元麻布春男の週刊PCホットライン

PDCから見るMicrosoftの動き




 PDC(Professional Developers Conference)は、MicrosoftがISV向けに開催する開発者イベントである。前回までPDCは奇数年の秋に開かれており、本来は2007年の10月2日から開催されることになっていた。それが突然キャンセルされたのが昨年5月のこと。OSも含めたプラットフォームのリリース戦略に、大きな修正を加える必要変更が生じたのであろうことに疑う余地はない。

 そうした修正を余儀なくされた大きな理由の1つが、Windows Vistaの「不人気」であったこともほぼ確実だろう。Microsoftは公式にはWindows Vistaの普及について、Windows XPを上回るペース、あるいは予想通りといったコメントを出している。

 が、その一方でWindows Vista SP1の見かけを少し変えたものを、Windows Mojaveという次期Windowsであると紹介してユーザーに体験させ、最後にその正体を明かすというWindows Mojaveプロジェクトを行なっている。その結果、多くの被験者がWindows Mojave(実際にはWindows Vista SP1)を高く評価したという。Microsoftは、このWindows Mojaveプロジェクトの結果を公開することで、Windows Vistaが優れており、不人気が先入観によるものであるとアピールしているわけだ。

 しかし見方を変えればこのWindows Mojaveプロジェクトは、こうしたテストを必要とするほど、MicrosoftがWindows Vistaの人気と普及に自信が持てなくなった(少なくとも一時的に)という証でもある。そしてWindows Mojaveプロジェクトの結果、Windows Vistaの基本的な部分については問題ないとの確証を得たと同時に、一層の普及のためには名称やUI(外観を含む)の変更によるテコ入れが不可欠との結論を導き出したのだとしても不思議ではない。

 もう1つMicrosoftのプラットフォームとして存在感が薄かったのが、いわゆるクラウドコンピューティングの分野だ。ソフトウェアによる直接の対価を要求しないGoogle等の攻勢に対し、ソフトウェア販売により今日の地位を築いたMicrosoftの対応は、多くの人を納得させるものではなかった。Microsoftの言うソフトウェア+サービスは、過去のしがらみにとらわれたがゆえの妥協の産物的な印象をぬぐい去ることができなかった。

 こうしたいきさつを踏まえた上で開催されることになったのが、今回のPDCだ。ほぼ1年遅れの2008年10月27日からの4日間に渡って開催されることになった。すでに終了した初日の基調講演は、MicrosoftのクラウドコンピューティングのプラットフォームとなるWindows Azureに関するものだった。間もなく行われる2日目の基調講演が、Windows 7に関するものと、開発ツールに関したものになる見込みだ。3日目は、R&D関連の基調講演になるものと思われる。

 おそらく世間的に最も注目度が高いのは、やはりWindows 7なのだと思うが、これが初日でなく2日目である理由は何なのだろう。1つの可能性として考えられるのは、Windows Azureへ注目を集めたい、ということだ。一度Windows 7の情報が公開されてしまうと、話題がそちらに集中してしまい、Windows Azureに十分な注目が集まらない可能性がある。

配布されたカンファレンスガイドにセッションリストはなく、最後まで内容を調整していたことをうかがわせる

 もう1つ考えられるのは、ギリギリ最後のタイミングまでWindows 7の詰めを行なっているのではないか、ということだ。Microsoftは今回のPDCで、初めてWindows 7についてその概要を公表し、参加者にプレビュー版(ベータ版より前のリリース)を配布する。ほぼ仕様的に固まるベータ版を前に、Windows 7の仕様はまだ流動的で、日々大きく変わっている可能性がある。極力最新の情報を盛り込むために、1日でも時間が欲しかったのではないか、そう筆者は考えることにしている。今回のPDCで配布されたカンファレンスガイド(製本された小冊子)に、セッションリストさえ掲載されていないのも、そのせいではないかと思うからだ。

 さて、昨年PDCがキャンセルされる直前、PDCのブログではPDC2007のカンファレンスバッグ(カンファレンスで配布される資料等のマテリアルを入れて参加者に渡すバッグ)のアイデア募集をしていた。

 2007年のPDCがキャンセルになったことで、ここで募集されたアイデアが日の目を見ることはなくなったわけだが、それではPDC2008のカンファレンスバッグはどのようなものになったのだろうか。

不織布でできたカンファレンスバッグとアルミボトル。これからのカンファレンスはエコを避けては通れない

 (ドラムロール)なんと、PDC2008のカンファレンスバッグは、不織布で作られたエコバッグになってしまった。良くスーパー等で使われていた使い捨ての袋の代わりに用いられるアレである。100円~300円で売られていたり、あと大規模な展示会の企業ブースで資料を入れる袋として配られていることが多い。

 従来こうしたカンファレンスでは、スポンサーのロゴが入った布製のかなり立派なバッグが配布されるのが常だった。イベント期間中に身の回りの品物を入れて行動するという実用的な価値もさることながら、昔のカンファレンスでは資料が厚さ10~20cmもの分厚いバインダーに綴じられて配布されており、それを持ち運ぶのに立派なバッグが不可欠だったという歴史的な要因もあったものと思われる。

 しかし、カンファレンス資料は、CDやDVDといったメディア配布の時代を経て、オンラインダウンロードが普通になりつつある。資料を配るのにそれほど立派なバッグは要らない。参加者がPCを入れられるようなバッグを配布することが多いが、PCを持ってきた以上、それに使ったバッグを持っているハズで、なければ困る、というものでもない。

 逆に、企業のスポンサーロゴ入りのバッグは、カンファレンス終了後の使い道に困る、という声も聞く。そうであれば、エコバッグというのも1つの考え方だとは思う。個人的にはイベントの記念としてバッグをもらうことも、今年のバッグは~などと会話を交わすのも嫌いではないのだが、これもエコに配慮する時代の流れなのかもしれない。

 エコという点でもう1つ特徴的なのは、このカンファレンスバッグに、アルミニウム製のボトルが入れられていたことだ。これは会場でペットボトル入りのミネラルウォーターを配布することを止めるので、各自がウォーターサーバーから水をこのアルミ製ボトルに入れて飲んでね、というメッセージである。このアルミ製ボトルはIDFでも配布されていたから、米国の大規模カンファレンスでは、これがどんどん普通になるのだろう。過去にウォーターサーバーの蛇口から、ひからびたゴキブリが出てきた経験を持つ身としては、若干複雑な気分だが、諦めるしかないようだ。

 カンファレンスバッグをやめて、ペットボトルのミネラルウォーターをやめて、それってエコを言い訳にしたケチなんじゃない、と思う人もいるかもしれない。が、今回のPDCでは、別のところにお金がかかっている。それは参加者に配布するプレビュー版のWindows 7が、DVD-ROMではなくHDDにおさめられている、ということだ。これは今回が初となる新たな試みである。

参加者にWindows 7のプレビュー版がおさめられたHDDの受取りを忘れないよう喚起する告知

 これで、PDCのスポンサーにHDDメーカーの名前があれば、そこがスポンサーフィー代わりに提供したのだろうと考えることもできる。が、今回のスポンサーリストにドライブメーカーの名前は見あたらない。どうやら配布されるHDDのパッケージにはWDのロゴがあるようで、Western Digitalがディスカウントしてくれた可能性はありそうだが、丸ごと経費を持ってくれた感じではない(併催される展示会の出展者リストにも名前がない)。

 HDDのようなストレージは再利用価値が高く、無駄になる可能性は低い。つまりはエコ的にも悪くないということだ。HDDへのコピーとDVD-ROMのプレスで、どちらが納期を短くできるのかは良く分からないが、HDDによるプレビュー版配布が、最新版に極力近いビルドを入れるための努力と、再利用価値の高さの一石二鳥を狙ったものだと思いたいところだ。

□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□PDCのホームページ(英文)
http://msdn.microsoft.com/en-us/events/bb288534.aspx

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(2008年10月29日)

[Reported by 元麻布春男]


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