山田祥平のRe:config.sys

小さなVAIO type PをWANと7で大きく使う




 VAIO type Pを買うならWANモデルだと思っていたが、まだ、受付を開始していないようなので、とりあえず、ソニーにお願いして実機を借りてみた。昨年末に10日間ほどワンセグモデルを使ってみたが、発表前ということもあり、モバイルでの使用ができなかったが、今度は堂々と公衆の面前で使える。

●WANの接続性を試す

 今回お借りしたモデルはAtom Z540 1.86GHz搭載の64GB SSDモデルで、バッテリをはずすと奥にFOMAカードを挿入するためのスロットが用意され、ここにFOMAカードを装着するとモデムとして使えるようになっている。また、WANとGPSはペアで提供されるため、WANを選択すればGPSも使える。

 3G通信をするためには、NTTドコモとの契約が必要だが、手持ちのものがあれば、それをそのまま使うことができる。ただし、ドコモの定額通信のためには別途契約が必要だ。また、ドコモの定額通信では、接続のために専用ソフトが必要となり、そのための初期設定等はプリインストールされたソフトを使ってできるようになっている。

 今回は、ドコモのカードではなく、普段使っているIIJ Mobileと日本通信のb-mobile3G、2種類のカードを装着して試してみた。どちらもドコモのMVNOで、利用するカードはFOMAカードそのものだ。ただし、事業者としては、指定された端末以外での接続を保証していないのであくまでも自己責任となる。

 使い始めるのは簡単だ。カードを装着し、通常の手順でダイアルアップ接続を作成すればいい。3G通信におけるダイヤルアップは、あらかじめモデムに登録したAPNの番号をダイヤルするという形になる。したがって、コントロールパネルの「電話とモデムのオプション」で、モデムの初期化コマンドとしてAPNの登録をする必要がある。たとえば、b-mobile3Gの場合は、

+CGDCONT=8,"PPP","dm.jplat.net"&w

といったイメージになる。これは、8番目のAPNとして、dm.jplat.netを登録するという意味だ。最後の&wは、その設定を書き込んでしまうという意味で、初回の接続時に書き込んでしまえば、初期化コマンドは削除してしまってかまわない。

 接続先の作成時には、登録済みのAPN番号を、

*99***8#

としてダイアルさせる。これは、8番に登録したAPNにダイヤルするという意味だ。加えてIDとパスワードを入力すれば、設定は完了だ。

 接続に要する時間は約15秒。スピードは500kbps程度は出ているようで、まあ、こんなものだと思う。普通にWebを参照したり、メールをダウンロードするのに不便はない。

 ただ、ここで実に残念なことに気がついた。type PのWANモデルでは、本体キーボード左手前の物理スイッチを使ってワイヤレスの電源をON/OFFできるのだが、それとは別にVAIO Smart Networkユーティリティが常駐、そのフローティングウィンドウがデスクトップに表示され、GPS、WAN、WLAN、Bluetoothの電源を個々にON/OFFすることができるようになっている。そして、こともあろうに、ここで、WANをONにすると、WLANがOFFになり、WLANをONにするとWANがOFFになってしまうのだ。つまり、WANとWLANは利用が排他だということだ。

 ソニーに問い合わせたところ、これは干渉を防ぐための仕様であり、回避する方法はないということだった。他社のWANモデルでは、このようなことはないので、ソニー独自の仕様のようだが、これは著しく不便で、WANモデル導入の意欲が一気にスポイルされてしまった。

 僕の使い方では、出先ではWANかWLAN、自宅ではWLANに接続したいのだが、そのためには、自分の居場所に応じてWANとWLANを手動で切り替えなければならない。WLANは自動的に接続するようにしてあるので、自宅に戻ったらディスプレイを起こしスタンバイから復帰させ、そのままディスプレイを閉じて放置しておくだけで、パスワードを入力してログオンしなくても、勝手に出先での作業結果が同期できるようになることを期待していたのだが、それがかなわない。WANを使い終わったら、必ずWLANに切り替えておくといった面倒な作業で回避するしかなさそうだ。

 こうしたことを考えると、実際の使用では、WANに関しては、従来通り、携帯電話をBluetoothモデムとして使うことになるかもしれない。本機を持ち出す日と、そうでないノートPCを持ち出す日があるだろうから、そのたびに、FOMAカードを抜き、携帯電話に装着しなおすというのはめんどうくさいからだ。でも、GPSは魅力なので、最終的にはWANモデルを購入することになると思う。

●改良を望みたいポインティングデバイス

 キーボードのタッチはそこそこ満足できるものだと思う。ただ、多少表面がすべる感じがあるのと、見た目の割にはストロークが深く、叩いたつもりなのに、叩けていなかったということがある。まあ、これは慣れるしかない。

 ポインティングデバイスは、中央のスティックを使う。このスティックはポインタを移動させる機能以外に、プレスセレクトと呼ばれる機能が用意され、デフォルトでこの機能がオンになっている。これは、スティックをプレスすることでクリックと同じ結果が得られるというものだ。

 スライドパッドでいうところのタップやダブルタップをスティックだけでできるので、便利には違いないが、あまりにも敏感すぎて、意図しないクリックが頻繁に起こってしまう。これは感度を最低にしてもだめだった。また、文字入力時には、無効になる時間を設定しておけるが、それを最長にしても、キー入力時に触れてしまって、エディタ等で文章を書いているときに、カーソルが思わぬところにジャンプしてしまいイライラさせられる。感度をさらに鈍く設定できるようにするだけで回避できそうなことなので、バージョンアップ等でなんとかしてほしいものだ。

●利用シーンの食い違い

 Atomプロセッサにパフォーマンスには期待できないが、Microsoft Office等を入れて、ちょっとした作業をするのに特に不便はない。ただし、初期導入時のインデクシングの作業が終了しないことには、話にならないくらいに遅い。手元の環境では、起動したまま放置して全インデックシングが完了するまでに48時間以上を要した。

 さらに、VAIO特有の動画、音楽の解析タスクが走るので、輪をかけて遅くなる。僕は、これらのタスクを切ってしまった。モバイル用途のPCでこれらのタスクが本当に必要なのかと疑問にも思う。もし、この製品がバッテリだけで10時間程度使えて、ポータブルミュージックプレーヤーとして、電源を入れっぱなしで音楽を再生しながら持ち運べるのならともかく、それが無理である以上、この解析機能は製品の印象を悪くするだけだと思う。

 また、あって無駄なものはもう1つある。それは、インスタントモードだ。Windowsを起動しなくても、メディアを再生したり、ブラウズができるといった機能だが、起動にはWindowsのスタンバイより長い時間がかかり、しかもバッテリの持ちはVistaより悪い。

 ちなみに、この製品ではディスプレイを起こしたときに、スリープや休止状態から復帰するか、何もしないかを選べるが、ディスプレイを起こしての復帰では5秒未満で使える状態になる。それで十分ではないかと思うのだ。

 なお、デフォルトで、スリープが5分続くと休止状態に移行するように設定されているので、こちらは、電源オプションで無効にしておくほうが使いやすそうだ。休止状態からの復帰にはかなりの時間がかかるので実用的ではない。

 ただし、想定された利用シーン通りの使い方を、僕自身が求めていないだけかもしれない。でも、ソニーの提案は、このハードウェアにはちょっと荷が重すぎるようにも感じた。

●バッテリのスタミナには大きな期待はできない

 僕は今、この原稿を、近所の喫茶店でtype Pを使って書いている。使っているエディタは「秀丸」でフォントをメイリオ16ポイントに設定して、ちょうどいい感じだ。

 デスクトップのスケーリングをデフォルトの96dpiから120dpiに変更すれば、各種表示の視認性は高まるが、アプリケーションによっては操作ができなくなってしまうものがある。特に、ソニー謹製のVAIO設定ユーティリティが使えないのは致命的だ。

 使い慣れたWindowsなので、多少文字が読みづらくても操作に支障はないのだが、たとえば、バッテリがあとどのくらい残っているのかといったことを通知領域にバルーン表示させたときなどの文字サイズは、僕の目にはちょっとつらい。設定時のみスケーリングを元に戻すことにして、普段は大きなスケーリングで使った方がいいかもしれない。

 気になるバッテリの持ちだが、僕の使い方ではこうして原稿を書いている程度の作業でも、1時間に40%程度を消費するようだ。標準バッテリでは2時間強の運用時間といったところだろうか。Lサイズバッテリの使用も考えたいところだが、この薄さが損なわれることを思うと、自分が購入するなら標準バッテリを予備に持つという感じになるかもしれない。標準バッテリの重量は135gで、それを本体に装着すると、今回の試用機は、実測で585gあった。別に標準バッテリを予備に持つと合計720g。それでも普段持ち歩いているLet'snoteより200g軽い。

 バッテリの交換の際には本体を休止状態にする必要があり、移行と復帰には、けっこうな時間を要する。バッテリが空になりそうになったところでサッと交換できるように、せめて1分でいいからバッテリなしで持ちこたえられるようになっていればどんなに便利だろうかと思う。

●あらゆるところで使ってみる

 こうしたデバイスを使いたくなるフィールドとして、スポーツクラブのジムに設置されたウォーキングマシンでトレーニングしながら録画したドラマを鑑賞してみた。

 アナログ地上波を録画した一般的なMPEGファイルだが、フリーソフトのGOM PLAYERを使い、多少のコマ落ちはあるものの特に問題なく再生ができる。

 ウォーキングマシンにはタッチパネルを装備したディスプレイがあるが、そこに重ねるように本機を立てかける。けっこうな振動が続くことになるが、SSDなら心配はない。

 音声の再生には、Bluetoothのオーディオレシーバー、ソニー「DRC-BT15P」を使った。ヘッドフォンのケーブルを本体に接続すると、何かの拍子にケーブルが引っ張られて本体を落下させてしまう心配があるが、ワイヤレス再生ならその心配はない。

 ちょっと不満に思ったのは、ディスプレイが完全に水平まで倒れないため、僕の通っているジムのウォーキングマシンでは、視線に対してちょうどいい角度に画面を調整することができず、多少、斜めから見下ろすような角度になってしまい、視野角の関係で視認性が損なわれる。次機種では機構的な工夫で、完全に平になるようにしてほしいものだ。

 電車の中で立ったまま使うというシチュエーションでは、左右ボタンがネックになって使いづらい。クリック、ダブルクリックをスティックのプレスセレクトで代用できればいいのだが、前述の理由でオンにすると甚だしく使いにくくなるので、左右ボタンを使わざるをえないのだが、左手で本体を支え、右手でスティックを操作してポインタを動かし、何かをクリックするためには、左ボタンを親指で押すという格好になる。

 左手はキーボードの左側を持った方が安定するのだが、ボタンを押すためには、手前側で支える必要があり、ちょっと不安定だ。このあたりは、手のひらの大きさにもよると思うが、実際に手に取る機会があれば試してみてほしい。

 本機のグラフィックスは、Alt+Ctrl+方向キーの→で、ディスプレイ右側を上にできるので、本機を縦に持ち、縦方向にデスクトップを使い、フリーソフトのMouseRotateでポインタの移動方向を回転させ、本を支えるように本体を持ち、左手の親指でスティックとボタンを操作するという使い方も検討したいところだ。

●Windows 7は使えるか

 一通り、プリインストールのWindows Vista Home Basicで使ってみたあと、Windows 7環境を試してみた。最初はまず、アップグレードインストール。

 プリインストール状態からのアップグレードには、たっぷり3時間かかった。

 各種のドライバはプリインストールのものがそのまま使われているようだが、Bluetoothがうまく作動せず、ドライバをいったん削除して、Windows 7のインボックスドライバであるジェネリックドライバを使うようにしたところ、問題なく使えるようになった。

 処理性能が向上するわけではないのだが、Vista環境でよく経験する、ちょっとしたタイミングでひっかりを感じるようなまどろっこしさがなくなり、使い勝手はWindows 7の方がいい。起動時にはデスクトップウィンドウマネージャのエラーが出るが、無視してそのまま使い続けても特に困ることはないようだ。

 Windows Media Playerは、動画をフルスクリーン再生させようとすると、ブルースクリーンで落ちてしまうようだ。これは、再生支援にアクセラレータを使おうとして、何らかの不整合が発生しているものと思われる。

 Bluetoothに関しては、HIDやDUNでは問題はないのだが、プリインストール状態で使えていたBluetooth 1.2のオーディオレシーバーが使えなくなってしまった。接続はできるのだが再接続ができないのだ。これは、Bluetooth 2.0のDRC-BT15Pを入手して試したところうまくいくようになった。2.0デバイスでは、機器の電源を入れるだけで、自動的につながり、すぐに使えるようになる。

 調子に乗ってクリーンインストールも試してみた。あらかじめ、プリインストール状態で、“c:\windows\drivers”にある各種ドライバを別のストレージに待避しておき、外付けDVDドライブから起動してクリーンインストールを開始した。アップデートが3時間かかったのに対して、クリーンインストールは30分で完了した。最初の起動時には解像度がおかしかったが、すぐにWindows Updateでビデオのドライバが落ちてきて、再起動後は正しい解像度で表示されるようになった。

 デバイスマネージャで確認すると、Ethernetコントローラと、1つの不明なデバイスが認識されていないようだ。そこで、あらかじめ待避しておいたドライバファイルを検索させたところ、EthernetコントローラとSony Firmware Extension Perser Deviceとして認識させることができた。

 加えて、Intelのチップセットドライバを導入しようとしたところ、そのsetup.exeのバージョンチェックのためWindows 7では動かない。そこで、プロパティを開き、互換性タブでVistaだと騙して導入を完了した。

 なお、この状態で、WANとGPSが認識できず、また、Fnキーとファンクションキーのコンビネーションによる各種機能が使えない。Fnキーはともかく、WANが使えないのでは話にならない。それに、WANとWLANの電源をコントロールするVAIO Smart Networkユーティリティがないとどんな不具合が発生するかわからないことを考えると、やはり、アップグレードインストールが無難なようだ。これらのユーティリティ類を個別にインストールできればよいのだが、今回の試用では時間切れで、そこまでには至ることができなかった。

●今年のキーワードは「つながる」

 どこに行くにもPCを持ってでかけるという点では、今までもずっとそうしてきたわけで、type Pを手に入れたとしても、その日に持ち出すPCの選択肢の1つでしかない。でも、もし購入することになれば、もっとも持ち出す機会の多いPCになるだろう。このサイズ、この重量というのはきわめて魅力で、フル機能のWindowsが使えることは何にも代え難い。僕の場合、出先で必要になる作業のほとんどは、これだけですむ。しかも、新しいことを覚える必要がないわけだ。

 もちろん、宿泊を伴う出張などでは、もう1台別のPCを持ち出すことになるだろうが、1つか2つの記者会見やブリーフィングに出席して帰宅するような普段の外出には、これ1台で十分だということが、実際に使ってみてわかった。本当は、Windows 7の拡張デスクトップ機能が使えるように、Aeroをオンにできたらと思うのだが、さすがにそれは無理そうだ。Windows 7では、タスクバーの使い方がドラスティックに変わり、Windowsの操作作法そのものに影響を与えそうなだけに惜しい。メディアの再生支援などよりも、そっちの方に注力してほしかったくらいだ。

 いずれにしても、僕として設定した今年のキーワードは「つながる」である。さまざまなデバイスをつなぎ、連携させ、デジタルライフを楽しもうと思っている。type Pは、その、つながるデバイスの1つとして、小さいくせに大きな存在感を持つことになりそうだ。

□関連記事
2009年 PC春モデルリンク集(ソニー)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/link/springpc.htm#sony

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(2009年1月23日)

[Reported by 山田祥平]


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