●コア数&周波数に対する価格はほぼCore 2と同じレンジ Intelは、8月19~21日に米サンフランシスコで開催した技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」で、次期CPU「Core i7(Nehalem:ネハーレン)のメインストリーム版クアッドコア「Lynnfield(リンフィールド)」とデュアルコア「Havendale(ヘイブンデール)」を、来年(2009年)中盤に投入することを公式に明らかにした。現在のIntelのデスクトップCPUロードマップは下の通りで、来年第3四半期にはNehalemマイクロアーキテクチャが、メインストリームセグメントの全域と、バリューセグメントの一部にまで食い込む。
価格ラインで言うと、最初に投入されるクアッドコア版「Bloomfield(ブルームフィールド)」は、最上位のExtremeブランド系のSKU(Stock Keeping Unit=商品)が3.2GHz(8MB/QPI 6.4Gtps/DDR3-1066)で、伝統的な最上位価格である999ドル。Core 2 Extreme QX9650(3GHz/12MB/FSB1333)と同レベルで、特例的に高価格なQX9770/9775 (3.2GHz/12MB/FSB1600)の1,399/1,499ドルよりは安い。 その下のパフォーマンスセグメントのSKUが2.93GHz(8MB/QPI 4.8Gtps/DDR3-1066)で500ドル台中盤。この2.93GHz版は、Core 2 Quad Q9650(3GHz/12MB/FSB 1,333MHz)とほぼ同じ価格ラインに来る。最下位の2.66GHz(8MB/QPI 4.8Gtps/DDR3-1066)は300ドルを割り込む予定で、価格ラインとしては300ドルちょっとのQ9550(2.83GHz/12MB/FSB 1,333MHz)と、260ドル台のQ9400(2.66GHz/6MB/FSB 1,333MHz)のちょうど間に来る。 価格と動作周波数を見れば一目瞭然で、NehalemはCore 2系とほぼ同じ周波数で同レベルの価格に設定されている。同価格帯で、Core 2からNehalemへの拡張がおまけという位置づけだ。 メインストリームクアッドコアのLynnfieldは、Bloomfieldよりさらに低い価格帯までカバーする。価格はまだ出ていないが、最下位のメインストリーム版は、現在のCore 2 Quadの最下位のQ8200(2.33GHz/4MB/FSB 1,333MHz)と同レベルの価格、同レベルの周波数になることが予想される。だとすれば、200ドル前後の価格となるだろう。 クアッドコアのHavendaleの方は、さらに下の価格帯をカバーする。最下位のSKUは、Pentium Dual-core系のE5200(2.5GHz/2MB/FSB 800MHz)と同程度の価格帯になると推定される。ただし、Havendaleは、CPU自体にグラフィックス統合チップセット「GMCH」の機能を統合している。CPU単体ではこのレンジの価格は100ドルを下回るが、実際のHavendaleの価格設定は、GMCH込みで、それよりやや高くなると推定される。 ●クアッドコアへの移行は200ドルラインで止まる ロードマップで興味深いのは、CPUコア数の遷移だ。ロードマップ図中の青いラインがCPUコア数の境界ラインだ。2006年第4四半期のところから引かれている青ラインが、「デュアルコア→クアッドコア」の境界を示す。実際には、ほとんどの価格セグメントでしばらくはデュアルコアとクアッドコアがオーバーラップするため、厳密とは言えない。しかし、コア数の切り替え時期の目安にはなるだろう。 青いラインで気がつくのは、クアッドコアの浸透がメインストリームPCの半ばでピタリと止まることだ。クアッドコアは、200ドル前後の価格帯にまで下がるが、ここから先は動かない。200ドルの枠線を越えて、クアッドコアが下の価格セグメントにぐんぐん浸透することはなさそうだ。 これを「シングルコア→デュアルコア」の移行時と比べると、違いは明瞭だ。図中で2005年の第2四半期から引かれている青ラインがデュアルコアへの移行ラインだ。一目瞭然のように、デュアルコア境界は段階的にどんどん下のセグメントへ下がって行き、今では最下位のバリューCPUを除けばデュアルコアへと切り替わっている。だが、クアッドコアはそうした道を、少なくともしばらくは辿らないようだ。 理由の1つは製造コストだが、それ以上に、バリューセグメントの用途を考えるとクアッドコアの利点が小さいことが挙げられる。現状では、バリューセグメントをクアッド化しても支持を得られるとは思えない。それよりも、ダイが余るなら、GPUコアを統合してシステムコストを下げる方が得策だ。Havendaleでは、GPUコアはCPUと同ダイではないが、Intelは将来的にはGPUコアをCPUダイに統合すると説明しており、一定価格以下のセグメントはそうした方向へ向かう可能性が高い。 つまり、汎用的に使えるデータ並列プロセッサコアが成立してない現状では、メインストリーム上位から上のセグメントでは、汎用CPUコアを増やして、安全に性能を稼ぐ。それより下のセグメントでは、GPUの統合化でコスト面での利点を出して行く。そうした戦略を取る可能性もある。 ●CPUコア数の派生で一気に広い市場をカバー もう1つの移行のポイントは、CPUマイクロアーキテクチャの移行だ。ロードマップ図中の赤いラインがCPUマイクロアーキテクチャの境界ラインだ。今年(2008年)第4四半期のところに引かれている赤ラインが、「Core 2→Nehalem」のCPUマイクロアーキテクチャの境界を示す。こちらも、しばらくは新旧アーキテクチャがオーバーラップするため、厳密とは言えないが、目安となる。 以前は、メインストリームPCセグメントだけでも、CPUマイクロアーキテクチャの切り替えに1年以上かかっていた。理由は簡単で、CPUのダイサイズ(半導体本体の面積)がメインストリーム市場のローエンドにフィットするほど小さくなるには、製造プロセス技術の移行が必要だったからだ。新技術を投入する新しいマイクロアーキテクチャのCPUのダイ(半導体本体)は大型だ。そのため、製造コストが高く、パフォーマンスセグメントからメインストリームの上級製品にまでしかフィットしなかった。メインストリームやバリュー市場に届かせるには、2年毎のプロセス移行でダイを小さくして行くしかなかった。 しかし、CPUがマルチコア化した現在は、同じマイクロアーキテクチャのCPUコアを使い、CPUコア数の異なるバリエーションを作ることができる。そのため、マイクロアーキテクチャを刷新して、パフォーマンス向けCPUのダイサイズが大きくなっても、下位の市場向けにはCPUコア数を減らすことでダイサイズを減らした低コスト版を作ることが可能となった。あるいは、その逆に上位の市場向けに2個のCPUコアをMCM(Multi-Chip Module)で1パッケージに封止して、よりCPUコア数を増やしたバージョンを作ることも可能となった。 Intelは、NetBurst(Pentium 4)マイクロアーキテクチャの末期からこの手法を取り始め、Core 2ファミリでは、クアッドコアからシングルコアまでの垂直展開を実現した。Nehalemも同様に、クアッドコアの最初の世代のNehalemから、デュアルコアのHavendaleを派生させ、メインストリームに浸透させる。それによって、比較的早期に上下の市場への展開を行なう。
●マザーボードコストを下げるLynnfield また、より廉価版のクアッドコアCPUとして、マザーボードとチップセットのコストを下げることができるLynnfieldを投入する。最初のNehalemであるBloomfieldは、チップセットが2チップ構成のX58系で、高速なQuickPath Interconnect(QPI)インターフェイスでチップ間を接続し、配線が難しい3チャネルDDR3を備える。そのため、CPUだけでなく、マザーボードのコストが高くなってしまう。 それに対して、新しいLynnfieldは、QPIに変わってPCI Express Gen2 x16を、3チャネルDDR3に変わって2チャネルDDR3を備える。対応するチップセットは「Ibex Peak PCH (Platform Controller Hub)」でワンチップ構成となる。そのため、マザーボードコストを低く抑えることが可能となる。
ただし、CPU自体のコストはBloomfieldに対して減少するかどうかわからない。IDFで公開されたLynnfieldのウェハを見ると、縦に22個弱、横に13個強(エッジで分断されている部分を含めて)のダイが配置されているように見える。計算上ではダイサイズは約300平方mmを超えてしまう。1年前のBloomfieldのウェハは、縦に22個、横に15個(分断部分を含む)が配置されていた。製品版ダイでも同様だとすれば、Lynnfieldは、Bloomfieldより10%ほどダイが大きいことになる。 現在のところ、この理由はわかっていない。モバイルも同ダイでカバーするLynnfieldでは、Bloomfieldと比べて省電力回りが強化されている可能性もある。 ●下への展開はスローなNehalem Nehalemのメインストリームへの展開は、比較的速いとは言っても、Core 2と比べるとスローペースだ。 前回のアーキテクチャチェンジである「NetBurst→Core 2」の時は、Core 2系のConroe(コンロー)コアが、2006年第3四半期の登場とともにメインストリームセグメントまで浸透した。2006年第3四半期のところに引かれている赤ラインがそれだ。翌2007年第2四半期にはバリューセグメントのローエンドまでConroe系に切り替わった。NetBurst→Core 2では、1年で劇的な展開を果たした。 それに対して、今回の「Core 2→Nehalem」のCPUマイクロアーキテクチャ転換は、そこまで急激ではない。来年(2009年)中はバリューセグメントのほとんどはCore 2系のまま残され、Nehalemは浸透しない。 理由は明瞭で、Core 2とNehalemでは、フォーカスするターゲットが異なるためだ。Core MAは、最初にメインストリームPC&モバイルPC向けのデュアルコアCPUが投入され、そこからバリュー向けのシングルコアCPUを派生させ、パフォーマンスPCやボリュームサーバー向けのクアッドコアCPUはダイを新設計せずにMCMで作った。 それに対して、NehalemはパフォーマンスPC&ボリュームサーバー向けに最適化したクアッドコアを最初に投入。メインストリームPC&モバイルPC向けのデュアルコアと、MPサーバー向けのオクタコアを新規ダイで派生させる。バリューレンジへの展開は遅いが、上への展開は速い。 Core 2は、もともとモバイルCPU向けに設計していたものをサーバーにまで発展させた。それに対して、ハイエンドから攻める伝統的なデスクトップ&サーバーCPUの戦略に沿ったNehalemではフォーカスが異なる。
●将来のGPUコア統合を見据えたHavendaleとIbex Peak Havendaleは、デュアルコア版のNehalemと、グラフィックス統合チップセットGMCH(Graphics Memory Controller Hub)をワンパッケージに納めたMCMだ。CPUコアは4MBの共有キャッシュを搭載し、QPIでGMCHダイと高速接続している。GMCHダイには、デュアルチャネルDDR3インターフェイス、PCI Express Gen2 x16、GPUコア、DMIインターフェイスなどが実装されている。パッケージはHavendaleが「LGA1160」で、これはLynnfieldも同様だ。 Havendaleでは、GPUコアはCPUコアとは別ダイだ。しかし、チップセットIbex Peakの仕様を見ると、IntelがGPUのネイティブ統合を考えいてることも示唆されている。アナログ部分を含むディスプレイコントローラ部分がそっくり、GMCHからIbex Peak側に移されているからだ。Havendale側のGPUコアから、デジタルアウト専用のインターコネクト「FDI(Flexible Display Interface)」がIbex Peakのディスプレイコントローラに接続されている。この設計は、CPUコアにGPUコアを統合する際に、困難が大きいアナログ回路のCPU(高速デジタル)への統合を避けるためだと推測される。
□関連記事 (2008年9月4日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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