米Microsoftが22日(米国時間)、大規模なリストラ計画を発表した。日刊紙などでは「創業以来の大リストラ」などの見出しとともに、「5千人削減」という言葉が先行しているが、この表現は実際には正しくない。
リリースを見ると、「5千の業務削減を行う方針」としており、スティーブ・バルマー氏も「人員の削減規模は2千~3千人」ということを明確にしている。英文のリリースでも、「Microsoft will eliminate up to 5,000 jobs」という表現を用いており、「5,000 employees」とはなっていないのだ。 では、「5千人」と「5千業務」との違いとはなにか。 その詳細に触れる前に、もう1つ前提として捉えておかなくてはならないことがある。今回のリストラは、同社第2四半期(10~12月期)の決算の不振を受けて実行に移す経費削減計画とされている。 その業績を見ると、純利益は前年同期比11%減の41億7千万ドルと大幅な減少となっている。確かに収益が2桁減という内容は、業績悪化を象徴するものであり、大きなインパクトがあるものだ。ところが、売上高に目を転じて見ると、前年同期比2%増の166億3千万ドルを計上。これは、Microsoftが創業以来、過去最高の四半期売上となっているのだ。しかも、営業利益率は25%を維持していることには変わりがない。ソニーが赤字見通しのなかで人員削減を実行するのとはかなり意味合いが違う。 Microsoftは、過去最高の四半期売り上げであることはリリースなどには明記していない。だが、今回のリストラは、そうした環境のなかで実行に移されたものなのであることを知っておく必要がある。 ちなみに、今回のリリースでは、「市場環境は今後も不安定な状態が続くものと予想されるため、Microsoftとしては、本会計年度の売上ならびにEPS(1株当たり収益)についての定量的な予測を提示することができません」として、通期の見通しの開示をとりやめた。第1四半期、第2四半期ともに計画には未達だったことが影響している。 同社が2008年7月24日時点で発表した通期見通しは、売上高673~681億ドル、利益は263~269億ドル。これを、10月28日には、売上高649~664億ドル、利益は244~255億ドルへと下方修正した。結果として、通期業績はこれを下回ることになるだろう。 年間研究開発投資80億ドルはそのまま継続する。ただ、その内訳は変更する可能性がある。同社では重点投資分野として、クラウド、サーチ、データセンターを掲げており、この分野への投資が拡大することになりそうだ。 ●削減の直接対象は人員ではなくジョブ Microsoftは、外資系企業特有の組織体制となっている。それは日本法人も同じだ。各組織ごとに、必要な社員数が設定され、それぞれにジョブ(業務)が割り当てられ、それに基づいた人員の配置がされる。部署によっては、ヘッドアカウントの枠はありながらも、実際には人員が配置されていないというものもある。今回の再編は、この「ジョブ」を対象に削減を行なうというものだ。 5千業務削減のなかには、組織再編、人員削減を伴ったジョブ削減があるのは当然だ。また、人員が配置されていないジョブを、余剰のものと見なし削減するものもある。また、今回のリストラは、人員削減としていないため、ジョブが無くなり、そこから外れた社員が、他の部署のジョブに異動するといったものもある。これもジョブの削減だ。また、不要なジョブが削減されても、別の部署に新たなジョブが設定される場合もあるという。 つまり、5千業務がなくなっても、人員削減に直接影響するのは2千~3千人というのは、業務を減らすことと人員を減らすことが別のものとされているためだ。裏を返せば、5千業務削減によって、2千~3千人は削減されるが、残りの2千~3千人はジョブを変えてMicrosoftに残るという逆算ができる。 リリースでは、「今後18カ月の間に、研究開発、マーケティング、営業、財務、法務、人事ならびにITの各部門において、最大5千の業務削減を行なう」としており、あらゆる分野に対象が広がることが示されている。ただ、一般的な見方として、開発分野あるいは管理部門における重複部分の業務削減といった動きが促進されるとの憶測も成り立つ。 Microsoftの開発体制は基本的には縦割りになっている。そのため、重複した開発体制となっている部分も少なくない。外から見ていても、Windows LiveとOffice Liveの開発体制が別々になっており、そこに重複部分があろうことは容易に想像できる。こうした重複部分の統廃合によって、ジョブが削減できるはずだ。また、管理部門についても、重複業務の削減といったことは可能だろう。 その一方で、景気の不透明感が継続するなかでは、営業部門、マーケティング部門のジョブ削減はそれほど多くはなさそうだ。リリースでは、マーケティング活動の見直しなどを含む経費節減を謳っているが、Windows 7を始め、新たなプロダクトの投入が控えてだけに、むしろ、領域によっては人員増加という可能性もあるだろう。あとはリリースで触れられているように、派遣社員の削減、施設拡充や資本支出の抑制が、盛り込まれることになる。 発表のなかでは、22日の発表当日に1,400業務の削減を実行している。即日削減となった対象部門については明らかにはしていないが、発表にあわせて、ゲーム専用機「XBox 360」、携帯音楽プレーヤー「Zune」、Windowsに搭載している「MediaCenter」のほか、PC用ゲームソフト、サーフェイスやIPTVなどの開発を行なっているエンターテイメント&デバイス(E&D)事業部の再編が明らかにされており、この部門が対象となっているのは間違いないだろう。ただ、具体的なプロダクトの再編については言及されていないため、即物的にZuneの事業縮小などに結びつけて捉えるのは危険だといえそうだ。 さらに関係者の話などをまとめると、この1,400業務の削減は、かなり近い数字で人員削減に直結していると見られる。つまり、2千~3千人の人員削減というコメントと照らし合わせると、すでに半分近い人員削減が達成されているといっていい。 残り18カ月で、全世界1,500人程度の削減というのは約9万人の社員数を持つMicrosoftにとっては、自然減に近い規模だといっていい。かつてIT企業のように、過剰な人員削減を行ない、1人の社員が数多くの業務を兼務し、疲弊するということもなさそうだ。その点では、今回のリストラ策は、即日削減の1,400業務のインパクトが最も大きかったといえるだろう。 ●日本法人への影響は では、日本法人への影響はどうだろうか。今回の再編では、地域ごとに、業務削減計画が策定されているわけではない。そのため、日本法人でどれぐらいの業務を削減するかといった具体的な数値はない。発表にあわせて、Microsoftの樋口泰行社長は、日本法人の基本方針に変更がないことを社内に発表している。研究開発拠点の移転・拡充といった計画も、そのまま実行に移されることになりそうだ。 全世界91,000人の社員に対して、5千業務の削減というのは約5.5%にあたるが、日本法人ではこれと同率の業務削減はないといっていい。また、関係者の間では、成長ビジネス領域における人員増加を考えれば、18カ月後の日本法人の社員数は、現在の社員数を上回っている可能性もあるのではとの指摘もあるほどだ。 もちろん、日本法人への影響が皆無というわけではない。一定の人員入れ替えも、相変わらず頻繁に行なわれている。Microsoftがこれだけの規模で業務の削減を発表したのは、確かに異例のことだ。しかも、売上高が過去最高を記録しながらという点も見逃せない要素だ。だが、日本法人における経費削減計画による人員削減の影響は、最小限に留まりそうだ。 □Microsoftのホームページ(英文) (2009年1月29日) [Text by 大河原克行]
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