今回、最新ベータ版ボディーをようやく使うことができたので、注目の自社開発CMOS素子による実写データと、その使用感をレポートしよう。
撮影した本体はβ版。特に指定のない画像は2,160×1,440ピクセル、Large-Fineモードで撮影している。また、縦位置の画像はサムネールのみ縦位置とし、画像データは回転させていない。スペックなどについては製品情報を参照されたい。(編集部)
●実販30万円の実力派中堅デジタル一眼レフ
キヤノンの一眼レフ「EOS」シリーズには、本格派デジタル一眼レフとして、200万画素機で198万円の「EOS D2000」、600万画素で360万円の「EOS D6000」というラインナップがある。
今回の「EOS D30」はこれら業務用メインのプロフェッショナル向けモデルとは別ラインの、コンシューマー用途を強く意識したモデルだ。
もともと、「D2000」と「D6000」は同社の先代の最高級機である「EOS-1N」をベースに、コダックと共同開発したモデルだ。だが、「D30」は、キヤノンの独自開発モデルであり、ボディー自体も本機のために新規に起こしている。
クラス的に「D30」は銀塩一眼レフの「EOS 55」クラスとアナウンスされており、最高級機「EOS-1N」をベースとした「D2000」や「D6000」よりも2ランクくらい下の中堅機だ。ちなみに、昨年話題となった「ニコン D1」は最高級機である「F5」クラスだ。
価格は、バッテリーや充電器、USB接続キットや豊富なアプリケーションソフトまで1セットで、358,000円。店頭では298,000円前後になりそうだ。つまり価格で見ると、「D2000」の約1/6、「D1」の半額程度で入手できるモデルであり、先に発売された「富士フイルム FinePix S1Pro」とほぼ同じクラスだ。
●剛性感のあるボディー
デザインは、従来からの銀塩EOSのコンセプトを踏襲している。ボディーの外装がやや艶消し状になったこともあって、見た目は「EOS55」級というよりも、むしろ、その上級機である「EOS3」に近い感覚。なかなかの貫禄と風格がある仕上がりだ。
手にして、まず感じるのは、ボディーの剛性感の高さ。銀塩の中堅機にありがちなプラスチッキーな頼りなさはなく、とてもシッカリとした印象だ。重さは、“重い”というほどではなく、適度に心地いいレベル。大口径の標準ズームを装着したときのバランスは良好だ。
ただ、少々気になったのは、グリップ部の厚み。本機はグリップ部にバッテリーを搭載する関係で、グリップが結構厚手になっている。そのため、手の小さな私には、最初は持ちにくさを感じることもあったが、1~2日使っているうちに慣れてしまった。
また、別売のバッテリーグリップを装着すると、高さはかなり高くなるが、グリップ時の安定感が増し持ちやすくなる。このグリップには縦位置撮影用のシャッターボタンや操作ダイアルなどが備わっていることもあって、縦位置での使用感が格段に向上する。さらに、グリップ下部にバッテリーを2つ収納できるため、撮影枚数も倍増するという大きなメリットもある。
●軽快な撮影感覚
■屋外撮影
基本的な操作感覚は銀塩EOSそのもので、なんら違和感はない。また、露出モードも通常の一眼レフと同じく、プログラムAEや絞り/シャッター速度優先AE、マニュアル露出のほか、被写体別プログラムも用意されているため、一眼レフをほとんど使ったことがない人でも、戸惑うことはないだろう。このあたりの一眼レフカメラとしての完成度の高さは、EOSシリーズをきちんと受け継いでいる。
シャッターを切ったときの感触はなかなかシャープで軽快なもの。確かに「EOS55」に近い感触なのだが、質感的にはEOS3に近い雰囲気で、なかなか信頼感がある。
一般的なポートレートやスナップ撮影には実用十分な軽快さを備えており、高速連写が中心になる超本格的なスポーツ撮影には少々荷が重いかもしれないが、通常のスポーツ撮影くらいならば、楽にカバーできそうだ。しかも、シャッターのタイムラグが比較的短いため、シャッターチャンスを逃す心配が少ない点も好ましい。
もっとも、「ニコン D1」とはベースとなるクラスが違うため、D1のようなシャッターの切れ味の鋭さや圧倒的なタイムラグの短さ、ミラーによるブラックアウト時間の短さは期待できない。だが、約半額近い「D30」に同等の感触を求めるのは少々酷というものだろう。
また、本機の操作系は従来のEOS D2000系と同じく、あくまでも撮影優先のシステムとなっている。つまり、画像再生中でも、モード切替をすることなく、シャッターボタンを押せばいつでも撮影することができるようになっている。このあたりは、通常のパーソナル機と大きく異なる点であり、真の実用機といえる部分でもある。
●実用十分な連写性能
通常のワンショットモードの場合、撮影してから次のコマが撮影できるようになるまで、約2秒近くかかる。これはCFカードの記録速度に依存するわけだが、若干のストレスを感じる人がいるかもしれない。どちらかというと、このモードは撮影した画像を液晶モニター上で確認しながら撮影するような時に便利なモードだ。
一方、連写モードの場合、秒間3コマでの連続撮影ができる(スローシャッターの場合は、そちらが優先される)。しかも、こちらはバッファーにデータを溜めてゆく方式のため、次々にシャッターが切れ、実に小気味いい。
実際に、秒間3コマの連写性能があれば、結構動きの早い被写体でも追いかけることができる。今回も、空を飛ぶ鷲の姿を超望遠レンズで撮影してみたが、実用十分なレベルの撮影をすることができた。
しかも、秒間3コマ程度であれば、連写モードのままでも、1回撮影するごとに指を離せば、簡単に1コマ撮りをすることもできるので、連写モードを常用したほうが軽快な撮影ができる。
AF測距は3点式。自動選択機能も装備しているが、スーパーインポーズ機能はない。そのため、同社の上級機を使っている人にとっては、やや不満が残る部分だ。スーパーインポーズを採用するとカメラのペンタプリズム部の背が高くなり、コスト高にもなるため、採用が見送られたようだ。
AFの測距ユニットは、APS一眼レフの「IX-E」のものを改良したものを採用している。これはフィルムサイズが35mmカメラより小さなAPSフィルムの方が高いAF測距精度が必要なため、そのユニットをベースにしているという。
AFの測距速度は、中堅のAF一眼レフと同等。きわめて高速というほどではないが、遅さを感じるようなことは少ない。また、測距するポイントをきちんと選べば、AF補助光が届かないような距離での、暗めの夜景でもAFのまま撮影できる。
フォーカシングスクリーン上での、ピントの見やすさは中堅AF機レベル。基本的に本機はAFで使うべきボディーであり、マニュアルフォーカスでは、なかなかCMOS素子が要求する的確なピントを検出することは難しい場合もあった。
■屋内撮影(ISO400で撮影)
■人物撮影
●持ちのいいバッテリー
バッテリーは専用形状の充電式。2本の充電ができる専用充電器が最初から同梱されているため、別途充電器を購入する必要もなく、予備のバッテリーも同時にセットしておけば、一本目の充電完了後、自動的にもう一本のバッテリーが充電される点も好ましい。
残念ながら、単三などの汎用電池を使うことはできない。この点は別売のバッテリーグリップなどでぜひとも対応して欲しいところだ。
バッテリーの持ちは良好。microDriveを使い、ワンショットモードで撮影のたびに自動再生しながら使っても、ほぼ500枚以上の撮影ができる。また、通常のメモリーカードで、連写モードを使って、液晶再生表示をOFFにセットすれば、さらに撮影枚数を延ばすこともできる。
さらに、前記のバッテリーグリップを使えば、バッテリーが2本収納できるため、フル充電しておけば、ほぼ1,000枚以上の撮影が可能となる。これだけの枚数が撮影できれば、日帰りでの撮影なら、バッテリーの心配をする必要はないだろう。
なお、本機にはカスタムファンクションという、カメラの機能をある程度、カスタマイズする機能が備わっている。その設定項目は13あり、通常の使用で考えうる範囲のカスタマイズ設定は、ほぼ網羅している。とくに、設定メニューの順序変更(最後に使ったものを最初にするなど)、AF補助光のON/OFF、長時間露光時のノイズリダクション機能などが好みに応じて設定できる点は便利だ。
■ノイズリダクション
on時 | off時 |
●期待を大きく上回るほどの高画質
「D30」は、デジタル一眼レフで初めてCMOSイメージセンサーを採用しただけに、画質が注目される。とくに、従来型CMOSセンサーの欠点である、ノイズの多さ、感度の低さなどがきちんと克服されているかどうかがチェックポイントだ。
結果を先にいってしまうと「これだけ写れば、通常は十分過ぎるくらい」というのが正直な印象。これだけの画質が得られるのであれば、CMOSであろうと、CCDであろうと、その素子の違いを明確に感じることはない。むしろ、ユーザーにとっては省電力化をはじめとした、さまざまなCMOSのメリットを享受できるのだから、いうことはない。
さて、今回実写したボディーは、現時点での最新ファームウエアを搭載したもの。まだ、細かなチューニングが施される可能性もあるが、現時点で製品版にかなり近いレベルの実力が発揮できていると考えてよさそうだ。
●ノイズの少ないクリーンでシャープな写り
今回は、現行デジタル一眼レフの“物差し”といえる「ニコン D1」と比較しながら、定点などの撮影を行なった。
先に断っておきたいのだが、今回掲載した「D30」「D1」のデータは無補正のもの(すべて、JPEGのFINEモードで撮影している)。そのため、「D1」の場合、データの色空間が「NTSC」のままであり、通常のモニターのような「sRGB」環境で見ると、ややくすんだ色調に見えるので、この点を予め知った上で見て欲しい。
さて、やっぱり気になるのが、解像度。有効画素数は、D30が311万画素、D1は266万画素という違いはあるが、実質的な解像度は、明らかに「D30」のほうがワンランク上の実力だ。細部の描写をみても、D30のほうが素直な印象を受ける。
また、本機は輪郭強調処理がそれほど強くないため、後処理(Photoshopなど)でアンシャープマスク処理をすることで、さらにシャープ感を高めることもできる。そのときにも、輪郭が素直なため、さほど画像が乱れない点も好ましい。
CMOSセンサーで気になるノイズ成分とダイナミックレンジの広さについても、気になる部分はない。むしろ、「D30」と「D1」を、同じ感度で比較すると、「D1」の方がノイズが目立つ印象があるほどだ。とくに、ノイズが目立ちやすい青空やビルの影の部分を見ると、その違いが顕著に認められる。
ダイナミックレンジについては、若干「D30」のほうが広めに見えるが、実質的にはほぼ同等といった感じ。一般に再現域が狭いといわれるCMOSの欠点はまったくと言っていいほど見られない。
「D30」の絵作りの傾向としては、色調や階調性を含め、全体にクセのない、なかなか素直なもの。標準設定の場合、どちらかというと、撮影後の後処理で作者の意図に近いデータに仕上げられるよう、やや軟らかめのセッティングになっているようだ。この考え方は、これまでの「EOS D2000」系の考え方を受け継いだものだ。
これは、「FinePix S1Pro」のように、撮影したデータそのままでメリハリがあるきれいな画像が得られるようにチューニングされたものとは、やや方向性の異なるものだ。
もっとも、これは標準設定で撮影した場合で、「D30」には画質のカスタマイズ機能が備わっているため、コントラストと彩度を高めた設定にすることで、「S1」に近い雰囲気の仕上がりが得られる。
ホワイトバランスのセッティングは、比較的オーソドックス。ミックス光では多少迷うこともあるが、このクラスのボディーの場合、あまりオートに頼ることなく、日中屋外ではデーライトに固定して撮影したり、人工光下でも自分の好みの色調に仕上がるようなモードにマニュアル設定したほうが、意図にあった色調に仕上げることができる。
その意味で、本機のオートホワイトバランスは、むしろ、小細工をせずに、素直に色の偏りを補正する方向のセッティングになっているのかもしれない。
■D30定点撮影
モード別 | |
Large-Fine | Large-Normal |
Small-Fine | Small-Normal |
感度別 | ||
ISO 100 | ISO 200 | |
ISO 400 | ISO 800 | |
ISO 1600 |
■D1定点撮影
感度別 | |
ISO 200 | ISO 400 |
ISO 800 | ISO 1600 |
●ISO400でも十分な実用感度
実際に撮影して感心するのは実効感度の高さだ、D30ではISO100~1600相当の間でセッティングできる。
もちろん、ノイズの少なさという点では、ISO100のときが最も少ないが、ISO200時との違いはわずか。さらに、ISO400で撮影しても、ノイズがとくに目立つようなこともなく、明暗の再現域が明確に狭くなることもない。
そのため、画質最優先の風景やポートレートでは、ISO100での撮影を勧めるが、通常のスナップショットであれば、ISO400でも十分な画質が得られる。とくに、ブレが気になる屋内撮影では、積極的にISO400にセットして撮影するといいだろう。
また、ISO800や1600といった超高感度で撮影しても、意外なほどノイズが少なく、十分実用になるレベル。とくに、ISO1600での撮影では、銀塩フィルムを越えるレベルの画質を実現しているといっても過言ではないだろう。
●強烈な長時間露出時のノイズリダクション機能
本機は、通常撮影時にも、CMOS特有のノイズを軽減するためのノイズリダクション機能が常時働いている。さらに、ノイズが盛大に発生する秒単位の長時間露出時には、より強力なノイズリダクション機能を利用することができる。
これは、長時間露出時に発生するノイズを検出するために、撮影直後にシャッターを開かずに同じ露出時間だけ撮影。そのデータを実写画像と比較し、ノイズ成分だけを検出して補正するものだ。
もちろん、実際に撮影に要する時間は2倍になるわけだが、ビックリするほど効果的。今回掲載したものは、30秒露出での夜景撮影で、ノイズリダクション機能をONにしたものとOFFにしたものだが、その差は一目瞭然だ。これまで、長時間露出はデジタルカメラの苦手な分野だったが、この機能を搭載することで、それが一気に実用域になったという印象だ。
●A3ノビで鑑賞に堪える画質
実際に、今回の最新ベータ版で実写したものを、インクジェットプリンターでA3ノビにプリントしてみたが、実にクリーンで心地いい仕上がりで、その画質には驚くばかりだ。
とくに、プリント時に多少強めのアンシャープマスクをかけると、想像以上にシャープな画像になり、とても30万円前後で購入できるデジタル一眼レフとは思えないレベルだ。
その印象は、さらに大きなB1サイズにもプリントしても十分なもの。まさにポスターサイズにプリントしても十分鑑賞に耐えるレベルを高画質モデルだ。
●30万円で楽しめるようになったデジタル一眼レフの世界
発表当初、「D30」は、自社開発のCMOSセンサーを搭載したことで、若干、画質への不安があった。だが、今回実写した画像を見てもわかるように、画質への不安は完璧に一掃された。むしろ、長時間露光時のノイズリダクション機能や消費電力の少なさといった、多面にわたるポテンシャルの高さが、より多くのメリットを生んでいる点は注目に値する。
さらに、一眼レフカメラとしてのポテンシャルも十分に高く、よほどハードな条件下で酷使しない限り、必要十分なレベルの実力を備えており、従来からのEOSユーザーの期待を決して裏切らないモデルに仕上がっている。
価格的にも、銀塩一眼レフの最高級機とほぼ同じ価格帯を実現しており、写真を趣味としているアマチュアユーザーにとっても、デジタル一眼レフがようやく購入圏内に入ってきたという印象だ。
最高級機ベースの「D1」に比べれば、“カメラ”としてのポテンシャルは一歩譲る部分もある。だが、そのわずか半額で、これだけの実力を実現した本機が登場することで、これまでは高嶺の花だったデジタル一眼レフをより多くのユーザーが楽しめるようになることは確実だ。
これまで、10万円前後のズームレンズ一体型モデルと、50万円超のデジタル一眼レフの間を埋めるモデルは存在しなかった。そこに今回、「D30」のような実販30万円前後の実践的なデジタル一眼レフが登場したことは、とても喜ばしい動きだ。
しかも、「D30」は、デジタル一眼レフ用に新規のボディーを起こしただけに、カメラとしてもまとまりもよく、とてもバランスがいいモデルに仕上がっている。
もちろん、新規に交換レンズまで購入すると、実販でも40万円近いモデルになるだけに、さすがに誰にでもお勧めできるわけではない。だが、いま、EOSを使っているユーザーにとって、とても魅力的なデジタル一眼レフであり、これからデジタル一眼レフで本格的に写真を楽しみたいという人に、お勧めできる意欲的な新鋭機といえる。
□キヤノンのホームページ
http://www.canon.co.jp/
□製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/Product/digicam/eos-d30.html
http://www.canon.co.jp/Imaging/D30/D30.html
□関連記事
【5月17日】キヤノン、EFレンズが使用できる本格一眼レフデジタルカメラ「EOS D30」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000517/canon2.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm
(2000年8月11日)
■注意■
[Reported by 山田久美夫]