プロカメラマン山田久美夫のCESデジタルカメラレポート

光学手ブレ補正機能付き10倍ズーム機「キヤノン PowerShot Pro90IS」発表

1月6日(現地時間) 発表

米国価格 1,299ドル



 年始早々、米国時間で1月6日から開催される家電系イベント「International CES」。昨年は、カシオが世界初の民生用300万画素機を発表するなど、年明け早々から意欲的な新製品が登場するイベントだ。

 もっとも、2月中旬には米国最大のカメラショーである「PMA」が開催され、多くのメーカーはPMAをターゲットに新製品を発表する関係もあって、今回の「International CES」での新製品は意外に少なかった。

 そんな中で、今回もっとも注目されるニューモデルとなったのが、キヤノンUSAが発表した「キヤノン PowerShot Pro90IS」だ。

 なお、今回は本機をCES会場で借りることができたため、英語版β機での簡単な実写レポートもあわせてお届けしよう。


●待望の258万画素、手ブレ補正10倍ズーム付きPowerShot登場

 「PowerShot Pro90IS」は、その名の通り、同社の「PowerShot Pro70」の後継機にあたる、パーソナル向けハイエンドモデルだ。

 基本的には、334万画素CCDを搭載した258万画素モデルで、ズームレンズには画質低下の少ない光学補正型手ブレ補正機能を搭載した「7-70mmF2.8-3.5」を採用している。CCDの解像度と出力解像度が異なるが、これについては後ほど解説する。

 カメラの成り立ちとしては、昨秋発売された「PowerShot G1」をベースに、10倍ズーム化したモデルと思えばわかりやすだろう。カメラの詳細については、同社の英語版ページに掲載されているため、そちらをご参照願いたい。

□製品情報(英文)
http://www.canon.co.jp/Imaging/PSPRO90IS/PSPro90IS-e.html

 米国での価格は1,299ドル。市場への出荷時期は1月下旬を予定しているという。名実ともに21世紀最初のニューモデルだ。

 なお、今回の発表は北米と欧州市場向けのみで、日本国内ではまだ正式発表されていない。また、ブースの説明員に、日本国内での展開についてたずねたところ、ノーコメントということだった。

 もちろん、この手の高機能・高価格帯モデルは海外よりも日本でとくに好まれる傾向があるため、近い将来は日本国内でも正式発表がなされる可能性が極めて高い。

●334万画素CCD搭載の258万画素モデル

 このモデルの最大の注目点は、やはりレンズだ。

 最近では4倍以上の高倍率ズームを搭載したモデルが増えつつあるが、それでも10倍を実現しているモデルは少ない。さらに、10倍ズームで画質低下の一番の原因になる、カメラブレ(手ブレ)の軽減が大きな課題になるわけだが、現在、高画質な静止画撮影に対応できる光学補正式のよる手ブレ補正機能を搭載しているデジタルスチルカメラは、ソニーとオリンパスのみ。しかも、この技術はきわめて難しく、ソニーはキヤノンとの共同開発で実現しており、オリンパスも他社から手ブレ補正機能付きレンズの供給を受けて製造しているのが現状だ。

 さて、キヤノンがデジタルカメラ用のシフト式手ブレ補正機能を搭載した光学10倍ズームレンズを公開したのは、昨年5月下旬。その後、同レンズをOEM供給したと思われるモデルがオリンパスから2機種も登場している。

 通常は自社モデルへの搭載が先行するだけに、その“本家”であるキヤノンがいつどのような形で搭載するのか、大いに興味があったわけだが、それがようやく今回実現したわけだ。

 ただ、本機が搭載しているCCDは、現在の高画素機で主流になっている1/1.8インチの334万画素タイプ。だが、このレンズはもともと1/2インチCCD用に設計されているため、より大きな1/1.8インチCCDの有効画面をフルにカバーすることができない。

 そのため本機の有効画素数は、レンズが良質な画像を結ぶ範囲であるイメージサークルで制限されており、実質的には258万画素相当。ピクセルサイズとしては、1,856×1,392ピクセルとなっている。

 これは、211万画素機である「オリンパス C-2100UZ」の画像サイズに比べて、約34%大きなサイズだ。また、写る範囲も「Pro90IS」のほうが広く、35mmカメラ換算で37-370mmレンズ相当で、C-2100UZの38-380mm相当よりも若干ワイド側にシフトしている。

 ちなみに、「ソニー Cyber-shot DSC-F505V」もこれと同じ理由で、総画素数より小さな画像しか撮影できない。同機はカメラ内での画素補完をして、370万画素で記録する機能を搭載しているが、「Pro90IS」にはその機能はない。

●やや大柄な本格派モデル

 スタイリングは、PowerShot系上級機である先代モデル「Pro70」のイメージを踏襲したもので、10倍ズーム化に伴って、レンズの全長が延びているため、大柄な印象を受ける。

 とくに、同スペックのレンズを搭載した「オリンパス C-2100UZ」に比べても、レンズ鏡胴がかなり太く、一回り大きなカメラに感じられる。

 外装はプラスチック素材で、米国で約1,300ドルという高価格帯のモデルとしては、質感はもう一歩という印象だ。

 持った印象は、グリップ部がシッカリしており、握りやすいこともあって、ホールド感は比較的いい。ただ、グリップは若干大きめでもあり、手の大きな欧米のユーザーはいいが、手の小さな私にはやや手に余る感じもあった。

 ファインダーは、ビデオカメラのような液晶ビューファインダーと、G1と同じく縦横両方向への回転が可能な液晶モニターが装備されている。とくに、液晶ビューファインダーは、高画素な18万画素LCDを採用。オリンパスや富士フイルムのモデルが、約11万4,000画素のLCDなのに比べると、遙かに高密度な表示を実現しており、画像もクリアで鮮明な点に感心する。また、リフレッシュレートも秒間30フレーム表示のようで、表示レスポンスも上々だ。

●巧妙な手ブレ補正アルゴリズム

 今回、撮影してみて感心したのは、光学手ブレ補正機能のアルゴリズム。これは各社で独自のノウハウがあり、ユニットが同じでもアルゴリズムの違いで、その効果は大きく異なる。

 実際に「オリンパス C-2100UZ」の補正機能は、撮影時の補正効果はそれなりにあるのだが、望遠側でファインダーを覗きながらフレーミングをしていると、微妙なカメラの動きを、ブレ補正機能が適時補正しつづけるときに、過剰補正してしまい、揺り返し現象が起きる。そのため、しばらく使っていると、船酔いに近い状態になり、不快感がある。

 しかし、本機では揺り返しが少なく、船酔い状態にならず感心した。ソニー同様に長年、この技術に取り組んできた同社のノウハウの深さが感じられる。

 実際の補正効果は、定量的に図るのが難しいのだが、シャッター速度に換算して約2段はありそうで、実際には3段近い効果が得られているように感じた。今回も望遠域で夜景を撮影してみたが、慎重に構えれば、1/6秒程度までは手持ち撮影ができる点には感心してしまった。

●安心感のある安定した画質

 今回は、英語版のベータ版で、ラスベガスの街を撮影してみた。

 やはり、光学10倍ズームの迫力は格別のものがあり、通常のワイド(35mmレンズ相当)から一気にほとんど望遠鏡的な視野となる350mm相当までズーミングできる点は快感。同じ場所から撮影しても、全く印象が違う作品を作ることさえできるほどだ。

 とくに現地は、もともと砂漠地帯で空気が乾燥していることもあって、超望遠側でも実にクリアな写りが楽しめた。これが湿気の多い日本では、遠景が煙りがちになるため、超望遠での遠景撮影はコントラストが低下しがちになるので、多少、印象が変わる可能性もある。このあたりは、一度日本の風景で試してみたいところだ。

実写画像:10倍ズーム
ワイド端 テレ端

ワイド端 テレ端

 画質面での完成度は高いレベルにある。なかでも感心するのは、滑らかな階調の再現性で、ハイライトからシャドーまできれいなグラデーションを備えており、立体感のある描写を実現している。

 解像力という点では、さすがに光学補正機能を搭載した光学10倍ズームというハイスペックなレンズだけに、キリキリとした印象ではないが、それでも実用十分な切れ味は備わっている。また、高倍率ズームで気になる画面周辺部の色収差も実用レベルに抑えられている印象だ。

 もちろん、いずれも全く気にならないレベルではないが、光学10倍ズームの迫力と便利さを考えれば、お釣りが来るレベルといってもいいだろう。

 ただ、気になったのは色再現性だ。本機は(メーカー未公開だが)どうも補色系のCCDを搭載しているようで、青空や木々の緑のヌケは、今ひとつといった印象。とくに、ラスベガスのようなクリアな青空と、写った画像を比較すると、余計に色の濁りが気になってくる。このあたりの絵づくりは、メーカーのポリシーがあり、多少は好みの問題もあるので、一概にはいえないが、そろそろこのクラスにも原色系CCDを搭載したモデルを投入して欲しいところだ。

実写画像:夜景の手持ち撮影
広角撮影:シャッター速度1秒 望遠撮影:シャッター速度1/6秒

実写画像
●実写画像撮影条件
画質モードはFine(JPEGの中くらい)、画像サイズは最大の1,856×1,392ピクセル。撮影モードは、プログラムAE。手ブレ補正はすべてON。なお、一部のカットのみ、ホワイトバランスをデーライトに設定。

●気になるAFやズーミングの遅さ

 一方、使ってみて気になったのは、動作の遅さだった。

 起動時間は約4秒で、結構長く感じる。最近は2~3秒台のモデルが主流になっていることもあって、数値以上に焦れったい印象があった。

 また、ズーミングやオートフォーカスが遅く、10倍ズームをフルに生かしたアクティブな撮影がしにくい点も気になる。このあたりは「オリンパス C-2100UZ」や「E-100RS」のスピーディーさに比べると、引けを取る印象がある。同じ光学系かどうかは定かではないが、それでも同じ10倍ズームで、これだけ動作速度の違いがあると、ちょっと考えてしまう。

 さらに、連写も秒間0.7コマと遅く、望遠側で動きの速いシーンを狙うには力不足を感じる。

 このほか、動画撮影中にズーミングができない点も不満なところ。通常の3倍ズーム程度なら、さほど感じないが、10倍ズームになるとビデオカメラ的な感覚で動画撮影中もズーミングを楽しみたいのが人情。技術的には難しいところだが、それでもチャレンジして欲しいところだ。

●国内での発表に期待

 ラスベガスで撮影した印象は以上のような感じだ。上記のような欠点もあるが、画質のよさと10倍ズーム+手ブレ補正機能はそれを上回るだけの魅力だ。

 日本国内での発表や価格設定はまだ未定ということだが、国内発表後には、日本語版モデルを使い、レポートしたい。

(2001年1月9日)


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[Reported by 山田久美夫]


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