会場:Palais des Congres
9月13日(現地時間)、Apple expo 2000の幕開けとなる基調講演の会場となったのはPalais des Congres(パレ・デ・コングレ)、凱旋門からほど近い場所に位置する複合型施設だ。地下にはメトロの駅もあり、ショッピング、飲食などの店舗が軒を並べる建物のほぼ中央に大規模なホールが設置されている。ロックコンサートなども開催できる規模を誇るホールの収容人数は3,000人を数え、Macworldなどと比較しても、最大規模の講演になることは間違いない。
■RADEON搭載ビデオカードの採用はアペリティフ
米Apple ComputerのCEO (最高経営責任者) であるスティーブ・ジョブズ氏は、午前10時のほぼ定刻通りにステージへ姿を現した。聴衆は割れんばかりの喝采をもって迎える。これまで、米国や日本で同じような取材を繰り返してきたが、これほどに大きな歓声を聞いたことはなかった。聴衆の人数が多いことももちろんだが、それ以上に熱気が伝わってくる。ジョブズ氏は英語で講演を行なうので、仏語の同時通訳レシーバーも用意されていたが、英語をそのまま聞いている聴衆のほうが多いような印象を受けた。
講演は、今年7月にニューヨークのMacworldで発表されたデスクトップ製品の紹介からスタート。キーボードやマウス、iMac、G4 Cubeなど、個人的には8月末のSEYBOLD SEMINARSを含め3回目となる内容だが、初見となる聴衆は違う。次々に流されるiMacのCM映像や、G4とPentium3のPhotoshopを使ったベンチマーク競争などに敏感に反応し、笑いや拍手で応えていく。
こうした発表済みの内容についてはすでに知っていた聴衆も多かったが、彼らを最初に喜ばせたのは、PowerMac G4へのRADEON採用のニュースだ。加ATIによる最新のグラフィックスチップRADEON搭載のビデオカードが、Apple StoreにおけるPowerMac G4のBTOオプションとして加わるという。7月のMacworldでは同社とApple Computerの情報の行き違いからドタキャンの憂き目を見たと噂されるニュースが、ようやく現実になったわけだ。ジョブズ氏の言葉を借りれば、従来のRage 128 Proに比べて2倍の性能を持つという。Apple Storeでのオプション価格は米国で100ドル。日本国内では12,000円で変更することができる。
■オードブルにはFireWire搭載の新しいiBookを
「iBookユーザーがもっとも望んでいた機能とは?」。中盤にさしかかったところで、ジョブズ氏はこう切り出した。会場のあちこちから声があがる。ジョブズ氏はそれに「そう、FireWireとiMovie2だよ」と応え、マイナーチェンジする新しいiBookの紹介をはじめた。ステージの下からせり上がってきたiBookのカラーはIndigo(インディゴ)。7月に発表されたiMacと同じカラーである。さらにもう一台せり上がってきたiBookは、蛍光色の黄緑でKey Lime(キーライム)。このふたつが、FireWireを搭載するiBookの標準モデルとなる。ただし、Key Limeの販売がApple Storeだけに限られると知ると、聴衆からはブーイングが起こった。盛大に歓迎もするが、不満なところには遠慮のないブーイング。民族的な気質なのか非常にメリハリが効いている。さらにジョブズ氏は続ける。「“次に”望まれる機能は?」。ふたたび声があがるが、さきほどにも増してバラバラという感じ。どうやら液晶モニタのサイズについての声もあったようだが、ジョブズ氏はMatrixのDVD-Videoのスライドを表示させながら「そう、DVD-ROMドライブだ」とつなぐ。やはり会場の声とは違うことに不満があったのか、ここでもまたブーイング。DVD-ROMドライブ搭載のiBookはSpecial Editionに位置付けられ、Graphite (グラファイト) とKey Lime (キーライム) の2色が用意される。もちろんKey LimeはApple Storeでのみの販売ということで、さっきにも増してブーイングが起こる。もちろんブーイングが多数派というわけでもないので、軽くまあまあと制する感じでその場は収まった。
ちなみに、新しいiBookとiBook Special Editionの価格は米ドルで1,499ドルと1,799ドル。これに対して日本での価格は178,000円と198,000円。米ドルで300ドルの価格差を、日本では2万円にとどめている。従来モデルの発表時は当時の円安傾向からか、他のラインアップに比べて割高感の高かったiBookだが、今回はてこ入れの意味もあるのか、特にSpecial Editionは思い切った価格設定だ。なお、新製品の販売は発表当日から始まっているが、旧モデルも価格を下げて在庫が続く限り併売される。iBookの詳細なスペックは昨日の記事などを参照して欲しい。
■メインディッシュにMac OS Xのパブリックベータ版を披露
ハードの次はソフトということで、11月に発売を予定するMicrosft Officeのデモをはさみ、いよいよメインディッシュのMac OS Xの話題にうつる。すでにSEYBOLD SEMINARSでここパリでの登場を予告しているだけに、聴衆もまさに身を乗り出すようにジョブズ氏の言葉に耳を傾ける。
スライドにToday!! の文字が現れたときは、この日最高の歓声が沸き上がった。申し込みはApple Storeから行なうことができる。米国での価格は29.95ドル。有料であることに三度ブーイングが出たが、これまで行なわれたOSのマイナーアップデートなどでかかった実費とでも言うべき費用によく似た金額。これが高いか安いかはユーザー自身が判断するしかない。ちなみにヨーロッパで今回販売されるのは、英語版、フランス語版、ドイツ語版の3つ。価格はそれぞれ、24.95ポンド、249フラン、79マルク。とりあえず販売という形をとることに対しては、パッケージングや付属マニュアルなどのコストを一因としてあげている。日本のユーザーにとって残念なのは、この基調講演のなかで日本語版に対するニュースがでなかったこと。日本ではもうしばらくの間、新たな情報を待つしかなさそうだ。ちなみに、この日から展示会場で購入できるMac OS Xのパブリックベータ版の詳細については、別記事に詳しくまとめてあるので、そちらも参照して欲しい。
そして、ジョブズ氏は自らパブリックベータ版を使ったデモンストレーションを披露。内容はこれまで公開してきたことの総まとめという感じで、まめに講演やデモをチェックしていれば、すべて知っている内容となるが、初めて目にする聴衆も少なくないのか、さまざまなタイミングであちこちから感嘆の声や、歓声が起きていた。こうした一連のデモを終えて、1時間30分にも及んだ講演は終了。聴衆はジョブズ氏にうながされる格好で、Mac OS Xのパブリックベータ版が販売されている展示会場へと向かうシャトルバスに次々と乗り込んでいった。
(2000年9月14日)
[Reported by 矢作 晃(akira-y@st.rim.or.jp)]