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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelの新CPU「Timna」が延期、MTHチップはキャンセルに

●MTHのつまづきでTimnaも道連れに

IntelデスクトップCPUの
移行推測図
 米Intelは、今夏の終わりに出す予定だったグラフィックス統合CPU「Timna(ティムナ)」の出荷を、2001年第1四半期まで延期。また、Intel 820チップセットでSDRAMの利用を可能にするMTH(Memory Translator Hub)チップの再リリースをキャンセルした。
 Intelは、先月、MTHに不具合があることを発表、修正したMTHを近くリリースするとしていたが、その計画はご破算になった。つまり、今後、Intel 820向けにMTHは提供されない。Intel 820はDirect Rambus DRAM(RDRAM)だけのチップセットになる。

 Intelのチップセット戦略は、ここへ来てまたもRDRAMが原因でつまづいたことになる。


 TimnaはCoppermineコアに128KB 2次キャッシュ、それにDRAMコントローラを統合したCPUだ。Intelは、このTimnaをCeleronのローエンドラインとして位置づけている。バリューPC向けに、チップ数と実装面積を減らすことを意図したソリューションがTimnaだったというわけだ。

 Timnaは技術的にはそれほど目新しい製品ではない。CPUに統合するグラフィックスコアも、Intel 810チップセットとそれほど変わらないと予想されている。イメージ的には、CeleronにIntel 810のGMCH(Graphics Memory Controller Hub)チップを統合したチップと受け止めていいだろう……メモリインターフェイスがRDRAMである点を除けば。

 今回、Timnaがつまづいた原因はここにある。Intelは、TimnaをMTHとセットで発表する計画でいたからだ。RDRAMの価格がなかなか下がらない現状では、ローエンド向けCPUのTimnaでRDRAMを採用することは難しい。だからと言って、TimnaのメモリインターフェイスをSDRAMにして設計し直すと時間がかかりすぎる。そこで、Intelは、TimnaとMTHをセットにすることで、当面はTimnaをSDRAMサポートとして供給する予定でいた。そのMTHがキャンセルになってしまったので、Timnaも発表できなくなってしまったというわけだ。

●820向けのMTHは今後は提供されず

 MTHは、RDRAMインターフェイスにSDRAMを接続できるようにする「RDRAM→SDRAMインターフェイス変換チップ」で、もともとはIntel 820向けにデザインされた。システムベンダーにはMTHは不評だったが、マザーボード市場ではそれなりに採用されてきた。

 ところが、Intelは5月に入ってから突然、MTHがトラブルを抱えていると発表、出荷停止をアナウンスした。インテル日本法人によると「現行のMTHは高負荷の状況下においてノイズに極めて敏感になる。MTHが原因で断続的にシステムがリセットや再起動、ハングする問題が確認された」という。ただし、この時点では、IntelはまだMTHの設計変更を行なって対応する方向でいた。先週までは、インテル日本法人も「ノイズ感度に対しての設計対策を施した新チップをすでに設計中。評価検証が終わり次第投入する予定」と説明していた。

 ところが、先週から今週までの間に、このプランも変更になった。インテル日本法人によると「MTHチップにデザイン対策をして評価していたが、結局、量産出荷には向かないという結論にいたった。そのため、820に関しては、MTHのブリッジはソリューションとして提供しないことになった」という。つまり、Intelは今後MTHチップを出さないため、Intel 820でSDRAMのサポートは基本的にはなくなることになる。また、Intel 840チップセットで同様にSDRAMをサポートできるようにするMRH(Memory Repeater Hub)-Sチップも同様に今後は提供されない。

●深まるIntelへの不信

 もっとも、MTHチップ自体が完全にキャンセルになったわけではない。Timna向けには新チップを提供するが、時間がかかるためにTimnaの発表が来年第1四半期までずれ込むのだという。インテル日本法人によると、「MTHとは呼ばないが、メモリインターフェイス変換チップは用意する。しかし、ノイズの問題に対して、根本的なところから対策を施すために再設計することになる。そのため、最初の予定よりも時間がかかることになった」という。

 Intelの場合、チップセットなどの設計から量産まではどんなに早くても9ヵ月、通常1年以上はたっぷりかかる。そのため、MTHチップを新設計に切り替えるとしたら、来年第1四半期までずれ込んでしまうのも当然となる。

 Timnaの遅れとMTHのトラブル&キャンセル。このふたつの“事件”は、Intelの製品戦略にとって致命的というわけではない。なぜなら、Timnaはライバルがいないし、MTHもちょうど役割を終えるところだったからだ。Intelに対抗するCPUメーカーは、いずれもTimnaに対抗する統合CPUを近いうちに出す計画を持っていない。また、MTHはIntel 815チップセットが登場すれば、ほとんど不要になる。Intel 820+MTH+SDRAMとほぼ同じフィーチャを、Intel 815+SDRAMで提供できるからだ。

 だが、この事件が、Intelの信頼性に対して与えたダメージは大きい。PC業界関係者は、8xx番台になってからのIntelのチップセット製品のトラブルや、市場の状況に合わない(とPCベンダーが感じる)製品戦略に関してかなりの不信を抱いている。今回の事件は、そうした不信を、“またも”増大させてしまったことになる。

 Intelのチップセットは、440BXの時のような信頼感と栄光を取り戻すことができるのだろうか。


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(2000年6月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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