●減収減益の第三四半期決算 「コンパクトデジタルカメラでは、トップの座を取れる見込みがついた。いや、間違いなく取れる」 10月24日に行なったコンスーマイメージングカンパニーの事業説明会で、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の佐々木統常務取締役は、年末商戦におけるコンパクトデジカメ事業について、こう切り出した。 同社が発表した、2008年第3四半期(7~9月)の連結決算は、売上高が9.1%減の1,937億円、営業利益は、52.9%減の33億円、経常利益は50.7%減の34億円、当期純利益は62.9%減の13億円と減収減益になった。 コンスーマ機器では、デジタル一眼レフカメラの売り上げが増加したものの、コンパクトデジタルカメラの不振が業績に影響したという。 コンスーマ機器事業における第3四半期までの9カ月間の売上高も、前年同期比4.1%減の1,838億円、営業利益は47.7%減の46億円となった。
「コンパクトカメラ事業の不振が、第3四半期までの業績に大きく影響したのは事実。だが、9月に発売したIXY DIGITAL 920 ISが好調な滑り出しを見せ、機種別の売れ行きではナンバーワンシェアを獲得している。量販店からの引き合いを見ても、激戦のなかでもトップシェアは維持できるはず」と語る。 キヤノンMJは、上期(1~6月)実績で、コンパクトデジカメは前年同期比11.0%減と、2桁台の販売台数の減少となった。 上期は、新製品投入が遅れたことで、価格競争の流れのなかに陥り、市場全体と同じ水準の価格下落を余儀なくされた。また、佐々木常務自らが指摘するように、「上期には、キヤノンが市場をリードするような製品がなかった」ことも影響した。 「カメラメーカー同士の戦いではなく、家電メーカーも強力な製品を出してきている。製品は負けているとは思っていないが、競争相手が強くなってきているのは確か。気を抜けない状況にある。銀塩の時代とは異なり、より先進的な製品の投入、そして、フォトカルチャーを啓蒙するといったことも並行して行ない、キヤノンファンを増やしていきたい」
実際、価格下落は激しい。今年に入ってから、平均単価は2桁台の減少で推移。昨年までは6割弱だった3万円以下の製品構成比が、今年上期には70%近い水準にまで高まっている。 「想定した以上のペースで価格下落が進んでいる」というなかで、その荒波の真っ直中に入ってしまったのが上期のキヤノンだった。 こうした反省をもとに、年末商戦向けの新製品では、ラインアップを一新し、価格重視、デザイン重視、機能重視などの位置づけを、製品ごと、ブランドごとに明確化。「とくに、低価格帯のラインアップ強化、簡単操作のラインを充実した。この新製品によって、流れが一気に変わるとは思っていないが、多少なりとも、自分たちのペースで事業ができるようになる」として、厳しい価格競争が続くなかでも、キヤノンの強みを生かした訴求ができる環境が整い始めていることを示した。 実際、IXYシリーズの価格も下げてきた。「従前の価格設定では通らないという認識がある」と、佐々木常務取締役は語る。 第4四半期におけるコンパクトデジカメの販売台数目標は、前年同期比3.4%増と強気だ。コンパクトデジカメ年末商戦でどんな売れ行きを見せるかが、同社のコンスーマ事業の業績を大きく左右することになるのは確かだ。 ●好調に推移するデジタル一眼レフカメラ
これに対して、順調に推移しているのがデジタル一眼レフカメラだ。 3月に発売した普及モデルの「EOS Kiss X2」が好調に推移。さらに、中級モデルでは9月27日に発売した「EOS 50D」が、期間的にはわずかではあるが第3四半期の業績に貢献。「9月には、一眼レフカメラの月間販売台数としては、過去最高記録を達成した。国内のデジタル一眼レフカメラ市場では、各社から普及価格帯の新製品が相次いで発売され、またコンパクトデジタルカメラからステップアップする顧客層の増加により、台数ベースで大幅に拡大している。この分野において牽引役となるEOS Kiss X2はモデル別数量シェアではナンバーワンを維持している」と語る。 数値を見ると、上期の販売台数が前年同期比48.6%増と高い伸びに対して、第3四半期(7~9月)は、4.7%増と低迷したように見えるが、これは前年との新製品投入時期の違いが影響したもの。第3四半期までの累計では30%増を維持。市場全体が約20%増の増加と見られていることに比較しても、大幅な伸びとなっていることがわかる。 第4四半期は48.6%増と上期と同じ水準の成長率を目指し、年間では35.6%増を計画している。
「年間では市場全体で128万台の規模が見込まれており、これは'80年に一眼レフカメラが最も売れた時の数字。これを抜くのは確実だろう。11月にはミドルハイクラスの製品として、EOS 5D Mark IIを投入する。ミドルクラスは、当社にとって重要な顧客層と見ており、EOS 50Dともども、この分野でのシェア拡大に寄与する」と語る。 特筆できるのが、カメラ本体の伸びに伴って、交換レンズの売り上げも増加した点だ。これもミドルクラス製品群の好調ぶりを裏付けるものだ。 「交換レンズは、前年同期比42%増という高い伸びとなっている」 今年4月、キヤノンはレンズの生産本数が累計4,000万本を達成した。2006年1月に3,000万本を達成してから、2年3カ月という短期間での達成だ。 「業界最多の60種類以上のバリエーションを用意し、出荷本数の約4分の1を日本市場向けが占める。デジタル向けのラインアップを充実させたことが功を奏している。当面はレンズの販売増は継続することになる」という。 キヤノンMJにとって、売上高構成比では、デジタル一眼レフカメラが、コンパクトデジカメを上回る。そして、この市場は、キヤノンの予想では、2010年に150万台規模に到達するまで、成長が持続すると見込まれている。 「デジタルカメラマーケットはサバイバル。成長から淘汰の時代に入ろうとしている。キヤノンの強みは、レンズ、CMOS、DIGICなどのキーデバイス、各種アプリケーションやPictBridgeなどのシステム、PIXUSなどのプリンタ製品を持つこと、そして、EOS学園やフォトサークルなどのフォトカルチャー事業を推進していることにある。デジタル一眼レフは、商品誕生期、市場形成期を経て、いよいよ文化形成期に入ろうとしている。景況感の影響もあり、文化活動には費用対効果を求める声も大きいが、こうした長年のフォトカルチャーの促進活動が今のキヤノンを支えていると考えている。将来に向けた市場形成という意味でもこれを継続することで、生き残りに向けた確固たる地位を築ける」と自信を見せる。 キヤノンが最も得意する分野での事業拡大は、いまのところ堅調に推移しているといっていい。 ●年末商戦での巻き返しを狙うインクジェットプリンタ コンスーマ事業で最も事業規模が大きいのが、家庭用プリンタである。
家庭用プリンタは、インクジェットプリンタと昇華型コンパクトフォトプリンタによって構成されるが、第3四半期までの実績は、昨年発売の「PIXUS MP610」を中心に拡販。「ENJOY PHOTO」のコンセプトにより、フォトレターやカレンダーづくりによる提案活動が成果をあげたという。こうしたホームプリントの需要喚起により、消耗品では、インクカートリッジの売上が堅調に推移したという。 上期の販売台数実績は前年同期比6.3%減とのマイナス成長。だが、第3四半期は6.9%増へとプラス転換。市場全体を上回る状況だという。 特筆できるのがインクジェットカートリッジの販売増加だ。販売金額は上期には2.3%増であったのに対して、第3四半期は5.3%増と、さらに前年を上回っている。 「家庭用プリンタ市場は、年間560万台と前年並みを予想している。そのなかで、インクジェットプリンタでは前年実績を上回る台数を目指す。新製品では、音楽を楽しむように、あるいは遊ぶように、ということをコンセプトに、使うプリンタから、楽しむプリンタを目指した。もちろん、画質向上と大幅な小型化を図っている。PLAY! PIXUSをキーワードに訴求を図っていく」と語る。
新製品のなかでも、最も売れ筋となるPIXUS MP620は、同MP600、同MP610に続き、3年連続でのミリオンセラーを狙う考えだ。 年間では、コンパクトフォトプリンタは、22.2%減と前年を大幅に下回る計画。だが、インクジェットプリンタでは1.0%増を計画。年末商戦を含む第4四半期は2.7%増と前年実績を上回る計画を掲げている。 ●シェア20%を超えたビデオカメラ
一方で隠れたヒットとなっているのが、ビデオカメラである。 第3四半期の販売台数は、前年同期比40.3%増。市場全体がほぼ前年並みの130万台となっていることに比較すると、異常ともいえる成長率となっている。 その好調ぶりは、ソニー、日本ビクター、パナソニックなどの競合が激しいなかで、「秋商戦では、メーカーシェアで21.7%と、20%を超えた週もあった」というほどだ。 8月に発売したハイビジョンモデルの「iVIS HF11」が、内蔵フラッシュメモリとSDカードによる「ダブルメモリー」を訴求。「売り上げの増加とシェアの拡大に貢献した」(キヤノンMJ 専務取締役本社管理部門担当 川崎正己氏)という。 「フラッシュメモリに注力したことが功を奏した。成長が安定した市場ではあるが、第4四半期も2桁の成長を維持し、来年の飛躍へとつなげたい」とする。 ●通年は減収減益を予想 キヤノンMJは通期の業績予想を下方修正した。 コンスーマ機器事業については、7月23日公表値に対して、売上高は95億円減の2,730億円、営業利益は17億円減の115億円としている。売上高、営業利益とも、通期では前年実績を下回る予想値だ。 コンバクトデジカメ、一眼レフカメラ、家庭用プリンター、ビデオカメラと、それぞれに市場の状況は異なるが、いずれも年末商戦においては強気の目標を立てているという点では変わらない。 価格下落の影響が大きくのしかかる中で、この年末商戦でどんな結果を残すことができるかが、来年以降の手の打ち方にも影響を与えることになるだろう。 □キヤノンのホームページhttp://canon.jp/ □決算資料 http://cweb.canon.jp/co-profile/ir/index.html#20081023b (2008年10月27日) [Text by 大河原克行]
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