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プロカメラマン山田久美夫の

ソニー「DCR-PC110」
レポート & 実写画像


 いまや、DVカメラの世界も、多機能・高画質化が進み、通常のDVテープによる動画撮影に加え、メガピクセル級の静止画撮影をサポートした機種も少なくない。

 そして今回、メモリースティックへのMPEG動画記録機能まで搭載した小型モデルとして、メガピクセルハンディーカム「DCR-PC110」が登場した。

 このモデルは、昨年登場した世界初のメガピクセルCCD搭載DVカメラ「DCR-PC100」の後継機として開発された、縦型スタイルの高画質モデルだ。とくに今回のものは、メモリーカードへの静止画や動画記録機能が強化されており、先のMPEG記録はもちろんのこと、同シリーズ初の内蔵ストロボの搭載や同社で初めて“T*”コーティングを施したカールツァイス社製ズームレンズを搭載するなど、なかなか意欲的なモデルに仕上がっている。


 そこで今回は、DVカメラとしての実力よりも、静止画や動画のメモリースティック記録に関係した部分を中心にレポートしたい。


 撮影した本体はβ版。特に指定のない画像は1,152×864ピクセル、圧縮はノーマルモードで撮影している。また、縦位置の画像はサムネールのみ縦位置とし、画像データは回転させていない。スペックなどについては参考記事を参照されたい。(編集部)



●超便利なMPEG記録機能

 本機の新機能のなかでも最大の見所は、メモリースティックへのMPEG記録機能だ。

 これは音声付きの動画を、MPEG-1形式でメモリースティックに記録するもの。画像サイズは、320×240ピクセルの「プレゼンテーション」モードと、160×120ピクセルの「ビデオメール」モードの2種類がある。

プレゼンテーションモード ビデオメールモード

 記録できる時間は、内部のバッファメモリの容量制限の関係で、プレゼンテーションモードが最大15秒、ビデオメールモードでは最大60秒に制限される。
 この仕様からもわかるように、この機能はMDやDVD-RAMを採用したビデオカメラのように、通常のDVカメラで撮影するような長時間の動画撮影をMPEG方式でメディアに記録するものではなく、あくまでも、PC上などで比較的短時間の動画が必要なときのための、MPEG撮影機能だ。

 撮影方法は実に簡単。まず、メインスイッチ兼用のモードレバーをメモリースティック記録用の“メモリー”にセットし、あとはDVテープ記録時と同じように記録ボタンを押すだけでOK。

 ちなみに、同モードで静止画を撮る場合には、専用のシャッターボタンを押すだけで撮影できる。そのため、動画と静止画で、いちいちモード切替をする必要がない点は実に分かりやすくて便利だ。

 撮影感覚は、DVテープと同じもので、撮影時間以外はカード記録であることを意識する必要はない。

 また、カメラにメモリースティックを装着し、メモリーモードに切り替えると、液晶モニター上に静止画時と動画時それぞれに対して、設定したモードに応じた撮影可能な残数が表示される。


●DVテープからのMPEG変換も容易

 さらに本機には、一度DVテープに撮影した動画を、カメラ内でMPEG-1データとしてメモリースティックに記録する機能が備わっている。つまり、DVテープで流して撮っておき、その中から必要な部分だけをカメラ単体でデジタルデータに落とせるわけだ。操作も簡単で、本機でDVテープの動画を再生しながら、記録したい部分で、DV撮影時と同じように録画ボタンを押すだけ。

 最大記録時間は前記の通り、15秒もしくは60秒で制限される。また、MPEG記録時の始点と終点も、録画ボタンを押したタイミングになるため、それほど厳密に指定できるわけではない。

 このあたりは、PCを使ってi.Link経由でMPEG化したときに比べると、やや劣る部分ではあるが、このMPEG化がカメラ単体で、追加機材なしにできることを考えれば、そんな欠点はごく些細なものだ。
 もちろん、将来的には、もう少し長時間(320×240ピクセルモードで60秒程度)のMPEG変換や、フレーム単位での始点や終点の指定などもぜひ実現して欲しい課題ではあるが、現状でも実用上十分に楽しめる機能に仕上がっていることは確かだ。


●画質は直接撮影が有利

 もっとも、ここでやや気になるのが、直接撮影時とDV変換時の画質。今回、動きの早いジェットコースターを撮影し、直接メモリーカードに撮影したものと、DVテープ経由で変換記録したものを比較してみた。

 画質的には前者の方が優れており、細部の解像度に違いが見られる。また、ジェットコースターの背景を見ると、その違いは明らかだ。もっともこのシーンの場合、背景が多少流れて写っている方が臨場感がでるため、DVテープからMPEG化した方が自然な印象になっている点は、なかなか興味深いものがある。

 いずれか一方をパッと見たときに、明らかな画質の違いが感じられるほどではないため、シーンや目的に応じて使い分けると、より便利に使えそう。これからの運動会シーズンでは、とにかくDVテープによる動画を撮影しておいて、あとから必要なシーンだけを、時間があるときにMPEG化して利用するのが一番安全で賢明な方法といえそうだ。

■MPEG画質の比較

メモリースティックへの直接撮影 DVテープに記録したものを変換


●静止画のために採用された107万画素CCD

 今回の新機種では、静止画記録に関する部分も、大幅な改良が施された。

 本機のCCDは1/4インチの107万画素タイプで、基本的に先代と同じもの。CCD単体で見ると、かなり高密度なもので、1ピクセルあたりのサイズは3.125ミクロンと、量産型CCDのなかでもトップレベルの細かさとなっている。これは、デジタルスチルカメラ用の1/2.7インチ211万画素タイプよりも高密度で、ダイナミックレンジや実効感度、ノイズ特性などの面で、画質的に不利な要素の多いものだ。

 ビデオカメラとして必要な画像は、30万画素強のVGAレベルのものでも十分であり、本機の場合にも、ビデオカメラとして使うときには、高画素CCDから得られる画像を高速に読み出し、リアルタイムに縮小して使っている。また、107万画素すべてのデータを使っているわけではなく、動画時には約69万画素相当のデータを元に画像を生成している。

 そのため、通常の30万画素レベルのCCD搭載機に比べもともとの情報量が豊富なため、実質的なビデオ画質も十分に高く、かなり緻密な印象の映像を得ることができる。一般のテレビで見るのであれば、これだけ緻密なビデオ画質があれば十分すぎるほどでは……と思わせるレベルだ。

 動画時には69万画素しか使っていないので、この107万画素CCD(有効画素数約100万画素)の搭載は、まさに静止画撮影時の画質向上のために採用されたといっても過言ではない。

 実際にソニーに、今後の展開を聞いてみたところ、「現在はリアルタイムでの動画生成処理回路の速度の関係で、107万画素CCDだが、将来的にその回路が高速化されれば、200万画素や300万画素といったCCDを搭載する可能性も十分にある」との回答を得た。これは、動画の画質はもちろんだが、同シリーズが今後、静止画の画質向上にも意欲的であることを示すものだ。

 なお、画質面では不利になるのを承知で、1/4インチという小型CCDを搭載しているのは、現在のDVカメラでかなり大きなスペースを占有しているレンズ光学系を少しでも小型化するためという。つまり、DVカメラでは大口径の10倍クラスのズームレンズは常識であり、それを変更するわけにはいかない。そのため、CCDサイズを大きくすることは、レンズ光学系が大型化することとイコールになるわけだ。

 しかも、画質優先の業務用モデルではなく、小型化が要求されるコンシューマー機で考えた場合、そのバランスが取れるサイズが、この1/4インチCCDというわけだ。

■マクロ撮影

■望遠(ボケ味)

■屋外撮影


●ワンランク向上した静止画記録

 さて、本機の107万画素CCDから得られる静止画は、最大1,152×864ピクセル。ほぼSXGAサイズに相当するもので、今や少数派となっているメガピクセルクラスのデジタルスチルカメラとほぼ同等のものになる。最近では、200~300万画素機に慣れてしまったため、メガピクセル級と聞くと不満を感じるかもしれないが、ホームページの作成はもちろん、サービス版からはがきサイズくらいまでのプリント作成であれば、実用になるレベルの画像サイズだ。

 ただ、実際に画質を左右するのは、画像サイズではなく、その“質”だ。そして、今回の「PC110」の絵づくりは、その“質”といった部分をターゲットに画質の向上が図られている点が注目される。正直なところ、初代モデルの「PC100」は、画像サイズは確かにメガピクセル級だが、静止画としてみたときの画質は、あまり誉められるようなレベルではなかった。

 そこで実際に本機を使って撮影してみると、明らかに画質が向上しており、100万画素クラスのデジタルスチルカメラと比べても遜色ないレベルとなっている。なかでも、初代PC100で気になった、ややにごり感のある色調やギスギスした階調再現性が改善されている点に好感が持てた。とくに先代は、無理にシャープ感を強調するため、輪郭強調処理が不自然に強かった。だが、今回のモデルでは、輪郭強調処理がやや控えめになったことで、より自然な絵作りになっている。

 正直なところ、DVカメラの静止画が、このレベルまで来れば、ホームページやメール添付といったディスプレイ上でデジタル画像を楽しむ用途には必要十分であり、画質面では、別途デジタルスチルカメラを購入しなくてもいいかなあ~と思わせるところまで来たという印象だ。

■新旧比較

PC110 PC100

 なお、このSXGA近いサイズの静止画が得られるのは、メモリースティックに画像を保存する「メモリーモード」のみで、従来のようにDVテープに静止画を保存する場合には、VGA相当の画像となる。また、テープに保存した静止画データをメモリースティックにJPEGデータとして保存することもできるが、この場合にも画像サイズはVGAになるので注意が必要だ。

 ちなみに、撮影間隔は約3秒弱といったところで、DVカメラの付加的な機能と割り切れば、我慢できる範囲の処理速度だ。

■屋内撮影

■人物撮影


●よくできた内蔵ストロボ機能

 さらに感心したのが、新設された内蔵ストロボ。最近ではビデオカメラでも静止画機能を重視したモデルでは、ストロボを内蔵するモデルが増えつつある。実際にこの手の高密度CCDは実効感度が低いうえ、シャッター速度の制限もあるため、少し暗いシーンになるとゲインアップによりノイズ成分が多くなり画質面で不利になる。そのため、ストロボを積極的に利用した方が安心というわけだ。

 ただ、DVカメラのストロボ機能は、撮影距離にかなり制限があったり、露出のバラツキが多かったり、赤目が出やすかったり、色調がおかしかったりすることが多く、個人的にはあまり信用していなかった。だが、この「PC110」のストロボ機能はなかなか完成度が高く、上記のような欠点はほどんど見られず、極端な条件を除き、ほぼカメラ任せできれいなストロボ撮影ができる。

 しかも、使用時に発光部がポップアップするため、撮影レンズとストロボ発光部との距離が比較的離れるため、暗いシーンで人物を撮影しても、赤目が少ない点は好感が持てる。

 また、マクロ撮影時のストロボ使用はメーカーの保証外ではあるが、実際に撮影してみると、実用十分なレベルの調光制御がなされていた。特に、この手のDVカメラはマクロに極端に強いこともあって、うまく使えば、ストロボを使って、10円玉を画面一杯に写すといった過酷なクローズアップ撮影をすることもできた。

 もちろん、ストロボモードの設定により、低輝度時(暗いシーン)で自動的にポップアップして自動発光させることもできるうえ、強制発光や常時発光停止にセットすることもできる。

■ストロボ

ストロボ有 ストロボ無
ストロボ有 ストロボ無


●気になるシャッターボタン

 静止画撮影時の操作性は、先代から少々の変更を受けている。

 実際の撮影操作で、もっとも残念だったのがシャッターボタン。先代モデルは、単純な丸いボタンであり、斜め方向に押し込むためやや違和感はあったが、その割には押しやすく、AFロック操作もしやすくシャッターチャンスも掴みやすかった。

 だが、今回のモデルでは、レバー状のものになっており、垂直方向に押し込むようになった点は評価できるが、半押しでのAFロックの感触が掴みにくく、押し切ったときの感触が今ひとつで、微妙なシャッターチャンスが掴みにくくなっている。もちろん、ある程度慣れでカバーできる部分もあるが、それでも使いにくいことには変わりない。静止画時の画質が向上したにも関わらず、このあたりのインターフェイスに違和感がある点は実に残念だ。

 また、再生表示やコマ送りが遅く、とくに6枚のサムネールを一度に表示する一覧機能は、本当に焦れったくなるほどの鈍さ。本機のJPEGデータはデジタルカメラの標準規格である「DCF」に対応しているため、画像内に予めサムネール画像が一体化されているはずなのだが、この遅さを見ると、それを利用していないようで、この仕様には納得がゆかない。これは軽快感を大きくスポイルする部分だけに、早急に改善すべきだろう。

 一方、先代からもっとも大きく改良された点は、液晶ファインダーの画質。先代は色調が強調されすぎで平板な印象で、やや不自然な見え味だった。しかも、実際の写りとも大きくかけ離れていたので、ファインダーで見たときの印象通りに写らないという、大きな不満点があった。

 だが、今回の「PC110」ではその点がかなり改善されており、見え味も比較的ナチュラル。また、実際の写りも、液晶ファインダーで見たときの印象に近いため、違和感なく撮影することができる。
 もちろん、ファインダーを単なる指標として使うのであれば、先代レベルでもいいのだが、やはり液晶ファインダーなら実際の写りが確認できるほうが、何倍も魅力的だ。

■接写撮影

ストロボ使用


●DV、MPEG、静止画もOKの新世代DVカメラ

 今回、ごく短期間ではあるがこの「DCR-PC110」を使って、「これ、便利だなあ~」というのが正直な印象。

 実際に、小型で多機能、しかもリチウムイオンバッテリによる長時間使用など、最新のDVカメラの性能には目を見張るものがある。

 さらに、これまでややおまけ的な要素が強かったDVカメラの静止画機能も、いよいよ実用レベルになり、さらにPCなしにMPEG動画まで楽しめるようになると、これ一台で、旅の記録をすべてカバーすることができるわけだ。さらに、オプションバッテリを組み合わせれば、多くのデジタルスチルカメラのように、バッテリの残量をほとんど気にすることなく、撮影に専念できる点も大きなメリットだ。

 とくに、DVカメラは子供の成長記録などに活用されるケースが多いわけだが、これからの運動会シーズンなどは、最新の高倍率ズームレンズ付きデジタルカメラを使っても、徒競走で我が子が疾走する姿をきちんとカメラに収めるのは至難の業で、相当な撮影テクニックが必要だが、(悔しいかな)DVカメラであれば、それがいとも簡単に撮影できてしまうわけで、このような目的にはもってこいのモデルだ。

 もちろん、DVカメラでの動画から静止画を切り出してプリントアウトし、アルバムに貼るのは画質的にまだ難しい部分もある。だが、今後ネット上でアルバム作成が普及してくれば、動画をMPEGデータに変換し、アップロードして楽しむといった事が現実化するのは明らかだ。そのような目的には、本機のようにPCなしに気軽にMPEG動画が作成できる機能は必須ともいえる存在になるだろう。

 価格は本体のみで235,000円と高価であり、アクセサリーキットまで含めると、かなりの高額になるため、そうそう買い換えられるものではない。だが、今回本機を使ってみて、これなら当分使えそうだなあ~という雰囲気があり、PCユーザーで、しかも、ちょっと古めのDVカメラを持っているユーザーにとっては、魅力的な存在になりそうだ。

 ただ、本機を使って思ったのは、DVカメラはまだまだ機能優先という感じがあり、もう少し、人に優しくならないかなあ~ということだ。

 たとえば、本機はかなりのコンパクト化のため、外部接続系のi.LinkやUSB、AV入出力などの接続部分が1ヵ所に集約されておらず、ボディのあちらこちらに散在しており、かなり煩わしい印象を受ける。

 また、レンズフードが同梱されているとはいえ、フードを装着したままレンズキャップができない点も納得がいかない。さらに、同社の他機種に搭載されているようなタッチパネル式のわかりやすいインターフェイスも是非搭載して欲しい。

 そして、これだけ機能が複雑になってくると、いろいろな機能を使いこなすには、どうしても取扱説明書をよく読む必要があるわけだが、どうせなら液晶モニターを使って操作方法や機能説明をしてくれるオンラインヘルプ機能くらいは内蔵するべきだろう。

 コンパクトで高機能を追求するのも大切だが、専門知識のない多くのユーザーが使う家電製品として本機を見ると、まだまだ優しさが足りないように感じる。できれば、今後はこのような方向にもぜひ力を入れた製品開発に期待したい。


■定点撮影

1,152×864
Super Fine
【568KB】
【508KB】
Fine
【277KB】
【307KB】
Standard
【188KB】
【206KB】

640×480
Super Fine
【175KB】
【173KB】
Fine
【91KB】
【93KB】
Standard
【61KB】
【64KB】


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/sd/CorporateCruise/Press/200007/00-0721/
□関連記事
【7月21日】ソニー、メモリースティックに動画が記録できるDVカメラ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000721/sony.htm

(2000年9月14日)


■注意■

[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp