VIA Technologies マーケティングマネージャ リチャード・ブラウン氏 |
VIA Technologiesと言えば、CPUコアを変更したCyrix IIIを再発表したり、Socket AのAthlon/Duron用のチップセットとしては最初の製品となるApollo KT133チップセットを投入したりと、COMPUTEX TAIPEIの主役の一人であったことは疑いの余地はない。そこで、同社のマーケティングディレクターであるリチャード・ブラウン氏にCyrix IIIのコアをSamuel1(サミュエルワン、開発コードネーム)に変更した経緯、グラフィックスに関する戦略などについてお話を伺った。
●Matthew=Savage4+Apollo Pro133A+Samuel1!
○2月のCeBITでお話を伺った時には、Cyrix IIIは元CyrixのJoshua(ジョシュア、開発コードネーム)をベースにしているというお話でしたが、これをなぜSamuel1ベースに変更したのですか?
ブラウン氏:よい質問ですね。確かに2月にはJoshuaコアのCyrix IIIを発表し、当社の計画ではかなり大量出荷に近づいていました。しかし、この3ヶ月の間にバリューPC市場は非常に大きく動き、533MHzが既に最もローエンドという状況になっています。これに対して、Joshuaの最高クロックは533(筆者注:実際にはPR値であり、実クロックではない)であり、これではこのまま出荷したとしても市場ではあまりうまくいかない可能性も抱えていました。このため、533MHzだけでなく667MHzにも対応可能なSamuel1に変更したほうがよいと判断したのです。
また、Samuel1はほかにもメリットがあります。たとえばダイサイズです。JoshuaはL2キャッシュを搭載していることもあって、ダイサイズは大きく製造コストは高くつきます。Samuel1のダイサイズは76平方mmで、製造コストはJoshuaに比べて安価ですみます。
COMPUTEXで公開された新しいCyrix III | VIAのブースにはCyrix IIIのリテールボックス?も展示されていた |
○JoshuaコアのCyrix IIIは今後は出荷されないと考えていいのですか?
ブラウン氏:JoshuaコアのCyrix IIIは特別用途にのみ出荷されます。大量出荷版のCyrix IIIはすべてSamuel1コアとなります。
○Samuel1コアのCyrix IIIはL2キャッシュを搭載していません。なぜ、L2キャッシュを搭載しなかったのですか?
ブラウン氏:Centuar Designのデザインチームは大変優秀です。L2キャッシュに匹敵するような大きなサイズのL1キャッシュを搭載しています。大きなL2キャッシュを搭載した場合、ダイサイズは大きくなりますし、消費電力も非常に大きくなります。しかし、Samuel1コアではL2キャッシュを搭載しなかったことで、ダイサイズは小さく、消費電力も抑えることができ、かつ高いクロックを実現することができました。これらは常にトレードオフの関係にありますから、我々のCentuarチームは今回はL2を搭載しないことでメリットが非常に大きいと判断したということでしょう。
○初代CeleronはL2キャッシュがないことで、ユーザーやOEMベンダーから見向きもされませんでした。Samuel1がそういう轍を踏むことはないのですか?
ブラウン氏:確かにそういう疑問がでる可能性はあります。しかし、初代Celeronとは全く状況が違うので、そうはならないと考えています。1つ目の理由はL1キャッシュの容量です。初代CeleronのL1キャッシュは非常に小さいものでした。そのL1キャッシュの容量は32KBと、Samuel1に比べると1/4にすぎません。2つめの理由は133MHzのシステムバス(FSB)です。Celeronは66MHzですが、我々のSamuel1は133MHzで動作します。3つめの理由はベンチマークの結果です。ビジネスアプリケーションにおけるベンチマーク結果は良好です。以上のような3つの理由から初代Celeronのようなことにはならないと考えています。
○ベンチマークテストに関しては具体的な結果をお持ちですか?
ブラウン氏:当社からはベンチマーク結果は特に発表していません。しかし、来週にはメディア向けのサンプルを用意できますので、そちらでテストをしてみてください。一般論ですが、Samuel1はビジネスアプリケーションに関しては良好な結果がでますが、3Dや浮動小数点演算といったベンチマークではあまり良くないかもしれません。
○Samuel2はどういう仕様になるのですか?
ブラウン氏:基本的にSamuel1に64KBのL2キャッシュが加わったものになり、AMDのThunderbirdで採用されているようなエクスルーシブキャッシュの構成になります。
○VIAはEV6バスに関するライセンスも持っていると思います。ならば、Cyrix IIIをSocket 370用のCPUではなく、Socket A用のCPUとしても作ることができたのではないかと思いますが、なぜSocket 370を選択したのですか?
ブラウン氏:その理由は割と単純です。Socket 370の市場の方が大きいからです。また、我々はAMDのパートナーでもあり、DuronやAthlonと直接同じプラットフォームで戦うのはあまり得策ではありませんし、そうしたいと思ったことはありません。これがSocket 370であれば、インテル対VIAということになり、我々の顧客にもわかりやすいと思います。
○ウエン・シー・チャン社長がCeBITで語った統合型CPUであるMatthewのスペックはどうなっていますか?
ブラウン氏:それは非常にシンプルです。Savage4のグラフィックスコア、Apollo Pro133Aのノースブリッジ、Samuel1のCPUコアという構成になっています。従って、L2キャッシュは搭載されません。我々はPC市場はローエンドに向かっていると考えています。従って、L2キャッシュがなくともさほど問題ではないと思います。
○各CPUの出荷時期について教えてください。
ブラウン氏:Samuel1は今月中に大量出荷が開始されます。既に少量の製品版は生産が進んでいます。Samuel2に関しては、今年の終わりを予定しています。Matthewに関しても年末を予定しています。
●来年はNVIDIAに対抗するグラフィックスコアを投入
○今年に入ってからS3のグラフィックス部門を買収するなどグラフィックスに関しても急激な動きをされていますが、なぜS3を買収したのですか?
ブラウン氏:1つには我々は既に長い間S3のグラフィックス部門と協力関係にあったことです。既にPM133という具体的な製品もリリース済みです。また、KM133というAthlon/Duron用製品も用意しています。
○今後S3のグラフィックス部門をどう活用していくつもりですか?
ブラウン氏:当社ではS3のグラフィックス部門には強力なグラフィックスコアを作り出す能力があり、さらに我々がS3に協力することでより強力な製品が作り出せると考えています。1つの会社でハイエンド、ミッドレンジ、ローエンドのすべてをカバーするような製品を作るのは大変難しいですが、我々はそれに挑もうと考えています。来年にはS3をプッシュして新しいロードマップを作成中です。それはNVIDIAの製品に対抗できるような強力な製品になる予定です。
来年のグラフィックスの市場は大変面白いものになると考えています。おそらく来年の我々のライバルはSiSやALiではなく、NVIDIAやATI Technologiesになるでしょう。既にATIは統合型チップセットをデビューさせていますし、NVIDIAはALiと組んで統合型チップセットを作っています。また、この市場だけでなく、よりハイエンド市場でも両社に対抗していくことになると思います。
●第4四半期にDDR SDRAMサポートのチップセットを大量出荷
VIAのセミナーで示されたDDR SDRAMのチップセットロードマップ |
ブラウン氏:実際に製品として投入されるのは第4四半期になると思います。
○P6バス用(PentiumIII/Celeron用)とEV6バス用(Athlon/Duron用)の2つのチップセットが用意されているようですが、どちらが先にでるのでしょうか?
ブラウン氏:P6バス用が先になります。理由は単純で、現時点ではP6バス用の市場の方が大きいからです。確かに我々はAMDのパートナーであり、できるだけ早くEV6バス用も投入したいとは考えています。しかし、どこの会社もそうだと思いますが、会社の資源というのは有限であり、2つのチップセットを同時にリリースするのは大変難しいことです。そのため、市場の大きいものを優先的に開発し、開発が終了したものから市場に投入するというのは致し方のないことです。
○今回公開されたロードマップには、サーバー/ワークステーション用のチップセットについての言及があります。以前、あなたにお話を伺った時には「VIAはサーバー/ワークステーションには興味がない。メインストリームに注力していく」というお話でしたが、この方針は変更されたのでしょうか?
ブラウン氏:確か、この前にお話したときは1月でしたね。当社はあの時よりもさらに成長していますし、市場も大きくなっています。それを受け我々のロードマップも成長しているということです。顧客と話し合った結果、彼らはサーバーやワークステーションにもDDR SDRAMのソリューションを必要としていることがわかったので、追加したという訳です。Apollo Pro 133AのデュアルCPUサポートもそうした延長にあります。これまでローエンドのデュアルCPUをサポートしたチップセットには、440BXという強力な製品がありました。しかし、ご存じのように440BXには133MHzのシステムバス、PC133といった最新の機能をサポートしていません。しかし、Apollo Pro133Aであれば、そうした機能をサポートできる訳で、顧客がそれを必要としたためApollo Pro133Aでデュアルを正式サポートしようと決めたのです。顧客がそれを必要としているのであれば、それをサポートするというのが当社の基本的な方針です。
○PM133、KM133についてお話をお聞きしたいと思います。PM133、KM133のスケジュールはどうなっていますか。
ブラウン氏:PM133に関しては、COMPUTEX直前にプレスリリースで発表しました。KM133に関しても準備はできており、9月には大量出荷が可能になると思います。
○OEMベンダ筋によると、VIAはPM133とKM133の別バージョンであるPL133とKL133を用意しているそうですが、これについてはいかがですか?
ブラウン氏:厳しいご質問ですね、それはどちらでお聞きになったんですか(笑)。はい、我々はそうした計画を持っています。PM/KM133との違いは簡単で、PL/KL133は外部AGPスロットの機能をサポートせず、内部の統合グラフィックスコアだけのサポートということです。ローエンド市場ではこうした外部AGPの機能が必要ない場合もありますので、こうしたローコスト版を用意しました。
VIA Technologiesの社長兼CEOのウェン・シー・チャン氏 |
数年前には台湾の小さなチップセットベンダでしかなかったVIA Technologiesだが、今や台湾を代表する企業の1つに成長しつつある。その証拠に同社の社長兼CEOであるウェン・シー・チャン氏がいくところは台湾の報道陣であふれており、さながらビル・ゲイツのようなカリスマ的存在になっている。
今回のインタビューの中でブラウン氏は、同社のCPUやグラフィックスに関して注目の発言をいくつか行なっている。中でも注目は、グラフィックス市場で2001年にNVIDIAに対抗するような強力な製品をリリースすると述べていることと、Matthewのスペックについて具体的に言及があったことだろう。CeBITではDDR SDRAMをサポートするとチャン社長が述べていたが、それはPC133 SDRAMに変更され、さらにリリース時期も今年の終わりと早まったようだ。
買収により次々と様々なチップを入手してきたVIA Technologiesだが、これまではローエンド市場にフォーカスをあわせることで成功してきた。しかし、ロードマップにサーバー/ワークステーションのチップセットやハイエンドグラフィックスコアも登場しており、VIAの次の一手に注目が集まるところだ。
□VIA Technologiesのホームページ(英文)
http://www.via.com.tw/
(2000年6月14日)
[RReported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]