のTFTカラー液晶ディスプレイや大容量メモリが必要になると説明した。また、携帯電話に搭載するプロセッサも、同じレベルの消費電力でより高速なものへとシフトする。その結果「携帯電話はPCに近づく」と榎氏は言う。

 まず、プロセッサは、携帯電話の場合、消費電力の要求が数十mWで、そのワク内での性能向上が求められている。榎氏がISSCCで示したチャートでは、このクラスのCPUは、現状ではまだ数十MHzのレベルだが、近い将来に数百MHzレベルになるとされている。これは、消費電力当たりのクロックが、現状の1MHz/mW前後から近い将来に数MHz/mWレベルに上がることを意味する。

 じつは、組み込み向けプロセッサのMHz/mWは、今後数年で大幅な向上が期待されている。これまでは組み込み向けでさえ、1MHz/mWを超えるものは少なかった。しかし、半導体プロセス技術の進歩と、市場の拡大を見据えた高MHz/mWアーキテクチャのCPUの開発が加速しているからだ。

 例えば、携帯電話への進出を明らかにしているIntelのXScaleプロセッサは、200MHz時に0.7Vで55mWで、消費電力当たりのクロックは3.6MHz/mWになる。1MHz/mWを大きく超える。しかも、これは0.18μmプロセスでの数値であり、0.13μmへ移行すると、さらに消費電力当たりのクロックは上がる見込みだ。

 これに対して、PC用のCPUはクロックは高いが消費電力も大きい。そのため、最近の平均消費電力を下げる機能を備えたCPUでさえ、1MHz/mWを切る。こうして見ると、MHz/mWに対する考え方が、まったく異なるカテゴリのCPUであることがわかる。携帯電話が3Gで大化けすると、PC向に匹敵する高機能プロセッサの市場が誕生するわけで、Intelなどがここに必死にアプローチしている理由もよくわかる。


●3G携帯電話を見据えてモバイルメモリ規格策定の動きも

 一方、メモリの方はどうなるかというと、「ドラマティックに大容量になる」(榎氏)という。では、どの程度を携帯電話側は期待しているのか。関係者によると、NTTドコモは将来の携帯電話の搭載するメモリ容量として、8MBを示しているという。動画や音声も扱うというなら、それも不思議はない。

 携帯電話には今、メモリとしてSRAMが搭載されている。しかし、8MBクラスのを携帯電話に搭載するとなると、SRAMで実現するのは不可能に近い。そこで、ここへ来てDRAMという案が浮上してきた。

 例えば、エルピーダメモリ(旧NEC日立)の犬飼英守副社長は、1月末に開催されたPlatform Conferenceのキーノートスピーチで「近い将来、DRAMは携帯電話にすら使われるようになるだろう」と語っている。実際、DRAM業界では3G時代のアプリケーション向けに、Mobile RAMの規格作り始めている。このMobile RAMは、メモリの標準規格をこれまで策定してきたJEDEC(半導体業界団体EIAの下部組織)で、昨年末から規格策定のためのディスカッションが始まったという。2002年頃には実際のチップが登場するという急ピッチのスケジュールで動いているようだ。

 Mobile RAMは、低電圧で低消費電力の新しいメモリ規格で、携帯電話などへの搭載を意識したスモールパッケージで64Mbit程度の低容量になるようだ。チップの容量が64Mbitだとすると、ちょうど8MBになる。また、携帯電話などでは、複数デバイスを載せることができないため、ワンデバイスでも広帯域を実現するインターフェイスを備えると見られる。このほか、使わないバンクのリフレッシュを止めるといった、新しい低消費電力フィーチャを備える可能性もあるという。

 もっとも、モバイル向けには、DRAMのメモリセルを備えながらインターフェイスはSRAMという疑似SRAM系メモリが台頭するという声もある。疑似SRAMでは、集積度はほぼDRAMと変わらないため、Mobile RAMと真っ向からぶつかることになりそうだ。

 携帯電話に、数百MHzのCPUと8MBのDRAMが乗る。間違いなく、携帯電話はPCに近づいている。半導体技術の進歩は、こうして携帯をもPCに変えてしまうのだ。


バックナンバー

(2001年2月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.