第75回 :FTTHは来年いっぱいから? と期待を抱かせた、とある話 |
どうしたものかと思っていたら、NTTの営業からメールが届いた。
● 光収容だとOCNアクセスラインが利用できない? そんなばかな!
ご存じとは思うが、OCNエコノミーのおさらいを。
OCNはNTTコミュニケーションが運営するインターネット接続サービスだが、その中「OCNエコノミー」は、128Kbpsのディジタル専用線で電話局と宅内を結び、128Kbpsの帯域を最大24ユーザーで共有、OCNのフレームリレー通信網を通じてOCNの基幹ネットワークに接続するサービスだ。
まぁ、平たく言えば128Kbpsで常時接続しっぱなしの専用線だけど、利用状況によって速度は保証できませんよ、という安価な専用線サービスである。この帯域保証を行なわないアクセスラインをOCNアクセスラインという。
OCNアクセスラインは高速デジタル専用線の128Kbpsと物理的には同じもので、さらに言えばISDNとも同じ手法で通信を行なう(だからISDN対応のダイヤルアップルータはOCNエコノミー用ルータとしても利用できる)。つまり、基本的にISDNが利用できるなら、OCNアクセスラインも利用できるはずだ。引っ越し先にはISDNも導入しているので「なんで?」となったわけだ。
普通の人ならしょうがないや、と引き下がったのかもしれないが、理屈に合わないのでNTTに問い合わせてみると「光収容でメタルラインが存在しないからです」との答え。いや、これでよけいにわからなくなってきた。だって、部屋に来ている線は明らかにメタル(銅線)なのだ。「そんなばかな」とつい口に出た。
● FTTHへ向けての準備……らしい
この段階でNTTは諦めたらしい。「理屈の上では、たしかに光収容だからOCNアクセスラインが使えないというのはおかしい。しかし、おたくの建物はかなり特殊なんですよ」と話しながら、別途、メタルラインを引き込むことになった。
営業を通した話なので、細かな技術的部分に関しては実際と異なるかもしれないが、僕の新居はNTT制御盤室まではもとより、建物の基幹パイプスペースを通って各階のMDFに至るまで、NTTが管理するすべての配線は光ファイバーになっているんだそうだ。
各階のMDFまで光ファイバーを引いたあとは、NTT以外の通信会社が管理するメディアコンバータ(詳細不明、光-メタルの変換と回線チャネルごとにデータトラフィックの分離を行なうものと思われる)を通じて各部屋に振り分けられている。
ISDNに関してはあらかじめ利用することが想定されているため簡単に引くことができるが、OCNアクセスラインのような専用線に関しては決まり事がなく、管理もNTTではないため「理屈ではできるけれど、できない」となったわけだ。
それはともかく、驚いたのは我が家(167戸が集まる集合住宅)の各フロアにまで、光ファイバーが来ていること。なんでもFTTH(Fiber to the Home)を目指したインフラ整備の一環らしい。DSLを利用したいと考えている人(私)には、まことに迷惑な話だが、ここ数年、NTTは新築の大規模な建物かつ“き線点”までが光化されている場合、建物の内部まで光ファイバーで引き込み、制御盤室でメタルに変換している(これがいわゆる光収容)。ところが各階まで光ファイバーが通り、さらにはNTT管轄部分にいっさいメタルケーブルが存在しないというのだから驚きだ。
●高速常時接続が本当に夢ではなくなるのかな?
NTTなど通信業界を追っている経済誌の記者に話を聞いてみると、2002年の導入を目指して進められてきたFTTHは、首都圏に限って半年前倒しのスケジュールで導入が進められているのだそうだ。前倒しに関する経緯はいろいろあるらしいが、また機会があればお話ししたい。
とりあえず、2001年中にも光ファイバーが家庭にやってくるのである。という話は知っていたものの、これほど身近に光ファイバーが迫っていると、やはり期待感が高まるというものだ。NTTは2001年中に始めるとも、首都圏のどの地域から対応していくのかなど、全く発表していないのだが「どうせ、うちには当分こないよ」と諦めていたものが、俄然現実味を帯びてきた。
ある試算によるとFTTH実現後に、光ファイバーをダークファイバー(サービスアンバンドルで通信インフラのみを利用する光ファイバー)として借りる場合、月額コストは800円程度になるそうだ。ダークファイバーをNTTが安価にメニュー化してくれるかはわからないが、もし可能になるのなら800円プラス、サービスプロバイダーの料金で高速通信が利用可能になるかもしれない。
● モバイルユーザーも常時接続インフラの恩恵を受ける
いまのところ「たら」、「れば」の世界だが、高速常時接続インフラが整っ“たら”、モバイルユーザーもインターネットを通じて様々な恩恵を受けることになる。
たとえば以前紹介したデータ同期サービスのFusion Oneも、使い勝手がとても良くなる。自動的にインターネット上のリポジトリ(情報倉庫)とPCを同期させておけば、常に最新情報にアクセスしたり、PC本体なしにPalmなどのハンドヘルドデバイスへとデータを同期させることができるようになる。「常に」、「自動的に」同期できるようになることが重要だ。
Fusion Oneは米国で、レストランオンライン予約を取ったあと、そのスケジュールや連絡先を自分のPIMデータに自動的に追加するといったアプリケーションを用意している。これも、常時接続なら家で取った予約のスケジュールが常時接続で自動同期され、会社のパソコンのスケジューラにも反映。出先でレストランの連絡先を知りたいと思ったら、iモードやWAP端末で連絡先を参照する……といった使い方ができるようになる。広帯域になれば、有料のプレミアムサービスで、PC乗り換え時のデータ移行をFusion Oneのデータセンター経由で行なう機能を提供する予定もあるという。
さらに面白い考えとして、著作権データのサーバ一括管理といったものもある。現在、著作権情報付きの音楽データを購入すると、音楽デバイスへのチェックアウト回数制限がかかるほか、ダウンロードに使用しなかったPCでは再生できないという制限まで付いてしまう。自宅のデスクトップPCで購入した曲は、出先で使うノートPCでは再生できないのである。これはどう考えてもおかしい。
しかし、いつでもインターネットに接続できるのなら、利用する権利がある情報はインターネットリポジトリの中に収められていればいい。その権利情報を同期し、ローカルにコピーしてあるPCでのみ再生できるようにすれば、ひとりでいくつのPCを持っていても、購入した人は好きなデバイスで音楽を楽しむことができる。
i-Driveに代表されるようなインターネットストレージサービスも、常時接続環境があれば日本でもブームになるかもしれない。いずれにしろ、米国で流行するコンシューマ向けサービスの多くは、常時接続環境を前提に考えられたものがほとんどで、ダイヤルアップでは魅力の半分も味わえないのが事実だ。
日本発の楽しく役立つサービスが育つためにも、安価な常時接続インフラの全国展開に期待せずにはいられない。
[Text by 本田雅一]