発売中 価格:オープンプライス シャープの電子辞書「PW-AT790」は、100コンテンツを搭載した生活総合モデルだ。子画面のみならずメイン画面もタッチ操作に対応。また子画面こと手書きパッドは従来モデルに比べて30%も大型化され、手書きによる入力が容易になったことが特徴だ。 カラー液晶やワンセグ搭載、センサー内蔵によるタテヨコ表示切替など、ハイエンド化が目立つ昨今の電子辞書だが、店頭の実売ベースでは、2万円前後の実売価格でスタンダードな製品が大きな割合を占めている。今回紹介するシャープのPW-AT790は、こうしたスタンダードなポジションに該当する製品だ。 ●Papyrusシリーズの最新モデル。筐体はフルモデルチェンジ まずは外観と基本スペックから見ていこう。 本製品はカラー液晶やBrainライブラリー対応の新ブランド「Brain」シリーズではなく、従来の電子辞書ブランド「Papyrus」に属する製品だ。そのため基本仕様はPapyrusシリーズの従来モデル「PW-AT780」を受け継ぐ形となっているが、筐体そのものは一新されており、全体的に丸みを帯びた手に馴染みやすい形状となっている。 筐体のサイズそのものはこれまでの製品とほぼ同等で、大きな違いはない。ただし本体重量は323gと、モノクロの電子辞書としてはやや重め。従来モデルであるPW-AT780が300gを切っていたことを考えると、重量増加の傾向は少々気になる。 画面は5.5型モノクロで、解像度は480×320ドット。今日の電子辞書の中ではとりたてて高精細というわけではないが、大きく見やすい印象だ。 従来製品と大きく変わったのはキーボード回りだ。QWERTY配列であることに変わりはないが、文字キーと機能キー、操作キーのいずれもがスクエアな形状で見分けにくかった従来製品と異なり、本製品では各種機能キーや操作キーは丸みを帯びた形状に変更され、キーの役割の違いがひとめで分かるようになった。 また、上下左右キーのサイズが大きくなり、さらにその中央に決定キーがレイアウトされるなど、携帯電話ライクな配置に改められた。実際に使ってみても、従来機種に比べて明らかに操作しやすくなっている。なお、キーレイアウトの変更に伴い、両側に備えられていたスピーカーは左側の1基のみに改められている。 目立たないところでは、従来製品では上段に配置されていたマーカー/Sジャンプ機能が、手書きパッド周りに配置されるようになった。もともとこれらのキーが、各コンテンツを呼び出すためのキーが並ぶ上段に配置されていること自体、配置スペースが足りないが故の窮余の策だったわけで、今回の変更はユーザビリティ上正しい方向に進化したといえそうだ。 一方、microSDへの移行が進む電子辞書の拡張カードだが、本製品では従来通りSDカードスロットを装備している。なお、USB端子はなく、PCからのデータ転送やUSB給電機能は持たない。 電源は単4電池×2、エネループにも対応する。電池寿命は約120時間とかなり長めだ。
●手書きパッドが大型化、新機能「かなキーボード」を搭載 本製品は、メイン画面と子画面のいずれもタッチ入力に対応した「Wタッチパネル」を採用している。カラー液晶やBrainライブラリーに対応した「Brain」ブランドでは標準的な機能だが、Papyrusブランドでは本製品が初搭載となる。 メイン画面が手書き入力に対応したことで、基本メニューにおけるコンテンツの選択などでスタイラスを使った操作が行なえるなど、従来製品に比べて操作性は大きく向上している。また、スタイラスを使って画面にマーカーを引いたり、範囲選択した単語をさらに別の辞書で検索するSジャンプ機能など、上位機種であるBrainブランドで実装された新機能「なぞって&タッチ」がフィードバックされる形で実装されたのも特徴だ。もちろん、手書き暗記メモ機能も装備されている。 手書きパッドが従来製品に比べて30%大きくなったことも特徴として挙げられる。これは競合であるカシオ製品を多分に意識したものであると考えられる。実際に測ってみたところ、手書きパッドの入力面積は48×29mm(幅×奥行き)で、カシオ製品の58×19mm(同)に比べると横幅こそ短いものの、約1.5倍の高さが確保されている格好だ。
カシオ製品の場合、横に5つのマスを表示させ、ここに連続して文字を書き込んでいくことで素早い入力が可能になるが、本製品の場合は従来と変わらず、最大2マスのままだ。また、カシオ製品ではこの横長の手書きパッドにハングルのキーボードを表示させるといったギミックも搭載するが、本製品にはそうした機能はない。 その一方、ユニークな機能として「かなタッチ入力」機能が新たに搭載された。これは手書きパッド部にかなキーボードを表示するというもの。五十音全てを詰め込むにはサイズ的に無理があるので、初期画面では「あかさたな」など五十音のア段のみが表示されており、その中から例えば「た」をタップすると、「たちつてと」「だぢづでど」「っ」といったバリエーションが表示され、目的の文字を選択できるという方式になっている。携帯電話にもない独自のインターフェイス(敢えて挙げるならiPhone 3Gの日本語入力画面が近い)で、当初は使いづらく感じたが、慣れるとそこそこ便利に使える。キーボードそのものの表示もワンタッチでON/OFFできるので、キーボードよりもタッチ操作が多い人は便利に使えるだろう。
ちなみに、メイン画面と子画面いずれもタッチ操作に対応している点はカシオ製品と同様だが、本製品の大きなアドバンテージとして挙げられるのはバックライトだ。本製品ではメイン画面のみならず子画面、つまり手書きパッドもバックライトに対応しているので、プレゼンで照明を落としている会議室など、暗い環境で電子辞書を使わなくてはいけないシチュエーションには最適だ。手書きパッドに前述の「かなキーボード」が搭載され、利用頻度が高まると考えられる中、この配慮はありがたい。 ●広辞苑第六版を搭載。メニュー画面はすっきりと使いやすく進化 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。 メニュー画面については、従来モデルのPW-AT770で採用されていた二重タブ式のインターフェイスではなく、Brainシリーズに近いデザインに一新されている。決して斬新なわけではないが、すっきりと使いやすいスタイルに改められたという印象だ。 コンテンツ数は100。いわゆる生活総合モデルとしてのラインナップである。大きな変化としては、従来のスーパー大辞林が、本製品では広辞苑第六版に置き換えられたことが挙げられる。個人的には、実売2万円前後の製品でありながら、広辞苑、さらに類語新辞典を搭載しているというのはポイントが高い。 このほか、漢字源がメイン画面での手書き入力に対応した点など、BrainシリーズのPW-AC890と同じく、進化を遂げたポイントである。また、キーワードから旅行会話を探すことができる「会話アシスト機能」も従来モデル通り搭載されている。 なお、本製品ではBrainシリーズとは異なり、インターネット上からコンテンツをダウンロードできる「ブレーンライブラリー」には非対応であり、コンテンツを追加する場合は別売のコンテンツカードを用いる形になる。また、カラーではなくモノクロだけに、Brainシリーズに搭載されていた「画像から検索」といった機能は削除されている。
●オーソドックスにまとめあげられた一品 本製品を一言で言い表すならば「堅実な進化」といったところだろうか。実験的な機能をすべて排除し、オーソドックスな機能だけを詰め込んだ結果できあがった一台という印象である。派手さはないもののどの機能も安定しており、万人が安心して利用できるイメージだ。 個人的には、従来モデルPW-AT770で初めて実装された二重タブ式のメニュー画面をあっさりと捨て去り、Brainシリーズと共通の横向きタブ方式を搭載してきたことには驚かされた。以前の二重タブ式のインターフェイスは、面白い試みではあるものの、使いやすさをあれこれ模索しているうちに完全に独自のインターフェイスになり、初心者にはとっつきにくくなっていたことは否定できない。このあたりの取捨選択は、単独のシリーズで展開していてはなかなかできるものではなく、Brainシリーズとの二本立てのラインナップによる相乗効果が発揮されていると見てよさそうだ。 現時点での競合となるのは、アクションセンサーを搭載したカシオのXD-SF6200だと思うが、カシオ製品のアクションセンサーはユーザーによって使う、使わないの差が激しいのは事実。その点、オーソドックスにまとめあげられた本製品は、実売価格次第でカシオXD-SF6200のよいライバルになるだろう。ちなみにカシオXD-SF6200と比べた場合、本製品には手書きパッドにバックライトが備わっているというアドバンテージがある。これは意外と無視できない要因であると感じる。 むしろ本製品については、同じシャープのBrainシリーズのPW-AC890との競合が考えられる。本稿執筆時点で実売価格の差は3千円程度しかなく、同じ100コンテンツでありながらカラー液晶を搭載し、さらにブレーンライブラリーからコンテンツをダウンロードできる同製品に注目が集まりやすい構図になっている。今後の実売価格の変動によって、店頭でのポジショニングにどのような変化が生じるかにも注目したいところだ。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2009年3月31日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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