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Intel Developer Forum 2008

ソフトウェア基調講演レポート
~パラレルコンピューティングと3D映画

Intel副社長兼ソフトウェア&ソリューション事業部長のリネイ・ジェームズ氏

会期:8月19日~21日(現地時間)

会場:米San Francisco Moscone Center West



 ここ最近のIDFには必ず組み込まれているソフトウェアの基調講演。登壇したのは、そろそろIDFでおなじみの顔となりつつある、Intel副社長兼ソフトウェア&ソリューション事業部長のリネイ・ジェームズ氏である。ジェームズ氏は、Larrabeeの登場を控えて盛り上がる、パラレルコンピューティング、ビジュアルコンピューティングに関する話題を中心に取り上げた。

●パラレルコンピューティング向けの開発ツールを発表

 コンピュータの基本的な仕組みとして、プロセッサパワーがあればあるほどソフトウェアの可能性は広がる。ジェームズ氏は講演の序盤で、ソフトウェアの進化や、それに伴うクリエイターの製作環境の変化を紹介し、Intelプラットフォームの可能性をアピール。IDCのデータによると、2010年にはすべてのPCがマルチコア化するという観測があるそうで、そうしたマルチコアで実現される「デジタルイノベーション」をテーマに講演を行なった。

 具体例として2つのデモを実施。1つは11月にUbiSoftから発売が予定されている「FarCry2」である。さまざまな地形を物理演算で表現したり、雲の動きを演算によって導き出したり、優れたAIによってゲーム中に登場する動物の挙動が毎回変化する点などを紹介。こうしたリアリスティックな表現が、動きが固定された映画などではなく、インタラクティブなゲームとして開発されている点を強くアピールした。

 もう1つのデモは医療関係のものだ。常に高速に動いているためCTスキャンでの解析が難しいという心臓の動きを3Dでモデリング。3D CGによって患者の心臓をモデリングし、リアルタイムに解析を可能にしたというもの。マルチスレッド化とSSE4への対応を行なっており、コストをかけずにコードの最適化だけでパフォーマンスが劇的に改善されたとしている。

 両者はまったく毛色の違うアプリケーションであるが、マルチコアによるパラレルコンピューティングによって現実化している物である点では共通だ。パラレルコンピューティング自体はHPCの世界などで以前から提唱されているものであるが、クライアントPCのマルチコア化が進むにつれて、多くのデベロッパがパラレルコンピューティングに取り組む必要が出てくる。

 そしてジェームズ氏は、デベロッパはそれをやらなければいけないことは分かっているが実現が難しいと考えている、として、その開発に必要なツール「Intel Parallel Studio」をアナウンスした。このツールは、MicrosoftのVisual Studio上で動作するもので、パラレルコンピューティング用のツールキットとなる。今後もMicrosoftと協力して、開発環境の強化を行なっていく予定にもなっており、Windows上でシームレスに使えるような形にするためにリサーチを続け、パラレルコンピューティングに必要なものを、スタンダードな環境にどんどん組み込んでいくとした。なお、このParallel Studioは今年の11月にβ版を提供し、2009年に正式発売される予定とされている。

「FarCry2」のデモ。物理演算を利用した木々の表現や、AIによる動物の動きを、マルチコアプロセッサの性能によって実現している
医療現場におけるマルチコアCPUの活用例。心臓の状況をリアルタイムに3Dレンダリングするもので、マルチスレッド化とSSE4対応によってパフォーマンスを改善したという パラレルコンピューティング開発ツールである「Parallel Studio」をアナウンス。11月にβ版提供、発売は来年が予定されている

●ドリームワークスが3D映画をデモ

 続いては、デジタルアニメーションに関する話題が取り上げられた。ここでは、ドリームワークス創業者兼CEOのジェフリー・カッツェンバーグ氏が登壇。Intelらとの協力で実現した、「InTru 3D」と呼ばれる3Dデジタルアニメーション技術の紹介を行なった。

 ジェフリー氏は映画の業界には2つの革命があったと述べる。1つはサイレントからトーキーへの変化。2つめは白黒からカラーへの変化。そして、いまは第3の革命期に入ったとし、視聴者が映画の世界へ入っていく3Dアニメーションの実現をアピールしている。

 ちなみに3Dといっても、過去に存在した赤と青の眼鏡を使ったものではなく、サングラスのようなポラロイドのレンズを使ったもので、色のゆがみがなく、見る人も、気持ち悪くなったりしないものである点を強調。基調講演の観衆に、実際にその眼鏡と専用スクリーンを用いて、3Dアニメーションのデモンストレーションを行なっている。

 この実現には、例えば右目、左目に写るものをそれぞれ投影する2つのプロジェクターのシンクロナイズドが必要で、そのフィルムを制作するプロセスが必要であるとしている。しかし、その非常に重いプロセスもIntelのプロセッサパワーで改善され、そのCGを制作するためのアプリケーションも新しいものが登場するだろうとしている。

 そして、ジェームス・キャメロン氏やスティーブン・スピルバーグ氏ら有名映画監督が、すでに、この3D映画のプロジェクトを始めており、この“映画業界のフロンティア”である3D映画の世界に、これらの監督が制作した映画が登場する見込みであることを紹介した。そして、この3D技術を使ったアニメーションは、2009年3月27日に公開される「Monsters Vs Aliens」で導入。2009年以降、ドリームワークスの映画はすべて3D化していくとした。

ドリームワークス創業者兼CEOのジェフリー・カッツェンバーグ氏 「InTru 3D」を用いて3D化した「カンフー・パンダ」のデモ。動きの大きいシーンであるが、3D向けに1から作り直したそうだ こちらは来年公開予定の「Monsters Vs Aliens」の予告編。写真では単なるブレた画像でしかないが、専用のメガネを通して見ると立体視が可能となる

●モバイル向けとハイエンド向け開発のために行なっているIntelの取り組み

 モバイルの分野においては、ハンドヘルドインターネットデバイスが普及し、IntelもAtomプロセッサを投入。こうしたジャンルに注力していることから、ジェームズ氏によるソフトウェア開発者への呼びかけも力のこもったものになった。

 ここでは、大きく3つのトピックが紹介された。1つはMicrosoftとの協力関係の強調で、SilverLightを使ったデモ。もう1つはMoblin.orgの進捗と、IDF上海で紹介されたオープンソースのアプリケーションやモジュールを認定するプログラムに関するものだ。

 SilverLightは言うまでもなく、.NET上で動作するアプリケーションプラットフォームである。さまざまな動画コーデックをサポートすることで、リッチなコンテンツを簡単に利用できるほか、開発環境も開発者が慣れ親しんだものが利用しやすい点を紹介。クロスプラットフォームで動作するコンテンツを作成できるので、さまざまなデバイスで動作するWebアプリケーションを作成する環境として最適であるとアピールされた。

 Moblin.orgについては、IDF上海で紹介が行なわれたMIDアプリケーション向けのオープンソースコミュニティである。こちらも順調に開発者が集まっており、Moblin.orgを中心としたエコシステムが構築されつつあるという。いまはMID上で動作する3D表現に力を入れており、その成果の1つとして、MID上で動作する3Dユーザーインターフェイスがデモされた。今後もこうしたビジュアル的に優れたアプリケーションが多数登場する予定で、2009年以降のMoblin.orgに期待してほしいとした。

 また、一定の品質を持つオープンソースアプリケーションを認定する、IntelのCertified Solutions Programも順調で、この春以降、100以上のアプリケーションが認定されているという。Moblin.orgと協力してAtomで実行できることを証明するためのコンパリビリティテストなども実施されているそうである。

SilverLight上で制作されたコンテンツはクロスプラットフォームで利用可能なので、真のユビキタスコンテンツになる、としている SilverLightを使ったWebコンテンツの例として、NBCによるオリンピック専用サイトが紹介された Moblin.orgの成果物として示されたグラフィカルなユーザーインターフェイスのデモ。すべての操作を指で行なうほか、電話を利用している間もバックグラウンドのアプリケーションは動いたままで完全なマルチタスク環境になっているとアピールされた

 続いてジェームズ氏はビジュアルコンピューティングに関する話題を取り上げた。ここでは、id Softwareのジョン・カーマック氏が登壇。同社が投入予定のアプリケーション「Rage」のデモを披露した。id Softwareでは以前からマルチコアサポートを実施してきたが、現在ではマルチコアサポート時にドライバをオフロードすることなく、レンダリングとゲームロジックを別々のコアで実施するような仕組みが実現できているという。

 ただ、レンダリングに必要な解析や、ストリーミングの管理、さらに進化したAIなどの処理も多大なプロセッサパワーを必要としているのも事実だ。よって、前提として、多くのゲームユーザーがマルチコアプロセッサを利用していることで、こうした複雑のアルゴリズムへのチャレンジを考えることができたという。

 加えて、カーマック氏は、Intelのサポートがだんだん良くなっていることもついても触れた。ここでジェームズ氏は、ビジュアルコンピューティングやクリエイターなどの関係者に向けた新しいサポートプログラムを紹介。

 「Visual Adrenaline(ビジュアル・アドレナリン)」と呼ばれるもので、Intelプラットフォームの性能を引き出すための技術の提供やトレーニング、SDKなどが用意される。これは、将来のビジュアルコンピューティング開発を活性化させるために提供されるプログラムであるという。

 今回のジェームズ氏の講演は、IDF上海以上にパラレルコンピューティングよる新しい体験を強くアピールするものだった。これはLarrabeeの登場を控えて、プログラム開発者が新しい挑戦をしなければならないときに、適切なサポートを行なうことをアピールする必要性を感じているからだと想像される。

 最後に、ウォルト・ディズニーの「This technical progress will never come to a stop, prepare for the Future of Computing...」(技術の進化は止まることがないから、将来のコンピューティングに備えなければならない)という言葉で講演を締めくくった。パラレルコンピューティング、ビジュアルコンピューティングは、Intelには現実として見えている“将来”なのだろう。

「Rage」のデモを行なったid Softwareのジョン・カーマック氏(右) id Softwareが開発中の「Rage」。コアごとに別々の作業をさせるなど、マルチコアの性能を最大限に利用したアプリケーション ビジュアルコンピューティングの開発者、クリエイター向けに提供される「Visual Adrenaline」プログラム。ビジュアルコンピューティングに関わるツール、技術、トレーニングなどが提供される

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□IDF 2008 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/idf.htm

(2008年8月22日)

[Reported by 多和田新也]

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