分解したPS/2(8570)。手前に見えるネジは、マザーボードと電源を匡体(System Base)に止めているもの。これ以外は、すべてドライバーを使うことなく分解することができる。匡体のカバー部分(Top Cover)も手で回すことができるネジで止められている |
PS/2は、'87年4月に米IBMから発表された。それまではIBM PC/ATやXT286と、ISAバスを採用したモデルを出していたが、この機種から新しいMicro Channelを採用した(ただし、Model 30(後述)は、従来のIBM PCとの互換性を持つISAバスを採用していた)。ちなみにこのISA(Industrial Standard Archtecture)とは、Compaqなどの互換機メーカーが、Micro Channelに対抗して言い始めた呼び方で、それまでは、8bitのXTバス、16bitのATバスと呼んでいた。
従来のIBM PCでは、I/Oはすべてバスに接続されたカード(アダプタ)で実現されており、標準で、ビデオカード、シリアルパラレルカード、HDD/FDDカードの3枚程を装備するのが普通だった。しかし、このPS/2からはマザーボード上にシリアル、パラレル、マウスなどのI/Oを載せ、さらにVGAもMicro Channelバスモデルではオンボードで搭載されていた。
PS/2本体。現在の感覚からするとミニタワー相当の大きさがある | トップカバーをはずしたところ。手前のスピーカーの下にある工具で、白いピンを抜くことで、全体を分解できる。HDDやFDDにはエッジカードがあり、それでメインボードと接続されているライザーカードと接続する。つまりケーブル接続はしていないのである | 白くみえるのが、いわゆるチップセット部分。最近のマザーボードに比べると部品は多い感じがする |
なお、最初に発表されたPS/2は、Model 30(8530)、50(8550)、60(8560)、80(8580)の4モデルで、このうちModel 30/50がデスクトップタイプ、Model 60/80がフルタワー型である。またModel 30は、CPUに8086、バスはATバスが採用されていた。この30用に登場したVGAカードが、現在使われているビデオカードの原型である。
このPS/2シリーズでは、主要なオプションや機器は、全て「Persoal System /2 ~」という名前になっていた。マウスが「Personal System /2 Mouse」という名前であったため、ミニDINコネクタを使った現在のマウスを従来のシリアルポートに接続するマウスと区別するために、PS/2マウスと呼ぶようになった。ちなみに、多くのPC/AT互換機でシリアルポートが2つあるのは、マウスの接続で片方が占有されてしまったからである。
またキーボードは、ATの後期型に採用されたEnchancedキーボード(いわゆる101キーボード)だが、コネクタがマウスと同じミニDINに変更されている。こちらも、従来のATのコネクタと区別するためにPS/2タイプと呼ばれる。
このPS/2では、従来通りPC DOSが使われたが、さらに16bit CPU用のOSとしてはOS/2が用意された。もちろん、PS/2用のOSだからOS/2なのである(なお、IBMはかつてOS/1と呼ばれるOSを出したこともある)。
このPS/2を巡っては、業界が大騒ぎになった。まず、IBMがPS/2で386を出す前に米Compaqが先にAT互換機として386を採用してしまった事。次にMicro ChannelがATバスとの互換性を持たなかった事である。またこのPS/2には、登場前から「互換機つぶし」という話が出ており、Micro Channelのライセンスに関して不透明な部分が多かった(一時は、他社にはライセンスしないと言われていたことがあった)。このため、CompaqやHPを中心とした互換機メーカーは、ATバスを拡張した32bit対応バスとしてEISAを開発。業界は、EISA派とMicroChannel派(一部互換チップが登場し、タンディなどが採用)に2分されることになる。
i386DX(32bitバス)とコプロセッサコネクタ。Intelのプロセッサは、8086/80186/80286とずっと80x86だったのが、ここにきて、急にi386DXと80が取れた。発表時は80386だったんだけどねぇ。ちなみに後ろにつくDXは、16bitバスのi386SXが出て、32bitバスのものと区別するために付けられた記号 |
現在はISAバスを備えたマシンはあっても、Micro Channelを搭載したマシンをほとんど見かけないことから、この派閥争いの結果はおわかりいただけるだろう(なにせ、IBMもいまだにISAバスのマシンを出しているぐらいだから)。しかし、Plug&Playを実現したMicro Channelに対抗して、同等の機能を実現したEISAのボードIDが、Windows 95のPlug&Playでも利用されるなど、現在のパソコンは、このPS/2の遺産を大きく受け継いでいるといっても過言ではない。
しかもこのPS/2は、ドライバーを使用せずに分解することが可能な作りになっているほか、本体内に設置されたケーブルは、スピーカーとマザーボードをつなぐものぐらいという徹底した作り。このメンテナンス性の高さは、かなりのものだ(もっとも、HDDやFDDは特殊な専用形状だった)。
なお国内では、日本アイ・ビー・エムが独自に開発した5550シリーズの後継としてPS/55という名称で販売された(一部、日本独自の5550後継機を含む)。
最近の最大のニュースといえば、PS/2の発売だという。なぜ、こんなに騒がれるのかよくわからないが、PC Watch編集部から「ぜひ、PS/2の解説を」と依頼がきた。そこで記憶を頼りにこの記事を書いたのだが、なぜ、いまごろPS/2なんでしょう? そういえば、IBMは、'90年にPersonal System/1というのを出したんだけど、誰も覚えちゃいないか。
□日本アイ・ビー・エムのホームページ
(4月1日現在、これらの製品に関する情報は掲載されていない)
http://www.ibm.co.jp/
(2000年4月1日)
[Reported by 塩田紳二]