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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

MicrosoftがいよいよX-Box向けソフトの開発キットを配布へ


●ニワトリとタマゴが怖いゲーム機の立ち上げ

 Microsoftは、いよいよX-Box戦略の次のステップに踏み出す。ソフトウェア開発キット(SDK)と開発ハードウェアを、ソフトベンダーへ配布し始めるのだ。先行するPlayStation 2(PS2)に追いつこうと、戦略を加速させるMicrosoft。はたしてゲームメーカーはついて来るのか。

大浦博久氏/
ジェイムス・スパーン氏
 家庭用ゲーム機(ゲームコンソール)の場合、最初の立ち上げ時期にタイトルが揃っているかどうかは、ともかく重要だ。新しいプラットフォーム(ゲーム機)の場合、ゲームソフト会社は様子見をしようとする。それは、そのプラットフォームに賭けて多大な投資をした場合、プラットフォームがコケてしまうと、投資を回収できず、自分たちのビジネスが危うくなるからだ。
 ところが、ゲーム会社が様子見してタイトルを出さないと、魅力的なゲームが揃わないためプラットフォームは立ち上がらない。そうすると、「ゲームが出ない→プラットフォームが立ち上がらない→ゲームが出ない」の悪循環に陥り、ニワトリとタマゴ状態になって、プラットフォームが死んでしまう。


 こうした事態を避けるため、ゲーム機メーカーはゲームソフト会社にタイトルを出してもらえるように働きかけ、ゲーム機の発売までにソフト開発が間に合うように開発キットを配布する。今、X-Boxはこのフェイズに入ったところだ。5月中旬に米ロサンゼルスで開催されたゲーム関連のトレードショウ「Electronic Entertainment Expo 2000(E3 2000)」で、マイクロソフト常務取締役でX-Box事業部長の大浦博久氏に、X-Box用ゲームの見通しを聞いた。

●Dreamcastソフトが使える可能性はない

--日本のゲームソフトメーカーは、X-Boxに対して様子見をしているのではないのか。

 (大浦氏)今回のE3を見ればわかる通り、アメリカではX-Boxが盛り上がっている。その最大の理由は、欧米のデベロッパはもともとPCをベースに開発していて、DirectX(X-Boxに搭載されるMicrosoftのマルチメディアAPI)の技術がわかっている開発者が多いことだ。彼らは、X-Boxに搭載されるNVIDIAのグラフィックスチップ(X-Chip)のパワーがどれほどのものになるかを、現在のNVIDIAのチップから、感覚的につかんでいる。そして、これ(X-Box)は流行るだろう、今までのゲーム機向けソフト開発よりずっと楽になるだろうと理解して、X-Boxへの意識が高まっている。

 ところが、日本のコンソール系のゲームメーカーの方の多くは、今までPC向けソフトの開発をまったくして来なかった。だから、PCのハードウェアに馴染みがなく、X-Boxを感覚的につかんでいないようだ。また、ゲームコンソールでは、ファイナルハード(製品版に近いゲーム機の実機)が手元に出てから開発をする。そのため、日本では、ファイナルハードを見てから興奮が高まるのだと思う。それが、日本でX-Boxがいまひとつ盛り上がっていない原因だろう。

--日本ではファイナルハードが出るまでX-Boxが盛り上がらないということか。

 そんなことはない。今回の市場の高まりを、E3に来た日本の(ゲームソフトメーカーの)メインの人たちが見て帰る。彼らは、X-Boxが確実に動き始めたなという印象を持つだろう。
 また、X-Boxはこれまでのゲームコンソールと異なり、欧/米/日で同時出荷される。だから、タイトルの投入が遅れたら最後、米国のデベロッパのソフトが日本に流れ込むという恐怖感が……、いやそのへんは恐怖と感じてない方がほとんどかもしれないが(笑)。とはいえ、日本のゲーム会社の経営者の方々は、ビジネスセンスに長けており、マーケットのチャンスを見逃す人たちではない。だから、われわれとしても、いろんな方法で口説き落とす努力を引き続き続ける。

--日本での発売(ローンチ)時に大物ソフトはちゃんと揃うのか。例えば、ファイナルファンタジーのような。

 逆を言えば、トップタイトルのないローンチにしてもしょうがないと思う。具体的なタイトル名は言えないが、想像されるようなタイトルは確実にX-Boxに乗って、さらにプラスアルファのタイトルが揃っているようにしたい。時間的な問題があるので、ローンチ時にX-Boxのためのニュータイトルが出てくるかどうかはわからない。しかし、今、PS2で動いているようなメインタイトルは、X-Boxに確実に乗ってくるようにしたい。それがないと日本でローンチしてもしょうがないと考えている。

--タイトルを揃えるのに、もっとも手っ取り早い方法は買収だ。日本のゲーム会社の買収は考えていないのか。

 アメリカでも(Microsoftが)ソフト会社をどんどん買収しているかというとそうではない。これまでに買ったのはPCゲームメーカーを2社くらい。(日本で)買収するかどうかについては、それは、機会があればやるかもしれない。しかし、今はそれよりも、強力なタイトルを持っているキーのデベロッパーの方々に、その作品を確実にX-Boxに載せてもらえるように、また、今後はX-Box向けにソフトを書いてもらえるように働きかけることが重要だと考えている。

--タイトルを揃える方法として、セガのDreamcast用のゲームソフトをX-Boxで使えるようにしてしまうという方法がある。この話は、ゲーム業界でもっぱらのウワサになっているがどうなのか。

 X-Boxとセガという記事が、確かにいろんなところに出ている。どこからどういう話になってこうなったのか……。この話は、Microsoftがナムコを買うとかスクウェアを買うとかという話と同じで、完全にウワサレベルでしかない。
 セガには、いろんな事業がある。セガのDreamcastから見ると、X-Boxは完全な競争相手だ。しかし、Windows CEのチームから見れば大切なお客様だ。そして、X-Boxから見ると、セガのソフト部隊は最強のパートナとなりうる可能性がある。そういう意味では、セガとX-Boxが組むという可能性はあるが、Dreamcastを絡めた“何か”はぜったいにない。


●最初の開発キットはPC

--X-Box向けの開発キットの配布はいつごろを予定しているのか。

 (X-Box事業部ビジネス開発部部長、ジェイムス・スパーン氏)数週間後に最初の開発キットが出る。これは、英語版で、ローカライズの時期はまだ言えない。同時にターゲット機材も配布する。これは、実際にはPCで、Pentium IIIとNVIDIAのグラフィックスチップを搭載している。X-Boxと基本的な部分は近い。メモリは、(X-Boxのテクスチャ圧縮を)エミュレーションできるように多くしてある。

--NVIDIAのチップはNV15(GeForce2 GTS)か。

 (スパーン氏)そうだ、この後にNV20とNV25というチップがあり、X-Chip(X-Boxのチップ)はその次になる。

--PS2は米国で299ドルで登場するが、X-Boxはいくらになるのか。

 (以降、大浦氏)299ドルという価格は、確かにマジックナンバだ。X-Boxは1年6ヶ月後にいちばん売れる価格に設定する。

--もし、PS2がもっと価格を下げていたらどうする。

 今言えるのは、コンペティティブな値段に設定するということだけだ。

--Microsoftが他のメーカーにX-Boxをライセンスする可能性は。

 ない。非常に簡単な理屈で、ハードウェアだけを出すとまっ赤っか(利益がでない)だからだ。もちろん、作ってくれるというなら大歓迎なのだが。

--ソフトのライセンス料を分配するということもできるが。

 それでも、きっと無理だと思う。

--X-Boxの派生品として、例えば、X-BoxとCATV用STB(セットトップボックス)の融合製品のようなものは出さないのか。

 将来的にブロードバンドがどういう形になるかが見えてくると可能性はある。しかし、今のわれわれのすべてのフォーカスは、2001年秋にゲームするためだけのマシンを出すということに集中している。X-Boxには、ハードディスクやブロードバンドネットワークへの接続機能(イーサネットなど)があるが、フォーカスはゲームオンリーだ。

--ゲーム業界に最初に参入したメーカーは必ずそういう。5年前のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)もそうだった。

 Microsoftが考えているのは、ユーザーが欲しがるものをいかにタイムリに出してゆくかだけだ。技術屋のマスタベーションではなく、マーケットニーズが高い部分のテクノロジだけを出してゆく。


●ファイナルハードは来年の夏?

 以上が5月のX-Boxの状況だ。ここで、開発システムについてもう少し補足しておこう。E3でプレス向けのX-Boxデモを行なったMicrosoftのSeamus Blackleyディレクタ(X-Box Advanced Technology)によると、この最初の開発システムは6月に提供されるという。現在、X-Boxのデモを行なっているシステムとほぼ同じ構成となるらしい。ちなみに、デモハードの性能をファイナルハードと比べると、グラフィックスで10分の1、オーディオでは約100分の1に(Blackley氏)なるという。

 Microsoft関係者によると、開発ハードは3回バージョンアップされるという。これは、NVIDIAのグラフィックスチップの新バージョンが登場する度に開発ハードが更新されるということらしい。

 開発キットが、X-Box実機とほぼ同じ構成のファイナルハードにマイグレートするのは、Blackley氏によると「来年の夏になる」という。それより若干早くなるという情報もあるが、いずれにせよゲームデベロッパーは、少なくともあと1年程度はファイナルハードに触ることもできない。ゲーム開発は、X-Boxではなく、X-Box開発用に提供されるPCで動作確認をしながら開発をすることになる。

 PCゲーム開発者にとっては、これはそれほど異常なことではない。PCゲームの世界では、常にPCのハードウェアの進化を予測しながら開発をするからだ。

 だが、ゲーム機向けソフトの開発者にとっては、ファイナルハードがない状態での開発は、かなりイレギュラーな事態だ。はたしてMicrosoftは、実物がないゲーム機に、日本の開発者たちを向かわせることができるのだろうか。


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(2000年5月31日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp