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●オーバー1MHz/mWのCPUの時代に
榎氏は、iモードで携帯電話が情報機器へと変わり、5月から始まるIMT-2000ではミュージックとビデオをポイントにするというビジョンを語った。例えば、音楽や映画のプローション、カラオケ、写真やマップつきのレストランガイド、ゲームのダウンロードなどを提供する。
そのため、榎氏は今後の携帯電話では、高解像度のTFTカラー液晶ディスプレイや大容量メモリが必要になると説明した。また、携帯電話に搭載するプロセッサも、同じレベルの消費電力でより高速なものへとシフトする。その結果「携帯電話はPCに近づく」と榎氏は言う。
まず、プロセッサは、携帯電話の場合、消費電力の要求が数十mWで、そのワク内での性能向上が求められている。榎氏がISSCCで示したチャートでは、このクラスのCPUは、現状ではまだ数十MHzのレベルだが、近い将来に数百MHzレベルになるとされている。これは、消費電力当たりのクロックが、現状の1MHz/mW前後から近い将来に数MHz/mWレベルに上がることを意味する。
じつは、組み込み向けプロセッサのMHz/mWは、今後数年で大幅な向上が期待されている。これまでは組み込み向けでさえ、1MHz/mWを超えるものは少なかった。しかし、半導体プロセス技術の進歩と、市場の拡大を見据えた高MHz/mWアーキテクチャのCPUの開発が加速しているからだ。
例えば、携帯電話への進出を明らかにしているIntelのXScaleプロセッサは、200MHz時に0.7Vで55mWで、消費電力当たりのクロックは3.6MHz/mWになる。1MHz/mWを大きく超える。しかも、これは0.18μmプロセスでの数値であり、0.13μmへ移行すると、さらに消費電力当たりのクロックは上がる見込みだ。
これに対して、PC用のCPUはクロックは高いが消費電力も大きい。そのため、最近の平均消費電力を下げる機能を備えたCPUでさえ、1MHz/mWを切る。こうして見ると、MHz/mWに対する考え方が、まったく異なるカテゴリのCPUであることがわかる。携帯電話が3Gで大化けすると、PC向に匹敵する高機能プロセッサの市場が誕生するわけで、Intelなどがここに必死にアプローチしている理由もよくわかる。
●3G携帯電話を見据えてモバイルメモリ規格策定の動きも
一方、メモリの方はどうなるかというと、「ドラマティックに大容量になる」(榎氏)という。では、どの程度を携帯電話側は期待しているのか。関係者によると、NTTドコモは将来の携帯電話の搭載するメモリ容量として、8MBを示しているという。動画や音声も扱うというなら、それも不思議はない。
携帯電話には今、メモリとしてSRAMが搭載されている。しかし、8MBクラスのを携帯電話に搭載するとなると、SRAMで実現するのは不可能に近い。そこで、ここへ来てDRAMという案が浮上してきた。
例えば、エルピーダメモリ(旧NEC日立)の犬飼英守副社長は、1月末に開催されたPlatform Conferenceのキーノートスピーチで「近い将来、DRAMは携帯電話にすら使われるようになるだろう」と語っている。実際、DRAM業界では3G時代のアプリケーション向けに、Mobile RAMの規格作り始めている。このMobile RAMは、メモリの標準規格をこれまで策定してきたJEDEC(半導体業界団体EIAの下部組織)で、昨年末から規格策定のためのディスカッションが始まったという。2002年頃には実際のチップが登場するという急ピッチのスケジュールで動いているようだ。
Mobile RAMは、低電圧で低消費電力の新しいメモリ規格で、携帯電話などへの搭載を意識したスモールパッケージで64Mbit程度の低容量になるようだ。チップの容量が64Mbitだとすると、ちょうど8MBになる。また、携帯電話などでは、複数デバイスを載せることができないため、ワンデバイスでも広帯域を実現するインターフェイスを備えると見られる。このほか、使わないバンクのリフレッシュを止めるといった、新しい低消費電力フィーチャを備える可能性もあるという。
もっとも、モバイル向けには、DRAMのメモリセルを備えながらインターフェイスはSRAMという疑似SRAM系メモリが台頭するという声もある。疑似SRAMでは、集積度はほぼDRAMと変わらないため、Mobile RAMと真っ向からぶつかることになりそうだ。
携帯電話に、数百MHzのCPUと8MBのDRAMが乗る。間違いなく、携帯電話はPCに近づいている。半導体技術の進歩は、こうして携帯をもPCに変えてしまうのだ。
(2001年2月8日)
[Reported by 後藤 弘茂]