以前のコラムで述べたように、Windows 7はWindows Vistaを基本とした改良版である。DirectX 11のサポートや2Dグラフィックス(Direct 2D)、テキスト出力(Direct Write)関連の新しいAPI、あるいはセンサーによる位置情報取得のためのAPIなど、OSのコアに近い部分で追加される機能もあるとはいえ、改良の中心はユーザーインターフェイスなど、よりユーザーに近い部分となる。つまりどれだけ使い勝手を良くできるか、操作性を改善できるかがWindows 7の運命を決めることになる。ユーザーインターフェイス(UI)こそがWindows 7のキモというわけだ。 ●Mac OS Xの「Dock」との違いは Windows 7のUIを語る上で、どうしても避けて通れないのがMac OS XのDockとの類似性だ。デフォルトでMac OS Xのデスクトップ下部に位置するDockは、利用頻度の高いアプリケーションを立ち上げるためのショートカットであり、アプリケーションの動作状況を示すインジケーターでもある。アプリケーションのウィンドウを閉じても、アプリケーションそのものが終了するわけではないMac環境においてDockは、アプリケーションを終了させる手っ取り早い方法も提供している。 Windows Vistaのタスクバーは、大きく4つに分かれている。スタートメニューを呼び出すスタートボタン、アプリケーションをワンタッチで起動するクイック起動、動作中のアプリケーションを示すタスクバー本体、そして常駐するサービス類とそのメッセージを表示する通知領域だ。 Windows 7のタスクバーは、起動中のアプリケーションを示すタスクバーとクイック起動が1つになり、表示するアイコンが大きくなる。ユーザーはタスクバーに好きなアプリケーションのアイコンを登録することが可能だ。アプリケーションを起動するためのショートカットと起動中のアプリケーションの状況表示を兼ねるという点で、Mac OS XのDockに類似していると言われてもしょうがないだろう。 実際、Microsoft自身もこのことは気にしているらしい。「Welcome to the Windows 7 Desktop」と題されたセッションの冒頭は、Windows 1.01に始まるWindowsのUIの変遷に費やされた。要するにWindows 7のUIを構成する要素の多くは、過去のWindowsにおいて何かしら使われていたものが大半で、Windows 7はそれを再構成したものだ、というわけである。とはいえ、こうした言い訳をしているあたりが、すでに意識している証拠だろう。 もちろん、Windows 7のUIは、Dockをそっくりマネしたものではない。アイコンの上にマウスカーソルを移動すると、実行中のアプリケーションのサムネイルが表示されるのはWindows Vista同様だが、そこに最大7つのボタンを配置してコントロールできるとか、アイコンを右クリックしてJump Listsを表示させるというのは、Windows 7のUIで特徴的な部分だ。Jump Listsは、当該のアイコン(アプリケーション)専用のミニスタートメニューで、過去に利用したファイルの履歴やアイコンをタスクバーから外すといったコントロールの機能を持たせることができる。
こうしたDock風のタスクバーに加え、Appleが有名にしたマルチタッチを採用するなど、どうしても後追い感が否めない。マルチタッチのデモの多くはHPのTouchSmart PCで行なわれていたが、一般的なノートPCにPDCで配布されたプレビュー版をインストールしても、内蔵のタッチパッドでマルチタッチを試すことができないのが残念なところだ。タスクバーの拡張も、マルチタッチも、手元で試すには来年早々というベータ版のリリースを待つしかない。 ●リボンインターフェイスは定着するか 一方、Windows独自のUIとして、すでにプレビュー版にも取り入れられているのがリボンインターフェイスだ。標準で搭載されるPaintやWordPadといったアクセサリは、リボンインターフェイスを採用したものに改められた。このリボンインターフェイスを提供するためのAPIも整備され、サードパーティのアプリケーションにも簡単にリボンインターフェイスを採用できるようになる。 ただ、Office 2007から採用されたリボンインターフェイスだが、少なくとも筆者の回りを見渡す限り、これを使いやすいという人は多くない。今まで使っていたメニュー項目がどこにいったか分からない、画面が狭くなる、といった否定的な意見の方が多く見受けられる。特にネットブックのように、縦の解像度が600ドットに制約されていると、リボンはじゃまくさくてかなわない、というのが正直なところだ。本当にリボンインターフェイスが主流になるのか、予断を許さないと思う。
ほかにもプレビュー版を起動するといくつかすぐに気づくことがある。ウェルカムセンターがなくなったことや、ガジェットをロードするサイドバーがなくなったことに加え、アプリケーションウィンドウがスナップすることもWindows 7の特徴だ。 ウェルカムセンターについて、なくなって不便だとか、困るという人はほとんどいないだろう。ハッキリいって起動のたびに見て何かの役に立つとは考えにくい。購入したPCを初めて起動する時、あるいはWindows Vistaをインストールして初めて起動した際に1回表示されればそれで済むものだという気がする。 良くも悪くもWindows Vistaらしさの1つだったように思うサイドバーだが、Microsoftによると小さなスクリーンのPCで、配置されるガジェットが場所をとりすぎないよう規制するためのものだったという。実際には、サイドバーがあるからWindows Vistaはワイド液晶の方が適しているなどと言われたのだから、本末転倒だったわけだ。 ただし、ガジェットそのものがなくなるわけではない。Windows 7ではガジェットをデスクトップの好きな場所に置いておけるようになる。これは便利なようだが、その一方でガジェットも、通常のアプリケーションも、作り方こそ大きく異なるものの、ユーザーにとっては大差ないように見えてしまうかもしれない(ただしガジェットは最小化できない)。それがいいのか悪いのか、良く分からないが、デスクトップが汚くなるような印象もある。ガジェットというのは、使わない時は邪魔にならないよう隠れている方が望ましいのではないかと思う。
アプリケーションウィンドウのスナップというのは、アプリケーションのウィンドウを画面の上、あるいは左右の端を越えて移動させようとすると、ウィンドウの大きさが特定のサイズになることを指す。たとえば、ウィンドウを画面の上部にぶつけるように移動すると、ウィンドウは最大化される。最大化を解除するには、逆に少し下ろしてやればいい。 またアプリケーションウィンドウを左右に寄せると、ウィンドウサイズが画面を縦に2分割した大きさに変化する。2つのウィンドウを左右、それぞれに寄せることで、画面は2つのウィンドウで2分割され、中身の比較が容易にできる、という仕組みだ。ちょっとしたアイデアだが、副作用もほとんどないし、少なくともあって困るものではないと思う。 以上のような特徴を持つWindows 7のUIだが、個人的にはWindows XP~Vistaの路線より、押しつけがましさがなく、好ましいのではないかと思っている。あとはもう少しWindows Updateが賢くなってくれると良いのだが、プレビュー版のWindows UpdateはWindows Vistaと大差ないようだ(放っておくと夜中の3時に問答無用でリブートされることがある)。 ●Windows 7以降の課題も 興味深いのは、従来隔年で開催されていたPDCが来年も開催されることだ(2009年11月17日~20日、米国Los Angeles)。それに対して、Windows 7が正式リリースされる前に、次のWinHECが開催されることはないという。つまり、2009年11月にPDCを開催するが、次のWinHECはおそらく2010年になる。 冒頭でも述べたように、Windows Vistaの改良型であるWindows 7について、ハードウェアやデバイスドライバの話題が中心となるWinHECで語ることは多くないのかもしれない。逆に、UIを変更する以上、それにルック&フィールを揃えたアプリケーションを書いてもらうには、PDCを開いてISVの協力を仰ぐ必要がある、ということなのだろうか。 確かに、これはWindows 7を前提にすればもっともな話に聞こえるが、Windows 7の次で何かを変えるつもりがあるのなら、アプローチは早いに越したことはない。ネットブックやULCPCに最適化したSKUが必要なのかどうか、急速に普及しつつあるSSDに対しファイルシステムあるいはデバイスドライバ側からどう歩み寄るのか、GPGPUに対して統一的なアプローチをどうするのかなど、思いつくだけでも課題は少なくない。こうした問いに2009年中に答えるのが難しいというのでは、Windows 7の次が心配になってしまう。 □関連記事 (2008年11月10日) [Reported by 元麻布春男]
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