NVISION08レポート Emerging Companies Summit編その3
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FutureMark、フィンランド本社CEOのTero Sakkinen氏 |
FutureMarkといえば、3DMarkやPCMarkシリーズなどのPC向けベンチマークや、SPMarkなどのモバイルデバイス向けベンチマークといったソフトウェアをリリースする、世界的にも有名なソフトハウスの1つである。このFutureMarkのゲーム開発スタジオであるFutureMark Game Studioから、FutureMarkとしては初めてとなる3Dゲーム「Shattered Horizon」が発売されることになった。
同社はそもそもRemedy Entertainmentから分社する形でMadOnion.comを設立。後にFutureMarkという名前に改称されて今にいたる、約10年の歴史を持つ会社である。ベンチマークソフトを提供するビジネスでは高い地位を得ているほか、FutureMark Game Studioも2000年から活動を開始し、さまざまなゲームエンジンやデモをサードパーティに提供するビジネスを行なっているという。
しかし、次のステップとして、FutureMarkを“世界一の3Dゲームブランド”にする目標を掲げており、今回のアナウンスはそれに向けた動きを本格化させたものとなる。
その同社初となるShattered Horizonであるが、現在プリアルファというかなり初期の開発段階にある。月に人類が住む世界の物語で、小惑星の衝突を原因とする月の爆発の危機に際して発生した戦いに、少ないリソースを駆使して生き残っていく、といったストーリーになるという。
ゲーム自体はマルチプレイヤーFPSゲームで、宇宙空間での戦いになることから、無重力空間で自由に動き回ることができるという。また、この無重力空間での動きのシミュレートや、物理表現、そしてグラフィックのリアルさも、高いクオリティのものになると述べている。
セッション内では、プリアルファ版のスクリーンショットと、トレイラームービーが紹介されただけで、実際のゲーム画面などは公開されていない。3DMarkシリーズの実績から、新しいグラフィック技術をいち早く取り入れて現実のものとする同社の能力は周知のとおりで、今後の展開が期待される。
FutureMarkがアナウンスしたFPSゲーム「Shattered Horizon」 | Shattered Horizonの概要。マルチプレイヤー対応のFPSゲームとなる |
プリアルファ版のスクリーンショット。太陽の周りに発生している虹の表現が非常にきれいで目に留まる | もう1枚のスクリーンショット。無重力空間や物理表現のシミュレーションに期待がかかる |
●CryEngine2エンジン搭載の仮想世界
Avatar Reality President兼CEOのKazuyuki Hashimoto氏 |
ハワイに居を構えるAvatar Realityのセッションでは、CryEngine2を利用した3D仮想世界「Blue Mars」を紹介。製品名のとおり、地球と同じような潤いを持つ火星を舞台とした仮想世界アプリケーションだ。こうしたアプリケーションとしては当然セカンドライフを意識したものとなっているが、「セカンドライフは1つの空間に50人程度しか同居できないうえ、グラフィックのリアルさも不十分」としており、本作はそうした問題点を抱えないアプリケーションであるとした。
注目は、3Dグラフィックエンジンに、Crysisなどでも利用されているCryEngine2を採用した点だろう。現時点でベストクオリティであるとして同エンジンの採用を決めたという。もちろん、ハードウェアの要求も高まるわけだが、将来的にはパフォーマンスの高いビデオカードが普及する見込みなので問題視はしていないそうだ。
また、Cage Deformと呼ばれる肌表現システムの採用や、SyFlexによる布シミュレータを利用した髪の毛や布のリアルタイムシミュレーション、キャラクター動作のマルチスレッド化など、リアリティのあるグラフィック表現に力を入れている。
このほか、同社のビジネスモデルについても言及があった。Blue Marsはユーザーのプレイ自体は無料で、バーチャルアイテムや土地の販売、広告の売り上げ、といったセカンドライフと同様の収益モデルが利用される。また、Blue Mars上で動作するコンテンツや、コンテンツ作成ツールのパートナーシップを結ぶという提案も行っており、そちらからの収益も重視しているという。
もちろん、そうした点に対する配慮もなされている。例えば、Blue Mars上で動作する3Dゲームを作成する場合、3Dプログラムを組むのは手間がかかる。本作では、CryEngine2を中心としたBlue Marsのインフラを利用した3Dゲームを、LUA Scriptで開発できるようになっており、「2Dのフラッシュゲームを作るぐらいのコストで、3Dゲームを作成することができる」という。
今後は、来月にもクローズドベータ、年末にオープンベータを開始し、来年4月にはサービスを開始する予定。そして、3Dアートや3D CGを中心とした舞台を形成し、将来的には「ゲームやマーケットのプラットフォームに成長させたい」としている。
Blue Marsの技術的な特徴。CryEngine2のほか、物理表現のシミュレート、ストリームベースのリアルタイム処理などが大きな特徴として挙げられる | Blue Mars上の3Dコンテンツ作成用にスクリプト言語を利用できるのも特徴。コンテンツクリエイターは2Dのフラッシュゲームを作るぐらいのコストで、3Dゲームを作成できる、とする |
Blue Marsのデモ。背景のグラフィックや、女性の髪の動きなど、高いグラフィック表現が特徴となる | Blue Mars上で動作するゴルフゲーム。こうしたゲームを製作するパートナーからの収益も見込んでいる |
●人間の運動をシミュレーションする「euphoria」
Natural Motionの創業者でありCEOのTorsten Reil氏 |
ゲーム系トラックのセッションに登場したNatural Motionは、PhysXの技術セッション(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0827/nvision02.htm)にも登場した、アメフトゲーム「BackBreaker」にも採用されているシミュレーションエンジンを提供する会社だ。同社のアニメーションエンジンはGrand Theft Auto IVにも採用されているほか、多数のゲーム企業にエンジンを提供している。
同社のセッションでは人間の運動を演算によって表現する「euphoria」が紹介された。この開発については、二足歩行の研究から始まり、全身の運動へとシミュレーションが進化。例えば、人が転倒する場合、単に倒れるだけではなく手を付いたりするのが普通だ。その手を付いたことに起因する人の運動の変化。また、物体にぶつかったさいに生じる衝撃による運動などを詳細にシミュレートし、アニメーションを製作できるようになっている。このeuphoria自体は、すでに業界でも広く認知されており、さまざまなゲームやコマーシャルCGなどで活用されている。
そして、Natural Motionでは、このエンジンとは別のアニメーションエンジンとなる「morpheme」も開発しており、この次期バージョンではPhysXに対応した物理演算が可能となる。Morpheneは、euphoriaのような運動をシミュレートするためのものではないが、アニメーション製作を効率よく行い、ゲームなどに組み込んでいけるアプリケーションとなる。また、euphoriaで作成したアニメーションデータをそのまま取り込んで利用することもできるので、euphoriaの運動シミュレーションとPhysXの物理シミュレーションを組み合わせた、よりリアルなグラフィックアニメーションの製作につながっていきそうだ。
euphoriaのアニメーション作成ツール。力のかかる方向、周辺の物体から、人の動きをリアルにシミュレートする | ギネスビールのCMに利用された例。泡をイメージした人が次々に飛んできて楽器を演奏するという内容で、複雑な人間の動きがリアルに表現されている | euphoriaのデモビデオ。euphoriaエンジンはゲームエンジンにアドオンする格好で実装できるので、実際にCGやゲーム業界で使われている |
□NVISION08のホームページ(英文)
http://www.nvision2008.com/
□NVISION08 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/nvision.htm
(2008年8月29日)
[Reported by 多和田新也]