Pentium 4とIntel 850チップセット搭載マザーボードを考える



Pentium 4 1.5GHz
 前回の本連載ではPentium 4プロセッサ(以下Pentium 4)を搭載したシステムのベンチマーク結果を掲載した。今回は、実際に秋葉原に出回ったPentium 4 1.5GHzのリテールボックス、Intel 850チップセットを搭載したPentium 4用マザーボードの2製品を入手したので、それらの2製品を中心にレビューしよう。


●PC800のRIMMが2枚入っているリテールボックス

 既に秋葉原ではPentium 4のリテールパッケージの販売が開始されている。多くのショップではPentium 4リテールパッケージが、1.4GHzは10万円を若干切る99,800円、1.5GHzは12万円弱の119,800円となっているところが多いようだ。つまり、1.4GHzが10万円程度、1.5GHzが12万円程度と考えておけばいいだろう。

 さて、この注目のPentium 4のリテールパッケージだが、入っている内容品はPentium IIIのリテールパッケージとは若干異なっている。Pentium IIIのリテールパッケージには

・CPU本体
・CPUクーラー
・マニュアル
・ロゴステッカー(Pentium III)

が入っていた。しかし、Pentium 4のリテールパッケージではこれらに加えて、

・シリコングリス
・PC800のRIMM2枚

が追加されている(もちろんロゴステッカーはPentium 4に変更されている)。Pentium III(やCeleron)ではCPUクーラー側に熱伝導をよくするシールが貼ってあったのだが、今回から注射器の形をしたシリコングリスが同梱されており、これを自分で塗るという形になっている。以前CPUクーラーメーカーの方と話をしたときに、固形のシールよりもクリーム状となっているシリコングリスの方が熱伝導性が高いと伺ったことがある。

 今回のこの変更は、Pentium 4の発熱量が増え、従来のシール方式ではCPUクーラーに対して逃がす熱量が十分ではなくなってきたためと考えられる。Intelが公開したデータシートによれば、Pentium 4のCPUコア電圧は1.7Vであり、TDP(Thermal Design Power)と呼ばれる熱設計時に参照すべき最大消費電力は1.5GHzで54.7W、1.4GHzで51.8WとPentium III 1.0B GHzの26.1Wと比較して、倍近くになっており、消費電力に比例して発熱量は増えていくことを考えると、Pentium 4ではCPUの冷却周りに気をつかわなければいけないことは間違いない。

 また、64MBのPC800 RIMMが2枚同梱されていることも、Pentium 4リテールパッケージの特徴と言える。現時点で、Pentium 4用チップセットとして用意されているのは、Intel 850チップセット(以下Intel 850)のみとなっている。Intel 850は、メインメモリとしてDirect RDRAMを2チャネル利用できるようになっている。Direct RDRAMではチャネルごとにピーク時バンド幅が確保される仕組みになっており、2チャネルの場合は1チャネルに比べて倍のピーク時バンド幅が実現される。400MHz(実際にはDDR動作で800MHz)のPC800とよばれるRIMM(Direct RDRAMを搭載したメモリモジュール)を利用した場合には、1チャネルあたり1.6GB/秒のピーク時バンド幅が実現されるため、Intel 850でPC800 RIMMを利用した場合には3.2GB/秒のピーク時バンド幅が実現されることになる。100MHzの4倍速で400MHzとなっているシステムバスのピーク時バンド幅(3.2GB/秒)とあわせて、Pentium 4システムの1つの特徴と言える。

 しかし、このため、Intel 850では1チャネルにつき1枚のRIMMを挿さなければいけないので、最低でも2枚のRIMMが必要になる。読者の方もよくご存じのように、RIMMの値段は決して安くない。例えば、先週末のAKIBA PC HotlineによればPC800 64MB RIMMの最安値は26,780円で、同じPC133 64MB SDRAMの3,180円に比べて圧倒的に高い。これではPentium 4の普及を望むべくもない。

 そこで、IntelではRIMMを2枚バンドルすることにしたわけだ。そうした方法がメーカーとして正しい方向かという議論はともかく、ユーザーとしては2枚で5万円以上もするPC800 64MB RIMMが2枚入っているのだから、Pentium 4の本当の価格は1.4GHzが5万円弱、1.5GHzが7万円弱と考えることができるので、メリットは小さくない。この値段が安いか、高いかは感じ方の問題なのだが、登場したばかりのIntel製ハイエンドCPUとしては安いといってもいいだろう。


●既存のケースユーザーの救世主P4T

Pentium 4用のIntel 850チップセット
 冒頭で紹介したように、現在秋葉原ではPentium4用マザーボードとしてIntel D850GBとASUSTeK COMPUTERのP4Tという2製品が入手可能になっている。既に述べたように、Pentium 4用チップセットはIntelが提供するIntel 850のみしかなく、この両製品もIntel 850が搭載されている。Intel 850は2チャネルのDirect RDRAM、AGP 4Xスロット、400MHzのシステムバスをサポートするMCH(FW82850)と、Ultra ATA/100のIDEインターフェイス、4ポートのUSBポートなどをサポートするICH2(FW82801BA)から構成されており、両マザーボードのスペックも、サウンドチップの違いぐらいであり、さほど大きな違いはない。

Intel D850GB ASUS P4T

 しかし、両マザーボードは1つだけ大きな違いがある。それが、ベースボードの有無だ。既に述べたように、Pentium 4では消費電力が大きくなっているので、CPUクーラーの取り付け方法が大きく変更されている。具体的には、マザーボード、PCケースの両方にCPUクーラーを支えるリテンションキットを取り付けるネジ穴が必要になっており、基本的にはこの穴がないケースでは利用できるようになっている。しかし、こうした穴が用意されていないケースで利用したいユーザーも少なくないわけで、そうしたユーザーにとってはこのリテンションキットをどのように取り付けるかが話題になっていた。そこで、ASUSTeKのP4Tはリテンションキット用のネジ穴があいているベースボードと呼ばれる金属板が付属しており、そのベースボードをPCケースに取り付けるようになっている。このベースボードによりPCケースの違いを吸収するというわけだ。既存のPCケースに入れたい場合には、こうしたP4Tのようなアプローチは有益で、評価していいだろう。

ASUSTeK COMPUTERのP4Tに付属しているベースボード。これがあればどのようなケースにも取り付けられる ベースボードにマザーボードを取り付けた状態

 ただ、その場合でも電源に関してはPentium 4に対応した電源が必要になる。Pentium4ではCPUの消費電力が増えた関係で、マザーボードの電源周りが強化されている。例えば、電源周りを安定させるために、12Vを供給するためのATX12Vという4ピンのコネクタが増えている。さらには、ATXのオプション仕様で規定されているAUX電源コネクタなどが必要になる。今回の2枚のマザーボードのうち、D850GBには通常のATX電源コネクタ、ATX12V、AUX電源コネクタが付いており、P4TにはATX電源コネクタ、ATX12Vの2つが付いている。

D850GB上に搭載されているATX12Vのコネクタ(左)とケーブル(右)

 ATX12Vに関しては奨励条件であるということもあり、特に接続しなくても動作しそうだ。筆者がP4TでATX12Vのコネクタを挿さないで動作させた時も、問題なく動作した。しかしIntelは、「安定させて動作させるために」ATX12Vをというコネクタを増やしたとIntel Developer Forumなどで説明しており接続しないのは、精神衛生上よろしくなさそうだ。そうした意味では、既存のATXケースを使用する場合でも、秋葉原などで販売されているPentium 4をサポートした電源を買ってきて交換した方がいいだろう。


●メモリの広域なバンド幅を実現するIntel 850チップセット

 今回、製品版のPentium 4 1.5GHzとマザーボードが入手できたこともあり、前回行なったベンチマークテストを再び計測し直し、さらに比較のためにPentium III 1GHz+VC820(Intel 820搭載)のデータを追加した。

 今回もSYSmark2000、Intelが提供するIntel Application Launcherテストに含まれる3つのSSE2対応ベンチマークを行なった。さらに今回はメモリのピーク時バンド幅を計測するバージニア大学で開発されたStreamDテストを追加した。StreamDは、メモリにデータ転送を行ない1秒間に送れたデータ量を計測する(すなわち、ピーク時バンド幅を計測する)テストで、DDR SDRAMやDirect RDRAMといったメインメモリのピーク時バンド幅を比較するのに利用されることが多い。

【SYSmark2000】
SYSmark2000 Rating 192
232
197
Pentium 4 1.5GHz Athlon 1.2GHz Pentium III 1.0B GHz (単位 MB/秒)

Bryce 4 229
296
219
CorelDraw 9 212
306
221
Elastic Reality 3.1 229
279
247
Excel 2000 182
269
221
NaturallySpeaking Pref 206
202
169
Netscape Communicator 173
233
201
Paradox 9.0 173
229
189
Photoshop 5.5 151
138
157
PowerPoint 2000 183
266
213
Premiere 5.1 139
203
196
Word 2000 163
205
166
Windows Media Encoder 4 318
223
187
Pentium 4 1.5GHz Athlon 1.2GHz Pentium III 1.0B GHz (単位 MB/秒)

【SSE2対応ベンチマーク】
Incoming Forces 118
068
086
VideoStudio 4.0 138
096
100
Windows Media Encoder 7.0 151
060
101
Pentium 4 1.5GHz Athlon 1.2GHz Pentium III 1.0B GHz (単位 MB/秒)

 SYSmark2000の結果だが、総合結果に当たるSYSmark2000 Ratingの結果は、Athlon 1.2GHzは言うに及ばず、Pentium 4がPentium III 1GHzにも劣る結果となった。詳しく見ていくと、Pentium 4がAthlon 1.2GHz、Pentium III 1GHzを上回ったのはわずかに「NaturallySpeaking Pref」と「Windows Media Encoder 4」の2つだけだった。しかし、SSE2に対応した3つのアプリケーションでは、Pentium 4がPentium III 1GHz、Athlon 1.2GHzを圧倒した。このあたりの傾向は、速報の時と変わっていない。

【StreamD】
COPY32 1049.18
0551.72
0400.00
COPY64 1163.64
0581.82
0390.24
SCALE 1306.12
0842.11
0363.64
ADD 1454.55
0793.39
0484.85
TRAID 1454.55
0755.91
0406.78
Pentium 4 1.5GHz Athlon 1.2GHz Pentium III 1.0B GHz (単位 MB/秒)

 メモリのピーク時バンド幅の比較である、StreamDだが、これに関しては3.2GB/秒という2チャネルのDirect RDRAMをサポートするIntel 850を擁するPentium 4が、2.1GB/秒のPC-2100(DDR SDRAM)を利用するAMD-760チップセットを利用するAthlon 1.2GHz、1.6GB/秒のIntel 820との組み合わせであるPentium III 1GHzを大幅に引き離す結果となった。

【テスト環境】
Pentium 4 1.5GHz
マザーボード:Intel D850GB(Intel 850搭載)
メモリ:PC800 RIMM(Direct RDRAM、128MB)

Athlon 1.2GHz
マザーボード:AMD CORONA-EVT3(AMD-760搭載)
メモリ:PC-2100(DDR SDRAM、128MB)

Pentium III 1.0B GHz
マザーボード:Intel VC820(Intel 820搭載)
メモリ:PC800 RIMM(Direct RDRAM、128MB)

共通
HDD:IBM DTLA-307030(30GB、Ultra ATA/100)
ビデオカード:NVIDIA GeForce2 GTS(64MB、DDR SDRAM)


●やはり本命はBrookdale搭載マザーボードか?

 問題は、Intel 850の広域なピーク時バンド幅を生かすアプリケーションがあるかどうかだ。残念ながら、現時点ではそうしたアプリケーションはほとんどないと言ってよい。代表的なアプリケーションのコードを実際に動作させるSYSmark2000の結果が、ピーク時バンド幅で上回っているはずのPentium III 1GHz+Intel 820にも及ばないという結果がそのなによりの証拠と言える。

 となると、やはりメインメモリは安価なSDRAMでいいのではないかという考えることは当然で、実際にそうすれば現在のRIMMにかかっているコスト(CPUに同梱されているため価格はわからないのだが)を削減できるようになる。情報筋によれば、Intelは2001年の第3四半期にSDRAMをサポートするPentium 4用チップセットであるBrookdale(ブルックデール)の計画をOEMメーカーに説明しているという。また、2001年第3四半期には、CPUソケットの形状が現在の423ピンのPGA423から、478ピンのmPGA478へと変更されるという。そうしたことを考えあわせると、Pentium 4の本命はmPGA478のPentium 4+Brookdaleと言えるだろう。

 自作PCユーザーが現在のPentium 4+Intel 850を購入するかどうかだが、既に述べたようにmPGA478+Brookdaleを待てるのであれば、待つのが賢い選択だと言える。ただし、SSE2対応アプリケーションを利用するユーザーであれば、Pentium 4の処理能力は十分魅力的なものである。既に速報の結論でも述べたように、そうしたユーザーであれば購入を検討してみてもいいだろう。

□Akiba PC Hotline!関連記事
【11月18日】一部ショップがPentium 4対応マザーボードとケースの販売をスタート
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20001118/p4mother.html
□関連記事
【11月21日】【速報】登場したばかりのPentium 4をベンチマーク!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001121/hotrev85.htm

(2000年11月24日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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