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元麻布春男の週刊PCホットライン

期待のMPEG-2録画カード「SmartVision Pro」を試す


■注目されるチューナー付きキャプチャカード「SmartVision Pro」

NEC「SmartVision Pro」
 以前にも書いたが、筆者の仕事マシンには必ずTVチューナーカードがインストールされている。これはWindows 3.0以来の伝統であり、現在はTVチューナー/グラフィックスカード一体型のATI All-In-Wonder 128を用いている。そんな筆者だから、ある新製品を見逃すわけがなかった。それはNECの「SmartVision Pro」だ。早速購入してテストしてみた。なお、標準価格は34,800円だが、秋葉原での店頭価格は29,800円だった。

 All-In-Wonder 128にできなくて、SmartVision Proでできること。筆者にとってそれはADAMS-EPGによる番組表データの管理と、それを用いたTV番組のデジタル録画だ。ほかにデータ放送(ADAMS、BitCast、文字放送)を見ることも可能だが、こちらに対する要求は決して高くない。というより、すでに所有するカードの中に対応したものがある(GV-BCTV2/PCI)にもかかわらず、利用することがほとんどない、ということが分かっているからだ。対応していないより対応している方がベターだが、不可欠だとは思っていない。

 もう1つわかっているのは、この手のデバイスは実際に使ってみないと欠点が見えてこない、ということだ。たとえば、この種の製品の使い方だが、筆者はWindowsデスクトップの隅にTVを表示しておき、何かあった時にそれを録画(キャプチャ)する、といった使い方をしたい。だが、すべての製品がこうした使い方に向くとは限らない。また、この種の製品は、どうしてもある種の制約がつきまとう。PCの外部バスがISAだった時代は、バスに対し負担をかけないアナログオーバーレイが主流だった。この当時は、組み合わせるグラフィックスカードとの相性、解像度やリフレッシュレートに対する制約が悩みのタネだった。現在の主流であるPCIバス経由のデジタルオーバーレイでは、こうした制約は大幅に緩和されているのだが、だからといってすべてOKとも限らない。結局、購入して試してみるしかないのである。

■録画ソフトPURE DIVAが製品のキモ

 さてSmartVision Proだが、一言で表せばデジタルオーバーレイによるTVチューナー付きのビデオキャプチャカード、ということになる。ビデオの入力は可能だが(内蔵チューナー以外のビデオソースのキャプチャはできるが)、ビデオ出力機能は備えていないため、キャプチャしたビデオソース、あるいは編集したビデオソースを民生用のVTRに出力することはできない(実際、本格的なビデオ編集用ソフトは添付されていない)。ハッキリ言って、このくらいの機能を持ったハードは今までにもあった。

 本製品の目玉は、なんと言っても添付されているソフトウェアにある。中でも、PURE DIVAという録画アプリケーションが、最大のウリだ。PURE DIVAを使うと、いわゆるTVのタイムシフト視聴や、TV番組のハードディスク録画が可能になる。タイムシフト視聴とは、時間を多少ずらしてTVを見ることを指す。たとえばTVを見ている最中に電話がかかってきたとしよう。その時、TVに一旦停止をかけて、電話が終わってから続きを見る、ということがタイムシフト視聴で可能になる。こうしてリアルタイムの放送を数分遅れで追いかけて見ていきながら、途中のCMを早送りしてリアルタイム放送に追いつく、といったこともできる。

 TV番組のハードディスク録画は、文字通り、TV番組をハードディスクにキャプチャする機能のこと。PURE DIVAでは「MPEG-2相当の独自フォーマット」でハードディスク録画ができる。画質はおおむねVHS並みと考えれば良いだろう。だが、独自フォーマットというのがくせもので、PURE DIVAで録画したファイルは、PURE DIVA以外のアプリケーションで再生することができない。PURE DIVA自体は、ビデオ編集機能どころか、静止画キャプチャ機能すら備えていないため、PURE DIVAで録画したデータは、全く再利用することができない。著作権保護に配慮しての措置なのかもしれないが、これでは1回見たら消す、という使い方以外考えられなくなってしまう。もちろん、デジタルで録画することには、巻き戻しがいらない、倍速再生などが安定して行える、といったメリットがあるのだが、データの再利用が全く許されないのでは魅力が半減する。

 これを補うかのように、SmartVision Proにはもう1つ別の録画アプリケーションが付属している。BitCastブラウザがそれで、静止画のキャプチャ機能を備える。動画のキャプチャに用いるCODECとしては、MPEG1あるいはAVIの選択が可能で、AVIフォーマットを選択することで、編集を含めた動画データの再利用も可能になるものの、画質の点でPURE DIVAに遠く及ばない。やはりTV番組の録画にはPURE DIVAを用いる、というのがSmartVision Proの正しい?利用法だろう(そうでなければPURE DIVAの存在価値がなくなってしまう)。

 単にTVを録画するということだけ考えれば(編集や静止画を取り出そうというのでなければ)、PURE DIVAの使い勝手は悪くない。筆者が短時間試したところでは、録画動作もなかなか安定している。使い勝手の点で特筆したいのは、ADAMS-EPGによる番組表機能とのリンクだ。ADAMS-EPGは、TV朝日系の地上波の帰線消去期間を利用したデータ放送、ADAMSの1コンテンツとして送信されている番組情報である(無料)。SmartVision Proは、受信したADAMS-EPGのデータを番組表という形で表示するだけでなく、番組をダブルクリックするだけでPURE DIVAによる録画ができる。

■結局、乗り換えには至らず

ADAMS-EPGのウィンドウはこれ以上に拡大できない
 しかし良いところばかりではない。ADAMS-EPGは、24時間常時放送されているわけではなく、1日10回、各回10分間の放送であるため、初回、あるいはしばらくPCの電源を落としたままにした場合など、すぐに番組表機能を利用することができない。また、番組表に表示できる放送局の数がなぜか4局に限られているため、番組表をフルスクリーンにして多くの局を一覧するといった使い方もできない。ほかの媒体との兼ね合いがあるのかもしれないが不便だ。

 もう1つ、番組情報の受信とPURE DIVAによるTV録画が排他の関係にある、ということも不自由に感じる。番組情報の受信は、毎日定時に行うよう設定しておくことが可能だが、その時間に録画したいTV番組が生じると、その設定を変更しなければならなくなる。TVチューナーを2つ持つということがコスト的に難しいのならば、TV番組の録画を優先し、自動的に番組情報受信をずらす、といった機能があれば良かったのだが。

 だが、筆者にとって何にも増して辛かったのは、PURE DIVAが1,024×768ドット解像度および800×600ドット解像度しかサポートしていない、ということだ。筆者は21インチCRTディスプレイで1,600×1,200ドット解像度を常用している。この解像度で利用できないというのは筆者にとって致命的である。EPGの利便性は認めるものの、高解像度のサポート、キャプチャしたデータの再利用性の2点で、All-In-Wonder 128の方をとる(決してこれがパーフェクトだと言うわけではないが)、というのが現時点での筆者の結論だ。

 実はすでにPURE DIVAをプリインストールしたAVパソコンも存在する。そのいずれもが最大解像度が1,024×768ドットの液晶ディスプレイとセットになっている。液晶ディスプレイを使っているユーザーならば、SmartVision Proのこの欠点も問題にならないかもしれない。そうしたユーザーにいくつかアドバイスをしておこう。

 まずSmartVision Proは動作環境としてPentium III 500MHz以上が要求されている。たとえばCeleronではインストールができないので注意が必要だ(インストール後にCPUを差し替えたところ、とりあえずPURE DIVAは起動したが、性能上の制約が出るだろうし、メーカーサポート対象外となる)。また、今回は試すことができなかったが、AMDのプロセッサではPURE DIVAは動作しないものと思われる(パッケージにも“Intel製のCPUでのみご利用頂けます”と明記されている)。もともとPURE DIVAの原型とでもいうべきソフトは、IntelがStreaming SIMD Extension(SSE)のデモ用に作ったものだ。他社のプロセッサで動かなかったとしても、何の不思議もない。

 なお、OSサポートはWindows 98 Second Editionのみだが、SmartVision Proのインストール時に頻繁にWindows 98 Second EditionのCD-ROMを要求する。容量に余裕があるのなら、ハードディスク上にWindows 98 Second Edition CD-ROMのWin98ディレクトリを丸ごとコピーしておくといいだろう。

□製品情報
http://www.psinfo.nec.co.jp/inet/bitcast/

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(2000年3月22日)

[Text by 元麻布春男]


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