デルが、3月27日から国内販売を開始したAdamo。早くも発売から10日を経過した。 デルでは、具体的な販売数量には言及しないものの、その出足の良さを示唆した。 「予定していた1カ月分の数量を、わずか10日間で販売した。予想の2倍以上の売れ行きを見せている計算になる」と、デルのコンシューママーケティングノートブック製品プロダクトマネージャの佐々木邦彦氏は語る。 Adamoは、Inspironシリーズのようなメインストリームの製品ではないため、販売計画はそれほど大きくない模様だが、それでも予想を大幅に上回る出足となっていることは明らかだ。 通常は2週間の納期が、現在では3~4週間の納期となっており、「ゴールデンウイークには、通常の2週間での納品体制体制に戻したい」(同)としている。ここからも予想以上の売れ行きとなっていることが裏付けられる。 ●デザインと機能を両立
Adamoは、削りだしのアルミを筐体に採用。16.4mmという薄さと、洗練されたデザインを実現しているのが特徴だ。 先日来日した米Dellのマイケル・デル会長兼CEOが、「Adamoは、美しいデザインの製品として、また優れた機能を搭載した、イノベーティブな製品として投入したもの。デザイナーズウォッチを所有するような、ファッションに強い意識を持ったユーザー、また、ベストなエンジニアリングを求めるユーザー、デザイン性を求めるユーザーを対象に販売していきたい」としたように、デザイン性に徹底的なこだわりを見せて、製品化したものである。
その証として、PCに貼付されているマイクロソフトのWindowsのロゴシール、IntelのCPUのロゴシールは裏面部に刻印の形で描かれ、シリアルナンバーも背後の目立たないところに配置。WindowsのプロダクトIDや各種マークは、磁石によって閉じられている蓋の内側というように、デザイン性を損なわない配慮が行なわれている。 また、マニュアルもデザイン性を重視した最低限のものにし、シンプルさを追求している。
液晶は、13.4型を採用。SSDを搭載し、上位モデルの「DESIRE」は、Core 2 Duo SU9400(1.4GHz)、4GBメモリを搭載して、276,000円。CPUにCore 2 Duo SU9300(1.2GHz)、メモリ2GBを搭載した下位モデルの「ADMIRE」の価格は205,000円。 重量は1.81kgとやや重いが、駆動時間は5時間と、モバイル環境での利用も視野に入れたものと同社では説明し、「実際に持ち運んで、見せびらかしながら使ってもらいたい」と語る。 カラーは、パール・ホワイトとオニキス・ブラック。「男性にも、女性にも使ってもらえるように2色を用意した。女性からは、パール・ホワイトの人気が圧倒的に高い」としている。 初期需要におけるオニキス・ブラックとパール・ホワイトの比率は7対3でオニキス・ブラックが多い。また、上位モデル「DESIRE」と下位モデル「ADMIRE」の構成比は6対4で、DESIREが多いという。 「事前の予想では、上位モデルの比率は2割程度と予想していたが、結果は逆転している。初期需要では上位モデルに人気が集中する傾向があるが、それを勘案しても、上位モデルの人気が高い。これもデザインと高機能に対する高い評価の表れだろう」(佐々木氏)として、この点でも手応えの良さを感じているようだ。 ●“デルらしくない”デザインとメッセージ Adamo以外にも、デルのデザイン性に対する評価は着実に高まっている。 それは、同社の予想を常に上回る形で、デザインモデルの人気が高いことからもわかる。 例えば、Studio Hybridでオプションとして用意した竹による筐体カバーは、16,000円というオプション価格であることから、数%の構成比に留まると見込んでいたが、日本では3分の1弱の構成比という驚くべき人気となった。 また、Studioシリーズに用意したニューヨーク在住アーティストのマイク・ミン氏がデザインした天板も、全体の1割を占めるという人気ぶりだ。いずれも、日本法人の予想を上回っている。 「PCをデザインの観点から選択するユーザーが明らかに増加している。そこにデルが回答として、用意したのがAdamoということになる」(同)とする。
デザインへのこだわりは、訴求方法の変化からも見られる。 同社では、正式発表前から同社ホームページでティザー広告を展開。さらに、「あなたと、恋するために生まれた。」という、PCメーカーとは思えない斬新なキャッチフレーズを採用した。 「Adamoには、ラテン語で“新しい愛の始まり”、“恋に落ちる”などの意味がある。ネーミングには、デザインに愛着を持ってほしい、この製品を愛してほしいというメッセージが込められている」(同)。 日本語のメッセージは、実際に最終製品を見る前から、日本法人で検討が重ねられてきたが、「実際に製品を見て、この言葉が最適であることを確認し、最終決定した」という。 日本法人としても、これまでの製品と異なるメッセージに検討段階では違和感があったようだが、製品を見て、むしろ自信を深めたようだ。 「デルらしくないデザイン」、「デルらしくないメッセージ」という言葉は、ことAdamoに関しては、デルにとっては、誉め言葉のようである。 ●BTOバリエーションを封印、分かりやすいモデル設計 一方、国内PCメーカーにとっては、デルがデザインという観点から付加価値戦略を打ち出してきた点に驚きを隠さない。コストパフォーマンス重視の施策が身上だったデルが、方針を180度転換したといってもいい施策だからである。Adamoを、デルによる付加価値戦略の本格化宣言とさえみる競合メーカーもある。 これまでは、BTOによってユーザーの選択肢を広げることができるのがデルの強みだった。しかし、Adamoでは、CPUとメモリの違いで上位モデルと下位モデルの2種類。あとは2色のカラー、保証期間、Officeの有無程度しか選べない。さらにバッテリは完全に内蔵とし、メモリの増設もできないという仕様としている。 これは、コストパフォーマンスを重視するユーザー、BTOによる選択肢の広がりに期待するユーザー、あとからのメモリの増設などの拡張性を重視するパワーユーザーという、デルがこれまで得意としたユーザー層にとっては、期待を裏切るものだといっていい。 しかし、その一方で、デザインを重視するユーザー、幅広い選択肢自体が敬遠材料になっていたユーザーにとっては、プラス材料。デルにとっての新たな顧客層を獲得することができるともいえる。 「日本の自動車のように細かな機能はないものの、質感やデザイン性、持つ喜びといった点で人気を誇る外車のようなポジションを狙いたい。今回の製品は、日本のユーザーの声を反映して作られたものではないが、日本のユーザーに持つ喜びを提案できる製品であると考えている。むしろ、外国のメーカーであることの強みを訴えたい」とする。 だが、アップルがMacBook Airで開始した削りだしのユニボディを、MacBookやMacBook Proに展開したのとは違い、Adamoは、あくまでも別の製品ラインと位置づけ、他のモデルへとこのコンセプトを展開していく計画はいまのところなさそうだ。 Inspironシリーズが、文房具としての利用を狙ったコストパフォーマンス重視の製品ラインであるのに対して、Studioシリーズは、カラーバリエーション展開などにも乗り出し、コンシューマユーザーへのスタイリッシュ性を追求したモデル。さらに、その上位としてStudio XPSを用意し、パフォーマンス重視のラインアップを揃える。 これらによって、上位から下位までのラインアップを揃えるというわけだ。 だが、Adamoは、まっくた別のブランドを新たに用意したことからも明らかなように、これらの上位から下位までのラインアップとは一線を画す、別の位置に置かれる製品なのである。 「Adamoは、マイケル・デルや、コンシューマ部門トップであるロン・ギャリックスといったトップの強い意志で製品化されたもの。日本でも、新たなユーザーを獲得し、デザインという観点からのデルの新たなイメージを作り上げることができればと思っている」と、佐々木氏は意欲を見せる。 ●GW明けから本格展開 残念ながら、現時点では、エンドユーザーが、Adamoを直接手にとって、見られる場所はない。 3月27日から東京・六本木の東京ミッドタウンで開催された「Midtown Blossom Lounge」で、3日間だけ展示されたのが、今のところ唯一の機会であった。 「とにかく、見て、触っていただくことが、Adamoの販売には最適であると考えている。できればゴールデンウイーク前には、東京・秋葉原と大阪・日本橋のデル・リアルサイトに展示し、直接触っていただけるようにしたいと考えている。また現在、量販店との話し合いをはじめており、ゴールデンウイーク以降には、主要販売店に展示できるような方向で準備を進めている。まだ具体的な時期や店舗については未定だが、展示方法を含めて現在検討している段階」という。 5月以降には、一部店舗では、実際にAdamoを体験することができそうだ。 さらに、米国ではすでに販売されているBlu-ray Discドライブや、250GBおよび500GBの外付けHDDも、近々、オプションとして、日本でも追加販売されることになりそうだ。 「Adamoは注目度が高い製品。デル社員のモチベーションもあがっている。今後は、コンセプトショップや女性が訪れるような店舗でも展示することも考えたい。女性ファッション誌などにも積極的に訴求していきたい」と、需要の広がりに期待する。 一方で、オーストラリアでは企業向けに200台単位での一括受注があるなど、企業ユースでの引き合いも出ているようで、「日本でも、チャンスがあれば企業向けにも販売していきたい」とする。 デルにとっても、Adamoはどんなユーザーに対して、どんな売れ行きを見せるのかは、未知数のようだ。それは、初期の需要動向が予想外のものだったことでも明らかだ。果たして、今後、どんな売れ行きと見せるのかは、外野から見ていても楽しみではある。 □関連記事 (2009年4月7日) [Text by 大河原克行]
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