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Rambusはどこへ行くのか--Rambus副社長Avo Kanadjian氏インタビュー(後編)

 Rambusは波乱の中にある。IntelのRDRAM推進戦略が次々にとん挫、Rambusの知的所有権を巡って大手DRAMベンダとは全面対決となっている。Rambusはどこへ行くのか、同社のAvo Kanadjian副社長(worldwide marketing)にうかがった。


●コスト削減の努力を続ける

Rambus、Avo Kanadjian副社長
[Q]RDRAMはSDRAMに対して製造コストが高い、これが普及の最大の障壁だが、この問題は解決するのか。

[A]RDRAMのコストオーバーヘッドの80%はダイ(半導体本体)だが、10%はパッケージ、10%はテストからきている。そこで、DRAMベンダにダイオーバーヘッドを減らす努力をしてもらう一方、テスト機器メーカーやパッケージメーカーと密接に働くエンジニアチームを編成して、これらのコストを削減する努力も続けている。

 例えば、今まではRDRAMのテストは2パスタスクだった。しかし、近い将来にSDRAMとほぼ同様にシングルパスでテストできる機器が登場する。また、ローコストなテスターや32~64個のデバイスのパラレルテスティングができるテスターなどが登場しつつある。そうした機器の登場はコスト削減に大きく寄与する。

 それからパッケージコストだが、この分野では米Tesseraが多くの進歩を成し遂げている。CSPパッケージは最新の技術だったためにコストが高かった。しかし、Tesseraによると彼らの技術でパッケージコストは28セントにまで減らすことができるという。これは非常にエキサイティングだ。こうしたコスト削減がすべて実現されると、2001年にはSDRAMとのコスト差は大幅に縮むだろう。

[Q]ダイオーバーヘッドはどうなのか。Samsungは現在のRDRAMの「32d」(32ディペンデントバンク構成)デザインに加え、将来4インディペンデントバンク構成の「4i」デザインのローコスト版RDRAMを投入すると説明している。4iデザインは他のDRAMベンダからも提供されるのか。32dから全面的に4iへと移行するのか。その場合、チップセットの互換性はどうなるのか。

[A]4iデザインは、確かにSamsungの目からみればダイサイズを減らすのに大きなアドバンテージがある。しかし、他のDRAMマニファクチャにとっては、ダイサイズはそれほど大きなリダクションにならないだろう。すでにダイオーバーヘッドが小さくなっているからだ。また、コントローラ側も、簡単に32dと4iの両方をサポートするようにできるので、問題はない。実際、すでに両方のバンク構成をサポートできるようにチップセットパートナーと協力しているところだ。

[Q]4iデザインでは、実効メモリバンド幅が落ちてしまう心配はないのか。

[A]機能的に大きな影響はない。

[Q]それは、PCではメモリ搭載容量が大きいためメモリデバイスの数自体が多いからか。

[A]その通りだ。

[Q]それなら32dというスペック自体が、最初から意味のないオーバースペックだったのではないのか。

[A]アプリケーションによってはデバイス自体のバンク数が多いことが求められている。

[Q]PCはOKだがメモリ搭載量の少ないコンシューマ機器では問題になるということか。それなら、コンシューマ向けは32dオンリーということか。

[A]現実的には、コンシューマアプリケーションではPC向けとは異なるスペックとなる。Short Channelと呼ばれるもので最大4デバイス(DRAMチップ)まで、それに対してメインメモリ用はLong Channelで最大32デバイスまでとスペックが異なる。4iは、このLong Channel向けということになる。

[Q]4iのようなローコストデザインを、どうしてもっと前の段階で提供しなかったのか。そうすれば、RDRAMはもっといいスタートを切れたのではないのか。

[A]そう考えるのもわかる。しかし、最初は(RDRAMの)バリエーションを限定して市場の混乱を防ぎたかった。スタート時には種類が少なく、やがてバリエーションが増えるというのが賢い方法だと考えた。


●QRSL技術もメインメモリに展開

[Q]カンファレンスでSamsungから「Hastings(ヘイスティング)」という次世代RDRAMテクノロジがあると聞いている。これについて説明して欲しい。Short Channelの1,066Mbit/sec技術とは異なるのか。

[A]HastingsはLong Channelで1,066Mbit/secを実現する技術だ。この技術の製品の提供は、9月にNECと結んだ合意に含まれている。NECとの合意が、Long Channelで1,066Mbit/secの最初の公式発表だ。

 1,066Mbit/secへの移行は自然な流れだ。例えば、Samsungでは800MHz RDRAMのイールドが非常に高くなっており、年末には80%以上を達成できるという。そうすると、より高速な1,066MHzのデバイスも採れるようになってくる。スピードグレードが上へ上がってゆっくわけだ。CPUの周波数が上がるのと同じことだ。

[Q]Hastingsの後に来る次世代技術「Quad Rambus Signaling Level(QRSL)」はShort Channelだけなのか。PCのようなアプリケーションへの適用は考えていないのか。

[A]もちろん、Short Channelだけではなく、メインメモリへの展開も考えている。当社のビジネスモデルでは、新製品を開発すると、まず最初のアプリケーションは常にコンシューマと通信関連となる。彼らは、広いメモリ帯域が必要だが、多数のコンポーネント(DRAMチップ)は必要としていない。そこで、われわれは「OK、もしコンポーネントの数を4個に減らしていいのなら、高帯域のスペックを早く提供しよう」と言うわけだ。それで、まず最初はコンシューマアプリケーション向けのスペックに調整する。しかし、時間が経つにつれて製造メーカーのイールドも上がってゆく。そうすると「OK、そろそろメインメモリアプリケーションにも提供しよう」となるわけだ。

 QRSLも、これまでと同じようなタイムディレイになるだろう。つまり、最初はコンシューマと通信でスタートするが、時間が経つにつれてメインメモリにも提供してゆく。ただし、RDRAMも平行して提供し続けるだろう。QRSLでは、サイクルタイム自体は既存技術のRSLと同じだが、電圧レベルによって4bitのデータを判別している。そのため、テスト機器はRSLと同じもので対応できる。QRSLの開発は順調に進んでおり、9月には「rambus developer forum」で実際のシリコンを使ったデモも初めて行なっている。


●次世代プレイステーションにはQRSLなどが必要

[Q]QRSLのメモリ帯域はどういった分野で必要となるのか。

[A]コンシューマアプリケーションでどれだけのメモリ帯域が必要とされているかを知ったら驚くだろう。例えば、ソニーによると次世代ゲーム機は、プレイステーション2の1,000倍の性能になるという。我々は、そんなマシンに見合う帯域は現在のメモリ技術にはないと考えている。QRSLのような技術が必要だ。

 それから、PCやワークステーションのCPUでは、FSB(フロントサイドバス)の帯域が急激に増すと予想している。FSBはPentium 4では3.2GB/secだが、2001年には6.4GB/secに、2004年には12.8GB/secになると我々は予想している。メモリ帯域はこれに合わせていかないとならない。また、CompaqのAlphaグループは、非常に多くのRambusチャネルを持つハイパフォーマンスサーバーシステムを計画している。

 ワンデバイスでの帯域が広くなるにつれて、我々の技術を使いたいというプロジェクトも増えてゆく。なぜなら、コンシューマの分野では、ピン数と実装面積を減らすことが非常に求められているからだ。また、この分野では帯域を広げるためにコンポーネントの数を増やさなければならないことはペナルティになる。そのため、この分野では我々は成功しつつある。しかし、不幸なことにPC分野では、基板面積の制約などがないため、彼らはそうしたプレミアを求めていない。そのため、我々は他のメモリテクノロジと競争しなければならない。

[Q]メモリのグラニュラリティ(granularity:最小増設単位)が今後高まっていくと、PCでも同じ傾向が出てくると考えているのか。

[A]そう思う。来年はDRAMが不足するとDRAMベンダは言っている。これは、DRAMメーカーにとってはいいことだが、PCメーカーにとっては大きな問題だ。では、DRAMが足りなくなると何が起こるか。DRAMサプライヤが256Mbit品へと急いで移行する。実際、メーカーは256Mbit品を2年も用意してきた。しかし、不幸なことに、DRAM市場が供給過多だと、128Mbit品に止まらなければならない。DRAMベンダは、256Mbit品に移りたい。それは、ダイサイズが経済的だからだ。

 256Mbit品に移ると、SDRAMの場合通常8デバイスが必要(×8の場合)なので1モジュールが256MBになってしまう。しかし、RDRAMの場合は1個からでも構成できるので、例えば2個で64MBという構成ができる。DRAMが不足した状態だと、PCメーカーはPCに搭載するメモリ量を少なくしたい。そのため、グラニュラリティが低いことは、彼らにとってありがたい。ユーザーにとっても、システムのフレキシビリティが高まるという利点がある。

[Q]コンピューティングデバイスもPCからアプライアンスへとシフトすればますますその傾向が強くなる。

[A]その通りだと思う。例えば、HDTVは単なるTVではない、実際にはインタラクティブマシーンで、PCになりうる。教育程度も高い多くの人々がPCに恐れを抱いているが、キーボードではなくリモコンを持たせれば戸惑わないはずだ。PCマーケットは米国ではすでに飽和状態にある。今後は、情報家電機器が伸びてゆくだろうし、そうした機器ではRambus DRAMが求められている。


●ADTはビジネスモデルが問題

[Q]Intelと大手DRAMベンダがADTで2003年以降の次世代DRAM規格を策定している。RambusはADTのイニシャルのメンバーには入っていないが、ADTにRambusの技術は反映されないのか。

[A]ADTについてはよく知らないので、どれだけ我々の技術を取り入れてもらえるのかわからない。我々は、ADTが我々のテクノロジのいくつかを織り込むのではないかと推測している。しかし、スペックが出てくるまでは何とも言えない。

[Q]規格策定にはタッチできないが、DDR SDRAM同様にRambusのIPが含まれると見ているわけか。ADTは成功すると思うか。

[A]ADTに関してはビジネスモデルが問題になるだろう。ADTでは、今のところ結成時の5社がスペックを決めるようだが、それを市場に迅速に提供できるだろうか。彼らは、テクノロジを開発して、それを他のメーカーにも提供することになると思う。そうすると、その5社が、他のメーカーに対して競争上有利に立つことになる。しかし、他のメーカーにテクノロジが移った時は、すでに5社は生産に入っているかもしれない。そうなると、他のDRAMベンダは不利になるわけだ。

[Q]一部のDRAMベンダで規格を作成するのは難しいということか。

[A]そのビジネスモデルは難しい。

[Q]ではADTに対してQRSLが有利になると考えているのか。

[A]Rambusのビジネスモデルは多くのDRAMメーカーから支持を得ている。先ほども述べたが、我々は開発した技術を、すべてのパートナーに同等に同時に提供している。だが、ADTではそうならない。後続DRAMメーカーが有利になるのは、我々のモデルだ。


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(2000年10月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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