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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IntelのPentium 4チップセットがSDRAMサポートへ転進


●Pentium 4はSDRAM/DDR SDRAMで普及ステップへ

 Pentium 4が、来年中ごろ普及段階にさしかかる時、手頃な価格帯のPentium 4パソコンのメモリはSDRAM/DDR SDRAMになっているだろう。というのは、Intel自身が、Pentium 4用チップセットで、SDRAM系メモリをサポートすると明かしたからだ。これまでのIntelの計画では、Pentium 4用チップセットではDirect Rambus DRAM(RDRAM)しかサポートしないはずだった。だが先週、台湾VIA TechnologiesがDDR SDRAMベースのPentium 4チップセット計画を発表したのに続き、Intel自身がSDRAMサポートを発表したことで、「Pentium 4+RDRAM」という構図は大きく崩れた。

 インテル日本法人によると、「Pentium 4向けの最初のチップセットIntel 850はRDRAMだが、来年のタイミングでSDRAMをサポートしたチップセットも出す。しかし、RDRAMをPentium 4にとってメインのメモリと位置づけていることは変わらない」という。つまり、Pentium 4システムは、上級版がRDRAM、下級版がPC133 SDRAMという2層構造にするというわけだ。


●RDRAMがPentium 4の足を引っ張るのが怖い

 Intelは、これまでPentium 4+RDRAMにこだわってきた。IntelのOEMメーカーによると、Intelはその理由としてRDRAMでないとPentium 4の性能が大幅に落ちることを強調していたという。それによると、Pentium 4 1.4GHzで、RDRAM 2チャネルとPC133 SDRAMを比較した場合、RDRAMの方が最大30%も性能が高くなると説明したそうだ。それなのに、なぜ、ここへ来てのSDRAMサポートなのだろう? それは、Pentium 4の離陸が、Intelにとって最重要事項だからだ。

 Intelは、今後2年から2年半程度で、Pentium 4をバリューPC市場にまで浸透させる予定だと思われる。ところが、今のままではRDRAMがPentium 4普及の足を引っ張りかねない。それは、Pentium 4の普及ペースに合わせてRDRAMの生産量が増えるメドが立っていないからだ。あるメモリ業界関係者によると、IntelはDRAMベンダーと何回かミーティングを行ない、RDRAMの生産量を増やすことを要請したが、うまくいかなかったという。

 Intelにとっての悪夢は、「RDRAMの生産量が増えない→RDRAMが供給不足で高価格にとどまる→RDRAMパソコンが普及しない→DRAMベンダーがRDRAMの生産量を増やさない」という悪循環に陥ることだ。そして、Pentium 4がRDRAMに縛り付けられていた場合、この悪循環でPentium 4自身が普及できなくなってしまう。チップセットとメモリのために、Intelの本来のビジネスであるCPUが普及しないのは本末転倒だ。となれば、IntelがRDRAM以外の“保険”のメモリを、Pentium 4プラットフォームに加えたとしても不思議ではない。実際、IntelはすでにサーバーではDDR SDRAMをメーカーに推奨(ServerWorksのチップセットを通じて)している。


●少し前からあったウワサ

 じつのところ、ここ1~2カ月ほど、IntelがPentium 4向けにDDR SDRAMベースのチップセットを検討しているというウワサが流れていた。また、Intel 820プラットフォームの立ち上げの失敗で、Pentium 4もRDRAMだけに頼るのは難しいという見方が業界関係者の間でも広まっていた。そのため、今回のIntelがRDRAM以外の選択肢をPentium 4に加えたこと自体は意外とは思われていない。また、時期的にも非常に妥当だ。それはIntelの場合、チップセットの量産出荷まで1年かかるため、来年中盤に間に合わせるためには、この時点で製品開発をスタートしなければならないからだ。

 では、IntelがRDRAM固執をやめたことと、その時期が今であることに疑問はないとして、残る疑問は何か。それは「なぜPC133なのか、なぜDDR SDRAMではないのか」だ。インテル日本法人によると、「現段階では、Pentium 4チップセットでのDDR SDRAMのサポートは表明していない。DDR SDRAMに関しては、サポートの検討を開始している」という。DDR SDRAMは、“ありえない”から“検討”へと昇格したものの、依然としてサポートしない。


●RDRAMを殺してしまうDDR SDRAMサポート

 まず考えられる理由のひとつは、デスクトップでのDDR SDRAMのサポートが、RDRAMを最終的に殺してしまうために躊躇している可能性だ。PC133は、Pentium 4の性能を落としてしまうが、RDRAMを食う危険はない。これは、各メモリアーキテクチャのピークメモリ帯域を比べるとわかる。

PC100  800MB/秒
PC133  1GB/秒
DDR200  1.6GB/秒
DDR266  2.1GB/秒
RDRAM(1チャネル)  1.6GB/秒
RDRAM(2チャネル)  3.2GB/秒
Pentium 4 FSB  3.2GB/秒

 Pentium 4プラットフォームは、Intel 850(Tehama:テハマ)や来年のチップセット「Tulloch」の上級バージョンがRDRAM 2チャネル、Tullochの低コストバージョンがRDRAM 1チャネルの構成になっている。つまり、普及価格帯のPentium 4+RDRAMのメモリ帯域は1.6GB/秒となる。

 それに対して、DDR SDRAMは、デスクトップで立ち上がるDDR266が2.1GB/秒。DDR SDRAMとRDRAMを比べた場合、RDRAMの方が実効帯域が高いため、DDR266とRDRAM 1チャネルがほぼ同等の帯域になる。言い換えれば、(メモリ帯域を圧迫するようなアプリケーションの場合でも)原理的に性能差はないことになる。しかも、DDR266のCASレイテンシ2バージョンでは、アクセスレイテンシも原理的にはRDRAMより短くなる。つまり、DDR SDRAMは、普及価格帯のRDRAMプラットフォームと、性能面で完全にオーバーラップしてしまう。これで、DDRサポーターたちが言うように、DDR SDRAMの製造コストがRDRAMに比べて大幅に低かったら、RDRAMは、市場から押し出されてしまうだろう。


●IntelはDDR SDRAMが欲しい?

 だが、それでもIntelは(本音では)DDR SDRAMチップセットを求めているかもしれない。それは、Pentium 4がフルに性能を発揮できないと、Intelは困ったことになるからだ。Pentium 4は、IntelにとってAMDのAthlonを振り切り、デスクトップCPUでの主導権を取り戻す大切な製品だ。そのAthlonはDDR SDRAMで、メモリのボトルネックをなくそうとしている。それなのに、Pentium 4の方はメモリが足を引っ張って性能を出し切れないなら、これも本末転倒な話になってしまう。もし、PC133にして最大30%も性能が落ちるのなら、Athlonはもちろん、Pentium IIIにすら性能で負けるかもしれない。

 そのため、Intelが次のステップでDDR SDRAMをサポートすることも踏まえて、PC133のサポートを表明した可能性もある。Pentium 4+Intel 850でのRDRAMの立ち上がりの状況を見て、ダメならDDR SDRAMに切り替えるということだ。そのために、メモリインターフェイスをSDRAM/DDR SDRAM両対応で設計しておく(最初はSDRAMしかサポートしない)という可能性もあるかもしれない。

 もうひとつ考えられるのは、一部で報道されているようにIntelがRambusとの契約でDDR SDRAMサポートができないため、他社に作らせるという可能性だ。なぜそんなことを言うかというと、先週の「Platform Conference」(米サンノゼ)で、VIAのエリック・チャン氏(Product Marketing Manager)が、Pentium 4用のDDR SDRAMチップセットの計画を発表したからだ。

 VIAと言えば、ついこの間、Intelから訴訟を受けていたPentium III用チップセットのライセンス問題で和解したばかり。チャン氏は、カンファレンスでは、この唐突な和解の条件に、Pentium 4バスインターフェイスのライセンスが含まれているかどうかは答えなかった。だが、Intelとの和解直後のPentium 4サポート発言だけに、Intelと何らかの合意が成り、Intelの意を受けてDDR SDRAMチップセットを開発するという可能性も考えられる。これはあくまで個人的な感触だが、Platform Conferenceでのチャン氏はPentium 4サポートをぶち上げたというより「まだあまりしゃべってはまずいのだが、少し漏らしておきたい」というような態度に見えた。つまり、イケイケのVIAらしくない、異様に口が重い雰囲気だったのだ。

 そもそもIntelは、同社の行動を監視するFTC(米連邦取引委員会:Federal Trade Commission)の手前、Pentium 4のバスライセンスを完全に他社に与えないという独占的な行動を取りにくい。将来どこかの時点で、Pentium 4バスのライセンスを与えざるをえないことになるだろう。それなら、Pentium 4の立ち上げをブーストする手伝いをしてもらう方がいいと考えた可能性もある。

 というわけで、まだ状況が混沌とし、情報も錯綜しているがPentium 4のメインメモリは揺れ動いている。今年後半から来年にかけては、DRAMがPC業界の焦点になることは間違いがないだろう。

□関連記事
【7月19日】AMDとVIAの次世代チップセット計画を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000719/pform02.htm


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(2000年7月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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