●AOL Time Warnerは「インターネット=新メディア産業」の象徴
ギガ・メディア企業が誕生する! --AOLとTime Warnerの合併は、日本では直後のMicrosoftのCEO交替の話題で霞んでしまったが、米国では、一段大きな話題としてとらえられている。
だが、「巨大」という部分に焦点を当てるのは間違いだ。「一企業」の変化と捉えるのも違う。AOL Time Warnerの誕生は、もっと根本的に、インターネット上のサービスの捉え方、インターネットの産業構造が変化することを意味する。どうせなら「新メディア産業が誕生する」と言ったほうがいいだろう。
AOL Time Warnerが騒がれる理由は、AOLが持つ2,200万人加入のオンラインサービスと、Time Warnerが持つ雑誌、書籍、映画、音楽、CATV番組などのコンテンツ、それに全米の20%世帯が加入するケーブル網という、膨大な資産同士が合体するからだ。それを使えば、広帯域のケーブルやインターネットを使い、娯楽、情報、ショッピング、バンキング、コミュニケーションなどの様々なサービスを統合的に家庭に提供できるというわけだ。
どこかで聞いた話? そう。新サービスの夢は、「インタラクティブTV」などでさんざん語られてきたし、新サービスを支配したいと、AOL、Time Warnerをはじめ、Microsoft、AT&T、ソニーなどが戦略を練ってきた。他の企業との提携や買収も盛んだった。でも、どの企業も暗中模索なのは明らかだった。サービスの前提と考えられる広帯域通信自体がまだ整わない状況ということもあったが、それよりも、どういうビジネスモデルで、どういうサービスをすればリビングルームで受けるのか、どの企業も具体的には青写真を描けていない感じだったのだ。
AOLとTime Warnerも、まだどんなサービスを目指すとは言っていない。でも、この合併で、今までの企業の動きのどこに間違いがあったのか、見えたように思う。
今回の2企業の合併で新しいのは、資産の物量ではない。オンラインサービスという新メディアのAOLが旧メディアのTime Warnerを買い、イニシアチブをとる点だ。新会社の株の55%はAOLが持ち、AOL創業者のスティーブ・ケース氏が会長になる。
AOLのケース氏は子供時代から会社作りを目指したマーケッターだ。ピザやヘアケア製品のマーケッターをしたこともある。技術は手段と割り切り、消費者に受け入れられるサービスとは何かを第一に考えてきた。だからAOLは早くからGUIやコンテンツ重視のサービスを行ない、チャットルームやインスタントメッセージなどのコミュニケーションにも力を入れたり、大胆な固定料金制を取り入れたりもした。彼のアプローチは成功し、AOLはNo.1オンラインサービスになった。
これが意味しているのは、オンラインサービスで重要なのはこういったコンテンツの集め方、見せ方、ビジネスモデルといったノウハウだということだ。一時、インターネットを制するには「ポータル」を制することと言われたが、「ポータル」という言葉の流行があいまいながら示唆していたのは、やはりこうしたサービスのノウハウの重要性だった。コンテンツはたっぷりあったTime Warnerのポータル「Pathfinder」が大赤字で失敗したのは、見せ方がうまくいっていなかったからだ。Time Warnerはそれがわかったからこそ、AOLに指導を仰ぐことにしたのだ。
では、Microsoftの場合はどうか。
CEO辞任で、ゲイツ氏はインターネット時代にふさわしいソフトウェア開発に専念すると宣言、Windows CEをPocket PCと呼び替えたり、Internet Windowsを開発すると言ったりした。そこに見えるのは、リビングルームのサービスを支配するカギであるプラットフォーム(基準、基盤)は、サービスを載せるデバイスのソフト技術だという考えだ。
でも実際問題、MSNもWeb TVもWindows CEも、インターネットではMicrosoftのプランはどれもなかなかうまくいっていない。ということは、ゲイツ氏の考えはじつはとんでもなく間違っていることになる。ゲイツ氏は子供時代からのコンピュータおたくだし、なまじMicrosoftはPCのOS支配で成功を築いてきたので、路線を変えられないのだろう。
つまり、リビングルーム向けのサービスを行なうのに、PCだろうが、TVだろうが、冷蔵庫だろうが、デバイスは重要でない。だからデバイス上のソフトも重要でない。プラットフォームとして重要なのは、同じ「ソフト」でもコンピュータプログラムではなく、サービスの提供の仕方という「ソフト」だというのが正しい捉え方で、その捉え方ができる企業が新インターネット時代を築くのだ。もしかすると、インターネット時代とか広帯域時代という言い方さえも、インフラを強調しすぎた、誤った言い方なのかも知れない。AT&T(DSLを推進する地域電話会社と競合し、ケーブル企業TCIを買収している)のような通信インフラ企業の弱点も、同じところにある。
インターネット産業は今までコンピュータ産業とひとくくりにして、ハイテク産業と捉えられてきた。でも、コンピュータ関連企業はどこまでいってもモノ作りのメーカー。AOLとTime Warnerの合併が示すのはインターネットはメディア産業と捉え直したほうがいいということだ。
考えてみればインターネット企業のYahoo!、E-Bay、Amazonなどは皆、新しい売り方、新しいコンテンツの発明で成功してきた。これを見ても、インターネット上のサービスの成功はデバイスのソフトウェア技術などにはないことがわかる。今後、AOL Time Warnerとの競争上、有力企業の合併や提携はさらに活発化するだろう。でもインターネット企業の側がイニシアチブを取るのでなければ、成功の可能性は薄いのではなかろうか。
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【1月11日】
速報 米AOLとTime Warnerが合併。メディアとコミュニケーションの巨大企業誕生(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0111/aoltw.htm
[Text by 後藤貴子]