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【特別企画】台湾ネットブック開発者インタビュー ASUSTeK編
~初代Eee PCはAMD Geodeで検討していた

台北市にあるASUSTeK本社


 ASUSTeKが初代Eee PCを発表してから1年以上経つこともあり、そのラインナップは液晶サイズだけでも7型、8.9型、10型の3ラインナップがある(10型は日本未発表)。「Eee」ブランドはすでに1つの独立したブランドとなっており、直近では「Eee Box」というネットトップ製品も発表された。

 この連載では、各社の特定のモデルについて話を聞いてきたが、今回はEee PC全体の生い立ち、目的、そして今後の展開などについて紹介する。インタビューには同社ジェネラルマネージャを務めるS.Y. Shian氏が応じてくれた。

●最初Eee PCの話をAMDに持ちかけたASUSTeK

Q まず、どのようにEee PCの開発が始まったのか教えてください。

ASUSTeKのS.Y. Shian氏

Shian氏 2007年初め頃、OLPC(One Laptop per Child)といったローコストPCを作ろうという運動が始まり、我々もEee PCの取り組みを始めました。その対象は、PCを触ったことがない、あるいは経済的理由から購入できないといった層と、もう1つは2台目のPCを買おうと考えている層です。

 これは、それまで安くても600~700ドルしてたノートPCを100ドルにまで下げようという試みでした。しかし、さすがに100ドルは無理がありました。CPUやチップセット、液晶など主要な部品だけでそれ以上のコストがかかるからです。そこで我々はEee PCの話を最初AMDに持ちかけました。彼らはGeodeについてかなりアグレッシブな価格を提示してくれました。そしてこの価格をIntelに見せたところ、彼らはそれよりも安価にDothanを提供してくれたのです。Dothanは当時でも2年以上経過した古いCPUで、Intelには余剰在庫が残っていたという事情もあるようです。ただ、我々は当初50万台の出荷を計画していたのですが、最初の3カ月で30万台を出荷したので、IntelにはCPUの増産を依頼することになりました。初代Eee PCの価格は199ドルを狙っていましたが、最終的には299ドルになりました。

Q 初代ではなぜLinuxを選んだのでしょう。

Shian氏 当時MicrosoftはULCPC(Ultra Low Cost PC)に興味がありませんでした。従来のWindows XPのライセンス価格はEee PCには高すぎたのでLinuxを選ぶ以外、選択肢はありませんでした。しかし、Eee PCの成功を見てMicrosoftも気が変わったようで、ULCPC向けのライセンスプログラムを新たに用意するようになったのです。これは、我々だけでなくユーザーにもメリットのあることです。ユーザーはWindowsの方が使い慣れています。また、Linuxはマルチメディア系の互換性がWindowsほど高くありません。

Q Microsoftと同じように、IntelもEee PCの成功以降、態度を改めましたね。

Shian氏 はい。当初IntelはAtomをMID(Mobile Internet Device)などUMPC(Ultra Mobile PC)にのみターゲットを絞っていました。しかし、MIDはあまりうまくいっていません。結果、IntelはネットブックにもAtomを提供することを決断しました。

7型WVGA液晶搭載の初代Eee PC。ここからネットブックの時代が始まった

Q Eee PCの開発はどのように進めたのでしょうか。

Shian氏 基本的には普通のノートPCと同じです。違いは、ユーザー体験を考えながらスペックを決めた点です。ハードウェアの仕様は、高いからと言って、必ずしもそれだけユーザー体験が増すとは限りません。ネットブックはパワーユーザー向けの製品ではありません。その用途は、ネットの閲覧や、音楽、動画の再生などがほとんどです。これらを実現するのに必要なスペックというのをまず検証しました。そして、それ以外にもファンの騒音、バッテリ駆動時間、パームレストの温度などのバランスをとりました。初代Eee PCのDothanのクロックが本来よりも下げられているのはそのためなのです。つまり、630MHzというクロックは、DVDの再生が十分可能で、かつバッテリ駆動時間が延び、温度も高くならないという検証に基づいたものなのです。

Q 開発で苦労した点はありましたか。

Shian氏 我々はx86ハードウェアに詳しいので、ハードウェアの面では問題はほとんどありませんでした。問題はソフトウェアで、我々にはソフトウェアエンジニアが少ないので、Linuxには苦労しました。ただ、エンジニア視点ではなく、ユーザーの利便性を常に考慮して開発に取り組みました。

Q ネットブックについて一番重要なのは、価格、重量、本体サイズ、スペック、デザインなど、何だと考えますか。

Shian氏 我々は6つの重要なユーザー体験があると考えています。一番重要なのは、電源を入れて起動するまでの時間と、電源が切れるまでの時間です。初代Eee PCは30秒で、今のXPモデルも40秒で起動します。2番目は重量、3番目はパームレストの温度、4番目はファンの騒音です。5番目は外観です。どの製品も中身はIntel+Microsoftなので、ここで差別化を図る必要があります。そして6番目が価格です。

Q 最初Eee PCはASUSブランド製品の1つでしたが、今では「Eee」という独立したブランドになり、ネットトップも出ました。また、噂ではこれら以外の製品にもEeeブランドをつけると聞いています。

Shian氏 Eeeは、「Easy to Learn, Work, Play」あるいは「Easy・Excellent・Exciting」といった意味を含んでいます。これに該当するのであれば、ミニノートでなくてもEeeブランドを与えていこうと思っています。実際、我々はEee PCをネットブックとは呼んでいません。基本的にASUSブランドはミドルレンジ以上の製品にしたいので、ブランドを分離しました。Eeeブランドは必ずしも低価格とは限りませんが、コストパフォーマンスは追求します。

●Eee PCのSSDスロットは独自仕様。今後はMLCを採用

Q なぜ4GB SSDを選択したのでしょう。

Shian氏 まずSSDを採用した理由についてお話しします。1つにはモビリティを考えたためで、HDDは振動に強くありません。もう1つは、HDDには一定の決まったコストがかかるという点です。今40ドルで120GB HDDを買えます。来年なら160GBや200GBも出るでしょう。しかし、駆動部品などがあるため、HDDの価格は40ドルを切ることはないのです。一方、SSDは10ドルや20ドルと言った価格が可能です。ただ、Windows XPを使うようになった今、4GBは少なすぎると考えており、今後は最低でも8~16GB程度を搭載する予定です。エントリーノートPCとの競合を避けるため、Eee PCにHDDを使うことはあまり考えていません。ただ、ちょっとした問題が残っています。というのは、MicrosoftのULCPCライセンスはHDDは160GBまでとなっていますが、SSDは16GBまでとなっているのです。

 4GBという容量ですが、当時のMLCはコントローラが悪く、Cドライブとして使うには寿命に大きな不安がありました。そのため、SLCを選択するほか無く、4GBという容量になりました。しかし今ではコントローラが改善され、MLCでもSLCと同等の寿命と性能を実現できるようになりました。ですので、来月以降出るモデルはMLCを使います。言い換えるなら、十分なサイズのCドライブのみを搭載するようになると言うことです。ちなみに、SSD用のmini Cardスロットは我々の独自仕様になっています。ですので、汎用のSSDは搭載できません。

Q 低消費電力技術のSuper Hybrid Engineについて詳しく教えてください。

Shian氏 基本的には数年前からノートPCで使っているのと同じ技術です。CPUクロックの調整に加え、CPU、メモリ、チップセットなどの電圧を制御します。Atom自身にもクロックなどを制御するEISTが搭載されています。しかし、Atomの消費電力は最大でも4Wで、チップセットに比べるとかなり低く、EISTだけではシステム全体の消費電力低下にはあまり効果がないのです。そこで、我々はSuper Hybrid Engineを搭載させました。ちなみに、このHybridはトヨタのハイブリッドカーをイメージして名前をつけました。

●7型以下のサイズも検討中

Q 液晶パネルも大きなコスト要因だと思います。液晶は小さいほど安くはならず、7型は14型より需要が少ないので、却って高くつきます。

Shian氏 その当時からデジタルフォトフレームに人気が出始めたことで7型の需要が増えたことで価格は下がっていたのです。自動車のカーナビにも使われていましたし。PCではフォトフレームやカーナビほど輝度がいらないので、そのあたりのスペックを下げることでさらに低価格化を図りました。

8.9型でWSVGAに高解像度化したEee PC 901-X

Q 2代目以降では、1,024×600ドットになりましたね。

Shian氏 Eee PCのユーザーは6割以上の時間をネット閲覧に使っています。現在の多くのサイトは横幅が1,024ドット程度を想定しているので、解像度を上げる必要がありました。

Q タッチパネルを採用するアイディアはなかったのでしょうか。

Shian氏 実はアフターマーケットでサードパーティがEee PC用タッチパネルを販売していたりもします。我々もタッチパネルは2009年第1四半期に搭載させることを計画しています。登場時期が遅いのは、ソフトウェアにも注力しているからです。単にタッチパネルを搭載させるだけでなく、マルチフィンガータッチなど、よりユーザーが便利に使えるようなものを準備しているのです。

Q パネルサイズのラインナップは今後も7/8.9/10の3種類なのでしょうか。

Shian氏 個人的に例えば4型クラスは操作性も視認性も悪いと思っています。しかし、iPhoneが登場したことで、このサイズでも使いやすいサイトが登場してきています。こういった状況を受け、7型より小さいものも検討しています。

Q エコシステムやアクセサリを強化する計画はありますか。

Shian氏 我々にはリソースが足りていないので、予備のACアダプタやバッテリくらいしかありません。サードパーティからはいくつかコンタクトがあり、彼らにサイズなどのデータを渡しています。ただ、AppleがiPodで成功したのは、プレーヤーだけでなく、トータルソリューションを提供した点にあります。我々もそのようなものを目指したいと考えています。例えば、今のEee PCには無償でWebストレージ利用権をつけています。基本的にこれはSSDのサイズの小ささを補完するのが目的です。しかし、将来は、例えば動画などのコンテンツをプッシュでこのストレージに配信して、ユーザーがそれを楽しむといったことを検討しています。

Q デュアルコアAtomの採用予定はありますか。

Shian氏 我々はまだサンプルCPUを入手していない状況で、あまり確かなことは言えません。しかし、我々は一番重要なのはユーザー体験だと考えています。その意味で言うと、今のシングルコアAtomでもユーザーはその性能に満足しています。

Q Windows Vistaの採用予定はありますか。

Shian氏 コストおよび性能の面でユーザー体験が悪化するので、現時点で予定はありません。ちなみに、一部のパワーユーザーはメモリを増やしたり、OSをチューニングするなどしてEee PCでVistaを動かしている人もいます。MicrosoftからもEee PCにVistaを搭載して欲しいという要望は来ていますが、XPの出荷が終わるまではXPを続けます。

Q MicrosoftがWindows VistaのULCPCライセンスを出す可能性はあると思いますか。

Shian氏 その予定はないと思います。むしろ、次のWindows 7の方がその可能性があるでしょう。我々はすでにWindows 7でのテストも始めています。

Q ありがとうございました。

 ASUSTeKが、当初Eee PCの話をAMDに持ちかけていたというのは驚きだった。そしてその後Intelに変更になったのは、XboxのCPUが発表前日にAMDからIntelに変わったことを彷彿とさせる。もっとも、ASUSTeKがGeodeを採用していても、Atomが出た時点ではIntel CPUに切り替わっていただろう。

 インタビューの中でShian氏がしばしば口にしたのが「ユーザー体験を元に」という言葉だ。実際、初代Eee PCのクロックが低かったのも、Intelから制約を受けたのではなく、性能とモビリティの両立を考えてのことだったのも驚きだった。

 すでに同社はラインナップでもシェアでも他社を圧倒しているが、今後も今の成功に安住せず、さらなる攻勢をかけようとしているようで、10月にも新製品を発表する予定だという。

 なお、日本モデルやデザインについての話も聞いてきたのだが、これについて近日中に別途お伝えする。

□ASUSTeKのホームページ(英文)
http://www.asus.com/
□製品情報
http://eeepc.asus.com/jp/product.htm
□ネットブック/UMPCリンク集(ASUSTeK)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#asus

(2008年9月29日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

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