電波は有限の資源だ。無限に使えそうだと勘違いしてしまいがちだが、一定の空間で使える電波は限られている。ある意味で有線よりもずっと占有する空間は大きいといえる。電波を使うデバイスは数多くあるが、やはり、一度、ワイヤーに束縛されないその気軽さを知ってしまうと手放せなくなってしまう。 ●原始的でも現実的なFMトランスミッタ 過去において、何度買っても満足できなかった種類のデバイスに、FMトランスミッタがある。iPodなどのポータブルメディアプレーヤーの出力を、FM電波にして飛ばすためのデバイスだ。うちのクルマは古いので、iPod専用ドックなどは装備されていないのはもちろん、カーステレオにはAUX端子さえない。だから、クルマの中でiPodを楽しみたいがために、いろいろなタイプのデバイスを試してきた。 経験的にもっともマシだったのは、カセットテープ形状のデバイスで、入力された信号を磁気信号に変換して、デッキのヘッドに伝える仕組みになっている。だが、本物のカセットが挿入されていると勘違いしたデッキがモーターを回転させ、シャラシャラと音をたてるのが気に入らない。 FMトランスミッタに関しては、買う製品、買う製品が音質的に耐えられず、結局は、カーナビゲーションシステムのAUXにiPodの信号を入れ、それを電波で飛ばすという方法をとっていた。ぼくのクルマのカーナビは、FMトランスミッタの機能も兼ね備えていたからできたことだ。相当古いということがばれてしまいそうだ。 別に、最高級オーディオの音を求めているわけではない。普通に、FMラジオ程度の音が出ればそれでいいのだが、なかなかそれが叶わない。 今回、ロジテックの「LAT-FMi02」を試す機会が得られたのだが、これが、かなり満足できる性能になっている。シガーライターにプラグを差し込み、そこから生えるケーブルに、周波数の選択ボタンが3つ装備された表示部がつながっている。そして、その表示部から生えるケーブルにiPodのドックコネクタが装備されている。 もしかしたら、このケーブルがアンテナとして働き、多少は有利になっているのかもしれない。周波数はデフォルトで設定されている3波のほか、それらを好きな周波数に変更し記憶させておくことができる。 FM電波は弱肉強食だ。少しでも強い電波がそばにあると、それに干渉し、ザラザラといったノイズになってしまう。放送局だけではなく、イベント会場などで使われる電波のことまで考えると、なかなかクリアな周波数を探すのは難しい。でも、この手のデバイスの性能を最大限に発揮させるには、まず、他の電波の影響を受けない周波数を探すことが前提だ。しかもクルマは動く。300kmも走れば、ある地点でクリアだった周波数は、なんらかの電波の干渉を受けるにちがいない。もっとも、地方の電波状況は都市部ほど混雑していない。そういう意味では地方の方が、よい音でFMトランスミッタの音を楽しめることになる。 なお、この製品は、シガーライターからの電源供給の入切に連動し、エンジンを停止するとiPodをポーズし、エンジンをかけると電源をオンにする。ぼくのクルマはシガーライターが、エンジンと連動していないため、この機能の恩恵を受けることはできないのが残念だ。 ●PCの手助けを必要としないBluetoothデバイス 最近のロジテックは、音を飛ばすことに熱心なようで、いろいろとおもしろいデバイスを次々に発表している。もしかしたら、今、日本でもっともBluetoothに熱心なベンダーといってもいいかもしれない。つながる時代を反映した、これからの製品展開にも期待したい。 たとえば「LBT-AT100C2」は、再生機器のヘッドフォン端子などのステレオミニジャックに装着することで、入力された音声信号をBluetoothで飛ばすことができるトランスミッタデバイスだ。Bluetooth機器では、相手と通信するためにペアリングという操作が必要で、ペアリングのためには、パスコードが一致しなければならない。このデバイスでは、パスコードを0000と決め打ちすることで、PCなしでもBluetoothのペアリングが可能だ。もちろん、再生側がBluetoothを設定するための機能を持っている必要もない。 パスコード0000のBluetoothレシーバーは、世の中に数多く出回っている。特にペアというわけではないが、同じロジテックの「LBT-AR200C2」もその1つだ。また、トランスミッタのLBT-AT100C2もレシーバーのLBT-AR200C2も内蔵充電式バッテリで稼働するが、アダプタは共通、いわゆるUSB電源で充電でき、本体側の端子も標準的なミニB端子というのも使い勝手がいい。 さて、レシーバーのLBT-AR200C2は、BluetoothのA2DP/AVRCP/HFP/HSPに対応したデバイスで、市販のヘッドフォンを装着するための端子を装備し、受信した音声信号を再生することができる。高低音ブーストやサラウンド機能を装備している点に付加価値を感じるユーザーもいるかもしれない。もちろん、著作権保護された信号を再生するための規格にも対応している。 この2つのデバイスを組み合わせれば、Bluetoothとはいっさい縁がないデバイスの音声をBluetoothで飛ばし、お気に入りのヘッドフォンを使いワイヤレスで楽しめる。たとえば、リビングのテレビにトランスミッタを装着し、このデバイスを身につければ、テレビから離れたところでも自分だけが音声を楽しめる。電波の具合によって、置き場所を選ぶAMラジオをちゃんと聞きたいといった用途にも役に立つかもしれない。 ぼく自身は、ジムのランニングマシンなどでトレーニングしているときに、Bluetooth機能を持たないメディアプレーヤーを楽しみたいときに使っている。ヘッドフォンケーブルがひっぱられて、プレーヤーを落下させる心配がないのがうれしい。 ちなみに、このロジテックのトランスミッタは重さ10g、レシーバーは17gときわめて軽量コンパクトなのもうれしい。さらに、ともにBluetooth 2.1対応デバイスだ。これからBluetoothデバイスを購入する際には、2.1対応をチェックするようにしたい。ペアリングの作業が大幅に軽減され、まさにすぐにつながる体験ができるはずだ。 ●Bluetooth、今後の課題 先日、インテルが、コンティニュア・ヘルス・アライアンスに関する記者説明会を開催した。会場では、血圧計や体脂肪計、歩数計といった、いわゆる健康デバイスとPCを接続して、データを管理していくためのソリューションが披露され、デバイスもさまざまなものが各社から紹介されたが、PCとの接続は、有線ならUSB、無線ならBluetoothだ。 たとえば、体重計に乗ってデータが取得されると、瞬時にそれがPCに送られ、グラフ化されるといった使い方ができる。ただ、送られてきたデータが、本当に本人のものかどうかを確認するための手段などの点で、まだ、ツメが甘いと思う。それは今後の課題だ。 Bluetoothは、通常、機器と機器をペアリングする。つまり、特定の機器が複数のユーザーに共有されていることを前提としていない。つまり、送り手側は判別できても、意志を持ってそれを使っているのが誰なのかを受け手側が判別することはできないわけだ。このあたりの問題にも、なんらかの解決方法を用意しなければなるまい。 各種のデバイスにBluetoothを実装するには、まだ、けっこうなコストがかかるという。たとえば、マウスやキーボードなどのHIDも、Bluetooth対応のものは高価だ。でも、今後、BluetoothがPC関連のもの、それ以外のものを含めて、いろいろなところで使われるようになれば、どんどんコストは下がるだろう。いっそのこと、マウスやキーボードは、全部Bluetoothになってしまえば、製品ごとにドングルを内蔵する必要がなくなり、その分のコストをBluetooth対応にまわせないものなのだろうか。極端な話だが、マイクロソフトとロジクールが、それを決断するだけで、世の中は大きく変わると思う。 □関連記事
(2009年2月13日)
[Reported by 山田祥平]
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