開催期間:2月24日~3月1日
CeBIT 2000の会場で、いくつかのマザーボードベンダがIntelおよびVIAの最新統合型チップセットを搭載したマザーボードを公開した。ただし、両チップセットとも当のチップセットベンダからのリリースなどは何もないという、やや変則的な展示となっている。水面下の戦いながら似たようなスペックの両製品による熱い戦いが繰り広げられている。
●IntelはIntel 815の展示にNO!それでもいくつかのマザーボードベンダがブースに展示
Intelは先週行なわれたIntel Developer Forum(IDF)において、これまでコードネームSolanoで呼ばれてきた次世代統合型チップセットの製品名がIntel 815であることを明らかにした。今回のCeBIT 2000ではいくつかのマザーボードベンダからIntel 815を採用したマザーボードが展示されていた。IDFの展示会でもDDWGのブースにひっそりと展示されていたものの、撮影することはできなかった。今回のCeBITではいくつかのマザーボードベンダのブースでIntel 815搭載マザーボードを撮影することができた。
しかし、展示していたのはどちらかと言えば日本ではあまり見かけないような中小のマザーボードベンダで、ASUSTeK Computer、GIGA-BYTE Technology、MSI、AOpenといった大手のベンダには展示されていなかった。しかし、顧客である代理店関係者やOEMメーカーなどの関係者向けなど限られた人達には公開していたようだ。匿名を条件にこの件に関して説明してくれたある大手マザーボードベンダ関係者によると「IntelからCeBITではIntel 815の展示はできないとする通達があった」ということだ。マザーボードベンダはIntelが製品を発表するまでNDA(Non Disclosure Agreement)と呼ばれる秘密保持契約を結んでおり、基本的にはIntelが定める公開ガイドライン(例えば製品発表までは一切ボードを公に展示してはならないなど)に従って展示などを行なう必要がある。今回のCeBITでは「NO」が出たため大手のマザーボードベンダでは展示されていないという訳だ。
Intel 815のGMCH(FW82815)。外部AGP関連のピンが増えているため、ピン数はIntel 810/810Eよりも増えており544ピンのBGA | Intel 815搭載マザーボード。AELTAのマザーボード |
それでは、なぜ大手ではない中小のマザーボードベンダはIntel 815搭載マザーボードを展示しているのだろうか? これはおそらくIntelとの関係の遠近が関係している。前出のいわゆる大手のマザーボードベンダはIntelと直接取引を行ない、直接サポートを受けているいわゆる「ダイレクトアカウント」と呼ばれる特権をIntelから与えられているメーカーだ。もしIntelとのNDAに反する行為を行なった場合、ダイレクトアカウントを取り消される可能性がある。ダイレクトアカウントがあれば、ほかのマザーボードベンダより早く新チップセットに関する情報をもらえるなど恩恵は決して小さくなく、各社ともそうしたIntelとの関係に悪影響を及ぼすことを恐れている。これに対して、中小のマザーボードベンダの多くは、チップセットをIntelの代理店から購入しており、情報も代理店経由で入手している(このため、ダイレクトアカウントを持っているベンダに比べると情報の入手は遅くなる)。マザーボードベンダからすれば取り引きしているのは、あくまで代理店でありIntelではない。そうした意味で危機感が大手メーカーに比べると低くなるいう訳だ。
ただし、こうした展示も初日だけになるかもしれない。過去にも初日には堂々と展示されていたものが、2日目、3日目になるにつれて撤去されていくということがあった(各社ともIntelから警告を受けてやめたということなのだろう)。もしCeBITに来ている方でIntel 815を見たいと考えているのであれば、早めにHall 13にあるマザーボードベンダのブースをチェックすることをお奨めする。
●Intel 815Eを待つのかIntel 815でいくのか~困惑するマザーボードベンダ
さて、Intel 815に関する取材を続けていく中で、多くのマザーボードベンダが言及していたのがIntel 815とその後継であるSolano2ことIntel 815E(Intelは先月のOEMメーカーへのロードマップの中でSolano2のブランド名がIntel 815Eに決まったことを通知している)のスケジュールが非常に近くなってしまったことにより、出荷するタイミングが難しくなったということだ。Intel 815EとはIntel 815のICHを強化版のICH2に変更したIntel 815の後継チップセットだ。
IntelがIntel 815E(およびIntel 820E=Camino2)で導入を予定している次世代ICHであるICH2(FW82801BA)。Ultra ATA/100のサポート、イーサネットコントローラの内蔵、4ポートUSBのサポートなどの新機能が搭載される。6月に出荷される見通し |
元々Intel 815は5月出荷を目標にバリデーション(互換性検証)やマザーボード設計などの作業が進んでいる。このスケジュールに関しては、'99年の秋にマザーボードベンダに対して行なわれた製品説明の通りに進行している。これに対して、'99年の段階では9月というスケジュールで説明されていたIntel 815E(Solano2)が、6月に前倒しになってしまった。マザーボードベンダは5月にIntel 815搭載マザーボード、9月にIntel 815E(Solano2)搭載マザーボードを出す計画だったが、Intel 815が5月、Intel 815Eが6月となると、Intel 815Eまで待つという考え方もできる。ここで問題になるのはICHとICH2はピン互換ではなく、Intel 815とIntel 815Eではそれぞれ別のPCB(基板)が必要になってしまうということだ。このため、Intel 815、Intel 815Eと立て続けに2つのチップセットを搭載したマザーボードを出荷するには、2種類のPCBを用意し、製造ラインも2つ用意しなければならず、コストがかさんでしまうのだ。
この問題はマザーボードベンダにとって非常に頭が痛い問題のようで、あるベンダはIntel 815は飛ばしてIntel 815Eを待つことにし、あるベンダは決めかねているというのが現状のようだ。最近のマザーボードベンダ関係者では「最近のIntelのチップセット部門は何を考えているのだ」というのが共通の意見のようで、Intelのチップセット部門(PCG:Platform Componets Groups)への不満を聞くことが非常に多い。'99年のIntel 820延期以来失点続きのPCGだが、ここでも再びマザーボードベンダの不興を買ってしまっているようだ。
●VIAが「未発表の製品」と説明するApollo PM133搭載マザーボードも多数展示
Intel 815に対抗する製品を計画しているVIA Technologiesは、今回自社のブースでは特にそれに関する展示はなかった。しかし、いくつかのマザーボードベンダのブースではVIAのIntel 815対抗のP6バス(Pentium III、Celeron向け)統合型チップセットであるApollo PM133(VT8605)を搭載したマザーボードを展示していた。VIAのブースでVIAの関係者にこの件を尋ねてみたところ「現在発表前の製品でありお答えできない」という答えだった。
VIA Technologiesの新統合型チップセットであるApollo PM133(VT8605)。VIAが何もアナウンスを行なっていないにもかかわらず多くのブースで展示されていた | VIAのApollo PM133を搭載したマザーボード。左がFICのFR31、右がProcomp InfomaticsのBVE1M |
VIAのApollo PM133はグラフィックスコアにパートナーであるS3のSavage4を採用した統合型チップセットで、特徴としては内蔵のグラフィックスアクセラレータを無効にして、外部AGPスロット(4Xモード対応)を利用することができるようになることだ。つまり、同じような仕組みになっているIntel 815/815Eと真っ向からぶつかる製品だと言える。ただ、Intel 815がAIMM(Agp Inline Memory Module)と呼ばれるAGPスロットに挿すメモリモジュールを利用して4MBのディスプレイキャッシュを増設することができる仕様になっているのに対して、Apollo PM133はいかなるローカルのビデオメモリもサポートしていないという違いはある(VIAの統合型チップセットでローカルのビデオメモリをサポートするのは、Savage2000を統合した次世代のApollo PM266以降になる)。このApollo PM133を搭載したボードは、VIAとは同じグループに属するFICなど多くのメーカーで展示されていた。
最も大きな問題はApollo PM133の出荷時期が明確ではないことだろう。マザーボードベンダによると、VIAはマザーボードベンダに対してApollo PM133の出荷時期を第2四半期と説明しているようだが、マザーボードベンダの多くはそうしたスケジュールに懐疑的なようだ。VIAは統合型チップセットであるApollo MVP4のスケジュールが大幅にずれ込むなどの「前科」があり、VIAの規模から考えても今回も遅れる可能性は十分にある。
Intel 815にはないApollo PM133の特徴として、Apollo Pro133Zというグラフィックスコアをはずしたスタンドアローンバージョンも用意されている。マザーボードベンダはApollo PM133とApollo Pro133Z搭載マザーボードを同じPCBで作ることが可能になり、皆が必要としているスタンドアローンバージョンのIntel 815を持たないIntelに対してコスト面でのアドバンテージを持っている。そうした意味ではVIAが本当にIntel 815と同じタイミングで出荷できるのであれば、ライバルとして十分戦っていけるだろう。
□CeBIT 2000ホームページ
http://www4.cebit.de/index_e.html
(2000年2月25日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]