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元麻布春男の週刊PCホットライン

SuperDiskを採用したデジタルカメラ「LK-RQ132S」


■記録メディアにSuperDiskを採用したデジタルカメラ

 あまり広くは知られていないかもしれないが、松下電器はデジタル化以前からカメラ、つまり銀塩カメラを商品ラインナップに加えていた。特に、ラジオとカメラが一体になったラジカメは、「松下らしさ」が出た商品として記憶に残っている。

 さて今回取り上げるのは、Panasonicブランドで販売されるデジタルカメラ、「LK-RQ132S」でSUPER D-CAMという愛称がつけられている。このカメラの最大の特徴は、記録メディアに容量120MBのSuperDisk(LS-120)を使っているということだ。現在、SuperDiskは1枚900円前後で市販されている。当然のことながらCompactFlashやSmartMediaといったFlashメモリカード(半導体メディア)に比べて、格段にバイト単価が安い。

 1/2.7インチ132万画素のCCDを備えた本機は、1枚のSuperDiskに、SuperFineモード(1,280×960ドット)で480枚、Fineモード(1,280×960ドット、高圧縮)で976枚、Normalモード(640×480ドット)なら1,537枚もの静止画を記録することができる(いずれも音声なしの場合。本機は音声付きの静止画を記録することもできる)。また、最大10秒の動画(QuickTime)を90個(計900秒分)を記録することも可能だ(通常のフロッピーディスクを使うこともできるが、当然記録可能な枚数は減る)。

 これらのデータは、SuperDiskドライブを備えたPCであれば、メディアから直接読み出すことができるが、USBポートを備えたWindows 98ベースのPC(あるいはMac OS 8.1以降のMacintosh)であれば、本機を直接USBケーブル(付属)で接続することもできる。この時、本機はUSB接続の外付けSuperDiskドライブとしても利用できる(等速ドライブ相当。またリアルタイムに画像をUSB経由で転送することはできない)。


■SuperDisk採用により大型化したが……

左がLK-RQ132S、右がPowerShot S10
 このバイト単価が安いという長所の反面、SuperDiskを採用したことのデメリットとして、デジタルカメラのサイズが大きくなるということが挙げられる。比較のためにキヤノンのPoweShot A10と比べてもとても大きい。確かに、PowerShot S10は、このクラスで最も小さい部類に入るカメラだが、それにしても大きい。率直に言えば、ほかのデジタルカメラが35mmカメラサイズだとしたら、本機はセミ判(6×4.5判)カメラ、というところだ。

 フイルムのカメラなら本体の大型化によりフィルムサイズが大きくなれば、高画質になるという利点があるが、本機には残念ながらそれはない。ここまで大きさが違えば、もはや携帯性などを同じ観点で比べる気にはならない(ちなみに標準添付のリチウムイオンバッテリ、充電器ともに巨大だが、ビデオカメラのものを流用しているようだ)。ボディの大きさのメリットが感じられるような、突きぬけた性能(特に画質)が欲しくなるのだが、どうもそれが見当たらない。132万という画素数は、200万画素から300万画素へと主流が移ろうとしている現時点で、少なくとも飛び抜けたものではない(必要かどうかの議論は別として)。1/2.7インチというCCDのサイズも、大型をうたえるものではない。得られる画質も、このCCDのスペックから予想できる範囲のものであり、ずば抜けた何かがあるわけではない。

 これだけ大きいのだからたくさん記録できるということ以外に、画質の点で1つでもいいから突出したものが欲しいと感じるのは筆者だけだろうか。本機はレンズキャップではなく、レンズバリアを採用するが、今時珍しく手動式になっている。大半のカメラが電動式であることを考えれば、煩わしさの点で不利なのだが、もし明らかな画質メリットがあれば、大きさと合わせ、セミ判カメラのような存在として、手でレンズバリアの開閉を行なうという「儀式」も許されたように思う(電子音で銀塩カメラのシャッター音を出せるのも愛嬌だろう)。

 もう1つSuperDiskで不利なのは、起動に時間がかかるということだ。電源オフ状態からRECモードへ切り換えて撮影可能になるまで10秒強。その間ディスクアクセスランプは点きっぱなしになる。ちなみに、沈胴式のズームレンズを搭載した200万画素機であるPowerShot S10は撮影可能になるまで約3.5秒、単焦点130万画素機であるオリンパスC-840Lに至っては1秒強で撮影可能となる。磁気ディスクメディアの不利は、どうしても否めない。


■SuperDiskのメリットは?

 SuperDiskというメディアを採用したことには、事実上撮影枚数を気にしないで済む大容量、およびメディア単価とバイト単価の安さというメリットと、カメラ本体の大型化と起動時間の長時間化というデメリットのトレードオフがあることになる。問題は、このトレードオフについてメリットが上回るユーザー像がなかなか見えないことだ。おそらく一般的なユーザーの利用形態は、Flashメモリメディアがいっぱいになったら、ハードディスクに吸い上げて保存するという方式で、Flashメモリメディアに画像を保存するユーザーはあまりいないものと思われる。つまり、Flashメモリメディアを何枚も、あるいは何十枚も持つ人はそれほど多くないハズだ。せいぜい2~3枚のメディアしか必要としないのであれば、SuperDiskのメディア単価の安さはあまり影響しない。

 少し前まで、PCに内蔵されるハードディスクの容量はそれほど大きくなかったし、バイト単価も今よりは高かった。その時代は、ハードディスク上にデジタルカメラで撮影した画像を置きっぱなしにする、という「贅沢」は、おそらく許されなかった。その状況が続いていれば、安価なSuperDiskに画像をとっておける本機は今よりも存在意義があっただろう。しかし、ハードディスクの容量はアッという間に30GBを超え、その価格も劇的に低下した。バックアップという問題はあるものの、容量的にデジタルカメラで撮影した静止画をハードディスク上に置きっぱなしにすることには、もはや何の問題もない。

 そういう意味では、SuperDiskを搭載したというメリットは、PCユーザーより非PCユーザーに、意味があると言える。しかし、PCを持たないユーザーの場合、記録された画像を整理するのが大変だ。特にSuperDiskのように容量が大きく、収録可能な画像数が多いとなおさらである。やはり本機を使いこなすには、PCがあった方が良いに決まっている(実際、本機は松下グループのPC用周辺機器ブランドであるP3ブランドで販売される)。おそらく、静止画で480枚という記録枚数は、一般のユーザーにはオーバーキルなのではないかと思う。前述のトレードオフは、どうも国内のユーザーを想定する限り、成立しない気がしてならない。

 筆者は、サーバーを除き手持ちのPCのほぼすべてにSuperDiskドライブを装着する、世にも珍しい? ユーザーの1人である。しかもデスクトップPCは大半が第2世代の倍速ドライブに切り替わっているし、ノートPC用にPCMCIAのドライブさえ持っている。そんなSuperDisk好き? の筆者であっても、現状ではデジタルカメラにSuperDiskを搭載することに関するトレードオフが成立する気がしない。もし、本機が10秒の動画ファイル90個ではなく、900秒つまり15分間の連続した動画をSuperDiskに記録できるのであれば、トレードオフが成立して「おつり」がくると確信するのだが……。それならば、ソニーのMD DISCAMに、ちょっと違う切り口で動画の品質では負けても静止画と価格の安さで対抗できる可能性があると思う。

 だが、このカメラの商品企画は、記録メディアにSuperDiskを使う、というアイデアなしでは成立しなかったハズだ。すでにP3ブランドには、同じCCDを用い、メディアにCompactFlashを採用したLK-RQ130Zがある。SuperDiskが不要なら、こちらを買った方が価格も安い(本機の115,000円に対し74,800円)し、本機に欠けている光学式ファインダーもある(ただし液晶パネルは本機の方が2.5インチと大きい)。

 実は本機は、国内では2月1日に発表されたものの、当初米国のみで販売されており、国内では販売されていなかった。米国では、なぜかソニーのマビカ(例の「フロッピーに撮るからでーす」というCMのカメラ)が非常に良く売れたため、おそらく本機はその対抗商品として企画されたものと思われる。国内市場にどうもマッチしない気がするのは、そのためかもしれない。

□松下電器産業のホームページ
http://www.panasonic.co.jp/panasonic-j.html
□製品情報
http://www.pcc.panasonic.co.jp/p3/products/camera/camera/lkrq132s/index.html

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(2000年3月8日)

[Text by 元麻布春男]


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