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パット・ゲルシンガー基調講演レポート
~2015年には150億台のデバイスがインターネットに接続

デジタルエンタープライズ事業部、上席副社長のパット ゲルシンガー氏

会期:8月19日~21日(現地時間)

会場:米San Francisco Moscone Center West



 IDFの2人目の基調講演は、Intelでデジタルエンタープライズを担当するパット・ゲルシンガー上席副社長である。同氏のスピーチは、「Intel Architecture=Embedded+Dynamic+Visual」というタイトルで、3つのテーマに沿って語った。Embeddedとは、IA(Intel Archtecture)を使った組み込み機器についてで、これを同氏は「Embedded Internet」と呼んだ。IAを使うことで、組み込み機器もPCと同等の機能を持つことができ、インターネット接続が可能となって、さまざまなサービスとの組み合わせが可能となるということだ。これにより、2015年までに150億台のデバイスがインターネットに接続するとの予想を述べた。

 これは、Intelが最近進めているIA-32をどこにでも普及させるという方向性の一環であり、組み込み系にも力を入れているというアピールでもある。

 その中心になるのはAtomプロセッサやSoCであるEP80579(Tolapai)である。ただ、組み込み系では、PCとは異なったルールが必要となる。たとえば、製品寿命の長さである。家電では、製造終了後8年は、修理などのサポートを行なう必要があるが、PC関連のデバイスの寿命は短く、長期にわたってサポートを続けることが困難だ。Intelもこの件は理解しており、組み込み系では、立ち上がりはゆっくりなものの、製品の製造やサポートを長期に続けることをアピールしている。

 具体的な製品としては、ホームセキュリティデバイスやOpenPeakのVoIP電話セットなどのデモを行なった。これまで、家電などの一般家庭向けの機器は、低価格を実現するために、あまり高性能なプロセッサを利用できなかった。インターネット接続が可能な製品もないわけではなかったが、速度もあまり速くなく、使い勝手はあまりよくなかった。しかし、PCの普及で、IAや関連のデバイスの価格が下がり、組み込み機器も内部的にPCと同じような構成を採れるようになり始めたわけだ。IAを使えば、そこそこの性能が得られ、GUIなどにもパワーをさけるようになり、使い勝手も向上できるというわけだ。

 ゲルシンガー氏は、Embedded Internetの分野として「個人」、「公共」の2つを挙げた。個人は、自動車や家庭内の機器など個人で利用するデバイスを指し、「公共」は、医療や交通、電力事業分野などで利用されるデバイスを指す。組み込み分野は、ゲルシンガー氏の所属するデジタルエンタープライズ事業本部だけでなく、デジタルホーム事業本部でも扱う。デジタルエンタープライズでは、自動車や関連機器のメーカー、ビジネス向けの組み込みデバイスを扱い、デジタルホーム事業部では、家電分野などの組み込みデバイスを扱うのだと思われる。

 その中で、デジタルエンタープライズ事業本部が重視しているのが、自動車関連である。自動車は、ここ数年エレクトロニクスの取り込みが盛んになり、また、WiMAXなどのモバイルインターネットサービスが登場することで、IT関連機器が導入される可能性が高い。日本では、すでにカーナビが普及していて、ピンとこないが、世界的にみると、PND(Personal Navigation Device)が進化を続けて、WiMAXなどでインターネットと結びつきつつあり、それが、今度は自動車に最初から組み込まれようとしている状況だ。

 日本でも、最近のカーナビは、自動車購入時にメーカーオプションとして装着されることが増えているようだ。しかしIntelがまず狙うのは、大手の自動車メーカーのようだ。各社とも、無線通信によるサービスと車内のエレクトロニクスを結びつけるためのアーキテクチャ構築の最中なのだが、そこにIntelの組み込み分野に参入しようという心づもりがあるのだろう。自動車では、バッテリ駆動のモバイル機器などに比べて、電源が豊富に取れ、特に車社会である米国やEU圏での成功は、大きなテコになる可能性があるからだ。ここでステージには、BMWのAlex Busch氏が登場、ステージに隠されていた同社の試作車を解説した。

 この分野では、既存のCore系列のプロセッサも利用可能だが、中心になるのは低消費電力のAtom系のプロセッサだ。そのロードマップとして現在のAtomプラットフォーム(Menlow)は2009年第1四半期にMenlow XLを、SoCのTorapaiの後継としてSan Onofreを2009年の下期に提供することを示した。

ゲルシンガー氏の基調講演、今回のテーマは、IA = Embedded+Dynamic+Visual 2015年までには、150億台のデバイスがインターネットに接続するようになるという
Intelは、組み込み分野への浸透を図るために、組み込み向けにさまざまな製品、サービスを用意する。そのうちの1つがより長期間、製品の製造やサポートを続ける「Long Life Cycle Support」 組み込み系は、現在では、プロセッサがAtom(Menlowプラットフォーム)とSoCがEP80579だが、2009年第1四半期には、Menlow XLが、2009年下期には、San Onofreが登場

●Nehalemのパワーコントロールを紹介

 ゲルシンガー氏のもう1つのテーマ「Dynamic」とは、次世代プロセッサであるNehalemのことだ。Nehalemについては、情報が小出しにされてきた感があるが、今回は、そのパワーマネジメントを中心に紹介を行なった。

 登場したのは、Circuit&Low Power Technologiesのディレクターであり、IntelフェローのRajesh Kumar氏。まず、Nehalemの回路部分は、コア単体での電源のON/OFFを可能にするPower Gateを搭載、システムの負荷が低いときには、コアを完全にOFFできる構造にしたという。さらに、電力管理のためのプロセッサPCU(Power Control Unit)が、コアのクロックや電源を制御する。PCUは、コア内の温度センサーや電圧などの状態を把握し、内蔵のファームウェアが適切な制御を行なう。このPCUだけで、100万以上のトランジスタが使われおり、ゲルシンガー副社長の「自分が設計した486プロセッサは、このPCUにもおよばないのか」というコメントは、会場の笑いを誘った。

 このパワーマネジメント機能は、消費電力を下げるだけでなく、プロセッサ全体を監視していて、温度などに余裕がある場合には、Turboモードを利用する。これは、クロックを高くすることで処理性能を上げるモードである。Nehalemのコアは、電源をOFFにできるため、ほとんどゼロに近い消費電力となる。Turboモードは、1スレッドでの処理性能を向上できるが、複数プロセスに対する負荷が上がってきた場合にもアイドル中のコアを起動するのを遅らせることができる。これは、NehalemのコアがSMTにより2スレッド実行ができるためだ。通常なら1コアで手に負えなくなれば、別のコアを起動する必要が出てくるが、Turboモードにより、動作中のコアの実行性能を上げることができるため、短時間なら、他のコアを起動せずに実行を継続できるわけだ。

 Turboモードは、コア温度などを見ながら制御されるため、他のコアが停止している状態のほうがヘッドルームを大きくできる。また、外の気温なども放熱に影響するため、冷却状態が良いほど性能を向上できる。

 ゲルシンガー氏のいうIAはDynamicとは、このNehalemのパワーマネジメント機構を指している。ゲルシンガー氏は、これを「動的でスケーラブルなマイクロアーキテクチャ」と呼んだ。Turboモードを含めて「動的:Dynamic」なコアの管理を行ない、消費電力を減らす工夫がしてある。さらにNehalem自体、コア部分と3次キャッシュなどの共有部分が分かれており、今後コア数が増えても、同じ機構で電力管理ができるようになっている。

Nehalemのターボモード。温度などに余裕がある場合、動作中のコアのクロックを上げ、処理速度を上げることができるようになる。これを使うことで、他のコアを起動せずに処理を継続出来る場合なら、消費電力を下げることが可能になる Nehalemのパワーマネジメントは、内蔵のマイクロコントローラであるPCU(Power Control Unit)が行なう。このPCUだけで100万トランジスタ以上が使われているという

●Larrabeeによるビジュアルコンピューティング

 最後のVisualは、Visual Computingと開発中のLarrabeeを指す。最近ではGPUがグラフィックス処理だけでなく汎用計算への進出を狙っており、Larrabeeはその対抗策である。しかしIntelは、手持ちのGPUを汎用計算に対応させるのでなく、IAを使ったLarrabeeをグラフィックスデバイスとして最初に登場させる。IDF直前にSIGGRAPHが開催され、そこである程度の発表が行なわれた。基調講演には、SIGGRAPHでプレゼンテーションを行なったLarry Seiler氏が登場し概要を説明した。同氏は、SIGGRAPHでLarrabeeの要約を50秒で行なったといい、基調講演でも、同じように短時間で概要を説明した。

さまざまな技術がIAに取り込まれてきたが、Larrabeeで、ベクターユニットによるスループット計算が入る。

 最後にゲルシンガー氏は、組み込み向けIAの登場で2015年までに150億台のデバイスがインターネットに接続することを再度述べた。Nehalemは、今年の第4四半期に登場、そしてビジュアルコンピューティングを実現するLarrabeeは、ISVからの強く興味を持たれていることを強調し、スピーチを終えた。

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□IDF Spring 2008 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/idfs.htm

(2008年8月21日)

[Reported by 塩田紳二 / Shinji Shioda]

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