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第57回 : XMLがモバイルを変える(1)



 6月22日、マイクロソフトは次世代インターネットに向けた新構想「Microsoft.NET(ドットネット)」を発表した。XMLをコアテクノロジーとするドットネットは、ネット中心のコンピューティング環境に向けて、アプリケーションをサービスとして実装するためのフレームワークを提供するというもの。
 今後、ドットネットはさまざまな視点から議論されることになると思われるが、ひとつだけ言えるのは、ドットネットにしろ、その他XMLベースのフレームワークにしろ、XMLベースで構築されたアプリケーションサービスは、モバイルユーザーにも新しい世界を切り拓いてくれるということだ。


●XMLについての復習

 XMLとは、Extendable Markup Language、つまり拡張可能なマークアップ言語ということだ。名前がHTMLと似ているためWebページ制作のための言語のように感じる人もいるかもしれないが、実際にはデータの構造と名前を定義し、あらゆる情報を記録・保存するためのフォーマット。すべてテキストで記述される。

 XMLは文字通り“拡張可能”であるため、あらゆる情報や、情報の構造を記録することができる。さらにXMLで保存された情報には、それぞれ名前が振られ、またどのような情報かを示す意味付けも可能。これまで異なるソフトウェア同士でデータを交換するには、何らかの制限が出ることが多かったが、XMLを用いればそうした問題を解消する事ができるのだ。
 XMLにはさまざまな効果や応用手法があるのだが、その中のひとつに、すべてのネットワークサービスやアプリケーションに対して単一のリポジトリ(情報倉庫)を提供できる点がある。というと難しいが、要はデータを保存する“形式”が存在しなくなるのである。

 たとえば、佐藤さんの情報をすべて、個人データを預かるリポジトリにXMLで入れておくこととする。ここで重要なのは、XMLのデータには意味があるということだ。そこにスケジュールデータが収められているとして、そのデータはどんなサービスからも、どんなプログラムからも、スケジュールデータが欲しいと思えば取り出すことができ、また意味がわかっているために共通に扱うことができる。その結果、佐藤さんのとあるスケジュールは、複数のアプリケーションやサービスで、お互いの互換性を気にすることなく平等に扱えるようになる。


●なぜデバイスに依存しないのか

 以前、この連載の中で、ネットワーク上でサービスを提供するなら、それはXMLをベースに構築するべきだと書いた。これは、XMLはサービスやアプリケーションの種類に依存せず、単一のリポジトリに情報を保存できるため、ユーザーへのプレゼンテーション方法に依存するHTMLなどと異なり、それを扱うサービスの種類やデバイスに依存しないからである。

 先ほどのスケジュールデータを例に取ると、スケジュールデータの“開始日時”は、開始日時を表誦するための形式ではなく、“これは開始日時です”という意味を持って保存されている。これをHTMLブラウザ向けのサービスが扱うときは、そのサービスが“開始日時”をこのように処理・表示しましょう、と判断してユーザーに見せるための形式で出力すればいい(具体的にはHTMLに変換する)。
 これが携帯電話になったときは、携帯電話向けのサービスが、携帯電話用に“開始日時”を処理し、表示のためのコンテンツを吐き出せばいい。もしくは、携帯電話自身がXML処理系を持っているならば、ユーザープレゼンテーションのサービスを利用するまでもなく、情報として“開始日時”を得て、液晶ディスプレイ上に表示したり、データ処理すればいい。


●XMLでアプリケーション個別の同期は不要に

 繰り返しになるが、XMLは単一のリポジトリを提供する。ここでは“単一の”ということが重要だ。“佐藤さんの情報”は、さまざまなアプリケーション用に複数存在する必要がない。常時ネットに接続されていることを前提にすると、ユーザーはアプリケーションでファイルを扱うことを意識しなくてもよくなる。どこでも、いつでも、どんなデバイス/アプリケーションから見ても、“スケジュールの開始日時”は同じ物であり、それはユーザーのリポジトリにあるのだ(感覚としてはファイルの概念がないPalm OSのアプリケーションに似ている。Palmの標準アプリケーションは、すべて単一のリポジトリに基づいて構築されているからだ)。

 もちろん、いつでもどこでも、ネットに繋がった状態でデバイス/アプリケーションを使えるわけではない。なので、情報に可搬性を持たせるためにも、その複製をデバイス内に持つことも必要になるだろう。そうした意味では“同期”は必要になる。
 しかしさまざまなPC上のアプリケーションから情報を集め、デバイス上のデータとすり合わせるために、複雑な同期を行なうための機能は必要にならない。なぜなら、すべての情報はXMLによって作られる単一のリポジトリにあり、その中から必要な情報を絞り込んで交換すれば、データ内容のすり合わせは必要ないからだ。

 ハンドヘルドデバイスではなく、容量の大きなハードディスクを持つノートPCならば、必要な情報を取捨選択する必要もなく、XMLリポジトリのコピーを持っていれば、どのアプリケーションを使う場合でも、情報をすばやく参照することが可能になるわけだ。


 XMLはこれ以外にもさまざまな性質を持つが、次回は今回の内容を踏まえた上で、具体的にわれわれのモバイル環境がどのように変わるのか、について書いてみたい。

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【6月23日】米Microsoft、ローカルとネットを組み合わせる「Microsoft.NET」を発表(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0623/msnet.htm

[Text by 本田雅一]


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