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リコールはCrusoeのアーキテクチャが原因ではない
チャプマンTransmeta上級副社長インタビュー

 Crusoe搭載ノートPCの一部ロットのリコールは大騒ぎになった。問題は、600MHz搭載機種の一部のロットで、OSの再インストールを行うと途中でエラーが発生して停止、インストールが完了できないというものだった。

 実際に問題が発生した製品は少なかったため事態は沈静化しつつあるが、この事件でCrusoeのブランドイメージは手痛いダメージを受けた。今回の問題について、Transmetaのジェームズ・チャプマン(James N. Chapman)上級副社長(Sales & Marketing)に背景と今後の展望をうかがった。


●どうして今回のリコールのような問題が発生したのか。

 我々は、1つのシリコン(ウエーハ)から次のリビジョンのシリコンへ替わるごとに違うリージョンとしている。そして、各シリコンから採れたチップを製品として出荷している。そうしたところ、突然顧客が、特定の製品にラインフェイラ(製造上の問題)があるのを見つけた。その連絡を受けて、何が起きているか見極めようと即座に在庫品のチェックをし、顧客メーカーのところに行って原因を突き止めようとした。そして突き止めたのは、ある特定のリビジョンで、特定のメーカーに出荷された600MHz品という組み合わせでラインフェイラがあったことだ。フェイラがある製品は限られた数だ。

●Crusoeのアーキテクチャには問題は全くないのか。

 明確に違う。Crusoeのアーキテクチャの問題ではない。Crusoeがコードモーフィングソフトウェア(CMS:Code Morphing Software)で命令を変換する独特のアーキテクチャであるため、心配していることはわかる。しかし、今回の件は純粋に製造段階のものだ。半導体なら起こりうることで、アーキテクチャ的な問題は発見しなかった。

●製造上の問題だとすると、ファウンダリ(委託製造業者)に責任があると考えているのか。

 全然そうは思わない。製造で通常のオペレーティングモードでは多少のばらつきがあるものだが、これは非常に異例なシチュエーションだ。我々も予期できなかったが、ファウンダリにも責任があると思わない。

●ファブレス(工場を持たない)のTransmetaは製造経験のあるスタッフに欠けるという指摘がある。そのため、最終製品のチェック態勢が整っていなかったのではないのか。

 我々の社長兼COOとして今年1月から加わったマーク・アレン(Mark Allen)は、製造と運営面で非常に経験を積んでいる。彼は、C-Cube MicrosystemsとNVIDIAで副社長を務め、製造面で高い評価を集めた。C-CubeとNVIDIAはどちらもTransmeta同様にファブレス企業で、マークはそのどちらでも非常にハイボリュームでの生産立ち上げに成功した。彼の功績で、どちらの企業も、ファブレス半導体企業の業界団体(Fabless Semiconductor Association,FSA) が授与している「年間最優秀ファブレス半導体カンパニ賞」を取っている。

 Transmetaは、高品質でアグレッシブな製造を確実にするために、彼をリクルートした。当社の役員会は、我々が製造と品質管理の面で強力な人材が必要だと理解していたからだ。マークの職歴は、当社のような状況には最も合っていると思う。今は、彼がいいチームを社内に作っている。それから、我々が契約しているファウンダリであるIBMとTSMCは、どちらも最良のウエーハFab施設を持っていると思う。

 我々は、まだ最初の製品を立ち上げようとしているところだ。これまで問題がなかったとは言わない。しかし、問題をできる限り迅速に解決しつつある。長期的には、品質でも生産量でも日本のカスタマのニーズに合う量産体制を確立できると信じている。

●ある顧客企業から、初期のCrusoeの出荷品で不良率が高かったとも聞いている。今回の件とは直接は関係ないが、これはどうなのか。

 我々は、不良率を急いで減らすように務めている。来年第1四半期には業界の標準的な水準まで持っていけると考えている。また、これはCrusoeマシンを製造する時の問題で、(製造段階で不良ははねられるので)エンドユーザーの手に渡る際のクオリティは非常に高い。それについては誤解のないように伝えて欲しい。あなたの質問に関して言えば、我々は日本のOEM顧客の高いクオリティ要求に合うように不良率を減らす必要があるし、それに務めている。日本の顧客の要求水準は間違いなく世界一だ。

●来日していたのは顧客企業に事情を説明するためか。

 私が来日した一番の理由は、まず顧客と一緒に何が起きているのかを見つけることだった。まだNECがリコールを発表する前で、その時点ではNECがリコールを決定したことも知らなかった。本当に、突然の事態で、予期していなかったのだ。それが私が来た最初の週の状況だった。私と日本代表の和田氏は、すべての顧客を巡りすべてをチェックした。今は、すべて把握できていると自信を持っている。

 そして、次にしたことは、顧客企業に代替製品を出荷することで、製造が滞り機会損失が生じないようにできるかぎり務めたことだ。特に今はボーナス商戦の重要な時期だとわかっている。そこで、Crusoe搭載製品のラインがストップしないように、今は飛行機にハンドキャリーしてCrusoeを運んできている。幸いなことに、今はどのメーカーも製造、出荷ともうまくいっている。また、ソニーが発表したように、もし問題があれば、我々は喜んで製品を取り替えるつもりだ。これは、Transmetaにとって、危機に直面した場合の一種のテストのようだ。我々は最善のことをしていると思っている。

●今回の件での反応はどう見ている

 予想していなかったのはこの大きな反響だ。リコールのプレスリリースが出てから、多くの報道が日米間をピンポンしてどんどん膨れあがっていった。また、我々は多くの異なるカスタマを訪れる必要に迫られた。正直な話、こんな現象はこれまで見たことなかった。非常に顕著なシチエーションだった。

 その一因は、日本で非常に高い注目を集めていたためだと思う。私も半導体産業に20年いる(チャプマン氏は元Cyrix)が、新興メーカーがこんなに高い関心を集めたのは初めてで、信じられないほどだ。だから、Transmetaにとって日本と日本のエンドユーザーは非常に重要だ。正直な話、我々のコンセプトを日本はすんなり理解してくれたが、米国ではなかなか理解してくれない。米国では、まだ人々は大きなノートPCを望んでいて、日本での成功を信じてもらえない。そうしたことも、米国での否定的な反応と関連していると思う。

●発端となったNECのリコールはどう考えているのか。もしこれがIntelのCPUだったら、NECもリコールしなかったと思うか。

 私は、NECが非常に高いクオリティと厳しいポリシーを持つ企業だと考えている。それは素晴らしいことで高く評価しており、その点になにも異論はない。重要なことは、彼らの(リコール)決定を我々も正しいと考えており、我々がそれぞれの顧客企業と協力してこの問題に取り組み、平和的に解決したことだ。そして、エンドユーザーにも大きなインパクトはなかった。確かに、PRという観点からすると、リコールがなかったらとは思うが、実際にはそうではなかった。どんな小さな問題についても、我々が迅速に責任を持って当たるという姿勢に変わりはない。

 私も、半導体業界に長くいて、数多くのバグや製品リコールを見てきた。CPUでもチップセットでも、こうしたことは珍しくない。ただ、フランクに言うと、これまでは、こうした事柄はあまり表沙汰にならなかった。それが半導体業界だった。しかし、今ではそうではないということだ。

●しかし、そのためにはCrusoeのブランドイメージを回復しなければならない。

 ここで確認しておきたいのは、まず第1にOEMカスタマとの関係は良好だ。彼らの製品は市場でうまくいっている。第2に、我々は、誰ともコミュニケーションをオープンにしている。日本独自の宣伝活動も積極的に続けてゆく。広告、OEMサポート、それにシンポジウムなども重視している。日本の大学でCrusoeについて説明もした。これは、すべて日本市場にフォーカスしているからだ。今のところ、ショップでの反応は問題がないようでほっとしている。私も個人的に日本にいる間に10軒ほどのPCショップを巡ったが、今のところは問題がなさそうだった。といっても、油断しているわけではない。

●今回の件をいちばん喜んでいるのはIntelだと思う。先ほどあなたが触れたように、Intelはこの件をCrusoeがまだ信頼できない理由として利用してくるはずだ。どう対処するのか。

 じつは我々もそれは予想している。私がいいたいのは、“弱みをもつ人は、自分のことを棚に上げて、他人に石を投げてはいけない(People who live in glass houses shouldn't throw stones)”ということわざだ。彼らだって、振り返ってみれば完璧ではないのだから。


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(2000年12月15日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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