西川和久の不定期コラム

インクジェット複合機三つ巴の戦い その1
「HP Photosmart C8180 All-in-One編」




HP C8180

 ここ数年、カラーインクジェットプリンタとスキャナが一体化し、液晶パネル、有線/無線LAN対応やメディアリーダーなどを備えたインクジェット複合機がホットだという。そこでこれから3回にわたり、各社の最上位機種をレビューしてみたい。いずれも市場での実売価格が3万円台後半の製品ばかりである。

 初回は、HP Photosmart C8180 All-in-One。2007年冬モデルであるが、いまだ現行機種のため、他社との比較上、扱うことになった。全部入りのなかなか気合の入ったインクジェット複合機だ。

Text by Kazuhisa Nishikawa



●ご対面!

 冒頭に書いたように、既に1年前のモデルなので、情報はいろいろなサイトに載っている。今でもBluetoothやスーパーマルチドライブ搭載などで人気が高く、価格も落ち着いて来たので、割安感もあるのだろう。確かに使った感じからは、1年前のモデルとは思えず、技術的にも陳腐化していない。また、インクジェットプリンタの出始めとは違い、1年程度で印刷クオリティが大きく変わるような時代でも無く、逆に何年も安定して使えるので安心感もある。パッケージ自体はさすがにこのクラスとなると、それなりに大きく重い(500×277×449mm/13.2kg)。とてもハンドキャリーで持って帰れるものではなく、運搬は車か宅配便頼みと言うのが現実的だ。

フロント
3.5型タッチパネル、各ボタン、CFカード/XDピクチャーカード/SDメモリカード/メモリースティックに対応したスロット、LightScribeに対応したスパーマルチドライブ、外部HDDなどを接続するUSBポートなどが見える

リア
後ろ側は、Ethernet、USB、電源コネクタ、後部アクセスドア。結構シンプルだ

付属品
インク一式、電源アダプタ、電源ケーブル、USBケーブル、マニュアル、L版のお試用紙、LightScribe対応メディア、各種インストールROMなど

二段式トレイ
最大A4までのメイントレイ(最高100枚)と、L版までのフォトトレイ(最高20枚)。2段前面給紙トレイになっている

原稿台
最大A4サイズの原稿台。右側手前がセット位置

フィルムガイド
原稿台の保護シートを外すとフィルムガイド収納されている。当初、マニュアルには書かれているのに、付属品には無く、何処にあるのかと思っていた

 詳細な仕様については同社のHPをご覧頂きたいが、大まかには以下の通りだ。

  • 6色独立インク/最高4,800×1,200dpi
  • 透過原稿対応の6色光源、9600dpi 高精細スキャナ搭載
  • 3.5型のタッチスクリーン
  • スーパーマルチドライブ (LightScribe対応)搭載
  • 無線(IEEE 802.11g/b)/有線LAN(10/100Base-TX)、Bluetooth搭載
  • 前面二段給紙トレイ
  • 448×392×216mm(幅×奥行き×高さ)/11.4kg
 これを見ると、「とにかく考えられるものは全て対応している」という雰囲気だ。PictBridgeはもちろんiPodからの写真プリント、対応フォーマットはMPEGなどなぜか動画まで。スーパーマルチドライブは、メディア内のデータをプリントするだけでなく、他のメディアからのバックアップにも対応している。

 また、6色独立インクは、自動メンテナンスの頻度を減らした上で、普通クリーニング時のインクは破棄されるのだが、それを回収する「アクティブ・エア・マネージメント」技術によって、インクの無駄をできるだけ無くしているのが凄いところだ。実はたまたまテストも兼ね別件でA4フチ無し印刷を40枚ほど行なったのだが、インクのステータスを見るとほとんど減っていない。これには驚いている。

 LightScribeはメディアへダイレクトにラベルを書く仕組みだ。ただ日本では流行っていないらしく、入手方法が限られたり同じメディアと比較して割高など、ちょっと残念な部分でもある。面白いのはラベルを書き込む時には、メディアの表面を裏にしてトレーに乗せること。普通のドライブならエラーとなる。また、国内は一般的なカラーインクでのラベルダイレクトプリント機能は無い。これはC8180唯一のマイナスポイントかも知れない。

●セットアップ/本体

 本体のセットアップはインクを入れるだけと非常に簡単だ。液晶モニタにガイドが出るので解り易い。少し面食らったのは、キャリブレーション。普通のインクジェットプリンタであれば、PC側から必要に応じて指示し、その結果をユーティリティに反映……と言う流れになるのだが、このC8180は、はじめて用紙をセットした瞬間にいきなり始まってしまった。単独で動く複合機なので、考えてみれば当たり前の話なのだが、一瞬何が起こったのかと思ってしまった。

設定ガイド
はじめて電源を入れると設定ガイドを表示する。まずインクのセットだ

インクのセット
インクのセットは簡単。白いレバーを上げ、インクカートリッジを6本セットしていく。1本1本の容量は結構ある

初期化
インク全てをセットすると初期化がはじまる。何をしているか不明だが、それなりに時間がかかっていた

調整
ヘッド位置などのキャリブレーションも自動的に行なわれた。用紙をセットすると1回だけテスト印刷する

L版でテスト
テストで付属のL版お試し用紙を使ってSDメモリの写真をダイレクトに印刷してみた。印刷時間は30秒を切る*

A4でテスト
今度はA4でのテスト。フチ無し印刷が簡単に行なえる。用紙はあまりグレードの高くない他社のものだが色も結構綺麗だ。印刷時間は1分半*


*4,288×2,848ピクセルの画像をSDメモリからダイレクトプリントした場合

●セットアップ/ネットワーク

 ネットワークの設定や確認も液晶パネルから簡単に行なえる。有線LANはDHCPであればほぼ何もやることは無い(もちろん固定IPアドレスも可能)。無線LANの時は、SSIDを選択し、WPAでのパスフレーズをソフトウェアキーボードから入力するだけで準備完了となる。

ネットワークの設定
設定メニューからネットワークを選択。Wi-Fi接続するのでワイヤレス設定ウィザードを選択する

SSIDの選択
範囲内にあるSSIDを自動的に認識して一覧表示。該当する項目を選択する

WPAのパスフレーズ入力
WPAのパスフレーズを入力、間違いが無ければ接続する

●セットアップ/ソフトウェア

 付属のソフトウェアはWindows Vista/XPにもMac(OS X 10.3.9、10.4以降)にも対応している。いろいろなアプリケーションやドライバがインストールされるので、お任せのウィザード形式を選んだほうが無難だ。LAN環境を選択した場合、環境を調べているのか少し時間がかかる。また、後述する「Roxio Creator Basic」と「宛名職人」は別途インストールする必要がある。

セットアップ
この手の機器は推奨のセットアップを選択するのがトラブルも無く無難だろう

Wi-Fiでの接続
手前の画面でUSB接続かLAN接続かの選択がある。ここではLAN接続を設定した

後はオート
ここから先は自動的に必要なソフトウェアがインストールされる


 以上、セットアップに関する内容を、本体、ネットワーク、ソフトウェアと別けた紹介した。この他にもタッチパネルで、「印刷可の学校向け用紙」、「ツール」(プリンタの調整など)、「基本設定」(言語やPictBridge設定など)が行なえる。各写真や画面キャプチャをご覧頂けば解るように、特に書くことが無いほど簡単だ。セットアップ中に電源を切るなど余程なことが無い限り、初心者でも問題無くセットアップできる。

●単独使用/プリント

 プリントはかなり多機能だ。回転、トリミング、赤目除去、写真の修正(自動/OFF)、フレームを追加(11種類)、明度(±3段階)、カラー効果(効果なし/モノクロ/セピア/アンティーク)などに対応している。こだわりのプリントはPC側で加工するにしても、通常のダイレクトプリントなら、これだけあれば十分。プレビューで用紙サイズまで含め確認できるので安心かつ失敗しない。ただ連続で何枚か印刷していると、途中でメンテナンスが行なわれる時があり、更に印刷中は結構な振動(横揺れ)があるのは気になるところ。スペックに書かれている「動作音、最大48dB」と言うのはそれなりに大きいではないだろうか。

メディアから写真を選択
メディアから写真を選択する。SDメモリカードの方がDVD-ROMから表示するよりも速かった

編集機能
単独でも結構色々な編集ができる。ここではトリミングを行なっているところ

A4フチ無しで印刷
プレビュー画面でトリミングの位置などを確認し、[印刷]を押せばOKだ

●単独使用/スキャナ

 スキャナの単独使用についてはそれほど多機能ではない。反射原稿か透過原稿かの違いや保存先などの変更程度である。[メモリデバイスにスキャン]ではJPEGで保存され、[コンピュータにスキャン]は接続しているPCの“My Documents\マイ スキャン”へ自動的にデータが保存される。単独使用時PDF化して保存には対応していない。

スキャンメニュー
スキャン元とデータ保存先を選択する。ここではメモリデバイスにスキャンを選択した

スキャン中
確認画面は無く、いきなりスキャン開始

確認
先のSDメモリへデータが保存されたか確認してみた。問題無く保存されている

●単独使用/コピー

 コピーはスキャン→印刷と言った一連の作業が自動的に行なわれる。画面下の[モノクロ][カラー]にタッチするか、本体の[コピースタート]([モノクロ][カラー])ボタンを押すと、確認無くいきなりコピーが始まる。コピーメニューで設定できる項目は、コピー枚数、サイズ、品質、薄く/濃く、プレビュー、トリミング、用紙サイズ、用紙の種類となる。

コピーメニュー
他のメニューもそうなのだが、右側にスクロールボタンがある場合は、まだ他の項目がある

サイズ選択
サイズの標準設定。このままでコピー(プレビュー)するとL版の原稿がA4サイズになっている(右)

コピー・プレビュー
後に、サイズをL版に設定しなおせば、うまくサイズに合わせてスキャンされた


 C8180単独使用はこのような感じだ。タッチパネルによる操作は直感的で非常に扱い易い。また処理速度も速く、待たされることはなかった。文字などを印刷する以外であれば、この範囲内でほとんどのことができるのではないだろうか?

●PCからの使い勝手

 複合機なので、いろいろなファンクションがあり、それをどうアプリケーションにまとめるかが、メーカーの腕の見せ所。HP Photosmart C8180は、“ソリューション センター”となっている。同社の他の機種をPCへ接続した場合でも同時にここから扱え、一種のハブ的扱いとなる雰囲気だ。画面から解るようにインクなど消耗品のオンライン発注にも対応。なかなか良くできている。メニューは[画像のスキャン]、[ドキュメント スキャン]、[CD/DVDを作成]、[フィルム スキャン]、[画像の転送]、[コピーの作成]と、大きく別けてこの6つ。他に用紙の種類やインクの状態、ヘルプ、ショッピング、設定などの項目もある。但し、[CD/DVDを作成]に関しては、他社製品の「Roxio Creator Basic」を起動するだけで、この部分に関してはHPとしての統合感は無い。

ホームメニュー
ソリューション センターのホームメニュー。家庭用としてソリューション センターと言うのはちょっと合わないので、他のネーミングの方がいいかも知れない

追加されたデバイス
C8180を認識すると、スーパードライブと各メディアリーダ(ここではGドライブ)、スキャナデバイスが追加される

スキャン
トリミングやサイズ変更、色の調整などが行なえる。ここでは[ほこりや傷を取り除く]をON(高)にしてみた。実は写真左下の暗い部分にホコリなどがあったのだが、綺麗に消えている

フィルムスキャンメニュー
フィルムガイドへフィルムをセットし、フィルムをスキャンする。[設定の変更]で読込みの設定などが変更できる

スキャンメニュー
ご覧のようにPDFへの保存も対応している

コピーメニュー
コピー画面。他の画面と比較するとここだけ業務アプリケーションのようだ

画像の転送
[ホーム]メニューで[画像の転送]を選択すると、この画面が現れる。同社のPhotosmart Essentialを使い、いろいろなことができる

プリンタドライバ
プリンタドライバ。ざっと見る限り、特に変わった部分は無い。一般的な設定項目が並ぶ

Roxio Creator Basic
スーパーマルチドライブへの書き込みは、バンドルソフトウェアの「Roxio Creator Basic」を使う。他にも「宛名職人」が付属する


埋め込みWebサーバー
埋め込みWebサーバー
 ご覧のように一通りの機能は全て入っているし、不足な機能も見当たらない。ただ気になるのは、そのUIがバラバラであること。統合環境的な一体感があまり感じられないのだ。部分的には@ホームだったり、@ビジネスだったり……。機能が豊富なのでまとめるのは大変だとは思うが、何だかの改善を希望したい。

 USB、有線/無線LAN、Bluetoothと、4種類のインターフェースに対応しているC8180であるが、ネットワーク経由のちょっと変わったもう1つのアクセス方法を用意している。左の画面キャプチャ「埋め込みWebサーバー」だ。この埋め込みWebサーバー、一般的にはルーターの設定画面などでよく使われる手法。液晶パネルのネットーワークで現在割り当てられているIPアドレスを調べ、そのIPアドレスにhttpプロトコルでWebブラウザからアクセスする。スキャンした画像データをWebブラウザで表示し、それをPCへ保存すると言った流れだ。仕掛け上ドライバを組み込まなくてもスキャンできるので、気軽に扱えるのが特徴と言えよう。これ以外でもインクの残量や、各種の設定が行なえる。画像をアップロードして、パラメータを入力、印刷できる機能があれば更に便利かも知れない。

 同社独自の機能として、Smart Web Printingがあげられる。IE6/7、Firefoxに対応した名前の通り、Webページをうまく印刷する仕掛けだ。最近資料などとしてWebページを印刷することも多いので、それが簡単にうまくいくのはなかなかありがたい。

 正直、単独使用でここまで対応していると、多くのことはPCレスで済んでしまう。PCとの併用は、一般的なプリントか、スキャンしてPDF化したい時程度だろう。いずれにしても、ドキュメント関連は何にでも対応できる複合機。頼りになる1台だ。


●総論

Mac対応
Mac対応

 この手のインクジェット複合機は、最近のものは全く縁が無かった。使ってみるとかなり便利!少なくとも写真のプリントならメディア経由でPCが無くても十分印刷できる上、それなりに綺麗だ。また前回掲載した単独のスキャナと違い、多少クオリティは犠牲になるもののプリンタと一体化しているのでスペースファクタも抜群。何から何までメリットばかりが目立つ。価格も39,900円(HP Directplus価格)と、機能やインタフェースを考えると結構安い。

 これからまだ2社のインクジェット複合機をレビューするので、最終的にこのC8180をどう評価するかは解らないが、少なくとも現時点では好印象だ。ここ数年はA3(ノビ)を印刷しなくなったので、手持ちのインクジェットプリンタをこれら複合機のどれかに買い換えたいと思った(続く)。


□関連記事
【2007年10月18日】日本HP、6chスキャナ搭載の複合機「C8180」など5機種(DC)
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/accessories/2007/10/18/7216.html
【2007年12月21日】【プリンタ特集2007年冬】日本HP「Photosmart C8180」(DC)
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/12/21/7618.html

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(2008年10月31日)

[Reported by 西川和久]


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