元麻布春男の週刊PCホットライン

Snow LeopardとWindows 7




●雪豹の不在

スティーブ・ジョブズCEOに代わり、フィリップ・シラー副社長により行なわれたMacworldの基調講演

 Macworldで姿を見せなかったのは、ジョブズCEO、17インチMacBook Pro以外の新しいハードウェアだけではない。事前に期待されながら、全く触れられることもなかったものがある。それは次期Mac OS Xとなる「Snow Leopard」だ。

 昨年6月に開催された開発者向けイベントである「WWDC 08」で公開されたSnow Leopardは、ユーザーに近いレイヤから見て、次のような技術革新を含む。

1. Microsoft Exchangeのサポート
2. OpenCLのインプリメント(GPGPU)
3. マルチコア/メニーコアサポートの「Grand Central」
4. 新しい64bitカーネル

 革新の多くは開発者向けの基盤技術関連で、エンドユーザー向け、特にコンシューマ向けのものはほとんど見あたらない。そしてこれはWWDC 08の時点で、Apple自らが認めたことである。これは、一般ユーザーはSnow Leopardをスキップして構わないとAppleが述べているのか、それとも誰もがアップグレードするに値する何かをまだAppleは隠しているのか、判断がつきかねる部分があった。

 今回のMacworldで、その判断を行なうためのヒントが得られれば、と思っていたのだが、残念ながらSnow Leopardのスの字(こんな表現があれば、だが)に触れることさえなかった。やはりWWDC 08で述べられたように、エンドユーザー向けの新機能に乏しいのか、あるいはSnow Leopardの開発がユーザーに紹介するには早すぎる段階に過ぎないのか、おそらくは両方なのだろう。

 上のリストでも明らかなように、Snow Leopardは、その名前とは裏腹に、技術的には現行のLeopardからのメジャーアップデートとなる。新しい64bitカーネルは、x64版のWindowsがそうであったように、デバイスドライバの刷新も欠かせないハズだ。Mac OSが自社のハードウェアのために作られるOSで、Windows PCに比べればサポートしなければならないハードウェアのバリエーションが限られるとしても、それでもなお膨大な作業が発生する。筆者はSnow Leopardが年内にリリースされることはないだろうし、そのリリース時期はWindows 7より後になるだろうと考えている。

 ひょっとするとGrand Centralや64bitカーネルといった、基盤技術の中でも下位に位置するレイヤを先送りすれば、リリース時期を早められるかもしれない。が、それではSnow Leopardをリリースする意味が薄れてしまうし、おそらくはXServeのラインが死んでしまう。Appleのサーバー製品であるXServeについて、最近あまりニュースを聞かないが、他社のx86サーバーに対して競争力を持たせるには、カーネルの完全な64bit化と、仮想化技術のサポートは欠かせないだろう。


●Windows 7は年内にも登場

こちらもビル・ゲイツ氏に代わって、初めてCESの基調講演をつとめたバルマーCEO

 このSnow Leopardと全く逆のパターンになるのがMicrosoftのWindows 7だ。多くの変更を加えたメジャーアップデートのWindows Vistaに対して、Windows 7はVistaをベースにした改良版となる。したがってWindows Vistaはもちろん、Snow Leopardに対しても、リリースに要する時間は短くなるだろう。

 1月8日が正式スタートとなるCESの開幕前日、Microsoftのスティーブ・バルマーCEOによるプレ・オープニング・キーノートが行なわれた。昨年までビル・ゲイツ会長がつとめていたこの役割を、今年からバルマーCEOが受け持つことになった。

 バルマーCEOは開発中のWindows 7について、そのベータ版の提供を即日開始すると発表した。これはMSDN、TechBeta、TechNetのユーザーを対象としたもので、個人ユーザー向けにも1月9日からダウンロード可能になった。

 日本でもプレスリリースにおいて1月13日からのダウンロード開始予定が告知されているものの、その対象ユーザーについて若干ニュアンスが異なる。日本語版のプレスリリースでは注書きに、

「なお、今回のベータ版ダウンロードは、開発者や企業のIT管理者、およびご自分でオペレーティングシステムのインストールと現状復帰が出来る方向けに、開発段階の製品を評価、検証いただき、マイクロソフトへのフィードバックをいただく事で、製品品質の向上を図ることを目的として実施するものです。」

と書かれており、何らかの条件設定が行なわれる可能性もある。


Windows 7ベータ版の提供が開始されたことを告げるバルマーCEO

 だが、いずれにしてもWindows 7のベータは、極めてパブリックベータに近い形でいきなりスタートすることになった。従来は最初のベータ版は開発者等に向けたもので、一般個人が対象になることはなかった。個人を含めた広範なユーザーを対象とするのは、マーケティングベータと呼ばれるベータ2版、あるいはRC1版であることが大半で、今回は1サイクル早い。

 これはWindows 7がWindows Vistaをベースにしており、OSの基盤の部分に関する安定性等の問題が少ないことを示している。と同時に、早期からユーザーのフィードバックを得ることで、いま一つ人気の盛り上がらないWindows Vistaの轍を踏まないようにしたい、というMicrosoftの思惑の現れだろう。実際、今回のWindows 7について、Microsoftはその評判をとても気にしていることが、ヒシヒシと伝わってくる。

 バルマーCEOのキーノートで触れられなかったのは、Windows 7をいつリリースするか、ということだ。上に述べたように、今回のWindows 7はベータサイクルが1サイクル早い。昨年10月のPDCの時点で筆者はWindows 7を2009年にリリースすること(企業向けの限定的なものではなく、プレインストールPCの出荷も含めた大規模なもの)は難しいだろうと予測した。

 だが、ベータサイクルが短縮されることで、ギリギリ間に合う可能性も出てきた。4月にベータ2、7月にRC版で9月にコードフィックス、10月上旬にリリースできれば、年末商戦に間に合う。開発中に何か不測の事態が生じると年内のリリースが難しくなるギリギリのスケジュールだが、Windows Vistaを下敷きにしたWindows 7なら、その可能性は低い。何とかいけるかもしれない。


Windows 7のベータ版を用いたマルチタッチのデモ 今回デモで使われたベータ版のビルド番号はWindows 7にちなんだのか7000だった そのデキの良さに、バルマーCEOもサムアップ、といったことになれば良いのだが

□関連記事
【1月9日】【元麻布】Macworldの基調講演を振り返って
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0109/hot588.htm
【1月9日】【CES】Microsoft基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0109/ces06.htm
【2008年10月31日】【元麻布】Windows 7はVistaの焼き直しだからこそ良いかもしれない
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1031/hot578.htm

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(2009年1月13日)

[Reported by 元麻布春男]


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