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21世紀の秋葉原PC業界を考える |
昨年はいろいろありましたが、1年ぶりにWatchに寄稿することにしました。昨年のことは昨年のこととして、少々遅くなりましたが今年2001年、そして21世紀の秋葉原PCショップ業界を考えてみようかと思います。
■ ショップの二極化
秋葉原にはたくさんのPCショップがありますが、業界の競争は厳しく、お客様たちの目もよりシビアになってきています。これに対応できる業態として、大型店と小型専門店の二極化が進むことが予想されます。
・大型店化
昨年から徐々に動きはありますが、今年はPCショップの大型店化がより顕著になっていくと思われます。大型化することにより、集客力をあげていき、スケールメリットを高めていく。これは正常進化と言えますが、競争が厳しくなっている現状においては、この進化をよりすばやく進めていこうと考えているショップも多いことでしょう。
顧客の立場から見ると大きなショップのメリットはいくつかあります。まず安心感、そしてサポート、豊富な商品ラインナップと豊富な在庫。良いところばかりですが、1つ欠けてくると思われるのが価格です。大型店を中心に、今年以降だんだんと価格競争から離脱していくショップが増えてくるだろうと筆者は予想します。
今の価格競争はあまりにも過当競争であり、市場全体としても限界に達しつつあります。低価格・高品質なサービス・豊富なラインナップ・豊富な在庫の全ての要素をバランスよく満たすことは非常に難しいのです。それは大きいショップになればなるほど、顕著です。ショップによって、どこかに重点を置くことで特色を出していく形になるのですが、実際にはこれを読んでいる読者の皆様が、どこに重点をおいて今後ショップをチョイスしていくかにかかっていると思います。皆さんは何を重視して購入しますか?
・小型専門店化
前述のような大型店ではたくさんいる顧客の要望を全て満たすことは絶対にできません。そこに小さなショップの市場があります。小さなスペースに少ない店員、限られた商品しかない。でも、色々相談できたり、得意な商品に関してはどこにも負けない。そんな小さな専門店。
昔はそういうショップの集まりばかりで秋葉原が構成されていたのですが、中型から大型の店が増えるにつれて減っています。筆者が初めて通ったPCショップは、秋葉原ではなくて世田谷区の小さなPCショップでした。秋葉原には電子パーツ(抵抗とかコンデンサとか基板とか……)を購入するために週何回も通っていたのですが、なぜか毎週のように通っていたPCショップは秋葉原ではなかったのです。それは店長さんの人柄が良かったり、いろいろな相談ができることや、安く仕上げるためのアドバイスが貰えたりすることが大きなアドバンテージだったことを覚えています。
店員の人と気軽に会話できて、ショップごとの得意分野がわかりやすく、今まで以上に専門化されたお店。こういうお店は比較的上級者向きですが、秋葉原の小さいPCショップの流れになるのではないかと筆者は考えています。
■ 選択肢が少なくなるPCパーツ
PCパーツは世界的な市場でもメーカーの選別化が進んでおり、PCショップの店頭においても製品の選択肢が少なくなることが予想されます。これはほとんど全てのパーツに言えます。ビデオカードはチップメーカーが出す標準設計そのままのボードばかり。ドライバも標準ドライバとまったく同じ。一見、色々種類のあるHDDですが、現実は性能・信頼性・騒音等に差はほとんどありません。秋葉原のショップ界隈でもIBMが良いと言われていますし一番売れていますが、実際の差はほとんどないのが現状です。一番特色のあったマザーボードもどれも似たような物ばかり。昔のように抜き出た特徴や癖のある製品も非常に少なくなりました。
製品の平均化がなされるのは良い事なのでしょうが、古くからの上級者にとっては、いまいち面白みに欠けるかもしれません。上級者の一部の方々にはケースやCPUファン自体を自作したりしている人もいるぐらいですから。
例えメーカーがよほど特徴のある製品を作っても、数が売れないから普通の製品の2倍3倍の値段を付けないと開発費が回収できない。高いと売れないため、やはり標準品ばかりになってしまう。パーツメーカーも苦しい市場になっています。台湾メーカーの多くも、製品の多角化・ベアボーンPCや各種キットなどの統合した製品の供給などが最近のテーマになっているようです。果たしてこのような市場の中で、強力な個性を打ち出すメーカーが出てくるのでしょうか? 筆者としては出てきてほしいところですが……。
■ 種類が増える外部機器
機能差がない状況で、特徴を出せるのはUI(User Interface)、つまり人の目に触れる外見的デザインや使いやすさだけです。
昔から、キーボードやマウスのように人の手に触れるところは人によって好き嫌いがわかれるいろいろな製品が出ています。パソコン自体の市場は大きく広がっていますから、これらの人の手に触れる商品はより種類が増えてくると思います。例えば文房具で言えばペン1つをとっても、大きな文具屋に行けば何十種類、何百種類の種類があります。このように、キーボードだけでも選びきれないほどの種類が出てくるのではないかと思われます。PCパーツと異なり個性的な商品が増えてくるでしょう。
またそのほかの入力機器も伸びることが予想されます。タッチパネル式液晶ディスプレイや音声入力などは最近急激に聞かれることが増えていて、多様化した入力機器が必要とされていることを感じます。またこれらの機器は今年から来年にかけて価格が大幅に下がることが見込まれています。
■ そろそろ底値? 各種商品の値下がり
昨年は色々な商品が大きく値下がりしましたが、筆者の思うところ、そろそろ底値でこれ以上大きな値下がりはないと予想されます。昨年まではアメリカでのパソコン需要の伸びが市場を牽引していたため、多くのメーカーが価格を安くしても数を出して利益を確保していました。ところが今年以降はそうはいきません。アメリカの景気も踊り場に差し掛かってきた今、パソコンの需要も落ち込んできているため、数だけに頼ろうとしても頼れず、結局メーカーが利益を出すためには値下げの勢いを減速させる必要があるのです。
また、各パソコン部品の製造原価・開発原価を考えても、これ以上の値下がりは続かないと見るのが普通です。
例えばCPU1つを見ても、メーカーによって差がありますが8,000円以下のCPUは種類が少なくショップでは「在庫限り」として販売されているものばかり。1万円前後の低価格CPUと2~3万円前後の高性能CPUだったら、たくさんあるという状況です。これはCPUメーカーの原価構成上、8,000円未満の価格帯で販売利益が出ないことから、高価格製品を多く出荷しなければならないためだと思われます。つまりこの辺が原価の限界なのでしょう。
マザーボードも、チップセットの価格やソケット・コンデンサ・抵抗・基板などの原価を考えるとこれ以上の値下がりはないでしょう。すでにこれらの部品の原価を足した価格にほんの少し利益を乗せたぐらいしかマザーボードメーカーは儲けていないような状況です。
どの製品にも言えますが昔に比べて、古い製品が秋葉原のショップの店頭から消えるのが早くなり、新製品を多く出して価格を維持しようとしていることがわかると思います。
これから値下がりすることが予想されるのは、ほんの一部の商品だけでしょう。液晶ディスプレイ、無線機器関連、デジタルカメラぐらいでしょうか。
ただし、値段は下がらなくても、同じ値段で実現できる機能や性能・特徴は増えていくことは予想できます。これは今なら3万円で1GHz CPUが買えるのが今年の年末には3万円で1.5GHzや1.7GHzが買えるようになり、8,000円前後で1GHz CPUが買えるようになるでしょう。このように、機能や性能は上がっても価格は下がらないのです。
筆者がショップの人間だからという部分もあるのですが、あえて強調して言います。今がおそらく底値です。例えば1セットのパソコンを揃える費用が今の半分になることは当分ないですし、これ以上大幅に安くなることはありません(性能は上がると思いますが)。是非とも今が買い時だと思って色々な商品を購入するべきでしょう!
■ 今年の注目製品
今年2001年、注目される機器のNo.1は、先日のMac WorldでApple社が新しいG4 Macに搭載して話題をさらった、DVD-Rでしょう。もうさまざまなところで話題になっていますが秋葉原のPCショップでも、久しぶりの大型商品ということで、多くのショップが血眼になって探しています。秋葉原には3月には流通し始めるようですが、どこまで値下がりし、どこまで売れるかが期待される商品です。2~3年後には値段次第でCD-RWドライブを超える存在になっていてもおかしくはないと思われます。
次に期待される製品が無線関連機器。無線LANは昨年色々な種類が市場に出回りましたが、今年は市場が大きく成長する年だと思われます。価格が下がり、多くのユーザーが無線LANを選択するようになるでしょう。高速化も進んできていますし注目株です。また、以前から話題になっていながらも登場が遅れていたBluetoothを使った無線機器も多く出てくると思われます。技術の進歩により昔の無線キーボードや無線マウスのような、すぐに電池が切れてしまって使い物にならないような製品は出ないでしょう。実用性の高い良い無線製品が続々と出てくることと、PCショップも非常に期待しています。
そのほかにもブロードバンド(広帯域通信)に関連する機器(ADSL関連やホームサーバなど)や、HDTV(デジタルテレビ)に関連した機器、新規格で従来のUSBから大幅に高速化したUSB 2.0関連機器などが非常に期待されている商品群だと思います。
■ インターネットの噂と裏話
インターネットの普及とともに、秋葉原のPCショップに来ている波の1つが、色々なホームページ上の情報です。「xxxという型番のCPUはオーバークロックしやすいらしい」、「xxxという刻印のメモリはオーバークロック耐性が強い」、「xxxは改造すると性能が上がる」など実際に製品を購入した人たちの有益な情報が噂として、秋葉原の売れ筋を左右してくるようになりました。ショップの仕入れや販売にも、こういう情報が反映され人気商品となっているものも少なくありません。
しかしながら、ユーザーの情報交換が盛んなことは、市場全体の拡大のためにも良い事なのですが、過信しすぎないよう気をつけたほうがいいでしょう。数人の偏った意見に左右されてしまうことは非常に危険です。業界の裏話ですが、最近では悪質なショップや流通業者の中に、意図的にユーザーを装って特定の商品に有利な情報(嘘の情報?)を流しているところもあるようです。
今後も、インターネットから発信された噂で人気になる商品はたくさん誕生するでしょうし、これからの市場の流れを作っていくのは間違いありません。しかしながら情報の真偽に気をつけた方が良いでしょう。
さてさて、今年はどんな秋葉原になることやら。読者の皆さんも予想してみてください。それと、PCショップ業界・秋葉原について「ここが知りたい」ということがあれば、是非ともリクエストをいただければ幸いです。
(2001年2月1日)
[Text by AMUAMU]