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ノート型PCの中心核となりつつあるネットブック。9月2日時点の統計では、ノートPC全体の19.9%もの割合を占めるにまで至っている。そんな中で8月29日に登場したばかりのEverex「CloudBook CE1220J」(以下、CE1220J)は、二強となっている「Eee PC」シリーズと「Aspire one」のゾーンへと切り込む形となった。Atom搭載機が主流となりつつあるなかで、VIA C7-M ULV 1.2GHzを搭載するCE1220Jの魅力に迫ってみよう。 ●スタンダードな8.9型液晶ネットブックをさらりと踏襲 まずはビジュアルから見てみよう。230×172×33~41mm(幅×奥行×高さ)でEee PCの225×160×20~32mm(同)よりもやや大きい。「CE1200J」は230×171×29.4mm(同)で、CE1220Jとほぼ同サイズで高さだけ異なり、サイドから見た場合はかなり大きく感じてしまう。その原因は底面から少し隆起しているHDDで、平面設置時の安定性を取るためにゴム製の足が用意されている。ネックに感じてしまう人がいるかもしれないが、机の上に置いたときの安定性はよく、底面と机の間に適度な隙間も生まれるため、熱対策として見れば妥協してもよい点だと思う。
ポートなどを見てみると、右側面にはUSB×1、Ethernet、ACアダプタ、ダミーカード式ExpressCard/34スロットを搭載。左側面にはUSB×1、ミニD-Sub15ピンと排気スロット。そして、正面にはLED形式のインジケーター、音声入出力、4-in-1カードリーダー(SD/MMC/メモリースティック/同Pro)がある。ダミーカード式ExpressCard/34スロットはまだ搭載したモデルはレアなので、メインノートでExpressCardを使用している人ならばチェックすべきだ。
キーピッチは約12.5mm、キーとキーの間は約4.5mmの間隔となっている通り、Eee PCシリーズやAspire oneよりもキーピッチが狭く、長い文章を書くのには向かない。反面、矢印キーはA~Zのキーよりも大きい。あまり文字を打たずスクロールで済ませられる用途の場合はストレスを感じることはなかったので、「入力はそこそこ」と割り切ってレイアウトが行われたと思われる。 またEnterキーはASDFGH列にあり、これもまた人によって好みのわかるところだが「Enterキーは小指」派の筆者はあまり違和感を感じなかった。どちらかといえば、Back spaceキーがやや小さめなところが気になってしまう。メッセンジャーでやり取りをした際、どうにも打ち間違えやすく、「‐」「^」のキーピッチを狭くしたほうがよかったのではないかと感じた。
●液晶は見やすいがタッチパッドに難アリ 液晶ディスプレイは8.9型ワイドで、1,024×600ドット(WSVGA)表示に対応する。表面に光沢処理はなく、映り込みはほとんど気にならない。発色は青色が強く感じるが、微々たるものなので気にする人は少ないと思う。またドットピッチは計算してみると0.19mmとなるため、細かい文字などはつぶれてしまいがちだ。念のためにブラウジングやメールなどでチェックしてみたが、よほど小さい文字でない限り、視認性を損なわれることはなく、実用に耐えうると思う。 また輝度の調整は10段階ではなく8段階となっている。デフォルトでは輝度は最高状態となっているが、4段階目であっても室内や屋外で見づらいということはなかった。 考えての設計なのかは不明だが、面白いなと思ったのは、ディスプレイの展開角度。180度を越えてさらに倒すことができ、最終的には三角形状態で自立するのだ。当然、この状態でも操作は可能で、ディスプレイ側はちょうど座っていると見やすい角度となる。そのため、デスクトップを上下反転できるアプリを入れておけば、プレゼンテーションや打ち合わせといった場で相手に画像なり動画なりを見せつつ操作できるのだ。実際に導入してみたが、思いのほか好評でビジュアル的な内容の打ち合わせにはとても便利だと思う。
ポインティングデバイスはタッチパッドを採用している。CE1200Jの極小タッチパッドではなく、今回は約2.1mm×約3.35mm(縦×横)のスペースが割かれている。まだ窮屈な感じはするが、ブラウジング中にマウスカーソルをリンクへ持っていく程度であればスムーズに行なえる。 クリックボタンはクセが強く、非常に使いにくい。ボタンのどこを押しても反応するというわけではなく、中心部分はボディと一体化しており、クリックすることができない。そのため、ボタンの中心よりも外側を押す必要があり、そのうえ硬いので慣れるまで時間がかかった。タップでクリックするといった機能はあるので、それでフォローするしかないといった印象だ。
●動画再生支援機能を持つVIA VX800 VIA VX700からVIA VX800になり大きく変わった部分は、3Dグラフィック性能と動画再生支援機能である。この2つはVIA VX700の弱点といってもよく、DirextX 6までしか対応しておらず、そのうえDirectDrawが弱く、動画再生時にはCPUが100%に貼り付いてしまうなど、メールやブラウジングならば問題ないが、そこから一歩進むとちょっと厳しい状況だった。VIA VX800からはDirectX 9.0cに完全対応し、動画もMPEG-2、MPEG-4、WMV9、VC-1およびDivXフォーマット、そしてVMRで動画再生支援機能が有効となる。 まずはグラフィックとパフォーマンス面からということでベンチマークを行なった。CE1220JはVRAMとして128MBを物理メモリから確保する設定がデフォルトで、BIOS画面で64~512MBまで任意に変更できる。ベンチマークには、「HDBENCH Ver3.40beta6」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「PCMark05 Build 1.2.0」、「3DMark05 Build 1.3.0」を使用した。また比較として前モデルのCE1200J、8.9型ワイド液晶でのライバルであるEee PC 901、Aspire oneの数値を用意。なお「PCMark05 Build 1.2.0」の「PCMarks」と「Graphics Score」は外部出力がクローンのみであるため、実測できなかった。
結果としてはCE1200Jよりは性能アップとなっているが、CPU性能差が露呈した形となった。グラフィックではEee PC 901よりも優れたパフォーマンスを見せているが、やはりパワー不足感はいなめない。体験レベルではそれほど問題なく使えてしまうことから、ゲームなどをプレイしないと割り切ってしまえば十分な性能といえる。 動画再生支援機能は、GPU-Zなどがまだ未対応であったため、このコラムの「HP 2133 Mini-Note PC ハイパフォーマンスモデル」の記事を基に比較を行なってみた。「HP 2133のCPUはVIA C7-M ULV 1.6GHzで、640×480ドット/1.5Mbps程度のWMVファイルの再生時にはCPUは100%に貼り付く」結果となっていた。CE1220Jは超低電圧版C7 1.2GHzである。動画再生支援機能が満足行くものであれば、クロックダウン状態であっても問題なく再生するはずだ。 640×480ドット/1.5Mbps程度のWMVファイルを再生してみたところ、CPU使用率は60~80%の間を行き来し、コマ落ちもなくスムーズな再生が行なわれた。動きの激しいシーンではさすがに90%以上となったが、VIA VX800の動画再生支援機能はCPUのクロックからみるとまずまずといったところ。VIA Nano搭載モデルが出てこればさらに快適になるのではないだろうか。 またDivXの再生もチェック。704ドット×396ドット/1.6Mbpsのファイルでは、CPU使用率70%台に収まり、WMVと同じくコマ落ちなどは発生しなかった。1,280ドット×720ドットでも試してみたが、さすがにこちらはコマ落ちが早々に発生してしまった。 メインマシンの共有フォルダに動画ファイルを入れておき、CE1220Jでソファに寝転がって動画を楽しむといったことは楽に行なえる。ただやはりH.264に未対応ということで、ニコニコ動画(夏)やYouTubeを見ようとするとCPU使用率が常に100%近くになってしまう。今後のドライバアップデートに期待したい。 ●メモリの増設はハードル高し メモリは公式では1GBまでとなっているが、2GBのメモリまで認識する。グラフィックパワーよりも実際のユースでは、メモリ増加による体感速度アップ、スワップの発生回数低下の恩恵のほうが重要なので、ここでメモリ増設の手順を紹介しよう。
キーボードを外したり、ハーネスを抜いたりと完全分解に近い状態までもっていかないとメモリの換装は不可能となっている。正直なところパワーユーザー以外にオススメできない。
メモリが2GBになったので、VRAMを512MBにしてみた。ベンチスコアは劇的な変化はナシ。やはりVRAMは128MBにしておき、メモリを有効活用したほうがよさそうである。ネットブックのなかではメモリ増設が面倒な部類で、おそらくもっとも面倒だと感じた。分解は手順が多いだけなのだが元に戻すときタッチパッドのハーネスが外れやすく、ネジ止めを終えて起動してみるとタッチパッドが反応しないなど久しぶりに苦戦してしまった。
●短時間のモバイルはOK バッテリ駆動時間以前にモバイルしにくい点がある。それは左側面からの排熱だ。排気スロットの温度を計測してみたところ室温28℃時、アイドリングで40℃前後、高負荷時or2時間CPU負荷20%状態で放置した場合は50℃を越えた。もちろん、排気スロット周辺も総じて熱が帯びるため、キーボード側だけでなく背面もホットポイントと考えておきたい。実際に左でマシンを持って右手で操作とした場合、左腕がとても熱く、CE1200Jのディスプレイとキーボードの間にあったスペースが欲しくなってしまった。持ち方によっては排気スロットに接触するため、持ち方を工夫する必要がある。 リチウムイオンバッテリの駆動時間だが、公式データによると約3時間30分で、確かに何もせずといった状況であればほぼその通りの結果となったが、スリープ状態のことを含むようで、Windowsが起動しままの場合は3時間と思っておいたほうがいい。テキストを書いたりブラウジングしたりといった作業をしてみた結果は約2時間30分。長時間のモバイルはムリだが、出先でメールを確認する程度であればなんら問題ないと思う。 またデフォルトでは電源の設定が「ポータブル/ラップトップ」となっている。「最小の電源管理」に変更してみたところ、若干だが駆動時間が延びた。その状態で640×480ドット/1.5Mbps程度のWMVファイルを連続再生してみた結果は約2時間。一応のレベルだが、長時間の移動の際に動画を楽しむこともできる。 意外とモバイルはできるのだが、ネックは電源アダプタにある。A4ノート用をそのまま流用したのかと思ってしまうほど大きく、重量は334gでバッグに入れてみるとかなり重く感じてしまう。本体の重量が1,030gなのでセットで持ち歩くにはやや厳しい。今後の課題といったところだ。
●バランスのいいネットブック VIA VX800で動画再生支援機能を得たネットブックで、他機種と比べるとやはり再生面では有利といえる。H.264には対応していないため、多少の制限はあるがDivXやWMVの動画をコマ落ちすることなく見られるところがやはり魅力的だ。 気になるところは電源アダプタの重量と排気スロット周辺の温度だ。こちらは後継機で大きく改善される可能もあるので期待しておきたい。これら2つのウィークポイントを含めても、ネットブックとしては十分すぎる性能を有している。バッテリ駆動時間ではEee PCには遠く及ばないものの「出先でちょっと」はバッチリ押さえているし、HDD 60GBとストレージに余裕があるので資料の持ち運びにも便利だ。ホビーよりもビジネス向きで、社内のサブマシンとしてみるとCPUパワーもあり、巨大なファイルや映像資料の再生も容易。プライベート/ビジネス用に1台もっておいて損はないネットブックといえよう。 □関連記事 (2008年9月18日) [Reported by 林 佑樹]
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